想定読者:米国上場企業への出資・提携・買収を検討する事業会社の経営企画やコーポレートディベロップメント、PE・VC・FASの実務家、上場準備や組織再編の開示に関わるIBD・ECMの担当者
前提知識:IPOと目論見書の基本、SPACの大まかな仕組み(本文で補う)

ある日本企業の経営企画部が、米国でSPACとの合併によって上場した会社への資本参加を検討している。手元には合併の承認を求めたときの委任状説明書と、上場後に初めて出た年次報告書(10-K)がある。読み比べると、後者のリスク要因の記述が明らかに長く、事業の数字も増えている。合併の時点では、何が書かれていなかったのか。

この違いを個社の癖ではなく上場経路の問題として測ったのが、Wen氏とZhu氏の研究だ。問いは単純で、同じような会社でも、当局の審査が緩い経路を通ると開示は薄くなるのか、そしてそれは上場後の訴訟につながるのか、である。

この記事が主に参照する研究

Yaxuan Wen、Mengnan Zhu(2026)「SPACにおける開示の質、訴訟リスクと規制裁定(Disclosure Quality, Litigation Risk, and Regulatory Arbitrage in SPACs)」Financial Management(オンライン先行公開)

  • 公表:初版原稿は2022年3月25日付(旧題 “Is Going Public via SPAC Regulatory Arbitrage? A Textual Analysis Approach”、SSRN掲載は同年4月25日)。参照した版:SSRNの改訂版(2024年11月30日付、2025年2月掲載、未査読)。査読誌の掲載版(2026年10月7日公開)は要旨のみ確認
  • データ:2015〜2021年に米国で上場した事業会社(通常のIPO 1,073社、De-SPAC 289社)の上場前の開示書類、上場後最初の年次報告書、2022年末までの証券集団訴訟
  • 方法:財務特性が近いIPO企業を傾向スコアで対応させ、辞書による文章指標と訴訟の発生を比べる(観察データの比較で、自然実験による因果の識別ではない)
  • 位置づけ:法学者や当局が指摘してきた「SPACは開示の規律を逃れる経路ではないか」という論点を、新しいデータと手法で検証した実証研究

同じ​「上場」​でも、​誰が​書類を​読むかが​違う

SPAC(特別買収目的会社)は、事業を持たないまま上場して資金を集め、その後に未上場企業と合併する会社だ。合併によって未上場企業は実質的に上場する。この合併をDe-SPACと呼ぶ。構造と希薄化の仕組みはSPACの​仕組みと​論点の​記事と用語集のSPAC・​De-SPAC​統合に譲る。米国では2020年のピーク時、上場した未上場の事業会社の27%がこの経路を選んだ1。

著者らが注目するのは、経路による審査の違いである。通常のIPOでは、会社が提出する登録届出書(S-1。投資家に渡す目論見書を含む)を、米証券取引委員会(SEC)が最初から最後まで必ず審査する。SPACも自らの上場時には同じ審査を受けるが、その時点では合併相手を特定できないため、審査が事業会社の情報を引き出すことはない。合併相手の事業が初めて詳しく書かれるのは合併承認のための委任状説明書で、こちらは選択的な審査にとどまる。標本のDe-SPACのうちSECのコメントレター(審査での質問・指摘)を受けたのは48%だった2。

法的責任の重さも違っていた。法学者のKlausner氏らは、将来予測に関する記述を一定の条件で民事責任から守る証券民事訴訟改革法(PSLRA)のセーフハーバーがSPACの合併には適用されると広く理解され、IPOには適用されないこと、登録届出書の虚偽記載に厳格な責任を課すSecurities Act第11条(Section 11)の追及がSPACの合併では限られることを、SPACに有利な2つの不均衡として挙げた。業績予想はSPACの資料には普通に載るが、IPOの目論見書にはほとんど載らないという3。審査と責任が緩い経路を選んで開示の負担を軽くすることを、著者らは「規制裁定」と呼ぶ。

開示の質は、Loughran氏とMcDonald氏らが年次報告書から作った金融用の単語辞書で測る。情報量は本文の大きさ(MB)・使われた金融語彙の種類数・数値の数、語調は否定語と不確実語を合わせた「リスク語」の割合、否定語から肯定語を引いた「正味の否定語」の割合、義務や制約を表す「制約語」の割合である4。語調の3指標はいずれも総語数に対する割合である。どの指標も、記述が正確かどうかを直接測るものではない。比べる相手は、総資産や流動性、収益性、研究開発、社齢、VC出資の有無など11の変数から推計した傾向スコアが近いIPO企業で、De-SPAC 1社に5社を対応させ、最も近い1社・5社平均・5社中央値の3通りで比べた5。

研究が​示した​こと:上場前の​開示、​上場後の​収束、​1年目の​訴訟

まず上場前の文書である。IPOのS-1と、De-SPACの合併承認前の最後の委任状説明書を比べると、De-SPACの本文は平均0.30MBで、最も近いIPOの0.90MBの3分の1だった。金融語彙は1,836.7語対4,513.2語(−59.3%)、数値の数は1,495.0対5,679.9である。語調も明るく、正味の否定語の割合は0.47%対0.94%と約半分、リスク語の割合は2.02%対3.31%だった。3通りの比較相手のいずれでも、差は1%水準で有意である6。

次に、上場後最初の10-Kでは、どちらの会社も同じ様式・同じ審査の下で書く。ここで差は大きく縮んだ。リスク語の割合は4.15%対4.21%で、最も近いIPOとの差は有意でない。情報量はむしろDe-SPACがやや多い。De-SPACの本文は上場前の文書から70%増え、リスク語の割合は約2倍になった7。著者らはこれを、審査が揃えば開示も揃うことを示すプラセボ検定と位置づける。

図1 上場前と上場後の開示の語調図1 上場前は薄く楽観的、上場後は差が縮むDe-SPACと対応するIPOの開示の語調(米国)De-SPAC傾向スコアが最も近いIPOリスク語の割合(否定語+不確実語、%)上場前の文書差は1%水準で有意De-SPAC2.02IPO3.31最初の10-K差は有意でないDe-SPAC4.15IPO4.21正味の否定語の割合(否定語−肯定語、%)上場前の文書差は1%水準で有意De-SPAC0.47IPO0.94最初の10-K差は有意でないDe-SPAC1.54IPO1.49
出所:R1(Wen and Zhu、​SSRN WP 2024年11月版)​表5 Panel A・B​(p.50)の​平均値を​基に​大手町​プレップ​作成。​198組の​比較。​上場前の​文書は、​IPOが​登録届出書​(S-1)、​De-SPACが​合併承認前の​最後の​委任状説明書​(DEF-14A)。​最初の​10-Kは​上場後​最初の​年次報告書。​比率は​Loughran-McDonaldの​辞書で​数えた​語数を​総語数で​割った​もの。​有意性は​平均の​差の​t検定​(R1の表示)。​5社平均・5社中央値の​比較相手でも​上場前の​差は​1%水準で​有意。​最初の​10-Kの​正味の​否定語は、​5社平均​(1.45)との​差は​1%水準で​有意で、​De-SPACの​ほうが​高い。

ただし上場前の差が「De-SPACが少なすぎる」のか「IPOが多すぎる」のかは、この比較では決まらない。言えるのは、同じ条件で書くとDe-SPACの側が大きく書き足したということだ。

訴訟はどうか。何も調整しない単純な比較では、2022年末までに証券集団訴訟を受けた割合はIPO 23.9%(1,073社中256社)、De-SPAC 18.3%(289社中53社)で、De-SPACのほうが低く見える8。ところが特性の近いIPOと比べると逆転する。De-SPACは24.2%、最も近いIPOは16.2%で、差の8.1%ポイントは5%水準で有意だった。ただし5社平均(21.5%)との差2.7%ポイントは有意でない。最初の訴訟までの日数はDe-SPACが平均320日、最も近いIPOが718日である9。

図2 上場からの年数と訴訟確率図2 訴訟の差は上場1年目にできる上場から一定年数以内に証券集団訴訟を受けた割合De-SPACと対応するIPO(%)010203024.221.115.71年2年3年4年5年上場からの年数最も近いIPOとの差**********De-SPAC5社平均のIPO最も近いIPO
出所:R1(Wen and Zhu、​SSRN WP 2024年11月版)​表6 Panel B​(p.51)を​基に​大手町​プレップ​作成。​198組、​訴訟は​2022年末までの​Stanford Securities Class Action Clearinghouseの​記録。​*は​10%、​**は​5%、​***は​1%水準で​有意​(平均の差のt検定)。​5社平均との​差は​1年以内​(6.8%ポイント)だけ​5%水準で​有意で、​2年以内​以降は​有意でない。​De-SPACの​多くは​2020〜2021年に​上場しており、​観察期間が​短い​(右側打ち切り)。​訴訟の​提起は​不正の​認定ではない。

差が最もはっきりするのは上場から1年以内で、De-SPAC 16.7%に対し最も近いIPO 8.1%、5社平均9.9%だった。5社平均との差も1年以内だけは5%水準で有意である。2年目以降は差がほとんど広がらず、累積の差は1年目にできている10。

最後に著者らは、訴訟の起こりやすさを上場経路・上場後180日の株価リターン・開示の指標で説明するモデルを推計した。上場1年以内のモデルでは株価が下がった会社ほど訴えられやすく、上場経路の係数は、開示の指標を加えると統計的に有意でなくなった。著者らはここから、訴訟リスクの高さは上場経路そのものではなく上場前の開示の質から来ると解釈している11。政策としては経路間の審査の差をなくす改革を支持し、SPACという方法の制限には反対する12。

表1 開示の指標を加えるとDe-SPACの係数は有意でなくなる

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モデルの説明変数1年以内(プロビット)2022年末まで(プロビット)2022年末まで(Cox)
上場経路だけ0.472**0.302**0.480**
+上場後180日の株価リターン0.389**0.273*0.442*
+上場前の文書の指標6つ−0.0439(有意でない)0.415(有意でない)0.714(有意でない)
さらに+最初の10-Kの指標6つ−0.682(有意でない)−0.251(有意でない)−0.431(有意でない)
出所:R1(Wen and Zhu、​SSRN WP 2024年11月版)​表7(p.52)と​表8(p.53)の​De-SPAC​ダミーの​係数だけを​抜き出し、​大手町​プレップが​整理。​De-SPACと​最も​近い​IPOの​198組​(396観測)。​行は​下に​行く​ほど​説明変数を​加えた​モデル​(3行目は​株価​リターンも、​4行目は​株価​リターンと​上場前の​指標6つも​含む)。​モデル間で​係数の​大きさを​単純に​比べる​ことには​限界が​ある。​*は​10%、​**は​5%、​***は​1%水準で​有意​(組ごとのクラスタ標準誤差)。​係数は​プロビット・​ハザードの​係数で、​確率の差​(%ポイント)ではない。​文書の​指標は​本文の​大きさ・​金融語彙・​数値の​数・​リスク​語・​正味の​否定語・​制約語。​Cox​モデルの​擬似決定係数は​0.005〜0.044。

どこまで​言えるか:標本・​方法・​限界

表1は、この解釈に慎重さが要ることも示している。上場前の開示の指標を加えると、1年以内のモデルでは係数が0.389から−0.0439へとほぼゼロになったが、2022年末までの累積では0.273から0.415へ、Coxモデルでは0.442から0.714へとむしろ大きくなり、推計の幅が広がって有意でなくなった形だ。プロビットのような非線形モデルでは変数を加えると係数の尺度も変わりうるので、モデル間で係数の大きさを単純に比べることにも限界がある。加えた指標の個々の係数も大半は有意でない。比較は198組、訴えられたのは数十社という規模で、多くの変数を同時に入れれば精度は落ちる。有意でないことは差がゼロであることの証明ではなく、開示の薄さが訴訟の原因だと分かったわけでもない。「開示で説明できる」は著者らの解釈の一つにとどまる。

著者ら自身が挙げる限界もある。De-SPACの多くは2020〜2021年に上場し、2022年末までの観察では訴訟が出きっていない(右側打ち切り)。De-SPACへの訴訟の79.2%はデータ時点で継続中で、著者らは却下や和解の起こりやすさに結論を出さず、訴訟費用の金額も見積もっていない13。訴訟の提起は不正の認定ではない。

比較の設計にも留保がある。傾向スコアは観察できる財務特性しか揃えないので、経営者の楽観の度合いやスポンサーの誘因のように、経路の選択と開示の両方に効く要因は残る。上場後の10-Kでは様式・監査・投資家の監視も同時に揃うので、プラセボ検定は審査の差だけを取り出したものではない。本文が挙げる比較の組数(263組)と表の観測数(198組)が一致しない点も、論文中で説明されていない。

方向としては先行研究と整合する。Blankespoor氏らは、SPACの合併のうち合併後の売上が観察できる企業で、合併時の予想を達成または上回ったのは35%にとどまったと報告している14。制度もその後動いた。SECは2024年1月に新しい規則を採択し、一定の場合に合併相手の会社を届出書の共同登録者として開示責任を負わせ、SPACにはセーフハーバーを使えなくし、予想の重要な前提の開示を求めた。規則は2024年7月1日に発効している15。論文の標本はすべてこの改正の前で、掲載版の要旨も結果を「近年の改革を評価する初期の基準」と位置づけている16。現在のDe-SPACにそのまま当てはまる結果ではない。

大手町​プレップの​考察:開示の​量は​「審査の副産物」でも​ある

この研究から編集部が読み取るのは、上場時の開示の量と語調が、会社の誠実さだけでなく、誰がどの書類をどれだけ読むかという手続に左右されうるという点だ。審査の質問に答える過程で書類が厚くなるなら、審査を経ない書類の薄さは、隠したというより引き出されなかった結果でもある(仮説)。読み手の側から見れば、書類の厚さを会社の評価に直結させず、「この書類は誰の審査を経たか」を先に確かめるのが筋だろう。

もう一つは、上場前の書類と最初の年次報告書の差そのものを情報として使えることだ。上場後の年次報告書は比較対象の会社も同じ様式で書くので、上場前後の変化が同業より大きければ、上場時点で語られていなかったリスクが多かった可能性がある。論文が示したのは群の平均の傾向で、個社の判定方法として検証されたわけではないが、追加の質問を立てる手がかりにはなる。

日本の​実務への​応用:SPACが​なくても​同じ​構造は​ある

東京証券取引所は2021年10月から2022年1月まで「SPAC制度の在り方等に関する研究会」を開き、2022年2月16日に投資者保護上の論点整理を公表した17。参照したこれらの2022年の資料の時点で、日本にSPACの上場制度はない。そこではDe-SPACを合併による実質的なIPOとみなし、通常のIPOと同等の上場適格性の確認と、有価証券届出書と同等の開示、関係者が開示責任を負う仕組みの検討が必要だと整理している。この論点整理の注は、当時の制度で上場会社が他社を買収する場合、金融商品取引法上は買収対象の会社に関する開示が必須とはされず、後述の不適当合併等の審査対象とならない限り、取引所の上場審査も引受証券会社の審査も行われないと指摘する18。研究が扱った「審査の差」と同じ形の論点が、日本でも認識されていた。

日本で最も近いのは、非上場会社が上場会社との合併や株式交換によって実質的に上場する、いわゆる裏口上場の扱いだ(仕組みは用語集の逆さ合併​(リバースマージャー)を参照)。東証の説明ページ(2022年4月更新)では、東証は実質的な存続会社が上場会社でないと判断した場合に猶予期間を設け、その間に新規上場審査基準に準じた基準に適合しなければ上場を廃止する19。事後に審査はかかるが、株主が合併の可否を判断する時点で、通常のIPOで引受審査と上場審査を経た情報と同じ水準の情報がそろっているとは限らない。統合相手が非上場の大型再編では、相手の事業・リスクの情報がどの書類に誰の確認を経て載っているかを確かめておく価値がある(編集部の推論)。

米国のDe-SPAC企業に日本企業が出資・提携・買収で関わる場面では、研究の結果をより直接に使える。2024年7月以降のDe-SPACは新規則の下にあるため、合併がいつ行われたか、相手会社が共同登録者として署名したかをまず確かめ、改正前の案件なら上場前の書類を割り引いて読み、最初の10-Kや係争中の訴訟の記載を重く見るのが妥当だろう。ただし日本の制度、日本の証券訴訟の起こりやすさ、日本語の開示文書に、この研究の数値を当てはめることはできない。日本で同じ確認をするなら、目論見書や統合時の開示資料と、最初の有価証券報告書の「事業等のリスク」を並べ、項目数と具体的な数値の量を比べるのが現実的だ。

設例:上場前後の​語調の​変化を​比較対象と​比べる

学習用の設例(架空)

  • X社は米国でDe-SPACにより上場した会社。日本の事業会社が資本参加を検討している
  • 合併承認前の委任状説明書のうち事業に関する部分:総語数60,000語、リスク語1,260語、数値1,800個
  • 上場後最初の10-K:総語数70,000語、リスク語2,940語、数値4,200個
  • 比較対象:同業で通常のIPOをした5社のS-1と最初の10-K。リスク語の割合の中央値は3.4%→4.1%
  • リスク語はR1と同じLoughran-McDonaldの辞書で数える想定。判断の閾値は編集部の仮の目安で、研究で検証されていない

X社のリスク語の割合は2.1%から4.2%へ2.1%ポイント上がった。比較対象は0.7%ポイントしか上がっていないので、差し引きの1.4%ポイントが、上場後に同じ様式で書いたときにX社が余分に書き足したリスクの記述の目安になる。上場前の割合のまま10-Kを書いたと仮定するとリスク語は1,470語少なかった計算で、数値の数も133%増えている。

表2 設例:上場前後の語調の変化を比較対象と比べる(%ポイント)

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上場前のリスク語の割合上場後 3.6%上場後 4.2%上場後 4.8%
1.5%1.4(要確認)2.0(要確認)2.6(要確認)
2.1%(X社)0.81.4(要確認)2.0(要確認)
2.7%0.20.81.4(要確認)
3.3%−0.40.20.8
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(X社と比較対象の5社は架空)。​数値は​「X社の​上場前→上場後の​リスク語の​割合の​変化」から​「比較対象の​通常​IPO 5社の​中央値の​変化​(3.4%→4.1%=0.7%ポイント)」を​引いた差​(%ポイント)。​「要確認」は​差が​1.0%ポイント​以上の​組み​合わせで、​この​閾値は​編集部の​仮の​目安​(研究で検証されていない)。​リスク語の​数え方は​R1と​同じ​Loughran-McDonaldの​辞書を​英文の​書類に​当ては​める​想定。​差が​大きい​ことは​開示の​誤りや​訴訟を​意味せず、​追加の​質問の​優先順位付けに​使う。

表2のとおり、上場前の割合が低いほど、また上場後の割合が高いほど差は大きくなる。仮の目安(1.0%ポイント)を超えたからといって開示に誤りがあるわけではない。使い道は、上場後に新しく書かれたリスク要因を一つずつ取り出し、合併時点で会社が把握していたか、なぜ書かなかったかを経営陣に質問する際の優先順位付けである。

明日から​使える​確認項目

  1. 対象会社が上場した経路と時期を確かめる。米国のDe-SPACなら、合併が2024年7月1日の新規則の発効前か後か、合併相手が届出書に共同登録者として署名したかを書類の表紙と署名欄で見る。
  2. 上場前の書類が当局の審査をどこまで受けたかを、会社や代理人への質問で確かめる。研究の標本では、SECのコメントレターを受けたDe-SPACは半数に満たなかった。日本の再編なら、統合相手の情報がどの開示書類に載り、取引所の審査や引受審査を経たかを整理する。
  3. 上場前の書類と最初の年次報告書で、リスク要因の項目数・リスク語の割合・数値の数を並べ、同業の通常上場企業の同じ変化と比べる(表2の計算)。差が大きい会社は次の質問に進む。
  4. 上場後に新しく書き加えられたリスク要因と、合併時の業績予想の前提を一覧にし、「合併時点で把握していたか」「なぜ書かなかったか」「予想とのずれはいくらか」を経営陣に質問する。
  5. 上場1年目の株価の下落と係争中の証券訴訟の記載を確認する。研究では株価が下がった会社ほど訴えられやすく、De-SPACの訴訟は1年目に集中した。訴訟の帰結が出ていない案件は、リーガルDDで請求の根拠と開示書類の該当箇所を突き合わせる。

よく​ある​質問

SPAC​経由で​上場した​会社は​避けるべきだと​いう​ことですか。

研究は​そう​結論していません。​著者らは​経路の​制限に​反対し、​審査を​揃える​ことを​提言しています。​示されたのは​2015〜2021年の​米国の​平均的な​傾向で、​個社の​良し​悪しではありません。​上場前の​書類を​割り引いて​読み、​上場後の​開示で​確かめる​使い方が​考えられます。

日本語の​有価証券報告書にも​同じ​指標を​使えますか。

研究の​辞書は​英語の​年次報告書から​作られた​もので、​日本語の​書類には​使えません。​日本では​「事業等のリスク」の​項目数や、​具体的な​数値・前提の​記載の​有無を​手作業で​比べる​ほうが​確実です。

まとめ

Wen氏とZhu氏の研究は、米国の2015〜2021年の上場企業について、審査の緩い経路を通ったDe-SPAC企業の上場前の開示が、条件の近いIPO企業より薄く明るい語調で、審査が揃う上場後の年次報告書では差が縮むことを示した。De-SPAC企業は上場1年目に訴訟を受けやすく、開示の指標を加えると経路の差は有意でなくなったが、精度の限界から因果の証明とは言いにくい。標本は米国の新規則の施行前で、参照した資料の時点で日本にSPACの上場制度はない。それでも、開示の量は審査の副産物でもあるという見方と、上場前後の書類を比較対象と並べて変化を測る手順は、裏口上場型の再編や米国企業への出資を検討する際に、追加の質問を立てる方法として応用を検討できる。

脚注

  1. R1(SSRN WP 版, 2024年11月30日付)p.3・脚注2。ページは PDF の物理ページで、印刷ページは p.N−2(以下同じ)。同じ脚注は、2024年初めの時点でなお約300のSPACが活動していたとする。↩
  2. R1 p.4・p.11(2.1節・図1)、コメントレターの割合は p.12。著者らは、コメントレターを受けたDe-SPACでも通数が少なく文面が短いとする。SECの選択的審査の説明は、R1 p.4 の脚注3がSECのページを引用している。↩
  3. R2(Yale Journal on Regulation 39(1), 2022)pp.283-285(Part V.A)。Section 11の追及が限られる理由として著者らは3点を挙げる。同箇所は、過去10年のIPOの14%がSection 11訴訟を受けたとする。↩
  4. R1 p.21〜22(4.3節)と付録A(p.54)。辞書はLoughran and McDonald(2011)と、制約語についてBodnaruk et al.(2015)。リスク語は否定語と不確実語の割合の和、正味の否定語は否定語の割合から肯定語の割合を引いたもの。↩
  5. R1 p.17〜20(4.1〜4.2節)、表1(p.46)・表2(p.47)。標本はIPO 1,073社と、SPACのIPO 1,023件に続くDe-SPAC 289件(2015〜2021年)。本文(p.20)は対応の結果を263組とするが、表5〜表7の観測数は198組で、差は論文中で説明されていない。↩
  6. R1 p.26(5.1節)・表5 Panel A(p.50)。本文はリスク語が40%、制約語が31%少ないと書くが、表の値(2.02対3.31、0.53対0.76)から計算するとそれぞれ39.0%・30.3%少ない。本記事は表の値を使う。数値の数の差は4,184.9(本文は約4,000少ないと表現)。↩
  7. R1 p.27〜28(5.2節)・表5 Panel B(p.50)。最初の10-Kの正味の否定語は1.54%対1.49%で、最も近いIPOとの差は有意でないが、5社平均(1.45%)・5社中央値との差は1%水準で有意(De-SPACが高い)。リスク語の割合の倍率は表の値で2.05倍。著者らはIPO側の増加を35%と書くが、表5の最も近いIPOの値(3.31%→4.21%)では約27%で、算出の根拠は確認できなかった。↩
  8. R1 p.23(4.4節)・表4 Panel A・B(p.49)。訴えられた案件のうちSection 11に基づく請求を含むものは、IPO 42.6%、De-SPAC 24.5%。↩
  9. R1 p.29(5.3節)・表6 Panel A(p.51)。差は原典の差の列を転記(表示値どうしの単純差とは丸めにより一致しない場合がある)。5社中央値(6.1%)との差は1%水準で有意だが、中央値の比較相手は5社の訴訟の有無(0か1)の中央値なのでほぼ0になりやすく、編集部は本文では取り上げない。訴えられた48件でSection 11に基づくものはDe-SPAC 16.7%、最も近いIPO 83.3%。↩
  10. R1 p.29〜30(5.3節)・表6 Panel B(p.51)・図5(p.44)。最も近いIPOとの差は1年以内8.6%ポイント(1%水準で有意)、5社平均との差は6.8%ポイント(5%水準で有意)。↩
  11. R1 p.30〜32(5.3節)、表7(p.52)・表8(p.53)。株価リターンは上場後180日の買い持ちリターンで、1年以内の列で係数−0.96〜−1.03(1%水準で有意)、2022年末までの累積の列では有意でない(著者は脚注28で、リターンの定義と早期の訴訟の相関によると説明)。↩
  12. R1 p.35(7節)。↩
  13. R1 p.24〜25(4.4節)・脚注25(p.24)・脚注27(p.30)・表4 Panel C(p.49)。IPOへの訴訟で継続中のものは33.2%。↩
  14. R3(Management Science 68(6), 2022)。要旨のみ確認。2004〜2021年のSPAC合併が対象。35%の分母は合併後の売上が観察できる企業で、「達成または上回った(meet or beat)」割合。同じ要旨は、80%の企業が平均4年先までの予想を出し、予想した売上成長率はIPO企業などのベンチマークの実際の成長率の約3倍だったとする。↩
  15. R4(SEC Press Release 2024-8, 2024年1月24日)。発効日はR5(Federal Register 89 FR 14158, 2024年2月26日掲載)の effective date。↩
  16. R1の掲載版(Financial Management, 2026年10月7日オンライン公開)の要旨(OpenAlex で確認)。掲載版は訴訟リスクの上昇が特に合併後1年目に見られるとする。掲載版の本文と表は確認できておらず、数値が本記事で使ったWP版と同じかは未確認。↩
  17. R6(日本取引所グループ「SPAC制度の在り方等に関する研究会」、2022年4月1日更新、2026年10月25日閲覧)。研究会は5回開催(第1回2021年10月1日〜第5回2022年1月28日)。↩
  18. R7(東京証券取引所 SPAC制度の在り方等に関する研究会「SPAC上場制度の投資者保護上の論点整理」2022年2月16日)p.9〜10((5))と注48(p.10)。↩
  19. R8(日本取引所グループ「上場廃止基準の詳細:合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準」、2022年4月3日更新、2026年10月25日閲覧)。猶予期間は合併等の属する事業年度末から3年目の日までとされる。上場規程の条文で同日以降の改正の有無は確認していない。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。