この記事で分かること
- 米国の上場銀行のフィンテック出資は、2001〜2022年に件数・金額とも伸び、フィンテック企業との競争が強い銀行ほど出資する傾向があったこと
- 出資の後に生まれた協業(銀行が技術を使う、互いの顧客に売る)の頻度と、その中で統計的に確かめられたもの・確かめられなかったもの
- 銀行法の5%規制の下で、日本の銀行系CVCが出資の成果を財務リターンと協業の両方で測る手順と、その設例
想定読者:銀行・金融グループの経営企画やCVC、フィンテック企業の資本政策・提携の担当者、VC・FASでスタートアップ投資に関わる方
前提知識:ベンチャー投資のラウンドとMOIC(投資倍率)の基本(統計の用語は本文で説明します)
銀行の投資委員会に、決済や融資の仕組みを作るスタートアップへの出資案件が上がってくる。担当部署は「将来の協業につながる」と書くが、出資しなくても業務提携の契約は結べる。逆に、出資を財務リターンだけで評価すると、協業から銀行側に生じる価値を捉えきれない可能性がある。銀行がフィンテック企業に出資する意味は、結局どこにあるのか。
この問いに、米国の上場銀行のデータで答えようとした研究がある。結論を先に書くと、研究が示したのは「競争に押された銀行が、自行と関連の深い相手を選んで出資し、出資の後に協業が増えた」という一連の関係だった。ただし、協業のうち統計的に確かめられたのは主に銀行が出資先の技術を使う型で、銀行の商品を出資先の顧客に売る型は確かめられていない。銀行自身の投資収益も分析の対象外である。どこまでが分かり、どこからが分かっていないかを順に見ていく。
この記事が主に参照する研究
Manju Puri, Yiming Qian, Xiang Zheng(2024)「競争相手からパートナーへ:銀行のフィンテックへのベンチャー投資(From Competitors to Partners: Banks’ Venture Investments in Fintech)」NBER Working Paper No. 33297
- 公表:2023年10月に同題の研究報告(ソウル大学のセミナー)。同題のSSRN版が2024年に公開(Crossrefの登録日は2024年4月12日。公開月は未確認)。参照した版:NBER WP 版(2024年12月)。SSRN上の、これより新しい改訂の有無は未確認。査読:未査読(WP)1
- データ:米国の上場商業銀行・銀行持株会社と、米国のVC支援を受けたフィンテック企業の株式ラウンド(2001〜2022年、Crunchbase)。協業の有無は研究者が手作業で集めた
- 方法:実際の出資と、照合用に作った出資の無い組を比べる回帰分析。協業への効果は操作変数法(後述)で推定
- 位置づけ:戦略的ベンチャー投資の理論の検証を、新しく集めた協業のデータで行ったもの。新しい理論の提案ではない
銀行がベンチャー投資をする理由は、融資関係づくりから変わったのか
事業会社が自社の事業のためにスタートアップへ出資する活動を、CVC
銀行についてはすでに先行研究がある。同じ著者の一人を含むHellmann, Lindsey and Puriは、1980〜2000年の米国のデータで、銀行はのちに借入をしそうな会社を選んでVC投資をし、VC投資の関係があるとその銀行が貸し手になる確率が高まり、そうした関係のある融資の利回りは低いことを示した2。銀行のベンチャー投資は、将来の融資先を早めに囲い込む手段だったことになる。
その後、決済・融資・資産運用の各分野でフィンテック企業が銀行の顧客を奪い始めた。今回の研究の問いは、銀行のベンチャー投資の狙いが「融資関係づくり」から「フィンテックとの競争への対応」へ移ったかどうかである。著者らは仮説を三つ立てた。競争が強い銀行ほど出資する。自行と事業・技術の関連が深い相手を選ぶ。出資が協業と知識の移転を増やす。
米国の上場銀行のフィンテック出資は、20年でどこまで増えたか
VC投資をしたことのある米国の上場銀行・銀行持株会社75行のうち、51行が2001〜2022年に323社のフィンテック企業に出資していた。フィンテックに出資した銀行は2011年より前は毎年およそ5行だったが、2022年には24行になった3。出資額は2014年の1.12億ドルから2022年の4.85億ドルへ増え、ピークの2021年は約14億ドルだった。ただし個々の投資家の出資額はどのデータにも無く、同じラウンドの投資家が均等に出したと仮定した推計である4。
著者らは、この伸びはフィンテック市場全体の拡大を上回ると見る。銀行が加わった案件に占めるフィンテックの割合は2001年の4%から2022年に約35%へ上がったが、全投資家で見たフィンテックの割合は2022年でも15%だった5。出資の経路は、銀行・持株会社による直接の出資が40%、持株会社のCVC部門が35%で、残りは銀行部門などである6。
出資の仕方にも特徴がある。銀行のフィンテック出資のうち、シードなどの初期ラウンドは10%未満で、銀行以外の投資家の46%と大きく違う。シリーズC以降などの後期ラウンドが49%を占め(銀行以外は20%)、同じ段階でも銀行が加わるラウンドは調達額が大きい7(資金調達ラウンドの区分)。分野では「決済」「銀行・融資」「AI・クラウド・IT」を好み、「保険」「暗号資産」は少ない。出資する銀行は総資産の平均が約4,170億ドルと、比較対象の銀行(約634億ドル)の約6.6倍で、ROAは高く、売上の伸びは低かった8。著者らはこれを、出資できる余力があり、新しい成長の機会も必要な銀行が出資していると読む。
競争の強さと事業の近さは、出資の起きやすさとどう関係したか
競争の強さは、銀行が支店を置く郡での住宅ローンに占めるフィンテック貸し手10社のシェアの伸び率で測った。住宅ローンは銀行の中核事業で、フィンテックとの競争が激しく、網羅的なデータ(HMDA)がある分野だからである。データの制約から、対象は2010年以降の出資である。回帰分析では、実際の出資を1、照合用に作った出資の無い組(実際の出資先と規模などが似た別の銀行との組や、実際の銀行と似た別の企業との組。以下、疑似の組)を0として、出資の起きやすさを説明した。
競争の係数はどの推計でも正で統計的に有意だった。最も多くの要因を固定した推計では、競争の強さが1標準偏差上がると出資の確率は約2.0%ポイント上がる9。相手の選び方では、特許の技術分野の重なり、特許の相互引用、業種の重なりのいずれも、大きいほど出資の確率が高かった。業種の重なりの件数が1標準偏差増えると約3.2%ポイント上がり、著者らは基準の確率9%に対して35%の上昇と評価している10。
図1で注意したいのは「基準」の数字である。16.7%や9%は著者が本文で示す標本の中の比率で、現実に銀行がある企業に出資する確率ではない。標本の作り方(実際1件に疑似5件または10件)に近い値だが、業種の重なりの分析は疑似の組が減った標本で、その比率は確かめられない。効果の大きさは「この標本の中で、関連の深い組ほど実際の出資である割合が高い」と読むのが正確である。また、これは選択の要因についての相関の分析で、競争が出資を引き起こしたことまでを示すものではない。
出資の後に協業は増えたか——統計的に確かめられた型と、確かめられなかった型
研究の中心は三つ目の仮説である。研究者は、実際の組と疑似の組のそれぞれについて、出資先のウェブサイトとニュースを調べて協業の有無と時期を集め、三つの型に分けた。銀行が出資先の技術を自行のサイトやアプリに組み込む型、出資先が銀行の顧客に商品を売る型、銀行が出資先の顧客に商品を売る型である11。
単純な比較では差は大きい。実際の組の29.6%に協業があり、そのほとんど(27.4%)は出資の後に成立していた。疑似の組で、照合した出資の年より後に協業が成立したのは1.5%で、比率にすると約18倍になる(表1)12。著者らは、出資が協業より先に来ていることを、銀行が協業しそうな相手を選んだだけ(選択)では説明できない証拠と解釈する。
それでも、協業しやすい相手を選んで出資した可能性は残る。そこで著者らは操作変数法(出資の有無とは関係するが、協業には出資を通じてしか影響しないと考えられる変数を使い、出資そのものの効果を取り出す方法)を使った。変数は、出資先がある都市圏で、その銀行がそれまでのVC案件に占めていたシェアである。地域で資金の出し手として存在感のある銀行ほど出資しやすいが、その存在感は特定の企業と協業するかどうかには直接は効かない、というのが著者らの仮定である13。
表1 出資の後に協業はどれだけ増えたか
表は横にスクロールできます →
| 投資後に成立した協業 | 実際の組 | 疑似の組 | 差 | 2SLSの推定値 |
|---|---|---|---|---|
| 投資後の協業(全体) | 27.4% | 1.5% | 25.9%pt | 0.447** |
| 銀行がフィンテックの技術を使う | 13.1% | 0.8% | 12.3%pt | 0.398** |
| フィンテックが銀行の顧客に売る | 10.5% | 0.4% | 10.1%pt | 0.084* |
| 銀行がフィンテックの顧客に売る | 7.0% | 0.4% | 6.6%pt | −0.004 |
結果は型によって違った。出資は協業全体と「銀行が技術を使う」型の確率を高め、どちらも5%水準で有意だった。「出資先が銀行の顧客に売る」型は10%水準の有意にとどまり、「銀行が出資先の顧客に売る」型には統計的に有意な効果は確認されなかった14。分野別では、協業の割合は「AI・クラウド・IT」が35.1%と最も高く、「売買・取引所」は6.3%だった15。
知識の移転は特許で調べた。出資の前の相互引用を揃えたうえで、出資は出資後の相互引用を増やし、方向別に見ると銀行の特許が出資先の特許を引用する方向だけが有意だった。技術分野の重なりそのものには有意な変化は見られなかった16。著者らは、出資が信頼と経済的な誘因を生み、技術や顧客を受け取った側が提供した側を出し抜く心配を和らげるため協業が進むと説明し、出資は協業の“key conduit”(主要な通り道。拙訳)だと述べる17。
この研究から言えないこと——標本・データの集め方・推定の幅
第一に、対象は米国の上場銀行と、Crunchbaseに載る米国のVC支援企業である。小さな地域銀行はVC投資をほとんどせず、分析の外にある18。米国の銀行は、中小企業投資会社(SBIC)を通じた出資や、持株会社の幅広い投資権限を使える19。制度の違う国にそのまま持ち込める結果ではない。
第二に、協業はウェブサイトとニュースから集めた情報である。銀行は小さな出資先との協業を開示しないことが多く、出資先の発信に頼っている20。出資関係のある組ほど協業が公表・報道されやすいなら、差は実際より大きく見える。これは論文が検証していない、編集部が考える注意点である。
第三に、操作変数法の推定値は幅が広い。協業全体への効果0.447は、単純な差(25.9%ポイント)より大きい。表の丸めた係数とt値から逆算すると標準誤差は約0.18で、正規近似で求めた概算の95%信頼区間はおよそ9〜81%ポイントになる(編集部の計算で、厳密な区間ではない)。「出資は協業の確率を押し上げた」とは読めても、「45%ポイント押し上げる」と数字で計画に使うのは危うい。
第四に、研究は銀行の財務リターンや株主価値への効果を測っていない。著者らは別の研究として、銀行のフィンテック出資の発表に株価が負に反応したという報告を紹介している21。一方、Li, Mao, Zhang and Zhengは、銀行の出資先は独立系VCの出資先よりIPOでの出口の率が高く、その差は銀行の中核事業と重なる企業に集中していたと報告する22。今回の研究でも、銀行が出資したフィンテックはIPOの率が4.6%(出資の無い企業は0.9%)だったが、これは段階や規模を揃えない記述統計である23。最後に、本稿が根拠にした版は査読前のWPで、本文と表で数値が合わない箇所もある24。
大手町プレップの考察:出資は協業の「保 証金」に近い
以下は研究の結果を踏まえた編集部の見方で、論文が検証したものではない。
研究の描く出資は、収益を狙う投資というより、協業の相手と利害をそろえる仕組みに近い。銀行が自行のアプリに出資先の技術を組み込めば、出資先は銀行の顧客基盤に依存し、銀行は出資先の存続に依存する。銀行が出資先の株式を保有すれば、銀行が出資先の顧客や技術を持ち去る誘因は弱まり、出資先も協業に踏み込みやすくなる。出資が「技術を使う」型の協業と結びつき、銀行の特許が出資先を引用する方向で知識が流れたという結果は、この見方と整合的である。
逆に、銀行の商品を出資先の顧客に売る型で効果が確認されなかったことは、出資を「送客の権利の購入」として説明する稟議には慎重であるべきことを示唆する(仮説)。また銀行が初期ラウンドをほとんど手がけず、後期の大型ラウンドに入るのは、技術と事業がある程度固まった相手でなければ協業の見込みを評価しにくいからだと考えられる。
買収との比較も示唆に富む。2001〜2022年に銀行が買収したフィンテック企業は40社で、銀行以外の企業による買収(651社)の約16分の1だった。著者らは、買収すると出資先が銀行規制の対象になり、成長が妨げられうることを理由の一つに挙げる25。少数出資と支配の獲得の選択は、銀行にとって規制の選択でもある。
日本の銀行グループに当てはめるとき——5%規制と認可の枠組み
日本では、銀行とその子会社は、国内の会社(銀行が子会社にできる金融関連の会社などを除く)の議決権を合算して5%を超えて取得・保有してはならない(銀行法16条の4第1項)26。一方、情報通信技術などを活用して銀行業の高度化や利用者の利便の向上に資する業務を営む会社は、銀行が子会社にできる会社に含まれ(同16条の2第1項15号)、そうした会社の議決権を5%を超えて取得するには、原則として事前に内閣総理大臣の認可が要る(同条第4項)。新たな事業分野を開拓する会社(同条第1項12号)の議決権を特定子会社が持つ場合の扱い(同16条の4第7項)など、投資の主体と投資先の区分で異なる定めもある27。銀行持株会社の段階での規制は別に定められており、本稿では確かめていない。
個別の案件では、この区分に応じて議決権の制限と認可の要否を確かめることになる。日本の銀行系CVCの案件がどの形で組まれることが多いかは、条文からは分からない。研究の示した「出資が協業の信頼をつくる」効果が、5%未満の小さな持分でも働くかどうかは、米国の研究からは分からない。米国の標本でも個々の銀行の出資額は観察されておらず、持分の大きさと協業の関係は分析されていない28。日本で使うなら、持分の大きさより、取締役会オブザーバー権や業務提携契約など、協業を支える契約の束として出資を設計するほうが、研究の論理に沿うと考えられる(仮説)。
学習用の設例:協業の価値を入れると、必要な投資倍率はどこまで下がるか
学習用の設例(架空)
- Y銀行グループのCVCが20社に1.5億円ずつ、計30億円を出資する
- 出資は7年後に一括で回収すると単純化し、グループの要求利回りは年8%とする
- 出資したからこそ成立した協業(増分の転換率)は出資先の5〜25%、協業1件は2〜6年目の5年間に毎年0.1〜0.4億円の増分利益(協業の費用を差し引いた後)を銀行にもたらすとする
- 研究の数値は使っていない(米国の転換率を日本の案件に当てはめる根拠は無い)
協業の価値を考えなければ、30億円が7年で年8%を稼ぐには、ポートフォリオ全体で約1.71倍のMOICが要る。基本ケースとして、増分の転換率15%(3件)、1件あたり年0.2億円と置くと、協業の利益を年8%で割り引いた現在価値は約2.2億円で、必要倍率は約1.59倍に下がる。
図2と表2から読めるのは、協業の価値が必要倍率を下げる幅は、転換率と1件の利益の掛け算で決まり、どちらかが小さいとほとんど効かないことである。転換率5%・年0.1億円なら必要倍率は1.69倍で、協業が無い場合とほぼ変わらない。転換率25%・年0.4億円まで置いてようやく1.29倍になる。考え方は、M&Aで必要なシナジーを逆算する手順と同じである。
表2 設例:協業の前提ごとの必要倍率
表は横にスクロールできます →
| 増分の転換率 | 利益0.1億円/年 | 利益0.2億円/年 | 利益0.4億円/年 |
|---|---|---|---|
| 5%(1件) | 1.69倍 | 1.67倍 | 1.63倍 |
| 15%(3件) | 1.65倍 | 1.59倍 | 1.46倍 |
| 25%(5件) | 1.61倍 | 1.50倍 | 1.29倍 |
| 協業なし | 1.71倍 | 1.71倍 | 1.71倍 |
もう一つの論点は、転換率を「出資が無くても起きた協業」を差し引いた増分で置くことである。研究の米国の標本では、出資の無い組でも、照合した出資の年より後に協業が1.5%成立していた。自社で同じ比較をするなら、出資を見送った候補や、提携だけの相手の協業率が基準になる。
投資委員会で使える確認項目
- 協業の型を一つ書かせる:「銀行が技術を使う」「出資先が当行の顧客に売る」「当行が出資先の顧客に売る」のどれか。研究で統計的に確かめられたのは主に一つ目で、三つ目は確かめられていない。三つ目だけを根拠にした案件は、前提を別に検証する
- 出資しないと協業できない理由を問う:業務提携契約だけで足りるなら、出資は何を防ぐのか(相手の離反、技術の持ち去り、条件の再交渉)を一文で書かせる
- 関連の深さを測る:自行のサービスと出資先の業種・技術の重なり(特許、APIの接続先、対象顧客)を、出資前に記録しておく
- 協業の成立時期を記録する:出資前に成立した協業と出資後の協業を分けて台帳に残し、年に一度、出資先ごとの増分の転換率を計算する
- 二つのリターンを分けて報告する:ファンドとしてのTVPI・DPIと、協業から銀行側に生じた増分利益を別の表にし、表2のような必要倍率で両者をつなぐ
- 持分と規制を確認する:5%を超える出資や子会社化を見込む案件は、銀行法16条の2・16条の4のどの枠に当たるかと、認可の要否を事前に法務・企画と確認する
よくある質問
銀行がフィンテックに出資すると、出資先の成長にもよいのですか。
研究では、協業によって出資先が銀行の顧客に売る機会を得た例があり、著者らは双方に利点があると述べています。ただし出資先の企業価値や成長率への効果を因果として推定したわけではありません。IPOの率が高いという数字は、段階や規模を揃えない比較です。
日本の銀行系CVCにも同じ結果が当てはまりますか。
分かりません。研究は米国の上場銀行が対象で、日本の5%規制や認可の枠組み、フィンテック市場の規模は異なります。日本で使えるのは結果の数字ではなく、協業の型と成立時期を記録して効果を測るという方法のほうです。
まとめ
米国の上場銀行のデータでは、フィンテックとの競争が強い銀行ほど出資し、自行と関連の深い相手を選び、出資の後に協業が増えていた。統計的に確かめられた協業は主に銀行が出資先の技術を使う型で、銀行の商品を出資先の顧客に売る型は確かめられていない。協業の情報の集め方、推定値の幅、財務リターンを測っていない点は、結果を読むうえでの限界である。日本の銀行系CVCでは、5%規制の下で、協業の型と増分の転換率を記録し、財務リターンと分けて評価する仕組みを先に作っておくことが、この研究から引き出せる実務の手がかりになる。
脚注
- R1(NBER WP 版, 2024年12月)p.1〜2。本稿の R1 のページはすべて PDF の物理ページ(論文の印刷ページ番号+2。表のページも同じ)(表紙・要旨。著者の所属は Duke University と NBER〔Puri〕、University of Connecticut〔Qian・Zheng〕)。表紙に NBER WP は査読を経ていない旨の記載がある。同題・同著者の SSRN 版(DOI 10.2139/ssrn.4763371)は本稿が確認できた最も早い版で、Crossref の登録日(created)は2024年4月12日、公開日の記録(posted・issued)は年(2024年)のみで、公開月は未確認である。2024年8月27日付の版が米連邦預金保険公社(FDIC)のサイトに掲載されている。北京大学のセミナー告知にも同題の要旨があるが、開催日は確認できなかった。学術誌への掲載は Crossref と検索では確認できなかった(2026年10月25日確認)。本稿の数値はすべて NBER WP 版による。↩
- R2(NBER WP w10535, 2004年6月版)p.2〜5(要旨・序論。Venture Economics の1980〜2000年のデータ)。学術誌版は Review of Financial Studies 21巻 513〜541ページ(Crossref で確認)。R1 も p.3 で同じ趣旨を紹介している。↩
- R1 p.3(序論)、p.11・p.16〜17(3.1節・図1)。VC 投資をした上場銀行・銀行持株会社のうち fintech に出資したのは51行、出資先は323社、出資したラウンドは475件。↩
- R1 p.3、p.17(図3と脚注19)。2001年は2,100万ドル。単位は百万ドルの数値を億ドルに換算した(編集部)。個々の投資家の出資額は Crunchbase にも他のどのデータにも無いと著者は書く。↩
- R1 p.17(図2)。2021年については、VC の支援を受けた企業が調達した額のうち fintech は約16%、銀行のベンチャー投資のうち fintech は35%(p.3〜4)。全体の伸びとの比較は p.3(2001〜2022年の年平均伸び率)による。↩
- R1 p.11(2.1節)。51行が関与した622の「銀行×ラウンド」の内訳。残りは銀行部門15%、持株会社のその他の部門10%。↩
- R1 p.18(3.2節・図5)。初期=エンジェル・プレシード・シード、後期=シリーズC以降・コーポレートラウンド・PE ラウンド。シリーズA・Bは銀行が40%超、銀行以外が34%。↩
- R1 p.18〜19(図6)、p.40(表1 Panel A・B)。「銀行・融資」の割合は実際の出資31.5%に対し照合用の組24.0%、「保険」は7.2%と16.6%(いずれも1%水準で差が有意)。総資産は表1 Panel B の平均(実際の出資417,009百万ドル、傾向スコアで照合した組63,382百万ドル)を億ドルに換算し、倍率は編集部の計算。著者の解釈は p.19。↩
- R1 p.12〜13(2.2.1節。fintech 貸し手は先行研究の10社)、p.21〜22(式1・4.1節)、p.41(表2)。競争の分析の対象は、本文 p.20 では2010〜2022年の出資、表2の注記(p.41)では2010〜2021年の出資と書かれ、一致しない(競争の指標は2009年から)。協業の分析(表6・表8・表9)は2001〜2021年、相手の選び方の分析(表3〜5)は2001〜2022年の出資が対象。係数は列1〜3で 0.047・0.121・0.058(列1・2は1%水準、列3は5%水準で有意)。1標準偏差は0.36、効果は列3による。↩
- R1 p.23〜25(4.2節)、p.42〜49(表3〜5)。技術の重なり(1標準偏差0.19)で1%ポイント、特許の相互引用(同0.09)で1.8%ポイント、業種の重なり件数(同0.811件)で3.2%ポイント、業種の重なり率(同14.3%ポイント)で4.3%ポイント。著者は件数の効果を「3.2% higher probability … a 35% increase」と書いており、ここでの%は確率の%ポイントと読める。方向別では、出資先が銀行の特許を引用している場合だけが有意だった(表4 Panel B)。基準確率の16.7%と9%は著者本文の値で、主な標本の設計(実際1件に疑似5件または10件、p.21・p.23)では1÷6・1÷11 に近い(編集部の計算)。ただし業種の重なりの分析では疑似の銀行を Crunchbase の収録先に限り、対照標本が5,110から3,571に減っている(p.15)ため、その推計標本での比率は確認できない。効果の値は著者本文の報告値で、表の係数×1標準偏差による再計算とは差がある(相互引用は0.213×0.09=約1.9%ポイント、競争は0.058×0.36=約2.1%ポイント)。差の理由は論文に書かれていない。↩
- R1 p.15〜16(2.2.4節)、p.26(5.1節)。実際の組328と疑似の組3,280について調べ、協業の時期が分からない少数を除いた(実際314・疑似3,273)。対象は2021年末までの最初の出資。↩
- R1 p.26〜27、p.50(表6 Panel A)。倍率(27.4÷1.5)は編集部の計算。著者の解釈は p.26〜27。↩
- R1 p.25〜26(5節)、p.28(式3・4)。操作変数の妥当性(関連性)は第一段階の係数10.553(t=4.74)と Kleibergen-Paap の F 値22.43で示される(p.29、p.51 の表8 列1)。除外制約は著者の仮定で、統計的に検証されたものではない。都市圏の代わりに MSA・州で測っても結果は頑健とされる(p.26 脚注21)。↩
- R1 p.29、p.51(表8 列2〜5)。本文は効果を「45%」「40%」「8%」と書くが、線形確率モデルの係数(0.447・0.398・0.084)なので確率の%ポイントと読める。銀行が出資先の顧客に売る型は −0.004(t=−0.08)。↩
- R1 p.27、p.50(表6 Panel B。実際の組のみ)。暗号資産は31.8%、保険は12.5%。分野間の差の検定は示されていない。↩
- R1 p.29〜30(5.2節・式5)、p.52(表9)。出資後の相互引用 0.148(5%水準)、銀行が出資先を引用 0.147(5%水準)、出資先が銀行を引用 0.082(有意でない)。↩
- R1 p.4、p.25(理論は Hellmann 2002、Mathews 2006)、p.31(6節。引用は同ページ。出資の無い大手銀行と fintech の協業は疑似の組の2%にとどまるという記述を伴う)。↩
- R1 p.31(脚注23)。小さな地域銀行には、fintech が顧客の窓口となり銀行が裏側の銀行業務を担う別の形の協業があると著者は注記する。↩
- R1 p.10(2.1節)。SBIC は中小企業の最大50%まで出資でき、銀行の SBIC への投資総額は資本・剰余金の5%までとされる。グラム・リーチ・ブライリー法の下で、銀行持株会社は幅広いマーチャント・バンキング業務を行える。↩
- R1 p.15(2.2.4節)。著者は、出資先が小さいため銀行はウェブサイトや SEC 提出書類で出資や協業に触れないことが多いと書く。SDC の提携データ(36件)を使った分析でも同じ方向の結果だった(p.26 脚注22)が、公表の偏りそのものを検証した分析は示されていない。↩
- R1 p.7(序論の関連研究。Carlini, Del Gaudio, Porzio and Previtali, 2022, Finance Research Letters 45, 102252)。本稿はこの研究の本文を確認しておらず、R1 の紹介による。R1 は同じ箇所で、事業会社(銀行を含む)の fintech 投資で出資先と投資家の双方の業績が上がったとする研究(Chemmanur et al., 2023, SSRN)も紹介している。↩
- R3 の要旨。Crossref に要旨が登録されていたのは同題・同著者の SSRN 版(DOI 10.2139/ssrn.3979248、2021年)で、本稿はその要旨で確認した。学術誌版(2023年)の本文・要旨は未確認。米国のデータで、銀行は独立系 VC より fintech 企業への投資の割合が高く、成績の差は後期・大型案件への偏りでは説明されないとする。↩
- R1 p.18(3.2節と脚注20)。買収による出口は20.4%と15.8%、失敗は14.6%と26.3%。失敗は Crunchbase の表示か、4年以上新しい資金調達が無い場合と定義され、表示だけで数えると7.7%と10.7%。↩
- R1 p.20〜21 の本文は、実際に出資した銀行が受ける競争の平均を34.6%、照合用の銀行を23.8%・24.6% とするが、表1 Panel B(p.40)の同じ変数は0.238・0.195・0.199 で一致しない。また p.22 の本文は競争の係数を「最初の2列で1%水準で有意」とし、列3の水準を書いていない(表2では5%水準)。本稿は水準の数値を使わず、有意水準は表に従った。表番号は表6の次が表8になっている。↩
- R1 p.31〜32(6節と脚注24・25)。銀行が買収した40社のうち12社は、事前に銀行の出資を受けていた。倍率は編集部の計算。規制の負担についての著者の説明は Skadden と KPMG の報告を引いている。↩
- R4 銀行法16条の4第1項(e-Gov 法令検索の法令データで確認)。銀行が子会社にできる会社(同法16条の2第1項の一部の号の会社)などは、この制限の対象から除かれる。↩
- R4 銀行法16条の2第1項15号・第4項(同)。第4項は、15号の会社のうち内閣府令で定める会社を除き、銀行またはその子会社が合算して基準議決権数(議決権の5%)を超えて取得・保有しようとするときに、事前の認可を求める。同法16条の4第7項は、16条の2第1項12号(新たな事業分野を開拓する会社として内閣府令で定める会社)などの議決権の取得・保有について、特定子会社(同項11号の会社のうち内閣府令で定めるもの)を銀行の子会社に当たらないとみなす。内閣府令で除かれる会社・特定子会社の範囲と、銀行持株会社の規制(同法52条の24 など)は本稿では確認していない。↩
- R1 p.17(脚注19)。R1 は持分比率を変数として扱っていない。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Puri, M., Y. Qian and X. Zheng (2024), “From Competitors to Partners: Banks’ Venture Investments in Fintech,” NBER Working Paper No. 33297. DOI: 10.3386/w33297. 参照した版:NBER WP 版(2024年12月)。同題の SSRN 版:DOI 10.2139/ssrn.4763371。査読:未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:全文(ページは PDF の物理ページ)。脚注1・3〜20・23〜25・28の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Hellmann, T., L. Lindsey and M. Puri (2008), “Building Relationships Early: Banks in Venture Capital,” Review of Financial Studies 21, 513–541. DOI: 10.1093/rfs/hhm080. 参照した版:NBER WP w10535(2004年6月)。査読:済(学術誌版)。 nber.org (参照箇所:NBER WP 版の要旨・序論(p.2〜5)。脚注2の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Li, E., M. Q. Mao, H. F. Zhang and H. Zheng (2023), “Banks’ investments in fintech ventures,” Journal of Banking & Finance 149, 106754. DOI: 10.1016/j.jbankfin.2022.106754. 参照した版:同題の SSRN 版(DOI 10.2139/ssrn.3979248、2021年)の Crossref 登録要旨(学術誌版の本文は未確認)。査読:済。 doi.org (参照箇所:要旨。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 銀行法(昭和56年法律第59号)第16条の2・第16条の4(e-Gov 法令検索) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第16条の2第1項12号・15号・第4項、第16条の4第1項・第7項。2026年10月25日に法令データで確認。脚注26・27の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。