想定読者:財務三表モデルで貸借対照表を予測するアナリスト・投資銀行・FASの実務家、事業計画の前提を作る経営企画・FP&Aの担当者、上場企業を分析する株式投資家
前提知識:貸借対照表の流動・固定の区分と、成長率の計算(研究の予測方法は本文で説明する)

決算短信を開くと、ある部品メーカーの総資産は前期比で1割強増えている。三表モデルを更新するアナリストは、翌期の資産をどう置くかで手が止まる。増えた中身を見ると、新工場の建設で有形固定資産が膨らんだ会社もあれば、売上の伸び以上に在庫と売掛金が積み上がった会社もある。合計の伸び率が同じでも、翌期に同じ勢いで資産が増えると考えてよいのだろうか。

実務では、資産の伸びを売上や総資産回転率から逆算することが多く、貸借対照表の科目ごとに「伸び方の癖」を確かめる機会は少ない。損益計算書については、利益を項目に分けると予測が良くなるという研究が積み重なってきた。貸借対照表の内訳はどうか。オランダのマーストリヒト大学の研究者2人が、米国企業のデータでこの問いを正面から検証した。

この記事が主に参照する研究

Benjamin Noordermeer、Patrick Vorst(2025)「貸借対照表の分解の情報価値:営業資産の予測から(The Informativeness of Balance Sheet Disaggregations: Evidence from Forecasting Operating Assets)」Management Science 71(11)

  • 公表:SSRN 版の登録は2023年1月(Crossref の記録。SSRN のページは未確認)、同年に欧州会計学会(EAA)で発表。参照した版:掲載版(2025年3月24日オンライン公開)。査読:済
  • データ:米国の非金融企業(金融データ会社 Compustat の収録企業)。係数の推定に1990〜2018年の48,941社・年、予測の検証に2000〜2019年の21,492社・年
  • 方法:構成要素ごとの成長率の予測モデルと合計だけのモデルを、推定に使っていない年で比べる。株価との関係は回帰分析とポートフォリオによる相関の分析で、因果の識別ではない
  • 位置づけ:損益計算書の分解で確立した「予測精度で分解の価値を測る」方法を、貸借対照表に広げた実証研究

資産の​合計で​予測するか、​中身ごとに​予測するか

研究が予測する対象は営業資産である。総資産から現金・短期投資と、投資・貸付などの金融資産を除いたもので、標本企業では総資産の平均84%(中央値90%)を占める1。貸借対照表のうち、事業に使われ、売上を生む資産の部分と考えてよい。負債と相殺した純額ではなく、資産の総額を扱っている。

予測の仕組みは単純だ。ある資産の今年の成長率を前年の成長率に回帰すると、切片は「どの企業にも共通する基礎的な伸び」、係数は「前年の伸びが今年にどれだけ残るか」を表す。係数が大きければ伸びは続きやすく、小さければすぐに基礎的な伸びへ戻る。著者らは各年について過去10年のデータでこの回帰を推定し、直近の成長率に当てはめて翌年を予測した。分解するモデルは構成要素ごとに同じ計算をして、前年末の残高の比率で足し合わせる2。

分ければ必ず良くなるわけではない。合計には、構成要素ごとの誤差が打ち消し合う利点がある。逆に構成要素を別々に予測すると、それぞれの誤差が積み上がる。伸び方の癖が本当に違う項目を分けたときだけ、精度が上がる理屈である3。評価の物差しは、予測した成長率と実際の成長率の差の絶対値(予測精度の指標でいう絶対誤差)だ。

有形固定資産の​伸びは​続き、​流動資産の​伸びは​すぐ​戻る

まず、構成要素ごとの伸び方の違いである。有形固定資産は前年の伸びの25.8%が翌年に残り、無形資産は16.3%だった。これに対して流動営業資産は8.2%、その他の非流動資産は4.7%にとどまる。流動資産の中身を見ると、売掛金は1.4%で、前年にどれだけ伸びたかは翌年にほとんど影響しない。逆に基礎的な伸びは流動資産の方が大きく、売掛金は7.1%、有形固定資産は3.9%だった4。

図1 構成要素ごとの伸び方図1 資産の種類で伸び方の癖が違う前年の伸びが翌年に残る割合(持続係数)米国の非金融企業・2000〜2019年の推定の平均合計だけで予測(集計モデル)営業資産合計基礎成長 6.2%20.8%非流動を分ける4分割(最も正確)有形固定資産基礎成長 3.9%25.8%無形資産基礎成長 0.3%16.3%その他非流動基礎成長 1.8%4.7%流動営業資産基礎成長 6.8%8.2%流動を細かく分けた場合売掛金基礎成長 7.1%1.4%棚卸資産基礎成長 6.3%5.0%その他流動基礎成長 7.0%−4.0%025%
出所:R1(Noordermeer and Vorst, Management Science 2025)​表2パネルA​(PDF p.11)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​各構成要素の​成長率を​前年の​成長率に​回帰した​係数​(棒)と​切片​(基礎成長)で、​2000〜2019年の​各年に​過去10年の​データで​推定した​値の​平均。​持続係数が​大きい​ほど​前年の​伸びが​翌年も​続き、​0に​近いほど​翌年は​基礎成長に​戻りやすい。​その​他流動の​係数は負​(−4.0%)。​係数は​米国企業の​平均で、​日本企業の​値ではない。

著者らは違いの理由を、資産の性質に求めている。会計基準は、実現の時期や測定の方法が違う資産を別々に表示させる。工場や設備は複数年にわたる投資計画で積み上がり、減価償却で少しずつ減るので伸びが続きやすい。流動資産は変動が大きく反転が速いので、伸びの持続性が低く、基礎的な伸びへ戻りやすいという5。

この違いは予測の精度に表れた。表1は分け方ごとの誤差である。有形・無形・その他非流動・流動の4つに分けるモデルが最も正確で、合計だけのモデルに比べて誤差は中央値で8.48%、平均で2.03%小さかった6。改善幅を成長率の%ポイントで見ると、各年の企業ごとの改善の中央値を20年について集約した値で0.71%ポイント(全期間をまとめた誤差の中央値どうしの差では0.67%ポイント)で、1社の予測が劇的に変わる大きさではない。ただ、平均の改善は20年のうち14年で統計的に有意に正(有意に悪化したのは3年)で、48の業種のうち22業種で有意に正、有意に負の業種はなかった(中央値の改善では13年・21業種)。

表1 分け方ごとの営業資産成長の予測誤差

表は横にスクロールできます →

モデル分け方絶対誤差(中央値)絶対誤差(平均)集計比の改善(中央値/平均)
合計だけ(集計)営業資産の合計8.37%16.27%(基準)
流動・非流動2分割8.28%16.25%1.08%**/0.12%(有意でない)
流動を細分売掛金・棚卸資産・その他流動・非流動8.28%16.27%0.84%(有意でない)/−0.06%(有意でない)
非流動を細分有形・無形・その他非流動・流動7.70%15.95%8.48%***/2.03%***
両方を細分6分割7.73%15.99%8.60%**/1.84%***
出所:R1 表2パネルB​(PDF p.11)・表3パネルA​(PDF p.13)・本文​(PDF p.14)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​米国の​非金融企業、​2000〜2019年の​21,492社・​年。​絶対誤差は​予測と​実績の​成長率の​差の​絶対値​(%ポイント)を​プールした​値。​改善率は、​企業ごとの​誤差の差​(集計モデル−各モデル)を​各年で​平均​(中央値の列は中央値)し、​20年の​値の​総平均​(総中央値)を​集計モデルの​絶対誤差で​割った値​(R1 表3の注・脚注13の方法)​で、​論文の​記載値と​一致する。​この​ため、​絶対誤差の​列どうしの​差とは​一致しない。​***は​1%、​**は​5%水準で​有意​(20年の年次値の検定)。​両方を​細分した​モデルは、​非流動だけを​細分した​モデルより​有意に​精度が​低かった。

表1でもう一つ目を引くのは、流動資産を売掛金・棚卸資産・その他に細かく分けても、合計だけのモデルに比べて有意な改善がなかったことである。両方を細かく分けた6分割は、4分割より有意に精度が低かった7。無形資産をのれんとその他に分けても標本全体では改善せず、株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る企業や、事業の導入期・衰退期など減損の可能性が高い企業に限って精度が上がった8。分ける価値があるのは、伸び方の違う資産を分けたときだけだという理屈と整合する。

予測の偏りにも違いがある。合計だけのモデルの予測は平均6.63%、4分割は4.61%で、実績の成長率の分布は右に裾が長い。合計だけのモデルは中央値で見て予測が3.06%ポイント高すぎたが、4分割では0.87%ポイントだった。その代わり、4分割は極端に大きな成長を取りこぼしやすく、二乗誤差で測ると裾の部分では合計だけのモデルに劣る9。

売上への​効き方の​違いと、​株価に​残っていた​情報

資産は売上を生むために持つ。著者らは次に、資産の伸びが売上の伸びにどうつながるかを推定した。4つの寄与を同時に入れた回帰では、流動資産の増加による営業資産成長への寄与が1%ポイント大きいことは、売上成長率が0.905%ポイント高いことと関連していた。同じく有形固定資産の寄与では0.617%ポイント、無形資産は0.360%ポイント、その他の非流動資産は0.007%ポイントで、合計で推定すると0.606%ポイントである。構成要素に分けた推定の方が、売上の伸びをよく説明した(調整済み決定係数37.6%対32.8%)10。

この二つの予測、つまり4分割から導いた売上の伸びと合計から導いた売上の伸びの差で銘柄を10段階に並べると、差が最も大きい(4分割の方が高い成長を予測する)銘柄群は、最も小さい銘柄群より翌年の超過リターンが5.9〜6.1%高かった。損益計算書を分解した利益予測や、発生高・資産回転率・売上総利益率に基づく既知の指標を統制しても、この関係は残った11。上位10%を買い下位10%を売る組み合わせの収益は年7.4〜9.4%だった12。

著者らは、投資家が貸借対照表の内訳を十分に使っていないと解釈し、三つの補強材料を示す。リターンの23〜30%が年4回の決算発表の前後数日に集中していたこと。機関投資家、特に短期売買型の機関投資家の保有が少ない銘柄でリターンが大きく(10.3〜12.2%)、保有が多い銘柄では有意な関係がなかったこと。そして、予測の差が大きかった企業は、予測対象の年に、売上成長率の前年からの変化が6.9%ポイント、営業資産に対する利益率(ROA)の変化が1.8%ポイント大きかったことである。ROAの改善は主に資産の回転(資産回転率)の上昇によるもので、利益率の変化には有意な差がなかった13。

研究の​対象と​方法、​結果を​読む​ときの​限界

結果はすべて、米国の非金融企業、2000〜2019年の予測、米国会計基準の下で得られたものである。予測に使った係数は経済全体で一つにまとめて推定しており、業種や企業ごとの違いは平均に埋もれる(業種・ライフサイクル・規模ごとに推定しても結果は同様だったと著者らは報告している)14。比べたのは前年の伸びから翌年を当てる平均回帰型のモデルに限られ、著者ら自身、別のモデルならさらに細かい分解が役立つ可能性を認めている15。

株価の分析は相関であり、回帰の説明力は小さい(調整済み決定係数は0.1〜1.3%)。売買コストを差し引いた後の結果は、本稿が確認した本文には示されていない。結果の数値は版によって少し動いており、2023年9月の版では十分位の差が6.0〜6.2%だった16。資産の伸びが大きい企業ほどその後のリターンが低いという既知の現象(資産成長アノマリー)とは部分的に重なるとされ、その詳しい検証はオンライン付録にあるが、本稿では付録を確認していない17。

関連する研究と並べると、位置づけが見えやすい。会計上の資産が企業の生産能力について、利益の指標には表れない情報を多く持つことを示した研究があり、本研究はその上に立つ18。損益計算書では、持続性の似た項目まで分けて示すと投資家の意見が割れ、株価の反応がかえって遅れるという研究がある19。流動資産の細分が効かなかった本研究の結果は、この見方と矛盾しない。

大手町​プレップの​考察:分けるべきは​「伸びの続き方」が​違う​資産

ここからは編集部の見方である。研究の結果を予測モデルの作り方に置き換えると、資産の科目を増やすことより、伸びの続き方が違う資産を混ぜないことに意味があると考えられる(仮説)。設備投資は計画が複数年にわたり、今年の伸びが来年の伸びを示唆する。売掛金や在庫は売上と回転日数で決まり、前年の伸びそのものは翌年の手がかりになりにくい。

三表モデルでいえば、流動資産は前年の伸び率を延ばすより、回転日数で​売上から​逆算する方が理にかなう。有形固定資産は、投資計画と減価償却から積み上げるのが基本で、計画が開示されていないときに前年の伸びの一部を残すという置き方には、研究の係数がひとつの目安を与える。総資産を一つの伸び率で延ばす方法は、構成の違いを無視する点で研究の「合計だけのモデル」と同じ弱点を持つ。

株価の結果については慎重に読みたい。著者らの解釈どおり投資家が内訳を見落としていたとしても、米国の2000〜2019年の話であり、売買コスト控除後の結果や、こうした結果が知られた後の変化は、確認した本文では示されていない。実務に持ち帰るべきなのは売買の手法ではなく、予測の前提を資産の中身から点検するという手順の方だと編集部は考える。

日本の​実務への​応用:連結貸​借対照表の​区分を​組み直して​4分割に​近づける

日本の連結財務諸表規則は、固定資産を有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産の3つに分けて記載させる。流動資産も、現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、棚卸資産などの区分で掲記される20。この区分(固定資産の​3区分)を編集部の対応表(表2)で組み直せば、研究の4分割に近い区分を作れる。科目の対応は編集部の読み替えで、日本企業で予測が良くなるかは研究では確かめられていない。ただし研究は投資・貸付を金融資産として除いているので、投資その他の資産から投資有価証券と長期貸付金を差し引く必要がある21。

表2 研究の4分割と日本の連結貸借対照表の科目の対応(編集部の対応表)

表は横にスクロールできます →

研究の区分日本の連結BSでの読み替え注意点
有形固定資産有形固定資産の合計新リース会計基準の適用年度(2027年4月1日以後に始まる年度。早期適用あり)は使用権資産の計上で不連続に増える(短期・少額リースは計上しない簡便な取扱いあり)
無形資産無形固定資産の合計(のれん・ソフトウェア等)日本基準ではのれんを20年以内で規則的に償却する。研究の標本は米国基準(償却せず減損のみ)
その他非流動投資その他の資産から投資有価証券・長期貸付金を除いた残り研究は投資・貸付を金融資産として除く。繰延税金資産・退職給付に係る資産などはここに残る
流動営業資産流動資産から現金及び預金・有価証券を除いた残り売掛金・棚卸資産への細分は、研究では全体として精度を上げなかった
(除く)金融資産現金及び預金、有価証券、投資有価証券、長期貸付金関係会社株式・出資金の扱いは研究に明示がない。含める・除くの両方で計算して差を確かめる
出所:R1(PDF p.9)の​定義、​連結財​務諸表規則第21条・​第23条・​第26条・​第28条・​第30条​(e-Gov 法令検索、​2026年8月7日施行の​版)、​企業会計基準第21号第32項、​企業会計基準第34号​「リースに関する会計基準」の​公表資料​(2024年9月13日)を​基に​大手町​プレップ​作成。​この​対応表は​編集部の​読み替えで、​論文が​示した​ものでも、​研究が​日本企業で​検証した​ものでもない。​一定の​科目は、​資産総額の​1%以下で​一括表示が​適当と​認められるなどの​条件を​満たせば​一括して​掲記できる​ため、​会社に​よって​区分の​細かさが​違う。

日本で注意すべき点が二つある。一つはリースである。企業会計基準第34号により、2027年4月1日以後に始まる年度から、借手は原則として、オペレーティング・リースを含むリースで使用権資産を計上する(短期リース・少額リースには計上しない簡便な取扱いがある。2025年4月1日以後に始まる年度からの早期適用も認められる)22。店舗や物流施設を借りている会社では、適用年度に有形固定資産などが一度に増える。これは事業の伸びではないので、前年の伸び率として翌年に持ち越すと予測をゆがめる。新リース​会計基準の​導入準備で扱った使用権資産の増加額を、成長率の計算から除いておきたい。

もう一つはのれんである。日本基準ではのれんを20年以内で規則的に償却する23。研究の標本は償却せず減損だけを行う米国基準で、無形資産の伸び方の癖も、のれんを分けて効いた条件(減損の可能性が高い企業)も、そのままは移せない。日本基準の会社では、のれんの部分は買収がなければ償却で毎年縮んでいく。PBR1倍割れの会社でのれんが大きい場合は、のれんとそれ以外の無形資産を分けて推移を確かめる価値がある(編集部の推論)。

学習用の​設例:同じ​1割増でも、​中身で​翌期の​予測は​変わる

学習用の設例(架空)

  • X社の前期末の営業資産は10,000百万円(有形固定資産4,000・無形資産1,000・その他非流動1,000・流動営業資産4,000)。前々期末の9,000百万円から1,000百万円(11.1%)増えた
  • ケースAは増加の80%が有形固定資産(新工場)、残りが流動営業資産。ケースBは増加の全部が流動営業資産(在庫と売掛金の積み上がり)
  • 予測式の係数は、研究が報告した米国の平均(図1)を借りる。日本企業の係数ではなく、方法の考え方を確かめるための計算である

合計だけで予測すると、どちらのケースも翌期の営業資産の伸びは8.5%になる。合計の伸びが同じだからだ。4分割で予測すると、ケースAでは有形固定資産が10.4%、流動営業資産が7.2%伸び、全体で7.2%となる。ケースBでは有形固定資産は基礎的な伸びの3.9%にとどまり、前期に33.3%増えた流動営業資産も9.5%に戻るので、全体は5.6%にとどまる。期末の営業資産の予測は、AとBで166百万円違う。

図2 設例 増加の中身と予測図2 設例:同じ伸びでも中身で予測が変わるX社の翌期の営業資産成長率の予測(%)前期の営業資産は+11.1%(どの場合も同じ)567890%20%40%60%80%100%前期の増加のうち有形固定資産の割合合計だけで予測 8.5%5.67.94分割で予測4分割(R1の平均係数を借用)合計だけ(同)
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(X社は架空)。​予測式の​係数は​R1表2パネル​Aの​米国の​平均係数を​借りた​もので、​日本企業に​当ては​まる​値ではない。​前期末の​営業資産は​10,000百万円​(有形固定資産4,000・​無形資産1,000・​その​他非流動1,000・​流動営業資産4,000)で、​前々​期末から​1,000百万円増えた。​横軸は​その​増加の​うち有形固定資産が​占めた​割合で、​残りは​流動営業資産が​増えたとする​(無形資産・​その​他非​流動は​前期に​増えていない)。​4分割の​予測は、​構成要素ごとに​「基礎成長+持続係数×前期の成長率」を​求め、​前期末残高の​比率で​合算した。​R1の​実際の​予測は​年ごとに​推定し直した​係数を​使う​ため、​この​計算は​方法の​考え方を​示すだけである。

図2は、前期の増加のうち有形固定資産が占めた割合を0%から100%まで動かした結果である。合計だけの予測は横一直線だが、4分割の予測は設備の割合が高いほど上がる。売上の伸びの予測に直すと、ケースAは8.2%、ケースBは7.4%で、合計だけのモデルは8.4%になる。4分割の水準が合計だけより低いのは、借りた係数の切片の違いによるところが大きい。読み取るべきなのは水準ではなく、同じ1割増でも中身によって翌期の見通しが変わるという方向である。売上予測の​ドライバー​設計で資産の前提を置くときにも、この見方は使える。

明日から​使える​点検手順

  1. 担当企業の連結貸借対照表から、表2の対応表(編集部の読み替え)で「有形・無形・その他非流動・流動」の4つの営業資産を3期分作る。投資有価証券・長期貸付金・現金及び預金・有価証券は除き、関係会社株式を含める場合と除く場合の両方を記録する。
  2. 4つの前期比成長率を並べ、合計の伸びをどの構成要素が生んだかを寄与(増加額÷前々期末の営業資産)で分ける。合計の伸びの半分以上を流動資産が占めるなら、翌期にその勢いを延ばす前提は置かない(半分という線は編集部の仮の目安で、研究で検証されたものではない)。
  3. 有形固定資産の伸びは、設備投資計画・建設仮勘定の残高・減価償却費と突き合わせる。伸びを延ばすなら、会社に「建設仮勘定のうち翌期に稼働する金額」と「翌期の設備投資計画のうち能力増強の比率」を質問する。
  4. 新リース会計基準の適用年度や大型買収の年は、使用権資産とのれん・買収で受け入れた資産を除いた「実質の伸び」を別に計算し、予測にはそちらを使う。
  5. 総資産を一つの伸び率で延ばしているモデルを見つけたら、流動資産を回転日数に、有形固定資産を投資計画に置き換え、予測が何%ポイント変わるかを記録する。

よく​ある​質問

流動資産は​細かく​分けなくてよいと​いう​ことですか。

研究が​示したのは、​前年の​伸びから​翌年の​伸びを​当てる​平均回帰型の​モデルでは、​売掛金・​棚卸資産などへの​細分が​全体と​して​精度を​上げなかったと​いう​ことです。​回転日数を​使って​売上から​逆算する​予測や、​在庫の​滞留を​調べる​分析で、​内訳が​役に​立たないと​いう​意味ではありません。

研究の​係数を​そのまま​日本企業の​予測に​使えますか。

使えません。​係数は​米国の​非金融企業の​平均で、​会計基準も​市場も​違います。​日本企業に​使うなら、​同じ​方法で​日本企業の​データから​係数を​推定し直す​必要が​あります。​本稿の​設例は、​方法の​考え方を​示すために​米国の​係数を​借りています。

まとめ

米国企業のデータでは、営業資産を有形固定資産・無形資産・その他の非流動資産・流動資産に分けて予測すると、合計だけの予測より誤差が中央値で8.48%小さく、流動資産をさらに細かく分けても精度は上がらなかった。分けた予測と合計の予測の差は翌年の株価リターンと関連していたが、これは相関であり、売買コスト控除後の結果は確認した本文では示されていない。日本の連結貸借対照表は固定資産を3区分で示すので、金融資産を除いて編集部の対応表で組み直せば近い4分割を作れるが、日本企業で予測が良くなるかは未検証である。新リース会計基準の適用年度と、のれんを償却する日本基準の違いに気をつけながら、資産の伸びの中身から予測の前提を点検したい。

脚注

  1. R1(Management Science 掲載版, 2025年)PDF p.9(3節)・p.24(脚注1)。ページは PDF の物理ページ(Articles in Advance の印刷ページは物理ページ−2)。営業資産=総資産−(現金・短期投資+その他の投資・貸付)で、Nissim and Penman(2001)に従う。84%・90%はホールドアウト標本の平均・中央値。版について:SSRN 版(DOI 10.2139/ssrn.4338402)は Crossref の記録で2023年1月27日に登録(SSRN のページは 403 で未確認)。学術誌の受付は2023年5月9日、受理は2024年2月29日(R1 p.3)。↩
  2. R1 p.4(1節)・p.9(3節)。各年について過去10年のデータで、構成要素ごとに成長率を前年の成長率に回帰し、その係数を推定期間の最終年の成長率に当てはめて翌年を予測する(例:2017年の予測には2007〜2016年のデータを使う)。構成要素の予測は前年の営業資産に占める比率で合算する。↩
  3. R1 p.4(1節)・p.7(2節)。合計の予測は構成要素の測定誤差が一部相殺される利点を持ち、構成要素を別々に使うと誤差が増幅しうる(Bermingham and D’Agostino 2014 を引用)。持続性や基礎成長が同じ項目を分けても、精度は同じか悪化するとしている。↩
  4. R1 表2パネルA(p.11)、本文 p.12。数値は2000〜2019年の各年の推定の平均で、持続係数・切片は概ね1%水準で有意(Fama-MacBeth の t 値)。売掛金の持続係数と無形資産の切片は5%水準。その他の流動営業資産の持続係数は負(−0.040)。↩
  5. R1 p.4(1節)・p.7〜8(2節)。著者らは FASB・IASB の概念フレームワークが、実現の時期・形態、リスク、測定基礎、活動の種類が違う項目を分けて表示するよう求めることを、持続性の違いの理由に挙げる。流動資産は変動が大きく反転が速い一方、有形固定資産は多年度の投資と減価償却で持続性が高いとする(著者の説明)。↩
  6. R1 表2パネルB(p.11)・表3パネルA(p.13)・本文 p.14・脚注13(p.25)。改善率は、企業ごとの絶対誤差の差(集計モデル−4分割)を各年で平均(中央値)し、その20年の値の総平均(総中央値)とした0.0033(0.0071)を、集計モデルの絶対誤差の平均16.27%(中央値8.37%)で割った値で、本稿の再計算は論文の記載値(2.03%・8.48%)と一致する。年・業種の数は5%水準で有意な年(20年中)・業種(Fama-French 48業種中)の数で、平均の改善では正14・負3年、正22・負0業種、中央値の改善では正13・負4年、正21・負0業種。表2パネルBの誤差の中央値はプールした値で、その差(8.37−7.70=0.67%ポイント)は表3の0.71とは集計の仕方が違う。↩
  7. R1 表3パネルA(p.13)、本文 p.14。流動・非流動の2分割は中央値でのみ有意(1.08%)。流動資産を細分するモデルは集計モデルに対し平均・中央値とも有意でない。6分割と4分割の差は平均−0.0003、中央値−0.0001で、いずれも有意。↩
  8. R1 表3(p.13)・表4(p.15)、本文 p.14。のれんの分割を検証できたのは13,187社・年。4分割に対する改善は全体では平均・中央値とも有意でない。PBR1倍未満、固有リスク・リストラ費用が上位の十分位、ライフサイクルの導入期・淘汰期・衰退期で有意に正。著者らは FASB ののれん減損テストの簡素化と整合すると解釈している(p.6)。↩
  9. R1 表1(p.10)・表2パネルB(p.11)、本文 p.9・p.12、脚注12(p.25)。符号付き誤差(予測−実績)の平均は集計−2.43%、4分割−4.45%で、平均では4分割の方が偏りが大きい。二乗誤差の上下1%を除くと分解モデルが集計モデルを上回るとしている。↩
  10. R1 表5(p.16)、本文 p.15〜17。売上成長率を、構成要素の寄与(構成要素の増加額÷前年の営業資産)に同時に回帰した係数の平均。単位は寄与1%ポイント当たりの売上成長率の%ポイントで、他の構成要素を一定とした統計的な関連であり、因果効果ではない。切片は4分割0.030、集計0.032。営業利益の成長で推定しても同様の結果だったとしている(脚注15, p.25)。↩
  11. R1 表6パネルA(p.18)、本文 p.17。被説明変数は会計年度開始4か月後からの12か月の買い持ちリターンで、市場(CRSP 時価加重)または Fama-French の5ファクターで調整。予測差の十分位(0〜1)の係数は統制変数を入れて0.059・0.061で、最上位と最下位の差に当たる。統制変数は PBR・時価総額・ベータ・モメンタム、損益計算書の分解による ROA 予測(Fairfield ら1996の方式)、発生高、資産回転率・利益率の変化と予測、売上総利益率など。↩
  12. R1 表6パネルB(p.18)、本文 p.17。上位・下位10%の組み合わせで、市場調整は年9.4%、5ファクター調整は年7.4%。20%・30%に広げると小さくなる。売買コストを差し引いた結果は本文に見当たらない(編集部の確認)。↩
  13. R1 表7(p.19)・表8(p.21〜22)・表9(p.22)、本文 p.19〜20。決算発表前後3日(5日)で最上位と最下位の差は1.4%(1.8%)。機関投資家の保有が中央値未満の銘柄では7.9〜9.8%。表9の ROA は減価償却後の営業利益÷前年の営業資産、資産回転率は売上高÷前年の営業資産で、最上位と最下位の変化の差は ROA 0.018、資産回転率0.300(回)、売上成長率の変化0.069(最下位−0.049、最上位0.020)、利益率−0.003(有意でない)。変化(∆)は予測対象の年における前年からの変化で、売上成長率そのものの水準の差ではない。↩
  14. R1 p.9(3節)・脚注7(p.25)。推定期間を6・8・12年にしても、業種・ライフサイクル・規模別に推定しても同様の結果だったとしている。標本は細分したモデルの構成要素がすべて100万ドル以上の企業(その他の流動・非流動の営業資産は合計額で判定。検証標本では前期の値で判定。脚注9・10、p.25)で、営業資産の成長率の絶対値が100%を超える観測値(大型買収など)を除いている。↩
  15. R1 p.6(1節)。リスクの推定やスチュワードシップなど、予測以外で分解が役立つ場面も扱っていないと著者らは書いている。↩
  16. R1 表6(p.18)の調整済み決定係数は0.001〜0.013。2023年9月版(R2)の4.3節は十分位の差を6.0〜6.2%、機関投資家の保有が少ない銘柄を8.1〜9.8%としている(掲載版は5.9〜6.1%・7.9〜9.8%)。本稿は掲載版の数値を使う。予測精度の主要な値(2.03%・8.48%、標本21,492社・年)は両版で同じ。↩
  17. R1 4.6節(p.23〜24)。資産成長アノマリーの変数を加えても、予測差の係数は4つの仕様のうち3つで有意に正だったとしている。詳細はオンライン付録の3節(未確認)。↩
  18. R3(Chen, Schipper and Zhang, The Accounting Review 2022)の要旨(出版社が Crossref に登録したもの)。本文は未確認。R1 は同論文を出発点として引用している(p.3・p.7)。↩
  19. R4(Holzman, Marshall, Schroeder and Yohn, Review of Accounting Studies 2021)の要旨(IDEAS/RePEc 掲載)。本文は未確認。業種ごとに推定した持続性が売上と変わらない利益項目を「同質」とし、その分解が多いほど決算発表時の意見の不一致と発表後の株価の漂流(ドリフト)が大きいとしている。↩
  20. R5(連結財務諸表規則、e-Gov 法令検索、2026年8月7日施行の版)第21条・第23条。棚卸資産は一括表示して内訳を注記することもできる(第23条第4項)。↩
  21. R5 第26条・第28条・第30条。投資その他の資産は投資有価証券・長期貸付金・繰延税金資産・退職給付に係る資産・使用権資産・その他の区分で掲記する。研究の金融資産(Compustat の CHE と IVAO)と日本の科目の対応は編集部の読み替えで、論文が示したものではない。↩
  22. R7(企業会計基準委員会、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表にあたって、2024年9月13日)p.7・p.20。借手はファイナンス・リースかオペレーティング・リースかにかかわらず使用権資産を計上する。ただし、短期リース(借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まないもの)と少額リースは、使用権資産・リース負債を計上せず費用処理する簡便な取扱いが認められる(同 p.8)。使用権資産は、対応する原資産の区分に応じて有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産のいずれかに表示されうる(R5 第26条・第28条・第30条)。↩
  23. R6(企業会計基準委員会、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」、最終改正2019年1月16日)第32項。のれんの金額に重要性が乏しい場合は、発生した年度の費用とすることもできる。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。