この記事で分かること
- セールス&トレーディング(S&T)のテクニカル面接で頻出する「マーケットメイキング損益計算」「オプショングリークスを使ったヘッジ計算」「確率・期待値の暗算問題」という3つの出題パターンの具体的な解き方
- 在庫(ポジション)が残った状態での損益計算が、スプレッドを取っただけの単純な計算とどう違うのか
- デルタとガンマから、価格が動いた後の再ヘッジ株数を自分で計算する手順
- 出身業界別に、これらの計算問題への対策で優先すべき準備の順序
結論:問われているのは「正解」ではなく式を自分で組み立てる過程
S&Tのテクニカル面接で出される計算問題は、電卓が使えない場面が多く、暗算またはメモ用紙での概算が前提になります。ここで評価されているのは、最終的な数値がぴったり合うかどうかよりも、何を式に組み込み、何を無視してよいかを自分で判断し、途中式を声に出しながら組み立てられるかという点です。頻出する出題は大きく3パターンに整理できます。ひとつは、マーケットメイカーがビッド・アスクのスプレッドで気配を提示した後、在庫(ポジション)が残った状態でどれだけの損益が生じるかを問うマーケットメイキング損益計算。ふたつめは、オプションのデルタ・ガンマから、価格が動いた後にヘッジのため何株を追加で売買すべきかを問うグリークス計算。みっつめは、サイコロやコインを使った確率変数の期待値を素早く求め、そこにスプレッドを乗せて気配を提示させる確率・期待値の暗算問題です。S&Tの選考プロセス全体(書類からWebテスト・面接までの流れ)はセールス&トレーディングのキャリア完全ガイド(日本版)|デスク別業務と選考で扱っているため、本記事ではその中の「テクニカル面接で実際に出される計算問題」に絞り、自己検算済みの設例を使って解き方の手順を解説します。
この記事の位置づけ:一般的なテクニカル問題との違い
金融業界のテクニカル面接で問われる会計・バリュエーション・M&A・LBOの一般的な頻出問題は金融テクニカル面接の頻出質問|5分野の体系マップと答え方の型とテクニカル面接 頻出30問|30秒回答の要点と深掘りリンク集で体系的に整理していますが、これらはどちらかといえば投資銀行部門(IBD)やプライベートエクイティの選考で共通して問われる内容が中心です。S&Tの選考、特にトレーディング系のポジションでは、これに加えて「その場でポジションの損益を暗算させる」「価格が動いた後の再ヘッジ量を計算させる」といった、トレーディングデスクの日次業務に直結した数値問題が独自に出題されます。本記事はこの独自パターンだけに絞った問題集として位置づけています。なお、株式オプションのマーケットメイクとデルタヘッジの実務そのものについては株式オプショントレーディングの実務|マーケットメイクとグリークスヘッジで扱っているため、実務の全体像を先に押さえたい場合はそちらも参考にしてください。
頻出パターン①:マーケットメイキング損益計算
マーケットメイクの損益計算でまず問われるのは、在庫がゼロに戻った「フラットな往復取引」の場合です。以下は説明用の仮設例です。ある銘柄XYZの気配を、中値(ミッド)¥2,000を中心にビッド¥1,999・アスク¥2,001(スプレッド¥2)で提示しているとします。
式(新規売り)
受取キャッシュ = アスク価格 × 数量 = ¥2,001 × 5,000株 = ¥10,005,000
顧客Aがこのアスク¥2,001で5,000株を買った場合、マーケットメイカーは5,000株を売り建てる形になり、在庫は−5,000株(ショート)になります。その後、別の顧客Bが同じ価格帯でビッド¥1,999に5,000株を売ってきたとすると、マーケットメイカーはこれを買い取って在庫をゼロ(フラット)に戻します。
式(買い戻し)
支払キャッシュ = ビッド価格 × 数量 = ¥1,999 × 5,000株 = ¥9,995,000
純損益 = ¥10,005,000 − ¥9,995,000 = ¥10,000
在庫がゼロに戻っているため、この¥10,000という利益はスプレッド幅(¥2,001−¥1,999=¥2)に数量(5,000株)を掛けた金額と完全に一致します(¥2×5,000株=¥10,000)。往復の両方が同じ価格水準で成立した場合、マーケットメイカーの利益はスプレッド収益そのものであり、これが面接で最初に確認される基礎パターンです。
在庫リスクが乗った場合:スプレッドを取っても損失になり得る
面接で本当に問われるのは、この先の応用パターンです。反対売買の相手(顧客B)がすぐに現れず、在庫がショートのまま残った状態で相場が動いた場合、損益はどうなるでしょうか。以下も説明用の仮設例です。顧客Aへの売却(¥2,001×5,000株、在庫−5,000株)までは先ほどと同じですが、その後に反対の顧客フローが来ないまま、中値が¥2,000から¥2,010へ+¥10動いたとします。マーケットメイカーはここで在庫をゼロに戻すため、新しい気配(ビッド¥2,009・アスク¥2,011)のアスク¥2,011で5,000株を買い戻します。
式(買い戻し・価格上昇後)
支払キャッシュ = ¥2,011 × 5,000株 = ¥10,055,000
純損益 = ¥10,005,000 − ¥10,055,000 = −¥50,000
スプレッドを取って売ったはずなのに、合計では¥50,000の損失になっています。この結果は、損益を3つの要素に分解すると理由がはっきりします。新規売却時に取れたスプレッド収益は(¥2,001−¥2,000)×5,000株=+¥5,000、買い戻し時に支払ったスプレッドコストは(¥2,011−¥2,010)×5,000株=−¥5,000、そして残る要因が、ショートのまま抱えていた在庫が値上がりした分の含み損=(¥2,010−¥2,000)×5,000株=−¥50,000です。3つを合計すると+¥5,000−¥5,000−¥50,000=−¥50,000となり、先の計算と一致します(検算OK)。この分解が示す実務上の要点は、スプレッドを取れているかどうかと、在庫を抱えている間の値動きが損益に与える影響は、まったく別の要因だという点です。面接官が本当に見ているのは、この2つを分けて説明できるかどうかです。
| 損益の内訳 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 新規売却時のスプレッド収益 | +¥5,000 | アスク¥2,001はミッド¥2,000より¥1有利 |
| 買い戻し時のスプレッドコスト | −¥5,000 | アスク¥2,011は新ミッド¥2,010より¥1不利 |
| 在庫(ショート5,000株)の含み損 | −¥50,000 | ミッドが¥10上昇×5,000株のショート |
| 合計純損益 | −¥50,000 | 往復の現金収支と一致(検算OK) |
マーケットメイカーがビッドアスクスプレッドを収益源とする仕組み自体は、常に気配を出し続けることの対価であり、在庫の値動きリスクとセットになっています。面接では「スプレッドを何円取れましたか」だけでなく「その間に在庫の評価はどう動きましたか」まで問われることを前提に、両方を分けて計算する練習をしておく必要があります。
頻出パターン②:デルタ・ガンマを使ったヘッジ株数の計算
オプションのマーケットメイクでは、原資産価格が動くたびにヘッジ株数を再計算する必要があります。以下は説明用の仮設例です。あるトレーダーが、原資産価格¥1,500の株式コールオプションを80枚売っている(1枚=100株)とします。売却時点でのオプション1枚あたりのデルタ・ガンマ(グリークス)は、デルタ0.45、ガンマ0.003(原資産価格が¥1動くごとに、1枚あたりのデルタが0.003変化する)とします。
式(初期ヘッジ株数)
デルタ株数 = デルタ × 枚数 × 1枚あたり株数 = 0.45 × 80枚 × 100株 = 3,600株
コールオプションを売っている(ショートコール)ので、原資産価格が上がるとオプション側で損失が生じます。これを打ち消すため、現物株を3,600株買い建ててデルタニュートラルな状態を作ります。ここまでは面接の入口として問われる基本計算です。
本題はここからです。原資産価格が¥1,500から¥1,530へ+¥30上昇したとき、デルタはガンマの分だけ変化しています。
式(新デルタ)
新デルタ(1枚あたり)= 0.45 + 0.003 × 30 = 0.45 + 0.09 = 0.54
式(新デルタ株数)
0.54 × 80枚 × 100株 = 4,320株
オプション側のデルタ株数が3,600株から4,320株に拡大した一方、現物のヘッジは3,600株のまま据え置かれています。両者の差である720株(4,320−3,600)がヘッジ不足として残っており、この分を追加で買わなければネットデルタがゼロから乖離したままになります。
式(追加ヘッジ株数)
4,320株 − 3,600株 = 720株
検算:新規保有株数 4,320株(現物ロング)− オプションの新デルタ株数 4,320株(ショート相当)= ネットデルタ 0(一致)
この一連の計算が示しているのは、コールオプションを売っている(ショートガンマの)ポジションでは、原資産価格が上がるたびにヘッジのための買い増しが必要になり、逆に価格が下がれば売り戻しが必要になるという構造です。つまり、価格が上がった局面で高い価格を買い増し、下がった局面で安い価格を売る格好になりやすく、これがショートガンマのポジションが構造的に不利になりやすい理由として説明されます。反対にオプションを買っている(ロングガンマの)場合はこの逆で、値動きのたびに安く買い・高く売る形になります。面接では、単に株数を計算させるだけでなく、「なぜその方向にヘッジを動かす必要があるのか」を、デルタとガンマの符号から説明できるかまで問われることが一般的です。
| 時点 | 原資産価格 | 1枚あたりデルタ | 必要ヘッジ株数 | ネットデルタ |
|---|---|---|---|---|
| 売却時点 | ¥1,500 | 0.45 | 3,600株 | 0 |
| 価格+¥30後(再ヘッジ前) | ¥1,530 | 0.54 | 4,320株(720株買い増し要) | −720株 |
計算問題の前に、テクニカル面接全体の基礎を固める
マーケットメイキング損益やグリークス計算は、S&Tの選考の中でも一部の問題にすぎません。会計・企業価値評価・M&A実務といった土台の理解が薄いと、計算問題以外の質問で評価を落とすことになります。無料会員登録の特典として提供している投資銀行面接の想定問答160問で、基礎知識の抜けを確認しておくことをおすすめします。
頻出パターン③:確率・期待値の暗算問題
S&Tのテクニカル面接、特にトレーディング職の面接では、確率変数の期待値を素早く暗算させる問題が定番として出題されます。以下は説明用の仮設例です。「サイコロを1回振り、出た目の2乗の金額(円)がもらえるゲームがあるとして、参加料の期待値はいくらか」という問題を考えます。
式
各目の2乗:1²=1、2²=4、3²=9、4²=16、5²=25、6²=36
合計 = 1+4+9+16+25+36 = 91
期待値 = 91 ÷ 6 = 約¥15.17
この合計91は、1からnまでの2乗の和を求める公式n(n+1)(2n+1)÷6(n=6の場合)を使うと、6×7×13÷6=91と即座に検算でき、実際の暗算でもこの公式を知っているかどうかで解答時間が大きく変わります(91÷6=15.1666…であり、6×15=90、91−90=1なので端数は1/6、合わせて約15.17という概算も暗算の型として使えます)。
この種の問題でもう一段評価されるのは、期待値(フェアバリュー)を求めただけで終わらず、そこにマーケットメイカーとして気配を提示する発想まで展開できるかどうかです。フェアバリュー約¥15.17に対してスプレッド¥1(片側¥0.5)を乗せるなら、フェアバリューを中心にビッド約¥14.67・オファー約¥15.67という気配になります。実務やその場の暗算では端数を丸めて「ビッド¥14.5・オファー¥15.5」のように提示することも珍しくなく、暗算のスピードと、丸め方の妥当性を説明できるかの両方が見られています。
電卓が使えない前提の暗算問題では、正確な少数点以下まで合わせることよりも、途中式を声に出しながら概算の桁を外さないことの方が重視される傾向があります。91÷6という割り算であれば、「6×15=90だから商は15強」という概算をまず口にしたうえで、余り1÷6=約0.17を足すという順序で説明すると、思考過程が伝わりやすくなります。
出題形式別の対策と評価されるポイント
3つのパターンは、求められる準備の性質が異なります。
| 出題パターン | 主に評価される点 | 典型的な失敗 |
|---|---|---|
| マーケットメイキング損益計算 | スプレッド収益と在庫の値動き損益を分けて説明できるか | スプレッドを取れば必ず儲かると誤解して符号を間違える |
| グリークス計算(デルタ・ガンマ) | 再ヘッジが必要な方向と株数を、符号込みで即座に組み立てられるか | デルタの符号(ショート/ロング)を取り違えて逆方向にヘッジしてしまう |
| 確率・期待値の暗算 | 概算の桁を外さずに素早く途中式を口に出せるか | 正確な小数点以下にこだわりすぎて時間を使いすぎる |
共通しているのは、いずれも単発の知識問題ではなく、オプション価格理論や在庫リスクの構造そのものを理解したうえで、その場で数値を当てはめる力が問われている点です。過去問を暗記するのではなく、なぜその式になるのかを自分の言葉で説明できる状態にしておくことが、応用問題(数値や前提を変えた出題)への対応力につながります。
出身業界別に優先すべき準備
これらの計算問題への対策で不足しやすい能力は、出身業界によって傾向が異なります。
| 出身業界 | 強み | 優先して補強すべき点 |
|---|---|---|
| 投資銀行(IBD)・会計系 | 財務諸表・バリュエーションの正確な計算に慣れている | 在庫リスクやデルタ・ガンマといったポジション損益の発想への切り替え |
| 理系・数学系(アクチュアリー・エンジニア等) | 確率・期待値の計算そのものは得意 | 計算過程を口頭で分かりやすく説明する訓練、実務の文脈(気配提示・在庫)への結び付け |
| コンサルティング・事業会社 | 論点整理力・限られた時間での構造化 | デルタ・ガンマ等の金融工学の基礎用語と計算手順そのものの習得 |
| 学生・第二新卒(金融未経験) | 学習に充てられる時間を確保しやすい | 3パターンすべてを基礎から順番に、電卓なしで解く反復練習 |
いずれの出身であっても共通する優先順位は、まず①スプレッドと在庫損益を分けて計算できるようになること、次に②デルタ・ガンマの符号を使ってヘッジの方向を即座に判断できるようになること、最後に③確率の暗算スピードを上げること、という順番で練習するのが効率的です。①と②はデスクの実務に直結する分、面接での配点も大きくなりやすい一方、③は短期間の反復練習で伸ばしやすいためです。
よくある質問(FAQ)
Q. グリークスの計算問題は、どの職種でも同じように問われますか。
A. 公開されている選考情報の範囲では、オプションやデリバティブ関連のポジションを扱うトレーディング職やデスククオンツ職で特に重視される傾向があります。フロー(顧客フロー起点)の株式セールス職では、計算そのものよりもデルタ・ガンマの概念を人に説明できるかが問われる場合もあり、志望するデスクの性質によって出題の深さは変わります。
Q. 暗算問題で電卓は使えますか。
A. 公開されている選考情報を見る限り、使えない前提で出題されることが多いようです。概算の精度よりも、途中式をどう組み立てて口頭で説明するかが評価対象になる傾向があります。
Q. 最終的な数値が合わなければ不合格になりますか。
A. 一概には言えません。ただし前提の取り違え(符号の間違い等)を自分で気づけずに押し通してしまうと、計算過程そのものへの信頼を損ないやすくなります。数値が合わない場合でも、途中でどこに違和感があるかに自分で気づき、修正できる姿勢の方が重視される傾向があります。
Q. マーケットメイキング損益計算とグリークス計算は、どちらを先に対策すべきですか。
A. 志望するデスクによりますが、株式・債券・FXいずれのキャッシュ商品デスクでもマーケットメイキング損益の考え方は共通の基礎になるため、そちらを先に固めたうえで、デリバティブ系のデスクを志望する場合にグリークス計算を上乗せする順番が効率的です。
Q. 確率の暗算問題は、どこまで難しい問題に備えればよいですか。
A. 公開されている選考情報の範囲では、サイコロやコインを使った基本的な確率変数の期待値計算が中心とされています。複雑な確率分布よりも、シンプルな設定を素早く正確に解ける基礎力を優先して鍛える方が実務的です。
まとめ
S&Tのテクニカル面接で頻出する計算問題は、マーケットメイキング損益計算・グリークスを使ったヘッジ計算・確率の期待値暗算という3パターンに整理できます。いずれも単なる公式の暗記ではなく、スプレッド収益と在庫の値動きを分けて考える、デルタ・ガンマの符号からヘッジの方向を判断する、概算の桁を外さずに途中式を口に出す、といった思考の型を身につけることが対策の中心になります。出身業界によって不足しやすい能力は異なるため、自分の強みと弱みを整理したうえで、実務に直結しやすいマーケットメイキング損益とグリークス計算から優先的に練習することをおすすめします。
計算問題の反復練習と、選考全体の準備を並行して進める
本記事の設例を紙に書き出しながら自分の手で再計算してみると、暗算の型が定着しやすくなります。会計・バリュエーション・DCF・M&Aの基礎知識と合わせて選考全体の準備を進めたい場合は、無料会員登録から始めて、想定問答やモデリングラボの機能につなげていくと効率的です。
出典・参考(2026年8月確認)
- 野村證券「証券用語解説集:デルタ」 https://www.nomura.co.jp/terms/japan/te/A02196.html
- 大和証券「金融・証券用語解説集:ガンマ」 https://www.daiwa.jp/glossary/YST0342.html
- 楽天証券「ETFが買いやすくなる『マーケットメイク』とは?」 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/domestic/special/beginner/etf-etn02.html
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。年収・市場情報は執筆時点の公開情報に基づく参考値です。