この記事で分かること
- 株式リスクプレミアム(ERP)の定義と、CAPMの中での役割
- ヒストリカル法・インプライド法など推計方法の違いと、それぞれの弱点
- ERPを1ポイント変えると株主資本コストと株式価値がどう動くかの整数設例
- カントリー・サイズプレミアムとの区別と、算定書での根拠の示し方
30秒で分かる定義
株式リスクプレミアム(かぶしきりすくぷれみあむ、Equity Risk Premium、略称ERP)とは、株式市場全体に投資する投資家が、リスクのない資産(リスクフリーレート)を上回って要求する超過リターンのことです。マーケット・リスクプレミアム、市場リスク・プレミアムとも呼ばれ、CAPM(資本資産評価モデル)で株主資本コストを推計するときの3つの入力(リスクフリーレート・ベータ・ERP)の一つです。直接観察できない値なので、過去データや現在の株価から推計し、採用値の根拠を示す必要があります。
なぜ実務で重要なのか
ERPは株主資本コストを通じてWACCを動かし、DCFの企業価値を大きく左右します。IB・FASは株式価値算定書でERPの採用値と出典を明記し、PEは投資先の評価やファンドの公正価値評価で使います。経営企画・IRは、東証が求める「資本コストを意識した経営」の説明で、自社の株主資本コストの推計にERPを使います。運用会社にとっては、株式と債券の配分を考えるうえでの期待リターンの基礎です。株主資本コストを積み上げで求める方法は株主資本コストの実務計算で解説しています。
計算式(ま たは仕組み)
ERP = 株式市場全体の期待リターン − リスクフリーレート
日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインは、CAPMで株主資本コストを推定する際、安全利子率(リスクフリーレート)には長期国債利回り、市場リスク・プレミアムには過去のリスク・プレミアム(株式市場の収益率と長期国債利回りの差)を用いるのが一般的であると説明しています[1]。推計方法は大きく3つあります。
| 方法 | 考え方 | 弱点 |
|---|---|---|
| ヒストリカル法 | 過去の株式収益率と国債利回りの差の平均 | 観測期間・算術平均か幾何平均かで値が大きく変わる |
| インプライド法 | 現在の株価水準と予想配当・利益成長から、市場が織り込む期待リターンを逆算 | 成長率の前提に依存し、相場の過熱・低迷で振れる |
| サーベイ法 | 投資家・実務家へのアンケートの回答値 | 回答者の構成や時期に左右される |
どの方法でも「株式市場全体」のプレミアムであり、特定の国の追加リスク(カントリーリスクプレミアム)や小型株の追加リスク(サイズプレミアム)とは別に扱います。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。リスクフリーレート1.5%、ベータ1.2とします。
- ERP 5.0% → 株主資本コスト = 1.5% + 1.2 × 5.0% = 1.5% + 6.0% = 7.5%
- ERP 6.0% → 1.5% + 1.2 × 6.0% = 1.5% + 7.2% = 8.7%
- ERP 7.0% → 1.5% + 1.2 × 7.0% = 1.5% + 8.4% = 9.9%
株主に毎年87百万円のキャッシュフローが永久に(成長なしで)続くとすると、株式価値 = 87 ÷ 株主資本コスト です。ERP6.0%なら 87 ÷ 8.7% = 1,000、ERP5.0%なら 87 ÷ 7.5% = 1,160、ERP7.0%なら 87 ÷ 9.9% ≒ 879(単位:百万円)。ERPを1ポイント動かすだけで、価値が約12〜16%変わります。ベータが1より大きい会社ほど、ERPの変化は増幅されます。
インプライド法の簡単な例:株式市場全体の配当と自社株買いを合わせた還元利回りが3.0%、その長期成長率を3.5%と見込むと、期待リターン ≒ 3.0% + 3.5% = 6.5%。リスクフリーレート1.5%を引いてERP ≒ 5.0%です(成長率の前提を1ポイント変えればERPも1ポイント動く点に注意)。
投資判断への影響
ERPは、すべての株式の割引率に共通して効く「市場全体の値札」です。投資家がリスクを嫌う局面ではERPが上がり、同じ利益見通しでも株価は下がります。逆に、金利が下がってもERPが上がれば株主資本コストは下がらないことがあります。金利と株価の関係を分解した研究は金利が上がればPERは下がるのかで紹介しています。株価から市場が織り込む前提を逆算する考え方は、Reverse DCF実践ケースでも使われます。
財務モデル・Excelでの使い方
- 前提シートで出典と基準日を残す:リスクフリーレート(どの年限の国債・いつ時点)、ERP(どの方法・どの期間・誰の推計)、ベータ(期間・頻度・指数)を、値と並べて文字で記録します。
- リスクフリーレートとERPの期間を揃える:ヒストリカルERPを長期国債との差で測ったなら、リスクフリーレートにも長期国債利回りを使います。
- 感応度表:ERP(4〜8%)×ベータのデータテーブルで株主資本コストと株式価値を示し、採用値の妥当性を議論しやすくします。
この用語をExcelで
リスクフリーレート・ベータ・ERPの出典を前提シートに残し、株主資本コストとWACCの感応度まで一貫して計算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「ERPは公式に決まった値がある」→ 正しくは、推計値であり、方法と期間で数ポイントの幅が出ます。算定書では採用値とともに、方法・期間・出典を示します。
誤解2:「ERP=個別株のリスクプレミアム」→ 正しくは、ERPは市場全体のプレミアムで、個別株のプレミアムはベータ×ERPです。個別企業のリスクを反映させるのはベータ(と必要に応じた追加プレミアム)です。
誤解3:「米国のERPをそのまま日本企業に使える」→ 正しくは、リスクフリーレートと同じ市場・通貨で揃えます。円建てのキャッシュフローを評価するなら、円の国債利回りと日本市場(または整合する国際的な方法)のERPを組み合わせます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の株式価値算定では、日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインに沿って、長期国債利回りをリスクフリーレート、過去の株式市場収益率と長期国債利回りの差をERPとする方法が広く用いられています[1]。同ガイドラインは、こうした要素は情報提供会社から購入して利用することも、自ら推定することもできるとしています[1]。日本国債の利回りは財務省の国債金利情報で年限別に確認できます[2]。日本の長期金利が長く低水準だった時期には、ヒストリカル法のERPと足元の金利を組み合わせる際の整合性が議論になりやすく、TOB・MBOの算定書でもERPの出典と期間が開示されることがあります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ERPはどうやって決めますか。採用値の根拠をどう説明しますか。
「ヒストリカル法、インプライド法、サーベイ法があり、実務では長期の過去データに基づくヒストリカル法を軸に、情報提供会社の推計値を使うことが多いです。説明では、方法・観測期間・平均の取り方・リスクフリーレートとの対応を示し、インプライド法の値と大きく離れていないかを確認したことを添えます。さらに、ERPを±1ポイント動かした感応度で、結論がどれだけ変わるかを示します。」
よくある質問(F AQ)
Q. ERPとCAPMの関係は?
A. CAPMは、個別株の期待リターンをリスクフリーレート+ベータ×ERPで表すモデルです。ERPはその中の「市場全体のリスクの値段」に当たります。CAPMそのものの前提と限界は資本資産評価モデルで扱います。
Q. 金利が上がるとERPも上がりますか?
A. 必ずしもそうではありません。ERPは株式の期待リターンと国債利回りの差なので、金利が上がっても株式の期待リターンが同じだけ上がらなければERPは縮みます。局面によって方向が変わるため、金利とERPは別々に前提を置きます。
出典・参考(2 026-11確認)
- 日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」(2013年7月改正)インカム・アプローチにおける資本コストの推定. https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf(2026年11月参照)
- 財務省「国債金利情報」. https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。