この記事で分かること
- 39か国・2003〜2019年のデータで、企業向けの信用が膨らんだ後の景気の落ち込みが、倒産処理の効率によってどれほど違ったか
- 「倒産処理の効率」が何を測った数字か(継続か清算か・期間・費用)と、研究の方法上の限界
- 日本の私的整理・法的整理・早期事業再生法の決め方の違いと、債権者・投資家が回収見通しを立てるときの確認手順(学習用の設例つき)
想定読者:事業再生・RX アドバイザー、銀行の審査・管理部門、PE・クレジット投資の実務家、海外向けの与信や投資を見る方
前提知識:私的整理と法的整理の違い、清算価値と継続価値の考え方の初歩
低金利が長く続き、企業向けの融資や社債が数年で大きく増えた国がある。与信の担当者や投資委員会が気にするのは、次の景気後退でどれだけの企業が返済に行き詰まるかである。ただ、同じ件数の倒産が起きても、その後に失われる価値は、倒産がどう処理されるかで変わりうる。事業として成り立つ会社を早く再建に乗せられる国と、手続が長引いて設備が切り売りされる国では、債権者の回収だけでなく、取引先の売上や雇用への波及も違ってくるはずだ。
この直感を国際比較のデータで確かめたのが、本稿で取り上げる研究である。著者らは、倒産処理の効率を測った世界銀行の指標と、企業向け信用のデータを組み合わせ、信用拡大の後の景気の動きが制度によってどう違うかを調べた。以下では、まず指標の中身を確かめ、結果と限界を読み、そのうえで日本の手続の選び方と回収見通しの立て方に引きつけて考える。
この記事が主に参照する研究
Martin Kornejew、Chen Lian、Yueran Ma、Pablo Ottonello、Diego J. Perez(2024)「倒産処理と信用サイクル(Bankruptcy Resolution and Credit Cycles)」NBER Working Paper No. 32556
- 公表:初版 2024年3月(NBER Macroeconomics Annual の会議用草稿)。参照した版:NBER WP 版(2024年6月)。のちに NBER Macroeconomics Annual 2024(第39巻、2025年刊、討論つきの会議論文集)に掲載。掲載版は未入手
- データ:人口500万人以上の39か国(日本を含む)、2003〜2019年の国・年のパネル。倒産処理の効率は世界銀行、企業信用は国際決済銀行(BIS)
- 方法:国の間の違いを使った回帰分析(相関の分析)。期初の値への固定、法の起源を使った操作変数などで頑健性を確認。簡単な理論モデルを添える
- 位置づけ:信用サイクルの既存研究に、倒産制度という条件を加えた新しいデータの組合せによる検証
「倒 産処理の効率」は何を測った数字か
研究の中心にある変数は、世界銀行が各国について作った倒産処理の指標である。各国の法律専門家に同じ設例を示す。事業としては成り立つが資金繰りに行き詰まった会社で、営業を続ければ価値は100、ばらばらに売れば70になる。専門家は、自国の手続でこの会社が営業を続けられるか、費用を差し引いて関係者に何が残るか、どれだけ時間がかかるかを見積もる。残る額を期間で割り引き、100で割った値が「効率」になる1。設例の会社は、どの国にもある業種としてホテルが選ばれている。
つまりこの数字は、継続か清算か、期間、費用という三つの要素をまとめたものだ。166か国の全標本では平均39%にとどまり、2019年の時点で設例の会社が営業を続けられると答えた国は約半分しかない。分析に使う39か国では平均63.1%、下から4分の1の位置(第1四分位)が42.9%、上から4分の1の位置(第3四分位)が83.0%である。値の違いはほぼ国の間の違いで、同じ国の中で年ごとに大きく動く数字ではない2。
ここで清算価値と継続価値の差の大きさを確かめておく。論文が紹介する先行研究では、航空宇宙産業の設備の再販価値は取替原価1ドル当たり28セントだった。米国の再建型手続(Chapter 11)に入った非金融企業では、継続価値が清算価値の約2倍あった3。存続できる会社を清算に回すと、この差がそのまま失われる。指標が「存続可能な会社を残せるか」を重く見ているのはこのためで、存続できない会社をきちんと清算できるかという別の効率とも、国の間では相関が0.88と高い4。
もう一方の変数は、企業向け信用(銀行貸出と社債などの合計)の対GDP比が過去5年で何%ポイント変わったかである。これを信用拡大の大きさとし、その後1〜5年の実質GDPなどの動きを、倒産処理の効率と掛け合わせて回帰する。家計向け信用の変化やそれまでの成長率も制御している5。
信用拡大の後の落ち込みは、効率が低い国で約3%ポイント
結果は明確だった。企業信用の対GDP比が5年で10%ポイント増えた後、効率が第1四分位の国では、実質GDPが5年後に約3%ポイント低い水準にあった。第3四分位の国ではほとんど下がらない。5年間の損失を積み上げると、効率の低い国で約10.8%、高い国で約1.5%となり、差は約9%ポイントに達する。この規模の信用拡大は、標本の観測の約3分の1で起きている6。効率の低い国のGDPは5年目でもまだ戻らず、回復は6〜10年目にかけてゆっくり進んだ。
この結果を、効率の水準ごとに読めるように描き直したのが図1である。論文の回帰係数(5年後)を使い、効率の値を横軸にとって、信用が10%ポイント増えた後のGDPの変化を計算した。
図1からは、効率が高いほど推計上の落ち込みが直線的に小さくなることが読み取れる。平均的な効率(63.1%)の国でも−1.5%ポイントで、第1四分位の国はその2倍近い。ただし、これは国の間の相関から引いた直線で、個々の国の予測ではない。効率が100%なら将来の産出はほぼ変わらない、と論文は述べているが7、直線をそのまま延ばした点推定の値に、細かい意味を持たせるべきではない。
影響はGDPの数字だけにとどまらない(表1)。効率の低い国では、信用拡大から3年の間に景気後退に陥る確率が約7.4%ポイント高く、景気後退の局面に限らず平時の成長も鈍っていた8。投資は大きく減り、失業率は緩やかに上がり、個人消費も落ち込む。効率の高い国では消費はおおむね安定していた。非金融企業の株価の下落と信用スプレッドの上昇も、効率の低い国だけで見られた9。
表は横にスクロールできます →
| 結果の指標 | 効率が低い国(第1四分位 43%) | 効率が高い国(第3四分位 83%) |
|---|---|---|
| 実質GDP(5年後) | 約3%ポイント低下 | ほとんど低下しない |
| 5年間の累積の産出損失 | 約10.8% | 約1.5% |
| 景気後退の確率(3年後まで) | 約7.4%ポイント上昇 | 有意な変化なし |
| 投資・失業率 | 投資は大きく減り、失業率は緩やかに上昇 | 悪化はより小さい |
| 個人消費 | 大きく減る | おおむね安定 |
| 株価・信用スプレッド | 株価下落・スプレッド上昇 | 目立った変化なし |
| 金融危機 | 予測しない(2003〜2019年の標本) | 予測しない |
一方で、この期間の標本では、企業信用の拡大は効率の高低にかかわらず金融危機を予測しなかった。著者らは、2003〜2019年の危機の中心が家計向け信用と結び付いた世界金融危機だったためと推測している10。表1が示すのは、銀行危機の起きやすさではなく、実体経済の落ち込み方の違いである。
相関の分析をどこまで信じられるか
国の間の比較には、効率の高い国がたまたま豊かで政策運営も安定しているだけではないか、という疑いがつきまとう。著者らは、発展の度合い、成長率の振れやすさ、為替制度、金融・財政政策の運営、法の支配や政府の有効性、起業や契約執行にかかる日数などを一つずつ加えても、効率の低い国の結果が大きく悪いことを確かめた。景気が悪いから裁判所が混んで効率が下がる、という逆の因果を避けるため、効率を標本の初めの値に固定した推計でも、結果は似ていた。英国法・フランス法・ドイツ法・北欧法という法の起源を効率の代わりの手がかり(操作変数)にしても、形と大きさは同様だった11。
債務の重さの違いでもない。むしろ効率の高い国ほど企業債務の対GDP比の水準は高く、同じ債務水準の国どうしで比べても、効率の低い国の方が悪かった12。倒産処理がうまく機能する国では、貸し手が回収を見込めるぶん信用市場が大きくなる、というのが論文のモデルの予測でもある。
それでも、これは因果を厳密に識別した研究ではない。39か国、観測数は推計の期間(1〜5年後)によって560〜408件で、効率の差はほとんど国の間の差に由来する。法の起源による推計も、法の支配を同時に制御すると操作変数の力が弱まる。指標そのものも、実際の倒産事件の回収実績ではなく、仮想の設例に対する専門家の見積もりである(著者らは、銀行の貸倒れデータから作った実際の回収率の代理指標と正の関係があることを示している)。
結果の向きを読むうえで欠かせないのが、信用拡大の中身の区別だ。論文は、国際的に取引されにくい財・サービスを扱う非貿易財部門への信用拡大は後の景気を悪くし、貿易財部門への拡大は後の成長につながりやすいという先行研究を踏まえ、効率の高さが前者の悪影響を和らげ、後者の好影響もやや小さくすることを示した。モデルの予測どおりの結果である13。モデルでは、デフォルトした企業が一定の確率で非効率に清算され、その確率が低い国ほど、根拠の乏しい信用拡大の後の産出の落ち込みが小さくなる。もっとも、討論者が指摘したように、効率が高いと借入が増えデフォルト件数も増えうるため、産出の水準そのものへの影響ははっきりしない14。
先行研究との関係も確かめておく。共著者の一人を含む Jordà らは、17の先進国・約150年のデータで、企業信用の拡大は家計信用と違い、平均では後の景気後退をほとんど深くしないと報告した。ただし、法の起源で測った債務の再交渉コストが高い国では、企業の過剰債務の後の回復が家計の場合と同じほど鈍くなりうるとしている15。新興国を含む2003〜2019年の本研究は、平均でも負の関係を見いだし、その大きさは家計債務の代表的な研究の約2倍だった(本研究の95%信頼区間は、比較先の点推定を含む)16。平均の結論は標本で変わるが、「倒産や再交渉の摩擦が大きいところで企業債務の害が大きい」という点では二つの研究は一致している。
大手町プレップの考察:回収率は景気と一緒に動く
ここからは編集部の見方である。与信や投資の実務では、デフォルト率と回収率を別々の前提として置くことが多い。しかしこの研究が実証したのは、倒産処理の効率が低い国ほど、信用拡大の後に景気全体の落ち込みが大きく、景気後退に陥りやすく、株価も下がりやすいことである。その背景に倒産の増加と非効率な清算があるとするのは論文のモデルの説明で、倒産件数そのものは検証されていない。このモデルの説明に沿って考えると、存続できる会社まで清算に回れば、売却される資産の値段も下がり、回収率はデフォルト率と同じ方向に悪化すると考えられる(仮説。論文は回収率を直接は分析していない)。
もう一つは日本の位置づけである。著者らは、1990年代の日本を倒産制度の重要性を示す例として挙げる。制度が清算中心で手続が煩雑だったため不良債権の処理が進まず、銀行が返済の見込みの薄い融資を続けてゾンビ企業が残り、1996〜2005年に包括的な倒産法制の改革に至った、という説明だ17。これは先行研究に基づく著者らの要約で、本研究の回帰で検証された話ではない点に注意したい。改革後の日本は、世界銀行の指標では高い位置にある。2019年の回収率は1ドル当たり92.1セント、期間0.6年、費用は財産の4.2%で、設例の会社は営業を続けられると評価された18。世界銀行の回収率は担保権者の回収を測る定義で、論文は国別の値を示していないため参考の比較にとどまるが、数字の上では論文の分析標本の第3四分位(83.0%)を上回る。
ただ、世界銀行の方法論では、設例の会社は債権者が多すぎて裁判外の任意の整理を交渉できないと仮定され、選べるのは裁判所での再建・清算・担保の実行の手続とされている19。裁判外で進める私的整理の機能は、この指標には直接には表れない。私的整理は柔軟に進められる反面、ガイドラインに基づく手続では、反対する金融機関が1行でもあれば計画は成立しない。指標の高さは、日本で倒産処理の摩擦が小さいことを必ずしも意味しない、というのが編集部の見方である。
日本の手続の決め方を比べる
研究が示したのは、存続できる会社を早く残せるかどうかが景気全体の落ち込み方にまで関わる、ということだった。日本の再建型の手続を、計画がどう決まるか、担保権がどう扱われるかで並べたのが表2である。
表は横にスクロールできます →
| 手続 | 計画・決議の成立 | 担保権・裁判所 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 私的整理に関するガイドライン | 対象債権者全員の同意 | 裁判外 | 2001年9月19日 研究会 |
| 中小企業の事業再生等に関するガイドライン(再生型) | 全ての対象債権者の同意 | 裁判外 | 2022年4月15日 適用 |
| 早期事業再生法 | 金融機関等の対象債権者の議決権総額の4分の3以上 | 担保で回収できる部分は対象外。裁判所が決議を認可 | 2025年6月成立・2026年12月11日施行予定 |
| 民事再生 | 出席等した議決権者の過半数かつ議決権総額の2分の1以上 | 担保権は別除権として手続外で行使できる | 民事再生法 第53条・第172条の3 |
| 会社更生 | 権利の種類ごとの組で決議(更生担保権の減免は4分の3以上) | 開始決定で担保権の実行を含む強制執行等を止める | 会社更生法 第24条・第50条・第196条 |
2001年に策定された私的整理に関するガイドラインでは、再建計画は対象債権者全員の同意で成立し、同意が得られなければ手続は終わって法的整理などに移る20。2022年4月から適用されている中小企業の事業再生等に関するガイドラインの再生型の手続も、全ての対象債権者の同意で計画が成立する21。
この全員同意の壁に対応するのが、2025年6月に成立した早期事業再生法である。法律案の概要によれば、経済産業大臣が指定する機関の確認を受けたうえで、金融機関等の対象債権者の集会で議決権総額の4分の3以上が賛成し、裁判所が認可すれば、決議に従って対象債権者の権利が変更される。担保権の行使で回収できる部分は対象外である。施行は2026年12月11日の予定で、本稿の執筆時点ではまだ使えない22。
法的整理では、民事再生の再生計画は、債権者集会に出席するなどした議決権者の過半数かつ議決権総額の2分の1以上の同意で可決されるが、担保権は別除権として手続の外で行使できる23。会社更生は開始決定で担保権の実行を含む強制執行等を止め、担保権者も更生担保権者として組に分かれて決議に加わる24。論文が米国の手続について挙げた、取立ての停止(オートマティック・ステイ)や組ごとの多数決といった調整の仕組み25が、日本では手続ごとに強さを変えて配置されていると読める。
設例で確かめる:継続か清算か・期間・費用で回収はどう変わるか
学習用の設例(架空)
- 甲社は事業としては成り立つが、借入過多で返済が滞った。営業を続けた場合の価値(継続価値)は100億円、金融債務は120億円(全額同順位)
- 回収価値は、論文の脚注5が紹介する Djankov らの式で計算する:(継続価値×継続+清算価値×清算−継続価値×費用率)÷(1+割引率)^期間26
- 清算価値は継続価値の70%(世界銀行の設例と同じ比率)。専用設備が多い場合は50%と仮定。割引率は年5%
- A:早く合意して再建(費用3%・0.5年)、B:手続が長引いて再建(費用8%・1.5年)、C:清算(費用10%・2.0年)、D:専用設備が多い会社の清算(同)
計算すると、関係者全体に残る価値は、Aが94.7億円、Bが85.5億円、Cが54.4億円、Dが36.3億円となる。債権額120億円に対する回収率に直すと、Aは78.9%、Bは71.3%、Cは45.4%、Dは30.2%である(図2)。
この設例で目を引くのは、要素ごとの効き方の違いである。費用8%の再建で手続が0.5年から1.5年へ1年延びたときの目減りは4.3億円程度だが、AとCは継続か清算かに加えて、費用(3%と10%)と期間(0.5年と2.0年)も違い、回収価値の差は40.2億円になる。費用と期間をCと同じにそろえて継続か清算かだけを変えても、差は27.2億円残る。専用設備が多く清算価値が低い会社ほど、この差はさらに開く。研究が「存続可能な会社を残せるか」を中心に効率を測り、その指標で景気の落ち込み方の違いが説明できたことと、方向は合っている。もちろん、実際の案件では、存続できない会社を再建の名目で延命させる逆の失敗もあるため、継続が常に正しいわけではない。
回収見通しを立てるときの確認項目
研究の結果と日本の制度を踏まえ、与信先・投資先が窮境に近づいたときに確かめたい点を順に挙げる。
- 継続価値と清算価値の差を、事業ごとに見積もる。資産の転用しにくさ(専用設備、立地、組織の持つノウハウ)が大きいほど差は広がり、清算に回ったときの損失が大きい。
- 回収の前提を「継続か清算か」「期間」「費用」に分けて置く。回収率を一つの数字で置かず、どの手続でどの結果になるかの組合せごとに試算する(ディストレスト債のリカバリーレート分析の手順も参照)。
- 債権者の顔ぶれを確かめる。金融機関の数、担保の有無と範囲、反対しそうな債権者がいるか。私的整理で全員の同意が見込めないとき、どの手続に移るかを先に決めておく(私的整理と法的整理の選択基準)。
- 早期事業再生法の施行後は、金融機関等の対象債権者の議決権総額の4分の3以上の賛成と裁判所の認可という道が加わる。担保で回収できる部分は対象外なので、担保の範囲と評価がそのまま交渉力の差になる。
- 条件変更や借換えが繰り返されていないかを見る。返済見込みの薄い融資の継続は、手続が長く費用のかかる環境で起きやすいと、論文は先行研究を引いて述べている27。
- 海外の与信・投資では、国ごとに「過去5年の企業信用の伸び」と「倒産処理の効率」を並べて見る。両方が悪い国のエクスポージャーは、デフォルト率と回収率が同時に悪化する想定で試算する(編集部の提案)。
投資委員会や審査の場では、例えば次のように問うとよい。「この先が清算に回った場合と再建に乗った場合で、回収はそれぞれいくらか。その差は担保と手続の選び方で縮められるか」。
よくある質問
日本は世界銀行の指標で高いのだから、信用拡大の後も心配はいらないのですか。
そうは言えません。研究は国の間の相関を示したもので、日本の将来を予測したものではありません。また指標は、裁判外の整理ができないと仮定した仮想の設例について裁判所の手続を評価した数字で、私的整理での合意の難しさは表れません。単一の仮想設例であり、中小企業の多様な実態を直接示すものでもありません。
早期事業再生法はもう使えますか。
2025年6月に成立し、経済産業省の発表では2026年12月11日に施行される予定です。2026年10月時点ではまだ施行されていません。対象となるのは金融機関等である債権者で、その範囲は省令と
論文の「効 率」と、案件ごとの回収率は同じものですか。
同じではありません。論文の指標は関係者全体に残る価値の割合で、個々の債権者の回収率は、そこから弁済の順位や担保の有無で配分された結果です(弁済順位とリカバリー・ウォーターフォール
まとめ
39か国・2003〜2019年のデータでは、企業向け信用が膨らんだ後の景気の落ち込みは、倒産処理の効率が低い国で大きく、高い国では小さかった。効率は、存続できる会社を営業させたまま処理できるか、どれだけ早く、安く終えられるかで測られている。研究は相関の分析で、指標も仮想の設例に基づくという限界がある。日本の実務では、全員同意を要する私的整理、多数決の法的整理、施行を控えた早期事業再生法の違いを踏まえ、回収の前提を「継続か清算か・期間・費用」に分けて置くことが、研究の示唆を案件に生かす第一歩になる。
脚注
- R1(NBER WP 版, 2024年6月)p.12〜13(3.1節)・脚注5(p.13)。設例の業種がホテルである点は p.14 脚注6。指標は世界銀行 Doing Business の国・年データ(166か国・2003〜2019年)で、Djankov et al.(2008a)の方法による。本記事のページは PDF の物理ページ番号(以下同じ)。↩
- R1 p.13(3.1節)・図1(p.14)・表1(p.17)。全標本の標準偏差は25%、回帰標本の中央値は68.6%。国の固定効果による決定係数(R2)は約0.9、法の起源による決定係数は約0.33。BIS の貸倒れデータから作った実際の回収率の代理指標と効率の指標の正の関係は p.13・図IA1(p.40、153か国・2005〜2019年)。↩
- R1 p.14(3.1節)。Ramey and Shapiro(2001)と Kermani and Ma(2023)の推計の紹介。米国の上場非金融企業全体では継続価値は清算価値の約3倍。↩
- R1 p.15〜16・図2(2006年・88か国、Djankov et al. 2008a のデータ)。景気の経路をより強く説明するのは存続可能な企業の処理効率(p.23・表IA12)。↩
- R1 p.16〜18(3.2節・4節、式3)。企業信用は BIS のデータ(銀行貸出と社債などの非銀行信用)、GDP などは IMF と世界銀行。人口500万人未満の国は除外。状態依存のローカル・プロジェクションと呼ばれる方法で、国の固定効果を含む。日本は分析標本に含まれる(図IA2, p.41)。↩
- R1 p.18〜19(4.1節)・表2(p.19)・図3(p.20)・脚注13。5年後の係数は信用変化 −0.576、信用変化×効率 0.669(ともに1%水準で有意)。論文の図注では四分位を43%・83%と表記。6〜10年目の回復は図IA3(p.42)。↩
- R1 p.18(4.1節)。図1の直線は、表2の5年後の係数から大手町プレップが計算した点推定。↩
- R1 p.20・図4(p.21)。景気後退の局面以外でも結果が悪いことは表IA1(p.53)、分位点回帰は図IA4・表IA2。↩
- R1 p.25〜27(4.2節)・図5〜7、図IA11(全要素生産性)・図IA12(株価は36か国、信用スプレッドは20か国の標本で、標準誤差はやや大きい)。↩
- R1 p.27・図IA13。著者らは、1940年以降の長い期間を使った先行研究(Ivashina et al. 2024)では企業信用の拡大が金融危機を予測することも紹介している。↩
- R1 p.21〜22(4.1節)・表IA3〜IA11。法の起源は効率の変動の約30%を説明し、操作変数の第1段階のF値は13.98〜24.77(表IA11 Panel A)、法の支配を同時に制御すると8.14〜10.35(Panel B)。Lasso による変数選択でも効率が最も有効だった(脚注15, p.22)。↩
- R1 p.22〜23・図IA8・図IA9。効率が高いほど信用市場が大きくなるというモデルの予測は命題1(p.31)。↩
- R1 p.23・p.34・表IA13(p.65)。非貿易財と貿易財の区別は Müller and Verner(2023)と Ivashina et al.(2024)による。効率の高低で信用拡大の部門構成に有意な差はない(表IA14, p.24)。↩
- R1 p.28〜32(5節・命題1)・脚注20(討論者 Dean Corbae の指摘)。モデルは様式化されたもので、需要の減少や金融面の増幅などの波及は明示していない(p.33)。↩
- R2(INET WP 168, 2021年10月)要旨(p.1〜2)・序論(p.5〜7)・結論(p.26)。17か国は日本・米国・ドイツなどの先進国。R1 は R2 を最も近い研究とし、R2 が景気後退の局面に限って分析したのに対し R1 は限らない点を違いに挙げる(R1 p.6〜7)。↩
- R1 p.18 脚注12。比較対象は Mian, Sufi and Verner(2017)。↩
- R1 p.6・p.11〜12(2.3節)。Anderson(2006)・Tan(2004)・Caballero, Hoshi and Kashyap(2008)などの先行研究による著者らの説明。↩
- R3(2026年10月23日取得。控えは調査資料に保存)。2019年の値(2015年は92.3セント、期間は2013〜2019年とも0.6年)。世界銀行の方法論では、回収率は担保権者が裁判上の再建・清算・担保の実行の手続で回収する1ドル当たりの額で、結果(継続か切り売りか)・期間・費用を反映する(R11)。論文の効率の指標の元データとみられるが、論文は国別の値を示していないため、論文の分布との比較は参考にとどまる。↩
- R11(Doing Business の倒産処理の方法論。設例のホテル会社の前提と、選べる手続の記述)。↩
- R4 8項(4)(6)。↩
- R5 第三部4(6)④⑤・附則(2022年4月15日から適用)。研究会の事務局は全国銀行協会。↩
- R6(法律案の概要)・R7。法律番号は令和7年法律第67号(2025年6月13日公布、R10)。施行日は R7 による予定日。成立した法律の本則の条文は、施行前で法令データに収録されていないため照合していない。↩
- R8 第53条・第172条の3。↩
- R9 第24条第1項第2号・第50条・第196条。↩
- R1 p.10(2.2節)。米国では同順位の債権者を一つの組にまとめ、各組が金額の3分の2以上・人数の2分の1以上で計画を承認する仕組み、DIP ファイナンスなどを挙げている。↩
- R1 p.13 脚注5(Djankov et al. 2008a の式。論文は、世界銀行(2020)は式を明示せず類似の説明をしていると注記している)。設例の数値はすべて学習用の仮定。↩
- R1 p.15(3.1節)。Caballero, Hoshi and Kashyap(2008)、Becker and Ivashina(2022)などの紹介。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Kornejew, M., C. Lian, Y. Ma, P. Ottonello and D. J. Perez (2024), “Bankruptcy Resolution and Credit Cycles,” NBER Working Paper No. 32556. DOI: 10.3386/w32556. 参照した版:NBER WP 版(2024年6月)。初版の会議用草稿(2024年3月)で主要な数値を照合。掲載版:NBER Macroeconomics Annual 39, pp.1-39(2025年)、DOI: 10.1086/735256(未入手)。査読:WP は未査読(掲載版は討論つきの会議論文集)。 nber.org (参照箇所:本文1〜6節、表1・表2、図1〜7、付録の図IA2・IA3・IA8・IA9・IA11〜IA13、表IA1・IA10〜IA14(PDF p.2〜35, p.41〜65)。脚注1〜14・16・17・25〜27の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Jordà, Ò., M. Kornejew, M. Schularick and A. M. Taylor (2021), “Zombies at Large? Corporate Debt Overhang and the Macroeconomy,” INET Working Paper No. 168. DOI: 10.36687/inetwp168. 参照した版:INET WP 版(2021年10月。初版は2020年12月)。掲載誌:Review of Financial Studies 35(10), 2022(R1 の参考文献による。未入手)。 doi.org (参照箇所:要旨、序論 p.3〜8、結論 p.26。脚注15の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 World Bank, Doing Business(Resolving insolvency:Recovery rate、Time、Cost、Outcome。Japan, 2015・2019年). 世界銀行 API(source=1)で取得。 archive.doingbusiness.org (参照箇所:日本の回収率・期間・費用・結果(2013〜2019年)。脚注18の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 私的整理に関するガイドライン研究会「私的整理に関するガイドライン」(2001年9月19日). 国税庁ウェブサイト掲載版。 nta.go.jp (参照箇所:8項(再建計画の成立)。脚注20の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R5 中小企業の事業再生等に関する研究会(事務局:全国銀行協会)「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(2022年3月). zenginkyo.or.jp (参照箇所:第三部4(6)、附則。脚注21の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R6 衆議院「第217回国会閣法第33号 法律案等概要:円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律案」. shugiin.go.jp (参照箇所:手続の概要(指定確認調査機関・4分の3以上・裁判所の認可・担保で回収できる部分の除外)。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R7 経済産業省「早期事業再生法の本年12月11日からの施行に向け、Q&A等を公表しました」(2026年6月30日). meti.go.jp (参照箇所:成立時期・施行予定日・省令とQ&Aの範囲。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R8 民事再生法
(平 成十一年法律第二百二十五号). e-Gov 法令検索. laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第53条・第172条の3。脚注23の根拠。閲覧日:2026年10月) - R9 会社更生法
(平 成十四年法律第百五十四号). e-Gov 法令検索. laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第24条・第50条・第196条。脚注24の根拠。閲覧日:2026年10月) - R10 円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律(令和七年法律第六十七号). e-Gov 法令検索. laws.e-gov.go.jp (参照箇所:法律番号・公布日・附則第1条(施行期日の定め方)。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R11 World Bank, Doing Business, “Resolving Insolvency methodology”(Doing Business 2020 の方法論ページ). archive.doingbusiness.org (参照箇所:設例の前提(裁判外の整理を交渉できない、選べるのは裁判上の手続)と回収率の定義。脚注18・19の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。