この記事で分かること
- 純資産価額方式で「含み益に対する法人税等相当額」を控除する考え方
- 評価差額の求め方と、控除率37%(2026年8月時点)の位置づけ
- 整数設例で追う1株当たり純資産価額の計算と検算
- 事業承継の設計に与える影響と、専門家に確認すべき論点
30秒で分かる定義
含み益に対する法人税相当額の控除(読み方:ふくみえきにたいするほうじんぜいそうとうがくのこうじょ、英語では Built-in Gains Tax Discount in Net Asset Value Method)とは、相続税・贈与税で取引相場のない株式を純資産価額方式により評価する際、資産の相続税評価額が帳簿価額を上回る部分(評価差額=含み益)に対応する将来の法人税等相当額を評価額から差し引く取扱いです。国税庁の財産評価基本通達に定められた計算過程の一部で、控除率は原則37%とされています(2026年8月時点)。含み益のある資産を換金する段階では法人税等が課されるため、株主に帰属する価値はその分だけ目減りする、という発想に基づきます。計算体系の全体像は純資産価額方式(相続税評価)を参照してください。
なぜ実務で重要なのか
事業承継コンサル・税理士事務所では、土地や有価証券を長期保有してきた会社ほど評価差額が大きく、この控除の有無が納税額を大きく左右します。FAS・M&A仲介では、売り手オーナーが「相続税評価額ではいくらか」を基準に譲渡価格を考えている場面が多く、税務評価と実勢価格の乖離を説明するための前提知識になります。PE・投資銀行がオーナー系企業を対象とする案件でも、売り手の税務ポジションを理解していないと価格交渉のロジックが噛み合いません。
計算式(または仕組み)
純資産価額方式では、まず資産・負債をすべて相続税評価額に置き換え、そこから評価差額に対応する法人税等相当額を差し引きます。
法人税等相当額 = 評価差額 × 37%
1株当たり純資産価額 =(相続税評価額による純資産価額 − 法人税等相当額)÷ 課税時期の発行済株式数
押さえるべき点は3つです。第一に、控除の対象は個々の資産の含み益ではなく、相続税評価額ベースの純資産と帳簿価額ベースの純資産の差額です。第二に、評価差額がマイナス(含み損)の場合は控除を行いません。第三に、37%は税制改正に伴って見直され得る率であり、適用時はその時点の通達を必ず確認してください。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円、発行済株式数は100,000株とします。
| 項目 | 相続税評価額ベース | 帳簿価額ベース |
|---|---|---|
| 資産合計 | 1,000 | 700 |
| 負債合計 | 400 | 400 |
| 純資産価額 | 600 | 300 |
- 評価差額 =(1,000 − 400)−(700 − 400)= 600 − 300 = 300百万円
- 法人税等相当額 = 300 × 37% = 111百万円
- 控除後の純資産価額 = 600 − 111 = 489百万円
- 1株当たり純資産価額 = 489,000,000円 ÷ 100,000株 = 4,890円
控除がなければ1株当たりは 600,000,000 ÷ 100,000 = 6,000円ですから、差は 6,000 − 4,890 = 1,110円、率にして 1,110 ÷ 6,000 = 18.5%の引き下げ効果です。
投資判断への影響(事業承継・株式移転の設計)
この控除は、株式の贈与・相続・自社株買いといった資本異動の設計に直接効いてきます。含み益の大きい不動産を保有したまま株式を承継すると評価額は高止まりしますが、37%控除で一定の緩和が働きます。裏を返せば含み益の63%相当は評価額に残るため、含み資産の多い会社の株価は簿価純資産よりかなり高く算定されます。なお、M&Aで第三者に譲渡する場合の価格は経済的な評価で決まり、相続税評価額とは別物です(非上場企業の評価)。
財務モデル・Excelでの使い方
「科目/帳簿価額/相続税評価額/差額」の4列で組むのが基本形です。
- 純資産行を2本(評価額ベース・帳簿ベース)持ち、評価差額は
=MAX(評価額純資産−帳簿純資産,0)でマイナス時にゼロ止めする - 控除率はハードコードせず入力セルに置き、
=評価差額*控除率で計算する - 1株当たりは
=(評価額純資産−法人税等相当額)/発行済株式数。株数は課税時期の実数を使う
取引相場のない株式の評価(相続税)では類似業種比準方式との併用割合も株価を左右するため、方式別の結果を並べる比較シートも用意しておくと実務的です。
この用語を実務で「使える」状態にする
純資産価額方式の計算過程をExcelで一から組み、含み益調整が1株当たり価額をどれだけ動かすかを自分で検証できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「資産の含み益に37%を掛ける」→ 正しくは、相続税評価額ベースの純資産と帳簿価額ベースの純資産の差額に37%を掛けます。負債側の評価差異や引当金の取扱いにより、資産の含み益合計と評価差額は一致しないことがあります。前提の取り違えは評価全体を狂わせるため、バリュエーションの落とし穴で挙げられる定番ミスと同じ構造だと理解しておくと安全です。
誤解2:「どの会社でも必ず37%控除できる」→ 正しくは通達の計算過程に沿って適用されるもので、評価差額がゼロ以下なら控除は生じません。課税時期前の一定期間内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価するなど、個別の調整規定も複数あります。
誤解3:「37%は変わらない」→ 正しくは税制改正に応じて見直され得ます。過去にも改定された経緯があるため、評価時点の通達を確認するのが基本です(2026年8月時点では37%)。
実務家はさらに、株式保有特定会社・土地保有特定会社に該当しないか(該当すると評価方式自体が変わります)を先に確認します。個別事案の適用可否は税理士等への確認が前提です。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)この控除は、国税庁が定める財産評価基本通達のうち、取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する際の計算過程に位置づけられています。相続税法は財産の価額を「時価」によるとしていますが、具体的な算定方法は通達によって統一的に示され、実務はこれに従って運用されています。控除率は法人税・地方法人税・住民税・事業税の負担を織り込んだ水準として設定され、現在は37%です。
また、同族株主等が取得した株式のうち議決権割合が一定以下の場合には純資産価額の80%相当額で評価する取扱いがあるなど、株主の属性によって最終的な評価額が変わります。含み益への税負担を評価額から控除する発想自体は海外の非上場株式評価でも議論されてきましたが、控除率が通達で一律に定められている点は日本の特徴です。最終的な適用は専門家の確認を経てください。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:純資産価額方式で法人税等相当額を控除するのはなぜですか。
「会社に含み益があっても、株主がその価値を現金で受け取るには会社が資産を売却するか清算する必要があり、その段階で法人税等が課されます。したがって株主に帰属するのは税負担控除後の金額であり、評価額からその分を差し引くのが合理的だと整理されています。控除率は原則37%です(2026年8月時点)。」
深掘りでは「M&Aの譲渡価格と相続税評価額はなぜ一致しないのか」「含み損の場合はどう扱うのか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 控除率はいつでも37%ですか。
A. 2026年8月時点では原則37%ですが、法人税等の負担水準を踏まえて定められた率であり、税制改正に応じて見直される可能性があります。評価の基準時点の財産評価基本通達を確認してください。
Q. M&Aの株価算定でもこの控除を使いますか。
A. 原則として使いません。M&Aでは経済的価値に基づく評価が中心であり、37%控除は税務上の画一的な評価ルールとして理解してください。
出典・参考(2026-08確認)
- 国税庁(財産評価基本通達・取引相場のない株式の評価) https://www.nta.go.jp/
- e-Gov法令検索「相続税法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 中小企業庁(事業承継・引継ぎに関する施策情報) https://www.chusho.meti.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。