この記事で分かること
- 米国で2008年に、一部の環境浄化の義務が倒産手続で免責されなくなった判決のあと、倒産に近く汚染物質の多い上場企業で社債・株価の下落、借入金利の上昇、格付の低下が見られ、倒産から遠い企業では統計的に有意な変化が確認されなかったという研究の結果と大きさ
- 同じ企業で汚染防止の取り組みが増え、判決の対象物質の排出が減ったという結果の読み方と、討論者が指摘した限界
- 日本の会社更生法・土壌汚染対策法の条文を確かめたうえで、工場を持つ取引先への与信や再生案件・スポンサー検討で確かめる点(設例つき)
想定読者:製造業の取引先を担当する銀行・ノンバンクの審査担当、プライベートクレジットやディストレスト投資の担当者、事業再生・ディストレストM&Aに関わるFAS・アドバイザー
前提知識:デフォルト確率(PD)とデフォルト時損失率(LGD)の基本、倒産手続で債権がどう扱われるかの大まかな理解
業績が落ちてきた化学メーカーの融資の見直しで、審査部から質問が来る。工場用地に土壌汚染の可能性があるが、万一倒産したら浄化の費用は誰が負うのか、それは当行の回収にどう効くのか。平時の審査では、環境の論点は「将来の費用」として事業計画やバリュエーションの中で扱われることが多い。しかし倒産に近い会社では、同じ費用が債権者の取り分を直接削る問題に変わる。
この問いに、米国の一つの判決を自然実験として使って答えようとした研究がある。倒産手続で浄化の義務が「消えるか、残るか」という法的な扱いが変わったとき、市場と貸し手はどう反応し、企業の行動は変わったのか。以下では研究の結果と限界を確かめ、日本の法令に照らして、与信と再生実務の確認手順に落とし込む。
この記事が主に参照する研究
Jianqiang Chen、Pei-Fang Hsieh、Po-Hsuan Hsu、Ross Levine(2022)「環境債務・借入コスト・汚染防止活動:Apex Oil判決の全国的な影響(Environmental Liabilities, Borrowing Costs, and Pollution Prevention Activities: The Nationwide Impact of the Apex Oil Ruling)」NBER Working Paper No. 29740
- 公表:初版 2022年2月(NBER WP、当時の題名は Environmental Liabilities, Creditors, and Corporate Pollution)。参照した版:2023年3月の改訂版。査読:参照した WP 版は未査読。同じ題名の論文が Journal of Corporate Finance 91(2025年)に掲載(掲載誌版は未読)
- データ:米国環境保護庁(EPA)の有害化学物質排出目録(TRI)と米国上場企業の財務・株価データを照合。2004〜2012年(2008年を除く)、563社・5,575施設
- 方法:判決を外生的な制度変更とみなし、倒産に近いか・対象の汚染物質が多いかで企業を分けて比べる事象分析と差の差の分析(因果の識別を狙った設計)
- 位置づけ:債権者の動機と汚染の関係という既存の議論を、新しい制度変更とデータで検証した実証研究
倒産手続で「消 える債務」と「消 えない債務」
米国の再建型倒産手続であるChapter 11(チャプター11とチャプター7の違い)では、手続前に生じた「請求権(claim)」は再建計画のもとで減額・免責されうる。米国倒産法は請求権を「支払いを受ける権利」などと定めるため、環境の浄化義務が支払いの義務に当たるかどうかが長く争われてきた。1985年の連邦最高裁のOhio v. Kovacs判決や、1988年の第6巡回区控訴裁判所のU.S. v. Whizco判決では、浄化の命令がお金を払わせる結果になるなら金銭の請求権であり、免責されうると判断された1。
著者らは、この扱いの経済的な意味を次のように整理する。浄化の義務が免責されるなら、倒産したときの浄化の負担は企業と債権者から納税者に移りうる。すると倒産に近い企業の債権者には、汚染を抑えさせる金銭的な理由が乏しい。逆に免責されないなら、倒産した企業の資産はまず浄化に使われ、債権者に回る分が減る2。
転機になったのがApex Oilの事件である。同社は1987年末にChapter 11を申し立て、1989年に新たな会社として再編された。政府は2004年、資源保全回収法(RCRA)に基づき、倒産前の操業で汚染した土地の浄化を、更生後の会社に命じるよう求めた。会社側は自ら浄化できず、他社に約1.5億ドルを払う必要があるのだから金銭の請求権であり、倒産で免責済みだと主張した3。2008年7月28日、イリノイ州南部地区の連邦地方裁判所は、RCRAの浄化義務は支払いの義務ではなく免責されないとして浄化を命じた。第7巡回区控訴裁判所は2009年8月に控訴を退け、連邦最高裁は2010年に上告を受理しなかった4。
研究の設計:倒産に近いか、対象の汚染が多いかで分ける
判決が効くのは、RCRAの対象物質で将来浄化を求められうる企業のうち、実際に倒産しそうな企業のはずである。著者らはこの二つの軸で企業を分けた。判決前(2003〜2007年)のRCRA対象物質の生産廃棄物が業種の中央値を上回る企業を「重度の排出企業」、Campbellらの倒産予測モデルで測ったデフォルト確率が業種の中央値を上回る企業を「高デフォルト確率」の群とし、低デフォルト確率の群は効果が出ないはずの比較対象(プラセボ)として使う5。
測ったのは四つである。判決日前後の社債と株式の異常収益率、借入の金利・銀行借入のスプレッド・社債格付、施設ごとの汚染防止の取り組み、そして対象物質の排出量だ。金利から排出までは、判決の前後で重度の排出企業とそれ以外の差がどう変わったかを見る差の差の分析である。固定効果は、金利・スプレッドが企業と年、汚染防止が施設と親会社×年、排出はさらに化学物質×年で、格付は月次の順序プロビットで推計している6。
判決は形式上、第7巡回区の管轄の企業にしか及ばない。標本のうち生産廃棄物の70%以上が第7巡回区に集中する企業は7%にすぎない。それでも全国の企業を使うのは、司法省の担当の次官補が判決を「環境の勝利」と評し、法律事務所なども全国の顧客に影響を知らせ、後に他の巡回区の判決がApexを引用したことから、全国に影響が及んだ可能性があると著者らは説明する7。
研究が示した結果:影響は倒産に近い重度排出企業に集中した
まず市場の反応である。高デフォルト確率の重度排出企業では、判決月の前後1か月の社債の累積異常リターンが−0.0495(t値−3.45)で、著者らは約5%の低下と表現する。株式も判決日の前後5営業日で−0.0338(t値−2.22)だった。低デフォルト確率の群ではどちらも統計的に有意な変化は確認されず、高低の差は並べ替え検定で有意だった8。推計された巡回区との交差項は有意でなく、地域によって効果が異なるという統計的な証拠は得られなかった。著者らはこれを全国的な影響の証拠と読む9。
貸し手の条件も変わった。表1に主な数値をまとめた。
表1 判決の後、倒産に近い重度排出企業で何が変わったか
表は横にスクロールできます →
| 測ったもの | 高デフォルト確率 | 低デフォルト確率 | 読み方 | 出所(R1) |
|---|---|---|---|---|
| 社債の累積異常リターン(判決月の前後1か月) | −0.0495(t値−3.45)*** | −0.0079(有意でない) | 著者は「約5%の低下」と表現 | 表2 |
| 株式の累積異常リターン(判決日の前後5営業日) | −0.0338(t値−2.22)** | −0.0039(有意でない) | 他の企業と比べ約3%低い | 表3 |
| 総支払金利率(支払利息÷当期・前期の平均負債合計)の対数 | +0.277(t値3.46)*** | +0.0058(有意でない) | 著者は27.7%上昇と表現(厳密な換算では約31.9%) | 表4 |
| 銀行借入スプレッド(LIBOR上乗せ幅)の対数 | +0.2543(t値3.04)*** | −0.0294(有意でない) | 著者は25.43%上昇と表現 | 表5 |
| 社債格付(順序プロビットの係数) | −0.1699(t値−2.60)*** | +0.0787(有意でない) | 負は格付の低下方向 | 表6 |
| 施設の汚染防止の取り組み数(ポアソン回帰) | +0.5193(t値2.19)** | −0.0875(有意でない) | 発生率比1.68(約68%増)。高低の差は10%水準 | 表7 |
| RCRA対象物質の大気以外への排出(1+排出量の対数) | −0.4701(t値−3.89)*** | +0.0415(有意でない) | 著者は平均比37.5%減と換算 | 表8 |
| RCRA対象外の有害物質の排出(プラセボ) | −0.0747(t値−0.40、有意でない) | — | 判決の対象外の物質では統計的に有意な減少は確認されなかった | 表9 |
総支払金利率(支払利息を負債合計で割った率)の対数は、高デフォルト確率の重度排出企業で判決後に0.277(t値3.46)上がった。著者らはこれを27.7%の上昇と読み、判決前の平均の総支払金利率310bpと平均負債63億ドル(年1億9,500万ドルの支払利息)を使って、年5,400万ドル多く払う計算になると換算している10。同じ読み方なら、平均の金利率で約86bpの上昇に当たる(編集部の換算)。銀行借入のスプレッドの対数も0.2543(t値3.04)上がり、著者らは平均約118bp・平均借入10.1億ドルから年303万ドルの負担増と換算した11。社債格付も統計的に有意に低下した12。
差の差の分析では、処置群と比較群が判決がなければ同じように動いたという前提(平行トレンド)が要る。金利とスプレッドでは、判決前の両者の差は0と統計的に区別できず、目立った傾向もなく、重度排出の区分を無作為に割り当て直した1,000回の推計では係数がほぼ0に集まった13。
汚染は減ったのか、ほかの説明はないか
貸し手の条件が厳しくなっただけでなく、企業の行動も変わった。高デフォルト確率の企業の重度排出施設では、汚染防止の取り組みの数がポアソン回帰の係数で0.5193(発生率比1.68、約68%増)増えた。ただし低デフォルト確率の群との差の検定は10%水準にとどまる14。RCRA対象物質の大気以外への排出は−0.4701(t値−3.89)で、著者らは平均比37.5%の減少と換算する。著者らの本文によれば、これらの施設で雇用や売上が減った証拠はなく、著者らは生産を絞った結果ではないと解釈している15。
2008年は大統領選と金融危機の年でもある。著者らは、規制強化を見越した反応ならRCRAの対象外でも毒性の高い物質の排出が減るはずだと考えて確かめたが、そうした物質では統計的に有意な減少は確認されなかった。金融危機で外部資金に頼る企業ほど金利が上がったという説明には、資金制約の指標を加えても金利・スプレッドの係数がほぼ変わらないことで応えている16。著者らは全体を、債権者が判決で損失の見込みが増えたと認識して条件を改め、企業に汚染を減らすよう求めた結果と解釈する17。
研究の対象・限界と、反対の論点
結果を使う前に、いくつかの限定を確かめておく。第一に、標本は2004〜2012年の米国上場企業で、TRIの報告義務がある施設を持つ企業に限られる。社債の分析に入る企業は222社で、高デフォルト確率の群の観測は100件にとどまる。第二に、TRIは企業の自己申告であり、著者らは大気以外の排出・上場企業・規制の厳しいRCRA対象物質に絞ることで測定誤差を抑えようとしている18。第三に、総支払金利率は分母に借入以外の負債も含む粗い指標で、係数を%で読む著者の表現は厳密な換算(約31.9%)とずれる。第四に、債権者が企業に圧力をかけたという経路そのものは観測されていない。
2022年のABFER(Asian Bureau of Finance and Economic Research)の年次大会で討論したLaura Starksは、旧版に対して、判決は形式上第7巡回区にしか及ばず全国への適用を裏づける根拠をもっと示すべきこと、事象日を2008年7月とするのが妥当か、排出の減少が大きすぎないか、社債市場の流動性の低さ、を問題にした19。改訂版は株式の反応と、巡回区ごとの効果の違い(交差項)の検証を加えて全国への影響を論じているが、排出の減少幅の大きさへの疑問には、本文を読む限り直接の答えは示されていない。
方向の近い先行研究もある。Akey and Appelは、1998年の連邦最高裁のBestfoods判決で親会社が子会社の浄化費用を負わされる場面が狭まった後、それまで親会社の責任が広く認められていた地域の子会社の工場で、土地への有害物質の排出が比較対象より約5〜9%増え、生産工程に関わる汚染削減の取り組みが15〜17%減ったと報告した20。責任を負う主体が狭まると汚染が増え、広がると減るという対称的な結果は、責任の配分が汚染の判断に効くという解釈を支える。ただし両研究とも米国の特定の判決と期間に基づく。
大手町プレップの考察:環境リスクは倒産に近づくほどLGDの問題になる
以下は編集部の見方である。この研究から引き出せる最も実務的な含意は、法的な弁済の順位が変わると、その影響がPD・LGDで組み立てる信用リスクの式を通って価格に出る、という点だと考える。期待損失はPDとLGDの積なので、LGDを押し上げる同じ制度変更でも、PDが低い先ではほとんど価格に表れず、PDが高い先で初めて目に見える差になる。研究で効果が高デフォルト確率の群に集中し、低デフォルト確率の群では統計的に有意な変化が確認されなかったことは、この構造と整合的である(研究はこの式そのものを検証したわけではない)。
もう一つは、平時と危機時で環境の論点の「持ち主」が変わることだ。平時の浄化費用は株主価値を下げる事業上の費用として、資産除去債務や引当金・偶発債務、DCFの調整で扱われる。倒産が視野に入ると、それは債権者の間の取り分の問題になり、貸し手やスポンサーが自ら見積もるべき項目になる。
日本の実務への応用:条文で確かめられることと、確かめられないこと
日本には米国のChapter 11と同じ手続はないが、再建型の会社更生では、更生計画の認可の決定があると、計画の定めなどで認められた権利を除き、更生会社は全ての更生債権等について責任を免れる。更生債権は、手続開始前の原因に基づいて生じた「財産上の請求権」と定義されている21。ただし、環境上の義務が更生債権等に当たるか、免責されるかについて、本記事は判例・学説を確認していない。個別案件では倒産・環境法の専門家の判断が必要である。
確かめられる事実もある。土壌汚染対策法では、都道府県知事が要措置区域を指定すると、土地の所有者等に汚染除去等計画の作成・提出を指示する。汚染の原因者が明らかで、その者に措置を講じさせるのが相当で、所有者等に異議がないときは原因者に指示する。法定の有害物質使用特定施設の使用が廃止されたときは、敷地の所有者等のうち、施設を設置していた者または知事から通知を受けた者に、原則として調査・報告の義務が生じる22。指示の名宛人が原則として土地の所有者等である以上、再生案件で工場用地を取得するスポンサーや買い手は、手続の中で旧会社の義務がどう扱われたかとは別に、土地の所有者として措置を求められうる(編集部の条文の読み方)。
与信の側では、会社更生のスポンサー選定やディストレスト
設例:浄化義務の扱いで回収額とスプレッドはどう変わるか
学習用の設例(架空)
- 甲社(架空の化学メーカー)の無担保の借入は80億円。貸し手は同じ順位の一つの層とみなす
- 倒産したときに債権者などへ分けられる価値は70億円、工場用地の浄化費用は20億円と置く
- ケースA:浄化の義務が金銭の請求権として借入と同じ順位で按分され、足りない分は免責される。ケースB:浄化の義務が免責されず、先に履行される
- 必要なスプレッドは、1年の期待損失(PD×LGD)だけで考える。担保・手続費用・回収までの期間・リスクプレミアムは無視する
どの請求が先に払われるかという弁済順位とリカバリー・ウォーターフォールの考え方を、浄化義務に当てはめる。ケースAでは、浄化の請求20億円と借入80億円が70億円を按分し、借入の回収は56億円、LGDは30.0%になる。浄化に充てられるのは14億円で、残る6億円は免責され、行政や社会の負担に回る。ケースBでは浄化が先に20億円を取り、借入の回収は50億円、LGDは37.5%に上がる(図1)。
LGDの差7.5%ポイントが価格にどう出るかは、PDしだいである。甲社のPDが年5%なら、期待損失で測ったスプレッドは150.0bpから187.5bpへ37.5bp広がる。PDが年0.5%なら15.00bpから18.75bpで、差は3.75bpにすぎない。浄化費用の大きさとPDを動かすと図2のようになり、PD 0.5%・浄化費用10億円の1.4bpから、PD 10%・浄化費用30億円の約136bpまで開く。
同じ制度の変更でも、倒産から遠い先ではスプレッドの差は数bpにとどまり、倒産に近い先では価格の交渉で無視できない幅になる。
明日から使える確認項目
- 工場・事業所の敷地で、有害物質を扱う特定施設の使用を廃止した、または廃止する予定がないかを確かめる。廃止があれば土壌汚染対策法上の調査・報告の義務が生じうる。質問例:「これまでに特定施設の使用を廃止した敷地はあるか、調査の結果は都道府県に報告済みか」
- 要措置区域などに指定された土地があれば、指示の名宛人(所有者か原因者か)、措置の内容と期限、概算費用を一覧にする
- 浄化費用の概算を、倒産時に分けられる価値の想定と並べ、按分の場合と先に履行される場合の二通りで回収率を計算する(設例の式をそのまま使える)。両者のLGDの差が大きい先を、環境の論点が与信に効く先として扱う
- PDの見直しと同時にLGDの前提を見直す。PDが上がった先ほど、同じLGDの差が期待損失に大きく効く。目安として、二通りのLGDの差×PDが現行のスプレッドの1割を超えるなら、条件の見直しを稟議で論点にする(編集部の仮の目安。研究で検証された閾値ではない)
- 再生案件で工場用地を取得する側(スポンサー・買い手)は、旧会社の手続で浄化義務がどう扱われたかとは別に、取得後に土地の所有者等として措置を求められうるかを、倒産・環境法の専門家と確かめる
- 担保に取った工場用地は、浄化費用控除後の処分価値で掛け目を見直す。浄化の見積りの根拠(調査の範囲・時点)を記録に残す
よくある質問
この研究の金利の上昇幅(2 7.7%)は、日本の融資にも当てはまりますか。
当てはまるとは言えません。2004〜2012年の米国上場企業で、米国の特定の判決
倒産から遠い健全な取引先では、環境の論点は与信に関係ないのですか。
研究では低デフォルト確率の企業で統計的に有意な変化は確認されませんでしたが、それは影響がゼロだという意味ではありません。業績が悪化してPDが上がれば同じ論点が価格に効き始めるので、平時から浄化費用の概算と土地の状況を記録しておくと、見直しのときに使えます。
まとめ
2008年のApex Oil判決で一部の浄化義務が倒産手続で免責されなくなると、米国では倒産に近く対象物質の多い上場企業で社債・株価が下がり、借入の金利とスプレッドが上がり、格付が下がった。倒産から遠い企業では統計的に有意な変化は確認されなかった。同じ企業では汚染防止の取り組みが増え、対象物質の排出が減った。全国への適用や排出の減少幅には討論者の疑問も残る。日本では制度が違うが、倒産時にどの義務が残るかをLGDの前提に入れ、PDの高い先ほど丁寧に確かめるという順序は、与信と再生案件のどちらでも使える。
脚注
- R1(NBER WP 29740、2023年3月改訂版)p.3・p.10(1節・2.1節)。請求権の定義は 11 U.S.C. §101(5)。ページは PDF の物理ページ(印刷ページ+2。以下同じ)。著者らは、多くの裁判所は第6巡回区の Whizco の区別に従わなかったとも注記している(p.10 注4)。↩
- R1 p.3〜4(1節)、p.40(8節)。著者らによる制度の説明で、債権者の行動を直接観測したものではない。↩
- R1 p.11(2.1節)。約1億5,000万ドルという金額は、著者らが Ohlrogge(2020)の要約として紹介しているもの。↩
- R1 p.3〜4(1節)、p.11〜12(2.1節)。↩
- R1 p.5〜6(1節)、p.17(3.2節)、p.20(4.1節)。倒産確率は Campbell, Hilscher and Szilagyi(2008)のモデルで測り、金利などのパネル分析は2007年、社債・株式の分析は2008年6月の値を使う。業種は SIC 2桁(施設の分析は NAICS 3桁)。↩
- R1 p.6(1節)、p.18〜25(4〜5節、式2・式3)。社債は Bai, Bali and Wen の4因子、株式は Fama-French-Carhart の4因子で異常リターンを推計。金利・スプレッドなどの回帰は2004〜2012年(2008年を除く)。固定効果は p.23・表4〜5(p.63〜64)、p.32・p.34、表7・表8(p.66〜67)、格付の順序プロビットは p.29〜30。↩
- R1 p.5(1節)、p.12〜13(2.2節・注6・注8)、p.21(注19:生産廃棄物の70%以上が集中する企業は第7巡回区7%、第6巡回区7%、第3巡回区3%)。「環境の勝利」は司法省の環境・天然資源部門の次官補の発言として R1 が紹介しているもの(p.12)。↩
- R1 表2 列1・2(p.59〜60)、表3 列1・2(p.61〜62)、本文 p.22〜23。観測数は社債が高デフォルト確率100・低122、株式が270・293。低デフォルト確率群の係数は社債−0.0079、株式−0.0039。高低の差の検定(Fisher の並べ替え検定)の p 値は社債0.012、株式0.047。***は1%、**は5%水準で有意。↩
- R1 表2・表3 列3〜8(p.59〜62)、本文 p.22〜23。交差項が有意でないことは、地域による差がないことを証明するものではない(編集部の注記)。↩
- R1 表4 列3(p.63)、本文 p.25・注25。統制変数と企業・年の固定効果つき。低デフォルト確率群は0.0058(有意でない)、高低の差の検定の p 値は0.004。編集部の検算:0.031×63億ドル=約195.3百万ドル、その27.7%=約54.1百万ドル。↩
- R1 表5 列3(p.64)、本文 p.28・注28。低デフォルト確率群は−0.0294(有意でない)、高低の差の検定の p 値は0.004。換算の基になる判決前の平均の銀行借入の費用は年1,192万ドル。融資の期間が短くなったという結果も示されているが、付録の表(未読)による(p.29 注29)。↩
- R1 表6 列1・2(p.65)、本文 p.29〜30。2008年3月〜2009年1月の月次(7月を除く)、順序プロビット。高デフォルト確率群の係数−0.1699(t値−2.60)、低デフォルト確率群0.0787(有意でない)。↩
- R1 p.24〜29(5.1〜5.2節、図2〜5)。年ごとの差は90%信頼区間で示されている。↩
- R1 表7 列1・2(p.66)、本文 p.31〜32・注32。施設×年21,572件、3,770施設、500社。取り組みは TRI に報告される8分類(原材料の変更、工程・設備の変更、漏えい防止など)のコードの数。低デフォルト確率群は−0.0875(有意でない)、高低の差の検定の p 値は0.090。↩
- R1 表8 列1・2(p.67)、本文 p.33〜37・注37。施設×化学物質×年90,830件。施設の規模を統制すると平均比39.6%減(列3)。雇用・売上が減らなかったという点は、付録の表(未読)に基づく本文の記述。↩
- R1 7節(p.37〜40)、表9(p.68)、表10・11(p.69〜71)。RCRA の対象外の物質は、EPA の IRIS で人への有害性が示された物質。高デフォルト確率群の係数は−0.0747(t値−0.40)。資金制約の指標は Whited-Wu 指数と SA 指数。↩
- R1 p.6(1節)、p.33(6.1節)、p.40(8節)。↩
- R1 p.15〜16(3.1節)、p.20(社債のある企業)、表2(p.60)。総支払金利率の定義は表4の注(p.63)。↩
- R3(ABFER 2022年次大会の討論スライド)p.5〜10・p.15〜17。討論の対象は2022年2月の旧版。↩
- R2(WP 版、2018年11月)p.1〜4。掲載誌版は Journal of Finance 76(1)(2021年)。R1 p.8 は、1996年の貸し手責任法で担保権者の責任が狭まった後に汚染が増えたとする Bellon(2021)も挙げている(本文は未読)。↩
- R4 会社更生法2条8項・204条1項。↩
- R5 土壌汚染対策法3条1項・7条1項。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Chen, J., P.-F. Hsieh, P.-H. Hsu and R. Levine (2022), “Environmental Liabilities, Borrowing Costs, and Pollution Prevention Activities: The Nationwide Impact of the Apex Oil Ruling,” NBER Working Paper No. 29740. DOI: 10.3386/w29740. 参照した版:NBER WP 改訂版(2023年3月)。初版:2022年2月(題名 “Environmental Liabilities, Creditors, and Corporate Pollution: Evidence from the Apex Oil Ruling”)。査読:WP 版は未査読。掲載誌版:Journal of Corporate Finance 91, 102739 (2025), DOI: 10.1016/j.jcorpfin.2025.102739(未読)。 nber.org (参照箇所:PDF の物理ページ p.2〜40(要旨・本文)、p.47〜49(図1〜3)、p.59〜71(表2〜11)。脚注1〜18・20の根拠。表1は表2〜9の係数を選んで整理した独自の表で、原表の転載ではない。閲覧日:2026年10月)
- R2 Akey, P. and I. Appel (2021), “The Limits of Limited Liability: Evidence from Industrial Pollution,” Journal of Finance 76(1), 5-55. 参照した版:ワーキングペーパー版(2018年11月14日付)。査読:掲載誌版は査読済み(未読)。 finance.business.uconn.edu (参照箇所:p.1〜4(要旨・序論)。脚注20の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Starks, L. T. (2022), Discussion of “Environmental Liabilities, Creditors, and Corporate Pollution: Evidence from the Apex Oil Ruling”(ABFER 2022年次大会の討論スライド)。査読:該当なし(学会の討論資料)。 abfer.org (参照箇所:p.5〜10・p.15〜17。脚注19の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 会社更生法
(平 成14年法律第154号)。 e-Gov 法令検索。 laws.e-gov.go.jp (参照箇所:2条8項・204条1項。脚注21の根拠。閲覧日:2026年10月) - R5 土壌汚染対策法
(平 成14年法律第53号)。 e-Gov 法令検索。 laws.e-gov.go.jp (参照箇所:3条1項・7条1項。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。