この​記事で​分かる​こと

  • 含み損益の定義と、資産の種類ごとに貸借対照表へ反映される場合・されない場合
  • その他有価証券の評価差額の処理(企業会計基準第10号第18項)と税効果
  • 含み益4,000を税効果後2,800で時価純資産12,800にする整数設例
  • 反映済みの評価差額を二重に加算しない注意点(2026年11月時点)

30秒で​分かる​定義

含み損益(ふくみそんえき、Unrealized Gains and Losses)とは、保有している資産の時価と帳簿価額との差額のうち、売却などで実現していない損益です。時価が帳簿価額を上回れば含み益、下回れば含み損です。会計上、資産の種類によって、含み損益が貸借対照表や損益計算書に反映されるものと、反映されないものがあります。本ページは、含み損益の発生源と税効果の考え方を扱い、評価の手続は時価純資産法や実態貸借対照表で解説しています。

なぜ実務で​重要なのか

帳簿の純資産だけでは、会社の実際の資産価値を見誤るためです。IB・PE・FASは、不動産や政策保有株式の含み益を、時価純資産法や政策保有株式の​EV​ブリッジ​調整に反映します。エクイティリサーチ・アクティビストは、含み益と資本効率の主張を有価証券報告書から検算します(アクティビストの​株主提案を​自分で​検算するを参照)。経営企画は、保有株式の保有効果を資本コストと比べて縮減を検討します(政策保有株式の​保有効果を​検証するを参照)。

計算式​(または仕組み)

含み損益 = 時価 − 帳簿価額(貸借対照表に未反映の差額)
税効果後の含み益 = 含み益 ×(1 − 税率)

金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)は、有価証券を保有目的により分け、処理を定めています[1]。

資産貸借対照表の価額含み損益の扱い
売買目的有価証券時価評価差額は当期の損益(第15項)
子会社株式・関連会社株式取得原価個別財務諸表では貸借対照表に反映されない(第17項)。ただし時価が著しく下落し回復する見込があると認められない場合は、時価まで減額し当期の損失とする(第20項)
その他有価証券時価評価差額は洗い替え方式で、全額を純資産の部に計上するか、含み益のみを純資産の部に計上し含み損は当期の損失とする(第18項)。純資産の部に計上する評価差額には税効果会計を適用する
市場価格のない株式等取得原価貸借対照表に反映されない(第19項)。ただし発行会社の財政状態の悪化で実質価額が著しく低下したときは相当の減額をし、当期の損失とする(第21項)

土地などの固定資産は、一般に取得原価で貸借対照表に計上されるため、時価との差は貸借対照表に出ません。

整数設例で​確認する

設例(架空数値・単位は百万円)。時価純資産法で、含み益を税効果を考慮して加算します。簿価純資産は10,000、法人税等の実効税率は30%(仮定)とします。

  • 関連会社株式:取得原価(貸借対照表価額)2,000、時価5,000 → 含み益 = 5,000 − 2,000 = 3,000(貸借対照表に未反映)
  • 土地:取得原価1,500、時価2,500 → 含み益 = 2,500 − 1,500 = 1,000(貸借対照表に未反映)
  • 含み益の合計 = 3,000 + 1,000 = 4,000、税効果 = 4,000 × 30% = 1,200、税引後 = 4,000 − 1,200 = 2,800
  • 時価純資産 = 10,000 + 2,800 = 12,800

貸借対照表に既に反映されている含み損益は、加算しません。例えば、その他有価証券(取得原価800、時価500)の取得原価に対する評価差額−300は、貸借対照表の価額が時価のため反映済みで、現在の帳簿価額(500)との差、つまり未反映の含み損益はゼロです(全額を純資産の部に計上する方法では評価差額金、含み損を当期の損失とする方法では利益剰余金に反映)。時価純資産法で追加の調整はしません。税率を35%とすると、税引後の含み益は 4,000 − 4,000 × 35% = 2,600で、評価額は200小さくなります。含み益に課される税の考え方は実現の仕方で変わるため、税率の仮定は明記します。

PL・​BS・​CFへの​影響

含み益は、売却するなどで実現した時に損益計算書に計上されます。有価証券売却益は営業外収益の例示、固定資産売却益は特別利益の例示として、財務諸表等規則に挙げられています[3]。売却による現金の収入は、キャッシュ・フロー計算書では通常、投資活動の区分に表示され、法人税等の支払は営業活動の区分に記載されます。税務では、資産の評価換えによる評価益は原則として益金に算入されず(法人税法第25条第1項)、評価損も原則として損金に算入されません(第33条第1項)。例外として、売買目的有価証券は時価評価損益を益金・損金に算入します(第61条の3第2項)[2]。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 含み損益の一覧表:資産種別・簿価・時価の列から =時価-簿価 で含み損益を計算し、「貸借対照表に反映済みか」のフラグ列を付けます。
  • 税効果と加算額:=IF(反映済み="Y",0,含み損益*(1-税率)) とし、反映済みの項目を二重に加算しないようにします。
  • 時価純資産:=簿価純資産+SUM(加算額) で算出し、税率は入力セルに分けて感応度(30%と35%など)を確認します。
  • EVブリッジへの接続:政策保有株式は事業価値に含めず、非事業資産として別に加算する前提を明記します。事業価値から出発するEVブリッジでは、含み益だけでなく、時価から売却時に見込まれる税(時価と税務上の簿価の差×税率)や費用を差し引いた額の全体を加算します(簿価純資産から出発する時価純資産法では、含み益の税引後額を加算します)。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

含み損益の​一覧を​作り、​税効果を​反映して​時価純資産を​算出する​評価シートを​組めるようになる。

企業価値評価の​教材で​時価純資産法と​含み損益の​扱いを​学ぶ →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「含み益は利益に計上されている」→ 時価評価差額を当期の損益とする資産(売買目的有価証券、デリバティブ、トレーディング目的の棚卸資産など)を除き、実現するまで損益計算書には出ません[1][4]。その他有価証券の評価差額は純資産の部に計上されます。

誤解2:「含み益は全額が純資産に加算できる」→ 売却すれば税金がかかるため、税効果を差し引くのが一般的です。設例では4,000のうち1,200を差し引いて2,800を加算します。

誤解3:「資産は時価で貸借対照表に載っている」→ 資産の種類によって、取得原価のまま計上されます。個別財務諸表の子会社株式や土地は、原則として含み益が貸借対照表に出ません(著しい時価の下落などによる減損処理を除く)。

確認ポイント:貸借対照表に反映済みの評価差額を二重に加算していないか、時価の根拠(市場価格、鑑定評価など)を確認します。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本基準では、金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号、最終改正2026年10月16日)が有価証券の評価を定めます[1]。賃貸等不動産については、財務諸表等規則が賃貸等不動産に関する注記を求めており[3]、不動産の時価の把握に使えます。含み益の評価への反映は、時価純資産法や実態貸借対照表で行い、事業用不動産の評価の違いは不動産鑑定評価と​投資家価値の​違いで解説しています。なお、本ページの税の説明は法人税法の一般的な規定で、個別の取引の税務は専門家に確認が必要です。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:含み益のある不動産を保有する会社の企業価値を評価するとき、どう扱いますか。
「事業用の不動産であれば、事業価値の中に含まれるため、別に加算しません。遊休資産や賃貸用の不動産なら、非事業資産として、時価から売却時に見込まれる税(時価と税務上の簿価の差×税率)や費用を差し引いた額を加算します。事業価値から出発するので、含み益だけを足すのではありません。設例の土地(簿価1,500・時価2,500、税務上の簿価も1,500、税率30%と仮定)なら、2,500 − 1,000 × 30% = 2,200です。賃貸収益を事業価値に含めているなら、二重に加算しません。時価の根拠と、税率の前提を明記します。」

深掘りの観点:その他有価証券の評価差額をどう扱うか、実現時の税負担をどの水準で見るか。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 含み損も純資産から差し引きますか。
A. 貸借対照表に反映されていない含み損は、税効果を考慮して純資産から差し引くのが一般的です。ただし、含み損に係る税効果(繰延税金資産)は回収可能性により認められない場合があるため、税率の前提は個別に確認します。

Q. 含み益と未実現利益は同じですか。
A. 同じではありません。含み益は資産の時価と帳簿価額の差で、未実現利益は連結で内部取引による利益のうち外部に実現していない部分を指す、別の概念です。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」(2026年10月16日最終改正)第15項、第17項〜第21項、第25項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ecl20261016_02.pdf(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「法人税法」(昭和40年法律第34号)第25条第1項、第33条第1項、第61条の3第1項・第2項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第8条の30、第90条、第95条の2. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059(2026年11月参照)
  4. 企業会計基準委員会「企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準」(2019年7月4日最終改正)第15項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/kichu_20251016_16.pdf(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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