想定読者:銀行株を担当するアナリスト、銀行向けの与信や銀行債投資を担当するクレジットアナリスト、預金先を管理する事業会社の財務担当
前提知識:自己資本比率の考え方、債券の時価と金利の関係

銀行の同業比較の表には、たいてい自己資本比率、ROA、預金の構成が並ぶ。2023年3月の米銀の混乱は、この表の読み方を問い直す出来事だった。3月8日の夜に暗号資産に特化した銀行が清算を発表し、シリコンバレー銀行(SVB)が約20億ドルの増資を公表した。翌日に株価は60%超下がり、10日に破綻する。地銀株の指数は週間で約20%下げたが、S&P 500はほぼ動かなかった1。

無保険預金の多さも含み損の深さも、前の年の決算で読める数字である。それなら株価は、破綻の前にどこまで反映していたのか。反映していなかったのは何か。銀行株のテールリスクを平時の株価から読み取れるかという問いは、同業比較の表にどの列を足すかという実務の問いに直結する。SVBの破綻の経緯と金利リスクの検算はSVBの​ALM​リスクの​記事にまとめてあり、本記事は株価が何をいつ反映したかに絞る。

この記事が主に参照する研究

Matthew P. Seay、Shawn M. Kimble(2025)「テールリスクの価格付け:2023年の銀行ストレス期の銀行株リターン(Pricing Tail Risks: Bank Equity Returns During the 2023 Bank Stress)」Finance and Economics Discussion Series 2025-078

  • 公表:初版 2025年9月(FRB の FEDS)。前身は2024年8月の FEDS Notes。参照した版:FEDS 版。査読:未査読(WP)。著者はFRBとボストンカレッジの研究者で、FRBの公式見解ではない2
  • データ:米国の上場銀行(総資産10億ドル以上)297行。破綻・清算した4行、GSIB 8行、破綻行を買収した銀行を除く。2022年末の財務と、2023年3〜5月の株価
  • 方法:地銀株指数に対する超過リターンを期間別に財務指標へ回帰した相関の分析。自然実験による因果の識別ではない
  • 位置づけ:新しい指標による、既に議論のある問いの検証

個別の​リスクと​組合せの​リスクを​分ける​3つの​物差し

論文の出発点は、無保険預金の比率や含み損の大きさを単独で見ても、資金が流出した時に何が起きるかは分からないという考えにある。預金保険の上限(米国は25万ドル)を超える預金は、銀行が揺らげば真っ先に動きやすい3。一方、預金が流出しても現金と売れる証券で払えるなら、銀行は持ちこたえる。そこで著者らは物差しを3つ作った。

1つ目はLFL(Lower Friction Liquidity)で、現金と「使える」売却可能証券(AFS)の合計を、無保険預金と1年以内の短期ホールセール調達の合計で割る。「使える」という限定が肝で、含み損の深い債券を売れば損失が資本を削るため、CET1比率が所要水準に達するまでの量しか数えない4。流動資産の残高が多くても、売れない分は分子に入らない。規制のLCRが適格流動資産を30日間のストレス下の純流出と比べるのに対し、LFLは売却による資本の制約を分子に織り込み、分母には調達の残高をそのまま置く5。2022年末の下位四分位の境は0.33で、SVBは0.22、First Republicは0.06だった6。

2つ目のMACET1は、CET1比率から証券と貸出の時価損失をすべて差し引いた比率で、規制上の指標ではない7。3つ目の借入余力は、現金と貸出・証券の時価の合計から担保に差し入れ済みの貸出・証券を除いた額を、取り付けられやすい調達で割ったもので、中央銀行などから借りる力の上限の目安にあたる8。LFLが「売って払う力」、借入余力が「借りて払う力」を測る。

図1図1 自己資本は近く、流動性は倍以上の差2022年末の米上場銀行の2群(論文の表2、%)使える流動資産(現金+売れるAFS)低LFL11.59高LFL21.52取り付けられやすい調達低LFL46.35高LFL36.15現金売れるAFS無保険預金短期の市場調達低LFL高LFLLFL比率25.0159.53CET1比率10.3010.94時価調整後5.736.44ROA1.271.29
図1 低​LFL​群と​高LFL群の​比較​(2022年第4四半期、%)。​上の​棒は​比率の​分子と​分母の​内訳で、​合計は​表の​値から​編集部が​計算した。​原表は​比率の​基準を​明記していないが、​合計の​比は​表の​LFL比率に​一致する。​時価調整後は​MACET1比率。​出所:R1(p.23 表2)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。

図1から読むべき点は、普通の同業比較では2群の差が目立たないことである。LFLには2.4倍の開きがあるのに、CET1比率の差は0.64ポイントで、ROAはほとんど同じだった9。時価調整後の資本は両群とも6%台以下に下がっている。

株価の​差は​いつ、​どの​リスクに​表れたか

著者らは3つの期間に分けて、地銀株指数KRXを上回った幅(超​過リターン)を説明した。金融市場全体は大きく動かなかったため、基準を業界の指数に置いている10。

表1 どのリスクがいつ株価の差に表れたか(KRXに対する超過リターン、%ポイント)

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説明変数破綻直前
3/3〜3/8
破綻時
3/8〜3/10
BTFP後(原表の呼称)
3/10〜5/31
LFLが下位四分位(ダミー)−0.2−1.2***−4.7***
LFL(連続値、1標準偏差あたり)−0.2*−0.10.0
無保険預金が平均超(資本7%以上の銀行)−0.6*0.50.1
資本7%未満(無保険預金が平均以下の銀行)−0.6*0.7−5.5***
交差項:無保険預金が平均超×資本7%未満0.4−1.2*0.3
借入余力(1標準偏差あたり)0.1−0.23.0**
暗号資産の言及(1標準偏差あたり)0.0−1.0***−0.9
VC収入の伸び(1標準偏差あたり)0.10.3***0.7*
自由度調整済み決定係数0.3040.3690.177
米国の​上場銀行​(総資産10億ドル以上)​297行の​横断面回帰。​統制変数を​含む​同じ式を​3期間で​推定した。​原表の​係数​(小数)を​編集部が​100倍して​表示。​資本は​時価調整後の​資本​(MACET1)。​無保険預金と​資本の​行は、​相手側の​ダミーが​0の​銀行に​ついての​差で、​両方に​該当する​銀行の​差は​交差項を​含む3行の​和に​なる。​*は​10%、​**は​5%、​***は​1%水準で​有意。​印の​ない​値は​統計的に​有意でない。​相関の​分析で​因果を​示す​ものではない。​「BTFP後」は​原表の​呼称で、​期間の​表記も​原表に​従った。​BTFPの​発表は​3月12日で、​原表の​表記では​期間の​起点は​それより​前の​3月10日に​あたる​(脚注22)。​出所:R1(p.25 表4)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。

読み方に注意がいる。式には2つのダミーと両者の交差項が入っているので、無保険預金の行は資本が7%以上の銀行の中の差、資本の行は無保険預金が平均以下の銀行の中の差を表す。両方に該当する銀行の差は3行の和で、点推定は破綻直前−0.8、破綻時0.0、BTFP後−5.1ポイントとなる(編集部の計算。同時検定の結果は原表にない)。LFLも下位四分位のダミーと連続値の両方を入れており、ダミーは連続値で説明しきれない下位の銀行の差を示す。

破綻直前の数営業日では、資本が7%以上の銀行の中で無保険預金が平均を超える銀行は超過リターンが0.6ポイント低く、無保険預金が平均以下の銀行の中で時価調整後の資本が7%未満の銀行も0.6ポイント低かった(いずれも統制後、10%水準)。交差項と低LFLのダミーには、統計的に有意な関係は確認されなかった。連続値のLFLは1標準偏差あたり−0.2ポイント(10%水準)だが、LFLが高いほどリターンが低い向きで、著者らはこの値に触れていない11。個別の弱さは小幅に出ていたが、組合せは価格に十分反映されていなかった可能性があると著者らは解釈する。

破綻時の2日間で、低LFLの銀行は1.2ポイント(1%水準)下回った。交差項も−1.2ポイント(10%水準)で、著者らは両方を併せ持つ銀行が劣後したと述べる。ただし単独の2行は有意でない正の値なので、3行の和は0.0ポイントで、どちらにも該当しない銀行との差は点推定では残らない。この交差項は強く読まないほうがよい。業態の要因も表れ、決算説明会で暗号資産に多く触れた銀行は1標準偏差あたり1.0ポイント低く、VC関連の収入の伸びが高い銀行は相対的に良かった12。

差が大きくなったのは、FRBが緊急の貸出制度BTFPを設け、SVBの預金の全額保護が決まった後である。原表が「BTFP後」と呼ぶ5月末までの期間に、低LFLの銀行は4.7ポイント、無保険預金が平均以下の銀行の中で資本7%未満の銀行は5.5ポイント下回り、借入余力が1標準偏差大きい銀行は3.0ポイント上回った13。この期間の途中でFirst Republicも破綻している14。暗号資産の言及は統計的に有意でなくなり、著者らは、市場の関心が特定の業態から業界全体の支払能力と流動性の不均衡へ移ったと解釈する15。単純平均で見ても、低LFL群と他の銀行のリターンは破綻前は似ていて、破綻後に分かれた16。

著者らの結論は、データが公開されていたにもかかわらず、市場は取り付けにつながるテールリスクを誤って価格付けしていた可能性がある、というものである17。

株価が​下がった​銀行は​預金の​形を​変えた

論文にはもう一つの観察がある。リシプロカル預金は、大口の預金を25万ドル以下に分けて提携銀行の網に置き、実質的に保険の対象を広げる仕組みである18。2023年第2四半期にこれを大きく増やした銀行(伸びの上位四分位)は、破綻後の超過リターンが低く、LFLが低い傾向があった。ただし借入余力の係数は、著者の説明とは逆の向きに出ている19。標本全体でも、無保険預金の総資産比は2022年末の31.61%から2023年6月末の28.10%へ下がった20。

著者らはこれを株価と財務運営のフィードバックと呼ぶが、関連の分析であり、株安が原因だと確かめたものではない。

この​結果を​どこまで​読めるか

第一に、題名の「テールリスクの価格付け」は、オプションなどからテールのプレミアムを測ったという意味ではない。銀行間の株価の差から推論したものである。第二に、標本は生き残った銀行である。破綻した4行と買収した銀行を除いているため、最も弱い銀行の値動きは入っていない。第三に、指標は極端な前提に立つ。LFLは全面的な取り付けを想定して無保険預金の残高をすべて分母に入れ、投げ売りの損失は含まない。貸出の時価は開示値で、過少報告の誘因がありうると著者も認める21。

第四に、破綻前の結果は数営業日の値動きに基づき、有意水準の多くは10%である。この部分を強く読むのは避けたい。論文の本文と表の間に定義の違いもある22。

第五に、破綻前に何が値付けされていたかは研究によって分かれる。Choi らは、2023年2月から3月17日までのリターンを見て、無保険預金のリスクは一部織り込まれていたが、満期保有証券の含み損は投資家にとって驚きだった可能性があると論じた23。Fischl-Lanzoni らは、残高の特徴で作ったファクターへの感応度が2023年1〜2月は有意でなく、取り付けの期間に高まり、その上昇と2022年の財務との関係は弱く、ニュースで強まると報告した24。主論文の著者も、自分たちの結果が多くの先行研究と異なると述べている25。基準の指数、期間、指標がそれぞれ違うので、単純に優劣は決められない。3本に共通するのは、平時の株価だけではリスクの全体は読めないという点だと編集部は考える。

大手町​プレップの​考察

以下は論文が検証したものではなく、編集部の見方である。

まず、個別の指標の順位は「弱さがあるか」を教えるが、「いつ問題になるか」は教えない。無保険預金の多さは預金が動く時に、含み損は資産を売る時に効く。両者がつながる場面は平時には現れないので、株価に出にくいのではないか(仮説)。そうだとすれば、株価が反応していないことを安全の根拠にはできない。

次に、破綻時の2日間では有意でなかった資本の薄さの差が、BTFPの後に大きく出た点である。流動性の支援は資金繰りの不安を和らげても、時価の損失そのものは消さない。緊急の貸出が機能する局面でも、株主にとっての価値の問題は残ると読める(仮説)。緊急貸出の仕組みはBTFPの​論文を​読んだ​記事で扱った。

最後に、この3指標を次の危機の予測式と見ないことである。2023年は長期金利の上昇と無保険預金の組合せで起きた。次のストレスが同じ組合せとは限らない。持ち帰るべきなのは閾値ではなく、資産側と負債側を一つの比率につなぐ作り方だと考える。

日本の​銀行に​当ては​める​ときの​違い

日本では物差しの材料が違う。預金保険は1金融機関につき預金者1人当たり元本1,000万円と利息等を保護し、利息のつかない決済用預金は全額を保護する26。上限を超える部分を分母に入れるなら、決済用預金を除く必要がある。

資本も違う。国際統一基準のCET1の基礎項目にはその他の包括利益累計額が入るが、国内基準のコア資本の基礎項目からはその他有価証券評価差額金が除かれる27。日銀も、有価証券の評価損益は国内基準行の規制資本に算入されないが、経済価値ベースでは資本バッファーの面があると整理し、金利耐性の低い先の中に評価損を加味すると自己資本が大きく下がる先が一部あると注記している(規制上の比率は所要を上回る)28。国内基準行では、時価調整後の資本を別に計算する意味が大きい。

預金の構成も異なる。日銀は2026年10月のレポートで、流動資産が短期の市場性調達とストレス時の想定流出を全体として大幅に上回るとしたうえで、新業態(インターネット専業銀行)はバッファーが中央値でやや小さいと指摘する。想定流出は要求払預金に、個人1千万円未満5%、個人1千万円以上10%、法人1千万円未満20%、法人1千万円以上40%、金融機関100%を掛けて置いている29。高い金利で集めた預金は粘着性が低い可能性があり、定期預金の増加に寄与した法人預金は大口が多いとも述べる30。2023年4月のレポートでは、金利リスク量の大きい地域銀行・信用金庫は個人預金比率や流動資産比率、自己資本比率も高く、SVBのような大口法人預金の流出に直面しても投げ売りは考えにくいと評価していた31。

つまり、米国の結果を日本の銀行の危険度に読み替えることはできない。移せるのは指標の組み立て方である。金利リスクについては、監督上、ΔEVEの最大値がTier1の15%(国際統一基準行)、自己資本の20%(国内基準行)を超える銀行が追加分析の対象になる32。この数字と並べて読むと、含み損が売却の制約にどこまで効くかが見えてくる。

設例:CET1比率が​同じ​2行を​分解する

学習用の設例(架空)

  • A行・B行とも、RWA 8,000億円、CET1 680億円(比率8.5%)、AFSの時価1,500億円
  • CET1の所要水準7%33、証券のリスクウェイト20%。税効果は無視する
  • AFSの損失率はA行5%、B行14%。上限を超える預金と短期調達の合計はA行2,400億円、B行3,400億円

売却の上限は、損失率が「所要水準×リスクウェイト」を上回る場合に「資本の余裕÷(損失率−所要水準×リスクウェイト)」で求まり、AFSの残高を超えて売ることはできない34。資本の余裕は両行とも120億円である。B行は120÷(14%−1.4%)で約952億円となり、AFSの1,500億円のうち売れるのはそこまでである。A行は損失率が低く、全額を売っても7%を割らない。

表2 設例:同じCET1比率の2行を分解する(億円)
項目A行B行
CET1比率(共通)8.5%8.5%
現金400150
AFS(時価)1,5001,500
AFSの損失率5%14%
売っても7%を割らないAFS1,500952
使える流動資産1,9001,102
上限を超える預金2,3003,200
短期の市場調達100200
取り付けられやすい調達2,4003,400
資本の制約を無視した比率0.79倍0.49倍
LFL(論文の定義)0.79倍0.32倍
証券・貸出の他の時価損失40180
時価調整後の資本比率7.1%3.6%
日銀の掛け目で置いた流出額+短期調達1,0301,760
使える流動資産÷同上1.84倍0.63倍
学習用の​架空の​数値。​共通の​仮定:RWA 8,000億円、​CET1 680億円、​所要水準7%、​証券の​リスクウェイト20%。​売却可能額は​論文の​式(2)を​解き直して​計算し、​税効果は​無視した。​日銀の​掛け目は​要求払預金の​区分別の​想定流出率で、​ここでは​編集部が​分母だけを​借りた​試算である​(日銀の分析と同じ指標ではない)。​要求払預金の​内訳​(個人1千万円未満・​個人1千万円以上・​法人​1千万円未満・​法人​1千万円以上・金融機関、​億円)は​A行3,000・1,400・300・1,400・20、​B行2,000・1,200・200・3,000・100と​置いた。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。

B行の比率は、資本の制約を無視すれば0.49倍だが、制約を入れると0.32倍に下がる。この差が、残高では見えない部分である。時価調整後の資本比率もA行7.1%に対しB行3.6%と開く。CET1比率だけを並べた表では、2行は同じに見える。

図2図2 含み損が深いと売れる量が縮む(設例)架空のA行・B行。AFSの損失率だけを動かす0.00.30.62%8%14%20%AFSの損失率LFL(倍)A行 0.79倍B行 0.32倍
図2 AFSの​損失率と​LFLの​関係​(学習用の架空の数値)。​実線が​A行、​破線が​B行で、​丸は​設例の​現状。​両行とも​一定の​損失率までは​全額を​売れるので​平らで、​資本の​余裕を​使い​切る​水準を​超えると​下がる​(B行は約9.4%から)。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​研究​データではない。

図2のとおり、B行は損失率が約9.4%を超えると売れる量が縮み始める。金利が上がる局面では、預金が動かなくても比率が悪化する。なお、日銀の掛け目で分母を置き直すと、A行は1.84倍、B行は0.63倍となる。全額流出の前提より穏やかな見方でも、B行は1倍を下回る。0.33という境は2022年末の米国の分布の四分位であって、日本の銀行に当てはめる基準ではない。

明日から​使える​確認項目

閾値はいずれも編集部の仮の目安で、研究で検証されたものではない。

  1. 同業比較の表に3列足す。使える流動資産÷取り付けられやすい調達、時価調整後の資本比率、ΔEVE÷自己資本。銀行分析の​主要KPIの表の横に置く。
  2. 売却可能額を逆算する。その他有価証券の時価と評価差額から損失率を出し、規制上の余裕を設例の式で割る。国内基準行は評価差額が比率に入っていないので、売却で初めて資本に効く点に注意する。
  3. 並べ方を変える。1列ずつの順位ではなく、流動性と時価調整後の資本の2軸で並べ、両方が同業の下位4分の1に入る銀行を別に見る。
  4. 預金の中身を質問する。「1,000万円を超える部分の残高と上位預金者の比率はいくらか」「決済用預金の比率はどう変わったか」「金融機関の預金はいくらか」。開示で取れない数字は未確認と記し、推測で埋めない。
  5. 改善の理由を確かめる。上限超の比率が下がったら、流出なのか、決済用預金などへの振替なのかを分ける。米国のリシプロカル預金について、著者らは大口預金者のリスクの性質はおそらく変わらないと注記している35。
  6. 預金の前提を読む。金利リスクの説明で、コア預金の前提が変わっていないか確かめる。著者らは、SVBが限度の抵触後に預金の前提を延ばした例を挙げる36。
  7. 借りる準備を尋ねる。「担保は事前に差し入れてあるか」「試験的な利用はしているか」。著者らは平時からの窓口の準備を提言している37。日本の補完貸付の条件はBTFPの​記事で確認できる。
  8. 事業会社は預金先を見直す。決済に必要な分と余剰資金を分け、余剰資金の​運用先の​比較と併せて預金先の集中を確認する。

よく​ある​質問

株価が​下がっていなければ、​銀行の​信用は​問題ないと​考えて​よいですか。

この​研究の​範囲では、​そう​言えません。​米国の​標本では、​無保険預金への​高い​依存と​薄い​時価調整後の​資本の​交差項、​およびLFLが​下位の​銀行を​示す​ダミーは、​破綻前の​株価との​有意な​関係が​確認されませんでした。​その​ダミーには​破綻時以降に​追加的な​下落が​表れています。​株価は​参考の​一つとし、​財務の​組合せを​別に​確認するのが​安全です。

LFLは​日本の​銀行の​開示から​計算できますか。

現金と​その​他有価証券の​時価は​開示から​取れますが、​上限を​超える​預金や​短期調達の​内訳が​開示で​取れるかは、​銀行ごとに​確かめる​必要が​あります。​論文と​同じ​値には​ならないので、​同じ​定義で​同業を​比べる​用途に​限るのが​現実的です。

まとめ

米国の上場銀行297行の研究では、無保険預金の多さと時価で見た資本の薄さは破綻の直前に小幅に株価へ表れ、LFLが下位の銀行の追加的な下落が確認されたのは破綻時以降だった。両者を併せ持つ追加の効果は破綻時に弱く出ただけである。期間は短く、生存した銀行だけの標本で、他の研究とは結果が一部異なる。日本の銀行に同じ危険度を当てはめることはできない。それでも、資産と負債を一つの比率につなぎ、CET1比率で同じに見える銀行を分解する手順は使える。平時の株価の静けさは、組合せのリスクが小さいことの証拠にはならない。

脚注

  1. R1 p.3(1節)。ページは PDF の物理ページ(印刷ページ+2)。以下同じ。週間の下落はKBW Nasdaq Regional Banking Index(KRX)。↩
  2. R1 p.1〜2(表紙の注記)。FEDS は職員の予備的な研究で、分析と結論は著者のものであり、FRB 理事会や他の職員の見解ではないと明記。公表時期は FRB の掲載ページ(2025年9月)、PDF の日付は2025年8月22日。前身は R2(2024年8月30日)。掲載誌は確認できなかった。標本の総資産10億ドル以上という条件は R1 p.24〜26 の表注。↩
  3. R1 p.10(3.2.1節)の定義では、無保険預金と1年以内に満期が来る短期ホールセール調達を取り付けられやすい調達(runnable funding)と呼ぶ。上限25万ドルは同 p.4。↩
  4. R1 p.10〜11(3.2.1節・式1〜4)。売却の損失はAFS全体の平均的な時価下落率で置き、投げ売りによる追加損失は含まない(同 p.10 脚注10)。↩
  5. 金融庁「バーゼル規制の概要」p.7(LCR の定義)。R12。LCR の余裕と危機時の与信枠の関係は別稿(次に読む)で扱った。↩
  6. R1 p.14 脚注19、p.11 脚注12。LFLが1未満なら、調達や増資なしに取り付けられやすい調達の全額は賄えない(同 p.11)。↩
  7. R1 p.12(3.2.2節)、p.21(図2注)。規制上の指標ではないと明記(p.15 脚注20)。↩
  8. R1 p.13(3.2.3節)、p.22(図3注)、p.25(表4注)。分子の現金は p.7 の説明では省かれているが、定義の節と図表の注に従って含めた。著者は上限の目安と位置づけ(p.7)、掛目は適用せず(p.13 脚注17)、借入の運用面の準備は測っていない(同脚注18)。↩
  9. R1 p.23(表2)。比率の基準は表の注に書かれていないが、(2.71+8.88)÷(39.60+6.75)=25.01%となり、表のLFL比率と一致する(編集部の検算)。↩
  10. R1 p.14〜15(4.1節)。連続変数は標準化、ダミー変数は除く。LFLはダミーと連続値の両方を式に入れている。係数の単位は論文に明記がなく、式(5)の累積リターンを小数表示と読んで100倍した(編集部の読み)。↩
  11. R1 p.24(表3)列3(統制あり)・列1(統制なし)、p.25(表4)列1。交差項があるため、無保険預金と資本の値はそれぞれ相手側のダミーが0の銀行の差である。列1では無保険預金 −0.009(5%水準)、資本 −0.006(10%水準)、交差項 −0.002、低LFLのダミー −0.002(ともに有意でない)。連続値のLFLは列1が −0.001(有意でない)、列3が −0.002(10%水準)で、本文 p.15〜16 は言及していない。列3の自由度調整済み決定係数は0.304、列1は0.072。↩
  12. R1 p.25(表4)列2、p.16(5.2節)。連続値のLFLは −0.001 で有意でない。3行の和は 0.005+0.007−0.012=0.000(編集部の計算)。↩
  13. R1 p.25(表4)列3、p.16(5.2節)。BTFPは2023年3月12日に発表(R4 p.3)。無保険預金が平均超のダミーは0.001、交差項は0.003、連続値のLFLは0.000で、統計的に有意な関係は確認されなかった。↩
  14. First Republic Bank は2023年5月1日に閉鎖された(FDIC のプレスリリース、R6)。同行は標本から除かれている(R1 p.9)。↩
  15. R1 p.4、p.16。本文はVC・暗号資産のいずれも有意でなくなったと書くが、表4列3では暗号資産は有意でない一方、VC収入の伸びは0.007で10%水準の有意性が残る。本記事は表の値を採った。↩
  16. R1 p.15(5節)、p.22(図4)。単純平均の比較。図の数値は読み取っていない。↩
  17. R1 p.4(問い2)、p.8(2節)。↩
  18. R1 p.4(問い3・脚注1〜2)。上限は Well-capitalized の銀行で負債の20%か50億ドルの小さい方。増加が中規模行に集中した点は R5 による。↩
  19. R1 p.26(表5)列3、p.16〜17(5.3節)。本文は第1四半期のリターンと書くが、表の変数は3月8日〜31日。借入余力の係数は0.855(5%水準)で正、つまり借入余力が大きいほど伸びの上位に入りやすい向きであり、余力の小さい銀行が動いたとする本文の説明とは符号が合わない(編集部の指摘)。LFLは −3.229(1%水準)で説明どおりの向き。↩
  20. R1 p.23(表1)。対象は資産10億ドル以上の上場銀行で、総資産に対する比率。この変化のうちリシプロカル預金が占める割合は論文に記載がない。↩
  21. R1 p.9(標本)、p.10 脚注10、p.12 脚注14・15、p.13 脚注17・18。無保険預金のフランチャイズ価値をゼロと置くのは全面的な取り付けの前提(R2 も同じ前提を明記)。↩
  22. 資本ダミーの定義は、R1 p.14 では7.0%未満、p.15 では各行の総CET1所要未満と書かれている。表の表記は7.0%未満で、本記事はこれに従った。期間も p.14(3月9〜10日、3月13日〜5月31日)と p.16・表4(3月8〜10日、3月10日〜5月31日)で異なり、本記事は表の表記に従った。表の期間の起点はBTFPの発表日(3月12日)より前の日付だが、原表はこの期間を「After BTFP」と呼び、p.16 も発表後の値動きと説明しているので、呼称は原表のままとした。↩
  23. R3 要旨、p.9、p.14、p.33。w31772 の2024年5月改訂版。超過リターンの基準は S&P 500。↩
  24. R4 要旨、p.4〜5、p.8。SR 1095 の2026年8月改訂版。ファクターは2022年第3四半期の残高で作る。↩
  25. R1 p.8(2節)。著者自身が先行研究の多くと異なる結果だと述べている。違いの理由についての本文の整理は編集部による。↩
  26. 預金保険機構「預金保険制度の基礎知識」。R7。↩
  27. 金融庁告示第19号 第5条(国際統一基準)・第28条(国内基準)。R8。米国の扱いは R1 p.17 脚注23。↩
  28. 日本銀行「金融システムレポート」2026年10月、物理 p.78〜79(印刷 p.73〜74、脚注52を含む)。R9。↩
  29. 同 物理 p.46(印刷 p.41、図表Ⅳ-3-2)。R9。国内業務部門の集計。掛け目は要求払預金に適用し、短期の大口定期預金は短期市場性調達に含め、それ以外の定期預金は0%と置く。↩
  30. 同 物理 p.48(印刷 p.43)。R9。↩
  31. 日本銀行「金融システムレポート」2023年4月、物理 p.59(印刷 p.54)脚注45。R10。2023年2月末頃の状況に基づく当時の評価である。↩
  32. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」III(重要性テスト)、「バーゼル規制の概要」p.19。R11・R12。ΔEVEは開示告示の金利ショックで計算する。国内基準行は上方・下方パラレルシフトとスティープ化の最大値。↩
  33. 7%は R1 p.10 脚注11 が個別の所要を置かない銀行に当てた最低水準に合わせた、設例の仮定である。↩
  34. R1 p.11 の式(2)を解くと分母は「損失率−所要水準×リスクウェイト」となる。論文の式(3)は分母の符号が逆に印刷されているため(PDF の p.11 の数式画像で確認。編集部の検算)、本記事は式(2)から解き直した。分母が0以下なら売るほど比率が上がるので制約はかからず、上限はAFSの残高となる(編集部の整理)。↩
  35. R1 p.5 脚注5。↩
  36. R1 p.18(6節)。SVBは2022年4月に自社のEVEの限度に抵触した後、預金のデュレーションの前提を延ばしたと述べる。↩
  37. R1 p.17〜18(6節)。登録、担保の事前差入れ、平時の定期的な取引を例に挙げる。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。