この記事で分かること

  • ABS(資産担保証券)の組成が、対象資産の選定・適格基準の設計からSPC設立・信用補完設計(ストラクチャリング)、格付取得、投資家説明、クロージングまで、どのような順序で進むプロセスか
  • オリジネーター・アレンジャー・SPC・格付機関・サービサー/バックアップサービサー・投資家がそれぞれ組成のどの段階でどんな役割を担うかという関係当事者マップ
  • 優先劣後構造超過担保という信用補完の考え方を、売掛債権プールの仮設数値例(超過担保・劣後比率と期待損失カバレッジ)で検算する方法
  • マンデート付与からクロージングまでの典型的なスケジュール感と、各フェーズで何が起きているか

結論:ABS組成は「資産選定→ストラクチャリング→格付取得→投資家説明→クロージング」という一連のプロセス

ABS(資産担保証券、Asset Backed Securities)の組成とは、証券化という技術そのものの説明ではなく、実際に1つの案件を成立させるための一連の実務プロセスを指します。おおむね、①対象資産の選定と適格基準(プール適格要件)の設計、②SPC(特別目的会社)の設立・原資産のSPCへの真正譲渡・優先劣後構造や信用補完の設計(ストラクチャリング)、③格付機関へのデータテープ提出とキャッシュフロー分析を経た格付取得、④サービサー・バックアップサービサーの選定、⑤機関投資家への投資家説明(プレマーケティング)、⑥プライシングとクロージング、という順序で進みます。証券化・ABSという仕組みそのものの説明(優先劣後構造・倒産隔離の基本的な考え方、ABS・MBS・CLOといった種類の違い)は証券化・ABS入門|キャッシュフローを切り出して売るに譲り、本記事ではオリジネーター(原資産の保有者)とアレンジャー(組成を主導する証券会社等)の視点から、実際にどのような関係者がどの段階で関わり、どのくらいの期間で1つのABS案件が組成されるかという「組成サイドの実務プロセス」に絞って解説します。

関係当事者マップ:誰が組成のどこに関わるか

ABSの組成には、原資産を持つ当事者だけでなく、法務・会計・格付・投資家対応の専門機能を持つ複数の当事者が同時並行で関わります。オリジネーターは、証券化の対象となる資産(売掛債権・リース債権・クレジット債権・住宅ローン債権等)を保有し、その資産をSPCへ真正に譲渡することで資金を調達する主体です。アレンジャー(多くは証券会社や信託銀行)は、案件全体のストラクチャーを設計し、格付機関・弁護士・投資家との調整を主導し、発行された証券を引き受けて投資家に販売する役割を担います。SPCは、資産の流動化に関する法律に基づく特定目的会社(TMK)や、信託受益権スキームにおける信託といった形で組成される、原資産を保有し証券・受益権を発行する法的な箱です。この他、真正譲渡や倒産隔離の要件充足について法的意見書を出す弁護士、資産プールの実在性や回収実績に関する合意された手続(AUP)を行う監査法人、資産から生じるキャッシュフローの評価に基づいて格付を付与する格付機関、譲渡後の債権回収を担うサービサー(多くの場合オリジネーター自身)とその代替機能を担うバックアップサービサー、そして最終的に証券を購入する投資家が、それぞれの専門性を持って組成プロセスに関わります。

図:ABS組成の関係当事者マップ オリジネーター アレンジャー (引受証券会社) 格付機関 (JCR・R&I) 真正譲渡 組成主導・引受 格付付与 SPC (TMK/信託受益権スキーム) 回収代行 法的意見書/AUP 証券発行 サービサー バックアップサービサー 弁護士・監査法人 投資家 (プレマーケティングで事前説明) アレンジャーは投資家への事前説明(プレマーケティング)も並行して主導する。 図中の関係者・矢印は典型的な役割分担を示す一般化であり、案件ごとに構成は異なる。
図:ABS組成の関係当事者マップ。資産の流動化に関する法律・JCR「格付方法 ストラクチャード・ファイナンス」の解説を基に大手町プレップ作成。

ステップ1:対象資産の選定と適格基準(プール適格要件)

ABSの組成は、オリジネーターが保有する資産の中から、証券化に適した資産プールを選び出すところから始まります。証券化の対象になりやすいのは、売掛債権・リース債権・クレジット債権・住宅ローン債権のように、多数の小口債権が集まっていて、過去の延滞率・貸倒率といった実績データが一定期間蓄積されており、キャッシュフローの発生パターンが比較的予測しやすい資産です。実務では、この「証券化に組み入れてよい資産」の範囲を、プールの適格基準(エリジビリティ・クライテリア)としてあらかじめ具体的に定義し、組成後も基準を満たす資産だけがプールに組み入れられるように管理します。

適格基準として実務上よく設計される観点には、資産種類・契約条件の同質性(異なる商品性の債権を無秩序に混在させない)、一定期間分の延滞・貸倒実績データの有無(新規に始めた事業や短期間しか実績のない商品は評価が難しくなります)、特定の債務者やセクターへの集中を避けるための分散基準、譲渡制限特約や相殺の可能性がない(あるいは相殺リスクが限定的な)債権であること、証券の償還までプールの残存期間が十分に確保されていること、といった項目が挙げられます。これらの基準を満たさない資産が混入すると、想定していたキャッシュフローの安定性が崩れ、格付機関の評価や投資家の判断に影響するため、組成段階での適格基準の設計とその後の遵守確認は、ABS組成における最初の、かつ継続的な実務です。

適格基準の観点内容実務上の理由
資産種類・条件の同質性商品性・契約条件がそろった債権群に限定するキャッシュフロー予測モデルを1本化しやすくする
実績データの蓄積一定期間分の延滞率・貸倒率データがあること格付機関がストレスシナリオを設計する基礎になる
分散(集中リスクの制限)特定の債務者・業種への偏りに上限を設ける個別要因によるプール全体への打撃を抑える
譲渡可能性・相殺リスク譲渡制限特約や相殺事由が少ない債権に限る真正譲渡・倒産隔離の効果を確保する
残存期間・追加組入れの要否償還までの期間、追加購入(リボルビング)の有無証券の想定償還スケジュールと整合させる
表1:ABSのプール適格基準として実務上検討される主な観点の整理。個別案件の具体的な基準は資産の種類・格付機関の要求水準により異なる。

以下では、この後のステップを一貫して説明するための仮設例として、事業会社が保有する売掛債権をオリジネーターとしてABS化するケースを想定します。プール額面は10.0億円、対象は取引先の異なる多数の売掛債権から構成され、決済までの期間中に新たに発生する売掛債権を追加購入していく証券化のリボルビング期間を設ける設計とします。数値はあくまで説明のための仮設例であり、実在の案件の水準を示すものではありません。

ステップ2:ストラクチャリング(SPC設立・真正譲渡・優先劣後・信用補完の設計)

対象資産が固まったら、次はその資産をどのような法的な箱に移し、投資家にどのようなリスク・リターンの証券として提供するかを設計するストラクチャリングの段階に入ります。日本では、資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号、通称・資産流動化法/SPC法)に基づく特定目的会社(TMK)を用いる方式と、信託銀行に対象資産を信託し、信託受益権の形で投資家に販売する方式が代表的な選択肢です。TMKを用いる場合、業務開始前に資産流動化計画を作成し内閣総理大臣(実務上は財務局・金融庁)へ届出を行うこと(同法第4条から第11条)、TMKの業務範囲が資産流動化に関連する業務に限定されること(同法第195条)、資金調達手段として特定社債(同法第121条から第149条)や優先出資(同法第39条から第50条)を用いることができることが、法律上の基本的な枠組みになります。また、TMKを含む資産対応証券の発行体には、資産対応証券の募集等又はその取扱いを行う特定目的会社及び特定譲渡人に係る行為規制等に関する内閣府令に基づく行為規制が適用されます。

SPCへ資産を移す際に実務上とりわけ重要なのが、オリジネーターの倒産がSPCや投資家に影響しないようにする真正売買(トゥルーセール)としての譲渡です。譲渡の対価が資産の経済的価値に見合っていること、オリジネーターに買戻し義務がないことなど、会計上・法的に真正な売買と評価されるための要件を満たす必要があり、この点について弁護士が法的意見書を作成します。真正譲渡や倒産隔離という概念そのものの解説は証券化・ABS入門に譲り、本記事では組成プロセスにおいてこの意見書の取得がステップの一つとして位置づけられる点を確認するにとどめます。

ストラクチャリングのもう一つの柱が、投資家に販売する証券のリスクを切り分ける信用補完の設計です。代表的な手法には、証券を優先度の異なる複数のトランシェ(シニア・劣後)に分けて発行する優先劣後構造(サブオーディネーション)、劣後証券を発行せずプールの額面を発行証券の額面より厚く保有させる超過担保、プールからの回収金の一部を積み立てておく準備金(キャッシュリザーブ)、資産の利回りと証券の利払いの差額を留保するスプレッド口座などがあります。いずれも、想定を超える延滞・貸倒れが発生した場合に、まず劣後部分や準備金が損失を吸収し、シニア証券への元利金の支払いを守るという発想は共通しています。

式:期待損失率とカバレッジ倍率
期待損失率=予想デフォルト率(PD)×デフォルト時損失率(LGD、=1-回収率)
必要信用補完額=目標カバレッジ倍率×期待損失額(=プール額面×期待損失率)
劣後比率(対プール比)=必要信用補完額÷プール額面/超過担保率(対発行証券額比)=必要信用補完額÷(プール額面-必要信用補完額)

以下は説明用の仮設例です。s3の売掛債権プール(額面10.0億円)について、予想デフォルト率(PD)を4.0%、デフォルト時の回収率を50%(LGD=50%)と仮定すると、期待損失率はPD4.0%×LGD50%=2.0%、期待損失額はプール額面10.0億円×2.0%=2,000万円になります。ここで、あくまで説明のための仮の設定として目標カバレッジ倍率(信用補完額を期待損失額の何倍に設計するか)を4.0倍とすると、必要信用補完額は4.0倍×2,000万円=8,000万円と計算できます。この8,000万円という同じ金額の信用補完を、優先劣後構造で確保する場合と、超過担保で確保する場合とでは、比率の表し方が変わります。優先劣後構造では、劣後部分8,000万円をプール額面10.0億円で割った劣後比率8.0%として表され、シニア証券の発行額は残りの9.2億円になります。一方、超過担保構造で同じ8,000万円のクッションを確保する場合、発行証券の額面はやはり9.2億円になりますが、超過担保率は信用補完額8,000万円を発行証券額面9.2億円で割った8.7%として表されます。同じ金額のクッションでも、比率の分母をプール額面にするか発行証券額面にするかで数値が変わる点は、カバレッジ倍率を計算する際に分母をそろえずに比較すると誤った印象を与えかねない、実務上の注意点です。

図:優先劣後構造による信用補完とカバレッジ倍率(仮設例) シニア証券 9.2億円(プール比92.0%) 劣後部分(信用補完) 0.8億円(プール比8.0%) プール額面:10.0億円 PD(予想デフォルト率):4.0% LGD:50%(回収率50%) 期待損失率:2.0%(2,000万円) 目標カバレッジ倍率:4.0倍 必要信用補完額:8,000万円 数値・比率はいずれも説明用の仮設例。実際の格付機関が要求する水準とは異なる。
図:優先劣後構造による信用補完とカバレッジ倍率(仮設例)。プール額面・PD・回収率・目標カバレッジ倍率はいずれも説明のための仮の設定。
項目ケース1:優先劣後構造ケース2:超過担保構造
プール額面10.0億円10.0億円
発行証券(シニア)額9.2億円9.2億円
信用補完額0.8億円(劣後証券)0.8億円(超過担保)
比率の分母プール額面(10.0億円)発行証券額面(9.2億円)
信用補完比率劣後比率 8.0%超過担保率 8.7%
期待損失額に対する倍率4.0倍(8,000万円÷2,000万円)4.0倍(8,000万円÷2,000万円)
表2:優先劣後構造と超過担保構造の比較(仮設例)。信用補完額の絶対値・期待損失に対する倍率は同じでも、比率として表示すると分母の違いにより数値が異なる。

実務では、この2つの手法は排他的ではなく、優先劣後構造に加えて準備金やスプレッド口座を組み合わせる、あるいは証券化のリスクリテンションとしてオリジネーターが劣後部分の一定割合を自ら保有し続けることで、オリジネーター自身も損失の一部を負担する設計にするなど、複数の手法を重ねて格付機関が要求する水準の信用補完を組み立てるのが一般的です。日本ではEUや米国のような一律のリスクリテンション義務は設けられていませんが、貸し手や投資家との協議の中で、オリジネーターが一部保有を求められるケースもあります。ABLのように資産を担保に取りつつオリジネーターが引き続き当該資産を保有し続ける資金調達との違いはABL(動産・債権担保融資)と事業性融資の実務|ボローイングベース・掛目・日本の担保制度で扱っており、ABSが資産を真正譲渡して倒産隔離を図る点と対比すると理解しやすくなります。

信用補完の設計をExcelで組み立てられるようになりたい方へ

表2のような優先劣後構造・超過担保の比較や、期待損失とカバレッジ倍率の計算は、案件ごとの前提条件を数値モデルに落とし込んで初めて実務で使える情報になります。デット性の資金調達スキームの返済スケジュールや信用補完の設計をExcelで組み立てる実務は、デットモデリングの教材で体系的に扱っています。

→ デットモデリングの教材を見る

ステップ3:格付取得プロセス(データテープ・キャッシュフロー分析)

信用補完の設計がおおむね固まると、アレンジャーは格付機関に格付の取得を依頼します。国内でストラクチャードファイナンス商品の格付を手掛ける主な格付機関は国内格付機関(JCR・R&I)で、日本格付研究所(JCR)はウェブサイト上でストラクチャード・ファイナンス商品の格付方法を資産クラスごとに公開しており、リース債権・オートローン・クレジット債権・売掛債権・医療報酬債権等のABS、RMBS、CDO・CLO、CMBSといった区分ごとに個別の方法論文書を整備しています。初回格付取得プロセスとはで扱われるような一般的な格付取得の流れを、証券化案件に当てはめると、①エンゲージメントの開始と格付機関対応の窓口設定、②データテープの提出、③実績データ・キャッシュフロー分析、④法的意見書・サービサー体制の確認、⑤予備的な評価水準の共有、⑥格付委員会での審議、⑦最終格付の付与、という段階を踏みます。

データテープとは、プールを構成する個々の債権について、残高・約定金利や手数料条件・残存期間・延滞状況・債務者属性などをひも付けた明細データのことで、格付機関はこのデータテープと、オリジネーターが保有する過去の実績データ(延滞率・貸倒率の推移など)を突き合わせて、プール全体の将来キャッシュフローを予測します。その上で、景気後退局面を想定した延滞率・貸倒率の上振れや、回収の遅延・費用の増加といったストレスシナリオを設定し、シニア・劣後といった各トランシェへの元利金の配分(ウォーターフォール)を、ストレス下でもシニア証券の約定通りの支払いが継続できるかという観点で検証するキャッシュフロー分析を行います。この分析の結果、s4で設計した信用補完の水準が不足していると判断されれば、劣後比率や準備金の積み増しといった構造の見直しが必要になり、格付取得のプロセスとストラクチャリングは一往復ではなく、何度かやり取りを重ねながら固まっていくのが実務の実態です。

サービサー・バックアップサービサーの役割

資産がSPCへ真正譲渡された後も、債権の請求・入金管理・延滞先への督促といった日々の回収実務は、多くの場合オリジネーターがそのまま「サービサー」として担い続けます。これは、オリジネーターが従来から持っている顧客との関係や回収ノウハウを維持したまま組成できるという実務上の利点があるためです。もっとも、他人の債権を業として管理・回収する行為には、原則として法務大臣の許可が必要になります。通称サービサー法と呼ばれるサービサー法の許可制度の根拠法は、正式名称を「債権管理回収業に関する特別措置法」といい、許可を受けられるのは株式会社に限られ、資本金5億円以上であること、弁護士である常務取締役を置くこと、暴力団と関係がないことなどが要件として定められています。銀行等の金融機関が自らの業務として行う回収など、法律上一定の場合には適用除外・特例が設けられているため、証券化におけるサービサーの選定・体制設計は、対象資産の性質と回収主体の属性を踏まえて個別に検討する必要があります。

もう一つ重要なのが、サービサーの業務停止リスクへの備えとしてのバックアップサービサーです。サービサーが経営破綻したり、システム障害等で回収業務を継続できなくなったりすると、プールからのキャッシュフローが投資家に届かなくなるおそれがあります。これに備え、平時からサービサーの財務・業務状況をモニタリングし、有事の際には速やかに回収業務を引き継げる体制(バックアップサービサー)をあらかじめ用意しておく設計が、格付機関から求められることがあります。実務上は、平時から一定の実務データを共有し即座に引き継げる体制と、有事に初めて引き継ぎに着手する体制とでは、切り替えにかかる時間や投資家への影響度が異なるため、対象資産の規模やオリジネーターの信用力に応じて、どこまでの備えを用意するかが検討事項になります。

投資家説明(プレマーケティング)とクロージングまでの典型スケジュール

格付の見通しが立ち始めると、アレンジャーは目論見書や商品説明資料をもとに、機関投資家に対して案件の概要・信用補完の水準・想定される利回りを非公式に説明し、投資家の関心度や価格に対する感応度を確認するプレマーケティングを行います。この段階でのフィードバックは、最終的なトランシェの分け方や利回り水準の調整に反映されることがあり、正式な募集開始前に需要をある程度見極めておくことが、その後のプライシングを円滑に進めるうえで重要になります。

マンデート付与からクロージングまでの期間は、対象資産の複雑さ、実績データの整備状況、格付取得の要否、SPCを新規に組成するか既存のプログラムを利用するかによって大きく変わり、一律の標準スケジュールがあるわけではありません。以下は、初めてTMKや信託受益権スキームを新規に組成し、格付を取得する案件を想定した、あくまで一般的な目安としてのフェーズ構成です。

フェーズ主な内容目安となる期間感
1. マンデート・エンゲージメントアレンジャー選定、案件の基本方針の合意案件初期
2. デューデリジェンス・データテープ整備対象資産の精査、実績データの収集・整理、適格基準の確定初期〜中盤
3. ストラクチャリング・SPC設立準備優先劣後・信用補完の設計、TMKの設立準備・資産流動化計画の作成中盤
4. 格付機関との協議・キャッシュフロー分析データテープ提出、ストレスシナリオ検証、予備的な評価水準の共有中盤〜後半(他フェーズと並行)
5. 投資家説明(プレマーケティング)機関投資家への非公式説明、需要・価格感応度の確認後半
6. 最終格付・プライシング・クロージング最終格付の付与、価格決定、払込・資産の最終譲渡終盤
表3:新規組成・格付取得を伴うABS案件の典型的なフェーズ構成(一般的な目安)。実際の所要期間は資産の種類・データ整備状況・案件規模によって大きく異なり、本表は特定の案件の実測値ではない。

よくある質問(FAQ)

Q. ABSの組成は誰が主導しますか。オリジネーターですか、アレンジャーですか。
A. 案件全体のストラクチャー設計・格付機関や投資家との調整はアレンジャー(証券会社等)が主導するのが一般的です。ただし、対象資産の選定・データ提供・適格基準の遵守はオリジネーターの役割で、両者が並行して作業を進めます。

Q. データテープとは具体的に何を提出するものですか。
A. プールを構成する個々の債権について、残高・条件・残存期間・延滞状況・債務者属性などをひも付けた明細データです。格付機関はこれと過去の実績データを突き合わせて、プールのキャッシュフローを分析します。

Q. サービサーとバックアップサービサーは必ず別法人にする必要がありますか。
A. サービサー(多くはオリジネーター自身)とバックアップサービサーは別の主体であることが一般的です。バックアップサービサーは、サービサーが業務を継続できなくなった場合の代替機能として用意されるため、平時のサービサーとは独立した体制であることに意味があります。

Q. 優先劣後構造と超過担保は、どちらが優れた信用補完の方法ですか。
A. 一律の優劣はありません。表2で見たとおり、同じ金額のクッションでも劣後証券を発行するか、プールを厚めに保有させるかという設計の違いにすぎず、案件の資金調達構造・投資家層・会計処理上の要請などを踏まえて、複数の手法を組み合わせるのが実務では一般的です。

Q. 組成にかかる期間はどのくらいが目安ですか。
A. 一律の標準期間はありません。表3で示したフェーズ構成が一般的な流れですが、対象資産の複雑さ、実績データの整備状況、格付取得の要否、既存のプログラムを利用できるかどうかによって、所要期間は案件ごとに大きく異なります。

まとめ

ABS組成の実務は、対象資産の選定と適格基準の設計、SPC設立・真正譲渡・優先劣後構造や信用補完の設計というストラクチャリング、データテープとキャッシュフロー分析に基づく格付取得、サービサー・バックアップサービサーの選定、投資家へのプレマーケティング、そしてクロージングという一連のプロセスとして進みます。信用補完の水準は、期待損失率(PD×LGD)に対してどれだけのカバレッジを確保するかという考え方で設計され、優先劣後構造と超過担保はその実現手段の違いにすぎません。組成を主導するアレンジャーと、資産を提供するオリジネーターに加え、格付機関・弁護士・監査法人・サービサーという専門機能が、それぞれの役割で1つの案件を支えている点が、証券化・ABSという仕組みの理解だけでは見えてこない、組成サイドの実務の姿です。

証券化・デットファイナンスの実務をさらに深めたい方へ

ABSの組成プロセスは、その先のデット・エクイティの調達条件設計や、CLO・不動産証券化といった他の証券化商品の実務にもつながっていきます。無料会員登録をすると、こうした基礎記事とキャリア適性診断を組み合わせて、自分がどの分野の実務に向いているかも確認できます。

→ 無料会員登録をする → デットモデリングの教材を見る

出典・参考(2026年8月確認)

  • 日本法令外国語訳データベースシステム「資産の流動化に関する法律」(平成10年法律第105号。目的・特定目的会社の定義と業務範囲の制限・資産流動化計画の届出・特定社債/優先出資に関する条文を確認)(japaneselawtranslation.go.jp
  • 衆議院「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(資産流動化法の制定時法律本文)(shugiin.go.jp
  • 日本格付研究所(JCR)「格付方法 ストラクチャード・ファイナンス」(ABS・RMBS・CDO/CLO・CMBS等の資産クラス別方法論一覧)(jcr.co.jp
  • 日本証券業協会「ABS」自主規制ウェブハンドブック用語解説(ABSの定義)(jsda.or.jp
  • 金融庁「特定目的会社、特定目的信託に関する各種様式について」(資産流動化計画関連様式、資産対応証券の募集等に係る行為規制府令の名称を確認)(fsa.go.jp
  • 法務省「債権管理回収業に関する特別措置法の概要」(サービサー法の正式名称・許可要件・対象業務の範囲を確認)(moj.go.jp

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。