想定読者:証券会社・銀行を志望する学生や若手、FIG(金融機関グループ)担当者、金融機関を分析するアナリスト
前提知識:損益計算書の基本(収益・費用・利益の関係)。銀行・証券の専門用語は本文で説明します。

結論:証券は​手数料・​売買損益・​金融収支、​銀行は​4区分で​読み、​比べられない​行に​印を​付ける

証券会社の純営業収益と銀行の業務粗利益を同じ枠に置くと、相場・金利・取引高の変化にどの行が反応するかを試算できます。

証券会社の純営業収益は、営業収益(受入手数料・トレーディング損益・金融収益などの合計)から金融費用(資金の調達に伴う費用)を引いた額で、不動産のNOI(純営業収益)とは別の概念です。銀行の業務粗利益は、資金利益・役務取引等利益・特定取引利益・その他業務利益の合計で、各区分は収益から費用を引いた純額です1。この記事は、2026年10月時点で確認できた日本の開示資料を基にしています。

学習用の架空事例で純営業収益(業務粗利益)を100にそろえても、短期金利が0.5ポイント上がると営業利益(銀行は業務純益)はB証券で+26.7%、C銀行で+10.5%と差が出ます。トレーディング損益が半分になると、A証券の営業利益は-45.0%です(図表3。数値はすべて仮定)。

証券会社の​損益計算書は​営業収益から​金融費用を​引いて​始まる

金融商品取引業等に関する内閣府令(2026年10月時点)の事業報告書の損益計算書様式は、受入手数料・トレーディング損益・金融収益を合計した営業収益計の次に、金融費用、純営業収益、販売費・一般管理費、営業利益の順に行を置いています2。

様式に計算式は書かれていないため、上場するネット証券1社の決算短信で確かめます(会社の評価ではありません)。松井証券の2026年3月期(非連結、百万円)は、受入手数料25,963(うち委託手数料24,805)、トレーディング損益5,819、金融収益20,879で営業収益計52,660、金融費用3,573、純営業収益49,087、販売費・一般管理費25,625、営業利益23,462です3。52,660-3,573=49,087となり、純営業収益が「営業収益計-金融費用」であることを算術で確認できます。

編集部の整理では、委託手数料は、顧客の売買の取次ぎ(委託売買。証券会社が顧客の注文を市場に取り次いで手数料を得る業務)の対価で、売買代金に連動しやすい行です。同社も委託手数料の増加を「主として、株式等委託売買代金の増加によるもの」と説明しています4。引受け・売出しの手数料(引受手数料。株式や社債の発行を引き受けた対価)は発行規模に、募集・売出しの取扱手数料は販売額に連動しやすい行です。

トレーディング損益は、証券会社が自己の計算で行う売買の損益で、中身は会社ごとに異なります(同社は主にFX取引のトレーディング益と説明)。売買の仕組みはセールス&トレーディング​入門に委ねます。

金融収益と金融費用は銀行の資金利益に似ていますが、原資が違います。同社は「主として信用取引に起因する金融収益」が業績に影響するとし、信用取引貸付金に充てる資金を短期借入金などで調達していると説明しています5。信用取引(顧客が保証金を差し入れ、資金や株式を借りて売買する取引)の貸付金利息や預託金の運用が金融収益、調達費用が金融費用で、差額の金融収支は17,306です。預金を集めて貸し出す銀行の利ざやとは構造が違うため、「証券会社にもNIMがある」とは言えません。

販売費・一般管理費は純営業収益の52.2%(25,625÷49,087)です。純営業収益の構成は受入手数料52.9%、トレーディング損益11.9%、金融収支35.3%でした(小数第2位を四捨五入。丸めのため合計100.1%)。この1社を業界の代表とはみなせません。

銀行の​業務粗利益と​行ごとに​並べる

全国銀行協会によると、全国銀行(単体)の2025年度の業務粗利益は13兆7,480億円で、内訳は資金利益10兆7,539億円、役務取引等利益3兆5,123億円、特定取引利益3,288億円、その他業務利益△8,470億円です6。業務粗利益に対する比率は資金利益78.2%、役務取引等利益25.5%、特定取引利益2.4%、その他業務利益△6.2%です(編集部計算。丸めのため合計99.9%)。

銀行法施行規則は、金利・相場などの「短期的な変動、市場間の格差等を利用して利益を得る目的」などで自己の計算において行う取引を特定取引とし、トレーディング資産が一定規模以上の銀行に特定取引勘定の設置を求めています7。全銀協の資料の見出しも「特定取引勘定設置銀行20行」で、特定取引利益が出る銀行は限られます8。証券会社のトレーディング損益はこの勘定と関係なく載る科目なので、両者は「近いが同一ではない」と扱います。

図表1で「近い」は同じ位置に置いてよい行、「近いが違いがある」「名称は近いが…」は注記が要る行、「個別確認」は会社ごとに決める行です。銀行の収益モデルの組み方は銀行​モデリング​入門、NIMやOHRの読み方は銀行分析の​主要​KPI​体系に委ねます。

図表1:損益計算書の行の対応(証券会社×銀行)
段階証券会社の科目銀行の区分対応
手数料受入手数料役務取引等利益(収益-費用の純額)近いが違いがある(証券は収益の総額)
売買損益トレーディング損益特定取引利益(債券売却損益はその他業務利益)近いが違いがある(取引の範囲が異なり得る)
金利収支金融収益-金融費用(金融収支)資金利益名称は近いが原資が違う
その他その他の営業収益その他業務利益個別確認
合計純営業収益(営業収益-金融費用)業務粗利益近いが違いがある(銀行は各区分で費用控除済み)
費用販売費・一般管理費経費近い
利益営業利益業務純益近いが違いがある(証券は貸倒引当金繰入れを販管費に含む)
単位:なし​(行の対応のみ)。​対象時点:2026年10月確認。​出所:全国銀行協会資料、​金融商品取引業等に​関する​内閣府令の​様式、​銀行法施​行規則を​基に​大手町​プレップ作成​(対応づけは編集部の整理)。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

最大の注意点は「合計」の行です。純営業収益は営業収益から金融費用だけを引いた額ですが、銀行の役務取引等利益などは費用を引いた純額です。同じ100でも完全に同じ物差しではありません。

架空の​3社を​純営業収益100に​そろえて​構成を​比べる

以下は学習用の架空事例です(単位:億円。実在の企業とは関係ありません)。3社とも純営業収益(銀行は業務粗利益)を100にそろえます。

  • A証券(対面型):受入手数料60(委託手数料20、引受け・売出し8、募集・売出しの取扱い24、その他8)、トレーディング損益18、金融収益30。営業収益は60+18+30=108。金融費用8を引くと純営業収益は108-8=100。販売費・一般管理費80を引いて、営業利益は100-80=20。
  • B証券(ネット型):受入手数料45(委託手数料38、引受け・売出し2、募集・売出しの取扱い1、その他4)、トレーディング損益10、金融収益55。営業収益は45+10+55=110。金融費用10を引くと純営業収益は100。販売費・一般管理費55を引いて、営業利益は100-55=45。
  • C銀行(地域銀行):資金利益72、役務取引等利益18(うち投資信託・保険等の販売手数料6)、特定取引利益0(特定取引勘定なし)、その他業務利益10(うち債券関係損益8)。業務粗利益は72+18+0+10=100。経費62、一般貸倒引当金繰入額0として、業務純益は100-62-0=38。

本記事で使う4つの式
純営業収益=営業収益-金融費用 / 営業利益=純営業収益-販売費・一般管理費
業務粗利益=資金利益+役務取引等利益+特定取引利益+その他業務利益 / 業務純益=業務粗利益-経費-一般貸倒引当金繰入額

図表2は3社の100を手数料系・市場損益系・金利系に分けたものです(銀行の市場損益系は特定取引利益とその他業務利益の合計)。

図表2:純営業収益(業務粗利益)100の構成比 手数料系(受入手数料/銀行は役務取引等利益) 市場損益系(トレーディング損益/銀行は特定取引+その他業務利益) 金利系(金融収益-金融費用/銀行は資金利益) A証券(対面型) 60 18 22 B証券(ネット型) 45 10 45 C銀行(地域銀行) 18 10 72 0 25 50 75 100 (各棒=100)
単位:純営業収益​(銀行は業務粗利益)​=100の​指数。​対象期間:1事業年度。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​図を​横に​スクロールできます)

図表2のとおり、A証券は手数料系60が柱(うち募集・売出しの取扱い24)、B証券は手数料系45と金利系45(金融収支55-10)が同じ大きさ、C銀行は資金利益72が最大です。

固定費の重さも違います。販売費・一般管理費(経費)÷純営業収益(業務粗利益)はA証券80%、B証券55%、C銀行62%で、銀行ではこの比率をOHR(経費率)と呼びます。残る営業利益(業務純益)は20、45、38です。

取引高・​金利・相場の​ショックで​営業利益は​どう​動くか

図表2の3社に3つのショックを別々に当てます。前提は次の4つで、すべて仮定です。

  1. 固定費:販売費・一般管理費と経費は動かないとします。実際には取引関係費などが一部連動するため、変化率は実際より大きめに出ます。
  2. 取引高±20%:A証券とB証券は委託手数料(20、38)だけが売買代金に比例して動き(手数料率は一定)、C銀行は投資信託・保険等の販売手数料6が同じ率で動くとします。
  3. 短期金利±0.5ポイント:金融収益と金融費用の元本はA証券2,000と1,000、B証券3,600と1,200で、1年を通して金利変化が100%反映されるとします。C銀行は運用側の元本4,000に100%、預金等の元本8,000に40%(追随率)反映されるとします。
  4. 相場悪化:A証券とB証券はトレーディング損益が、C銀行は債券関係損益8が半分になるとします。

金利ショックの純収益への影響
A証券:2,000×0.5%-1,000×0.5%=10-5=+5
B証券:3,600×0.5%-1,200×0.5%=18-6=+12
C銀行:4,000×0.5%-8,000×0.5%×0.4=20-16=+4(低下時は符号が逆)

固定費が動かないので、営業利益の変化額は純営業収益の変化額と同じです。例えばA証券の取引高-20%は、委託手数料20×(-20%)=-4で、純営業収益は100-4=96、営業利益は20-4=16、変化率は-4÷20=-20.0%です。他も同じ手順で図表3にまとめました。

図表3:3つのショックの感応度(架空の3社)
ショックA証券B証券C銀行
収益Δ利益Δ%収益Δ利益Δ%収益Δ利益Δ%
基準(収益/利益)100/20-100/45-100/38-
取引高 -20%-4.0-20.0%-7.6-16.9%-1.2-3.2%
取引高 +20%+4.0+20.0%+7.6+16.9%+1.2+3.2%
短期金利 +0.5pt+5.0+25.0%+12.0+26.7%+4.0+10.5%
短期金利 -0.5pt-5.0-25.0%-12.0-26.7%-4.0-10.5%
相場悪化-9.0-45.0%-5.0-11.1%-4.0-10.5%
単位:収益Δは​純営業収益​(銀行は業務粗利益)の​増減額​(億円、基準=100)、​利益Δ%は​営業利益​(銀行は業務純益)の​増減率​(%)。​pt=ポイント。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

図表3から読み取れることは3つです。第1に、営業利益が薄いA証券は、純営業収益が4%動くと営業利益が20.0%動き、相場悪化では-45.0%です。第2に、金融収支の元本が大きいB証券は金利に最も敏感です(+12.0で+26.7%)。第3に、C銀行の金利感応度は預金金利の追随率次第で、40%なら+4.0ですが、50%なら調達側が8,000×0.5%×0.5=20となり運用側の+20と相殺されてゼロです。追随率の置き方で結論が変わるため、銀行の金利感応度は前提を示して読む必要があります。

取引高が減るときに手数料率も下がれば感応度は表より大きくなること、取引高の減少と相場の悪化が同時に起きやすいことは、いずれも編集部の仮説です。A証券で取引高-20%と相場悪化が重なれば、純営業収益は100-4-9=87、営業利益は20-13=7で、変化率は-65.0%になります。

開示された​決算を​同じ枠に​組み替える​手順

実際の決算を同じ枠に置く手順が図表4です。目的はすべての行を揃えることではなく、揃えられる行と揃えられない行を分けて記録することです。

図表4:決算書の組み替え手順
手順転記する行確認すること
1 資料を決める決算短信・有価証券報告書の損益計算書単体/連結、事業年度、単位
2 収益を分ける受入手数料・トレーディング損益・金融収益・その他委託・引受け・取扱いが分かれているか
3 純収益を検算金融費用、純営業収益営業収益計-金融費用=純営業収益か(丸めの1単位差は許容)
4 銀行を4区分資金・役務・特定取引・その他業務の各利益特定取引勘定の有無、債券関係損益の置き場所
5 費用を転記販売費・一般管理費、経費貸倒関連の行の置き場所
6 不可の行に印手数料の支払、貸倒関連、その他の収益比較から外すか注記を付ける
対象時点:2026年10月確認。​出所:大手町​プレップ作成​(編集部の手順整理)。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

実務​チェックリスト

  • 純営業収益が「営業収益-金融費用」であること(不動産のNOIではないこと)を、損益計算書の数字で検算したか。
  • 受入手数料の内訳(委託・引受け・取扱い・その他)が開示されているか。粗ければ柱を断定しない。
  • 金利感応度の元本(信用取引貸付金、預託金、借入金など)を貸借対照表で確認したか。
  • 銀行側で特定取引勘定の有無とその他業務利益の中身(債券関係損益を含むか)を確認したか。
  • 固定費を動かさない前提と、ショックを単独で動かしたか重ねたかを明記したか。

よく​ある​質問​(FAQ)

自己資本規制比率や​銀証分離の​歴史は、​この​比較に​関係しますか。

損益の​比較とは​別の​論点です。​自己資本規制比率は​証券会社の​自己資本規制比率を​読むで​扱っています。​米国の​業務分離と​兼営解禁の​経緯は、​Wall Street Prepが​一般的な​背景と​して​説明しています9。​日本の​規制の​説明では​ありません。

​証券会社と​銀行の​どちらが​「良い」​収益構造ですか。

本記事は​優劣を​判断しません。​図表3は​反応の​違いを​示しただけです。​評価は​DDMと​金融機関の​評価入門に​あります。

まとめ

証券会社の損益は、営業収益から金融費用を引いて純営業収益、さらに販売費・一般管理費を引いて営業利益となります。銀行の業務粗利益と並べると、手数料や売買損益は近いものの、金融収支と資金利益は原資が、純営業収益と業務粗利益は費用の控除範囲が違います。比べられない行に印を付けて記録することが、組み替えの要点です。

脚注

  1. 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(2025年度決算)」p.1 表1の注。業務粗利益=4区分の合計、役務取引等利益=役務取引等収益-役務取引等費用、業務純益=業務粗利益-経費-一般貸倒引当金繰入額などの式(参考文献 R1)。↩
  2. 金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)第172条第1項と別紙様式第十二号(事業報告書)「2 経理の状況」の様式A「(2) 損益計算書」。受入手数料・トレーディング損益・金融収益、営業収益計、金融費用、純営業収益、販売費・一般管理費、営業利益(又は営業損失)の順に科目が並ぶ。計算式の記載はない(参考文献 R2)。↩
  3. 松井証券株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年4月27日)添付資料 p.12「(2)損益計算書」(百万円未満四捨五入)。丸めのため、受入手数料の内訳の合計(25,962)は受入手数料(25,963)と、営業収益の3項目の合計(52,661)は営業収益計(52,660)と1百万円ずれる(参考文献 R3)。↩
  4. 同決算短信 添付資料 p.2。委託手数料の増加は「主として、株式等委託売買代金の増加によるもの」、トレーディング損益は「主としてFX取引のトレーディング益」によると記述(参考文献 R3)。↩
  5. 同決算短信 添付資料 p.3②③。信用取引に起因する金融収益が業績に影響すること、信用取引貸付金に充当する目的で短期借入金等で調達していることを記述(参考文献 R3)。↩
  6. 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(2025年度決算)」p.2「(1) 業務粗利益」(銀行単体ベース)。業務粗利益13兆7,480億円、資金利益10兆7,539億円、役務取引等利益3兆5,123億円、特定取引利益3,288億円、その他業務利益△8,470億円。(参考文献 R1)。↩
  7. 銀行法施行規則(昭和57年大蔵省令第10号)第13条の6の3。第1項は、特定取引を行い、商品有価証券勘定及び売付商品債券勘定の合計額が千億円以上かつ総資産の10%相当額以上という第1号・第2号の要件の全てに該当する銀行に特定取引勘定の設置を求める(該当しない銀行の設置は妨げない)。第2項が特定取引の定義(参考文献 R4)。↩
  8. 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(2025年度決算)」p.1「全国銀行概況」の見出しに「(特定取引勘定設置銀行20行)」とある(表1の対象は全国銀行107行。参考文献 R1)。↩
  9. Wall Street Prep「Commercial Banking and Retail Brokerage」(Updated Dec. 6, 2023)。グラス・スティーガル法による業務分離とその撤廃の一般的な説明。日本の制度の根拠ではない(参考文献 R5)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。