想定読者:創業家が経営に関わる上場企業の経営企画・IR・総務(株主総会)部門、アクティビスト対応や買収防衛の助言を担うFA・証券会社・弁護士、アクティビズムを分析するアナリスト
前提知識:株主総会の決議と取締役の選任、株価の超過リターンの考え方(研究の用語は本文で説明します)

創業家の会長と、その長男の副社長が取締役会に座る上場企業がある。一族の持株は合わせて2割に満たないが、社内では「うちは創業家がいるから、アクティビストには狙われにくい」と言われてきた。ある朝、海外のファンドが5%を超えて株を買い増したことが大量保有報告書で明らかになる。経営企画とIRが最初に知りたいのは、この「狙われにくい」という通説にどれほど根拠があるのか、そして狙われた以上、どのような要求と手段を覚悟すべきかだろう。

この二つの問いに米国のデータで答えたのが、ペンシルベニア大学ウォートン校の研究者らによる論文「Hedge fund activism in family firms」である。2022年に旧題で学会発表され、2024年に経営戦略論の査読誌に掲載された1。本稿では研究の事実と限界を確かめ、日本の制度との違いを踏まえて、オーナー企業と助言者の点検手順に落とす。

この記事が主に参照する研究

Emilie R. Feldman、Raphael (Raffi) Amit、Siwen Chen(2024)「同族企業へのヘッジファンド・アクティビズム(Hedge fund activism in family firms)」Strategic Management Journal 45巻7号

  • 公表:2022年に旧題「Clash of the Titans: Shareholder Activism in Family Firms」で学会発表(同年7月に投稿)。2024年2月にオンライン掲載。参照した版:掲載版(オープンアクセス、CC BY 4.0)。査読:済
  • データ:2010〜2018年にFortune 500に入った米国の上場企業631社・5,100企業年。創業家の関与を委任状説明書から手で集め、アクティビストのキャンペーン635件と照合
  • 方法:標的になったかどうかのロジット回帰、公表時の超過リターンの回帰、傾向スコア・マッチング(観測できる特性をそろえた比較)。相関の分析で、因果の識別ではない
  • 位置づけ:「問題」と「介入しやすさ」の組み合わせで標的が決まるという既存の議論を、同族企業という新しい手集めのデータで検証した実証研究

同族企業の​定義と、​この​研究で​使う​二つの​物差し

研究は、創業者または血縁・婚姻でつながる一族が、その年の委任状説明書で役員、取締役、5%を超える大口株主のいずれかに名前がある企業を同族企業と呼ぶ。米国の大企業の家族経営研究で広く使われてきた定義で、一族の持株が少なくても、取締役に一人いれば同族企業に入る2。日本でいう「オーナー企業」より範囲が広い。

アクティビストの側は、FactSetのデータベースからキャンペーンを拾い、社会・環境・政治の要求だけのものや、年金基金・労組などによるものを除いている。対象は経済的な要求を掲げたアクティビスト・ヘッジファンドの介入である3。

物差しの一つ目はオッズ比である。「標的になる見込みが41%低い」という表現は、確率ではなく、オッズ(標的になる確率÷ならない確率)の比が0.59倍だという意味だ。確率が小さければ両者はほぼ同じだが、大きくなるほどずれる(設例で確かめる)。二つ目はCAR(累積超過リターン)で、キャンペーン公表の前日から翌日までの3日間に、市場全体との関係から予想される値を上回った株価の上昇を足し合わせたものだ4。超​過リターンは、その時点で投資家が介入の価値をどう見積もったかを映すが、その後の業績の実績ではない。

標的に​なりにくいのは、​一族が​取締役会に​いる​ときだった

単純な数え上げでも差は見える。期間中に一度でも標的になったのは、非同族企業では半分を超えたが、同族企業では約3分の1だった5。規模、収益性、レバレッジ、多角化、CEOの属性、取締役会の構成、機関投資家の保有、二重議決権株式などを統制し、業種と年の固定効果を入れた回帰でも、同族企業の係数は−0.527(p=.006)で、オッズ比に直すと標的になる見込みは約41%低い6。一方、標的になった場合の公表時3日間のCARは、同族企業のほうが2.0%ポイント高かった(p=.025)7。

実務上の示唆が最も大きいのは、同族企業の定義を15通りに分けて推定し直した部分である。一族が取締役にいることを含む定義の多くで、標的になる見込みは低く、CARは高かった(条件を最も絞った定義では、標的化の差は10%水準、CARの差は有意でない)。取締役に一族がいるという定義だけで約36%、取締役か大口株主に一族がいて役員にはいない定義で約38%低い。これに対し、一族が大口株主である、役員である、CEOである、最大株主や最大の議決権保有者である、といった取締役会を条件にしない定義では、非同族企業との間に統計的に有意な差がなかった8。図1は、うち10通りをオッズ比で並べたものだ。

図1 同族の定義別の標的化オッズ比図1 標的になるオッズ比(同族の定義別)非同族企業=1。1未満=標的になりにくい0.00.51.01.5一族の取締役を含む定義一族が取締役0.64(p=.018)取締役か大口株主(役員なし)0.62(p=.037)第2世代以降が関与0.62(p=.023)一族取締役・保有5%未満0.41(p<.001)一族取締役・議決権33%未満0.68(p=.036)取締役会を条件にしない定義一族が5%超の大口株主1.28(p=.286)一族が役員0.77(p=.217)一族がCEO1.14(p=.562)一族が最大の議決権保有者0.99(p=.956)一族が最大株主0.96(p=.874)濃い青=5%水準で有意、薄い青=有意でない金の縦線=1(非同族企業と同じ)オッズ比は係数から編集部が計算
出所:R1(Strategic Management Journal 掲載版, 2024年)​表2(p.14〜15)・表3(p.16)の​係数と p 値を​基に​大手町​プレップ​作成。​オッズ比は​係数の​指数​(exp)を​とった​編集部計算。​各定義は​別々の​ロジット回帰​(企業年単位、​表1と​同じ​統制変数、​業種と​年の​固定効果)。​標本は​2010〜2018年に​Fortune 500に​入った​米国の​上場企業631社。​論文の​15通りの​定義の​うち10通りを​表示。​「一族の取締役を含む定義」の​区分は​論文 p.13 の​列挙に​従う​(第2世代以降の​一族が​役員・​取締役・​大口株主の​いずれかに​当たる​定義を​含む)。​相関の​分析で、​因果の​識別ではない。

さらに著者らは、取締役に一族がいて、なおかつ一族の持株が1%・5%・10%未満、議決権が20%・33%未満という企業に絞っても、標的になりにくくCARが高いという結果が残ることを示した(議決権20%未満の標的化だけは10%水準)9。一族の取締役が1人増えるごとに、標的になるオッズは約20%低いという推定もある10。著者らはここから、障壁は持株や議決権ではなく取締役会の一族であり、一族が取締役会を押さえると経営の問題が株主の判断の場に出てこないのではないかと解釈する11。

標的に​なった​同族企業では、​戦術が​強く、​要求は​事業の​形に​向かう

狙われにくいことは、狙われたときに穏やかであることを意味しない。キャンペーン単位で見ると、同族企業に対しては、経営陣との要求交渉のオッズが約2.2倍、取締役の要求が約3.9倍、委任状争奪戦が約3.1倍だった12。強硬な特定のファンドが同族企業を多く狙っているだけではないかという疑問には、両方の標的で上位10のアクティビストのうち9が共通だと示している13。

戦術ごとの費用を先行研究の単価で換算すると、1件当たりの平均費用は同族企業で3.70百万ドル、非同族企業で3.18百万ドルと、前者が約16%高い(p=.019)。期間は124日と112日で、差は有意でなかった14。費用が高いうえに成功しにくければCARの差は消えるはずだが、結果は逆で、同族企業に対しては委任状争奪に勝つオッズが約12倍、取締役の席を得るオッズが約8倍だった。ただしこれは補足資料の表に基づく本文の記述で、本稿では表そのものは確認できていない15。費用を差し引いた公表時リターンでも、同族企業のほうが1.4%ポイント高かった16。

要求の中身にも偏りがある。同族企業に対して有意に多かったのは、事業の売却・分割、会社そのものの売却・合併、取締役の席、買収防衛策の撤廃だった。戦略的選択肢の検討、役員の解任、報酬、資本構成、配当や自社株買いによる株主還元の要求には、統計的に有意な差がなかった17。著者らはこれを、同族企業が抱えがちな無関連な多角化や非中核事業の抱え込み、経営の固定化といった問題の核心に向かう、より本質的な要求だと解釈し、同族企業ではアクティビズムの費用と効果が敵対的買収に近づくと論じる18。表1に主な数値をまとめた。

表1 研究が示した主な数値

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項目数値補足出所
標的になるオッズ(同族÷非同族)0.59倍約41%低い(p=.006)。企業年3,500表1
公表時3日間のCARの差+2.0%ポイントp=.025。キャンペーン445件表1
一族が取締役(定義D)のオッズ比0.64倍約36%低い。CARの差+2.1%ポイント表2
一族が大口株主(定義B)のオッズ比1.28倍有意でない(最大株主・役員・CEOも同様)表2
要求交渉/取締役の要求/委任状争奪2.2/3.9/3.1倍同族企業に対するオッズ比表4
1件当たりの平均費用3.70/3.18百万ドル同族/非同族(p=.019)。先行研究の単価で換算p.16
委任状争奪の勝利/取締役の獲得約12倍/約8倍オッズ比。補足資料の表に基づく本文の記述p.18
同族企業に多い要求4種類事業の売却・分割、会社の売却、取締役の席、防衛策の撤廃表5
有意差を確認できなかった要求—戦略的選択肢の検討、配当・自社株買い、資本構成、報酬など表5
出所:R1(Strategic Management Journal 掲載版, 2024年)​表1・​表2・​表4・​表5(p.11・14〜15・17・20)、​p.16・​p.18 を​基に​大手町​プレップ​作成。​標本は​2010〜2018年に​Fortune 500に​入った​米国の​上場企業631社・​キャンペーン635件​(回帰の観測数は表ごとに異なる)。​オッズ比の​うち小数で​示した​ものは​係数からの​編集部計算。​いずれも​相関の​分析で、​因果の​識別ではない。

研究の​対象・方法・​限界

第一に、対象は米国の最大級の企業である。Fortune 500に一度でも入った企業に限られ、中堅の上場企業や、米国以外の制度は含まない。基本の回帰の観測数は企業年3,500、キャンペーン445件で、表によって件数が異なる(減少の理由は本文に書かれていない)19。第二に、すべて相関の分析である。非同族企業の定義を変えたり、傾向スコア・マッチングで観測できる特性をそろえたりしても結果は保たれたが、観測できない違い(たとえば一族と経営陣の関係の質)による偏りは取り除けない20。

第三に、問いの後半にある「標的になった同族企業の業績はどうなるか」に、この研究は直接は答えていない。測ったのは公表前後3日間の株価反応で、介入後の利益率や長期の株価は分析していない。著者ら自身も、投資家のほうがアクティビストより介入の成果に楽観的である可能性や、従業員など株主以外への影響を、今後の課題として挙げている21。

この空白を埋めようとする後続研究として、Heng AnとXu Niuが2025年にSSRNで公表した論文がある。要旨によれば、同族企業は標的になりにくい一方、公表時の株価反応はより大きく、三重差分の推定で、介入による改善も同族企業で大きかった。価値を生む経路として、業績の向上、被買収の可能性の上昇、情報の透明性の改善を挙げている22。本稿では要旨しか確認できず、効果の大きさや標本は未確認で、未査読である。

大手町​プレップの​考察:​「狙われにくい」は​安全の​保証ではなく、​選別の​強さを​表す

以下は編集部の推論で、論文が検証したものではない。研究の二つの結果を合わせると、同族企業はアクティビストにとって「入口の狭い標的」だと読める。入口が狭いので、来るのは問題が大きく、費用をかけても回収できると見込んだ場合に限られる。著者らの言葉を借りれば、非同族企業への介入は低リスク・低リターン、同族企業への介入は高リスク・高リターンの組み合わせになる23。

そう考えると、「創業家がいるから狙われにくい」という認識は半分は正しく、半分は危うい。標的になる頻度は下がるかもしれないが、実際に来たアクティビストは、委任状争奪と取締役の席、事業や会社の売却まで視野に入れている可能性が高く、一般株主はその公表を好意的に受け止めやすい。標的になったときの深刻さを事前に見積もっておく理由がここにある。

もう一つ、研究には解けていない緊張がある。著者らが挙げる問いは、同族企業への介入で公表時に約2%ポイント多く得られるのに、なぜ同族企業をもっと狙わないのか、他の投資家が支持するのに、なぜ強硬な手段が要るのか、である。著者らは、投資家のほうがアクティビストより変革の見通しに楽観的なのかもしれないと推測する24。これとは別に編集部は、前に見た勝率の高さを、勝てそうな案件だけが選ばれて始まった結果(選別)として読めると考える。そうであれば、来た時点で会社側の票はすでに読まれていると考えたほうがよい。

日本の​実務への​応用:取締役会の​壁は、​日本では​低い​可能性が​ある

研究が描いた米国の構図を日本に持ち込むとき、まず違うのは取締役の選び方である。会社法では取締役の任期は2年以内(監査等委員会設置会社の監査等委員でない取締役と、指名委員会等設置会社の取締役は1年)で、株主総会はいつでも決議で取締役を解任できる。選任・解任は原則として、議決権の過半数(定款で3分の1まで下げられる)を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数(定款で引き上げ可)で決まる25。取締役会設置会社では、議決権の1%以上か300個以上を6か月前から持つ株主が議案を出せ、3%以上を6か月前から持てば総会の招集を請求できる26(要件の詳細は株主提案権の​行使要件を参照)。

ここから導けるのは仮説であって、研究の結論ではない。日本では、一族が取締役の席を持っていることそのものより、総会での票の構成、つまり一族・取引先・持ち合い先など会社側に付きやすい株主がどれだけいるかが、介入の成否を左右しやすいのではないか。研究で有意な差を確認できなかった持株・議決権の側が、日本ではより効く可能性がある。一方、著者らが可能性として論じた「一族の取締役会のもとで問題が株主の場に届かない」という経路は、日本でも取締役会の運営として起こりうる。政策保有株式の​解消が進むほど前者の守りは薄くなり、後者の問題が表に出やすくなる、と編集部は見ている。

制度の側では、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)が、支配株主を有するプライム市場の上場会社に、支配株主から独立した独立社外取締役を過半数(その他の市場では3分の1以上)選任することを求める。適切な場合は、利益相反取引を審議する独立した特別委員会の設置で代えることも考えられるとされる27。一族が多く座る取締役会は、少数株主との利益相反の監督について説明を求められる(コーポレートガバナンス・​コード、社外取締役も参照)。

オーナー企業の経営企画・IRにとっては、研究で同族企業に多かった要求(事業の売却・分割、会社の売却、防衛策の撤廃)が、自社のどの事業・資産に当てはまるかを先に洗い出すことが中心になる。還元の積み増しでは応えられない要求である。日本のアクティビストの要求の実態は株主提案の​データ分析、標的になりやすい財務の特徴は標的企業の​財務指標の​記事で整理している。

アクティビスト対応を担うFAにとっては、オーナー企業の案件ほど、要求交渉にとどまらず取締役候補の提案や委任状争奪まで進む前提で、日程と票読みを組む必要がある。票読みは議決権行使助言会社の​推奨と​票読みの​記事、キャンペーンの段階はアクティビストキャンペーンの​実務プロセスを参照。公表時の株価反応が大きいことは、一般株主が会社側の現状維持よりアクティビストの提案に価値を見ていることを示唆する。会社側の反論は、事業ごとの価値を示す数字(SOTP評価など)で組み立てないと支持を得にくい。

学習用の​設例:オッズ​比の​読み方と、​介入が​割に​合う​条件

まず、論文のオッズ比0.59を確率に直す。表2は、非同族企業がある年に標的になる確率を仮に置き、同じオッズ比の同族企業の確率を計算したものだ。基準の確率を10%と置くと同族企業は6.2%で、確率で見た低下は約38%と「約41%」に近い。基準が40%のように大きいと、同族企業は28.2%で、低下は約29%にとどまる。数字を社内で引用するときは、オッズの比であることを添えたい。

表2 設例:オッズ比0.59を確率に直す

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非同族企業の確率(仮定)同族企業の確率確率で見た低下
5%3.0%40%
10%6.2%38%
20%12.9%36%
40%28.2%29%
出所:R1 表1列1(p.11)の​係数−0.527から​求めた​オッズ​比0.59と、​学習用の​仮定​(非同族企業がある年に標的になる確率)に​基づき大手町​プレップ​作成。​同族企業の​確率=オッズ​比×p÷​(1−p+オッズ比×p)、​p は​非同族企業の​確率。​他の​条件が​同じ​企業どうしの​比較を​想定した​計算で、​論文が​示した​確率ではない。

学習用の設例(架空)

  • アクティビストXは乙社(架空のオーナー企業)の株を時価100億円分保有する。要求が通れば株価がg%上がると見込む
  • 非同族企業に対する介入の費用は4.0億円と置く。同族企業は、論文の平均費用の比(3.70÷3.18=約1.16倍)を当てて4.65億円とする
  • Xが見込む成功確率は、非同族企業で50%、乙社では50%・30%・20%の3通りを置く(いずれも仮定)
  • 介入が割に合う条件:成功確率×保有時価×(g÷100)≧ 費用。等号のときのgを損益分岐の上昇率とする(時間価値と株の売却の費用は考えない)

図2のとおり、非同族企業の損益分岐は8.0%である。費用の上乗せだけなら乙社の損益分岐は9.3%で大差ないが、成功確率を30%と見込むと15.5%、20%なら23.3%に跳ね上がる。この設例で置いた変化幅では、費用の上乗せより成功確率の低下のほうが損益分岐を大きく動かす。

図2 設例 介入の損益分岐図2 設例:介入の損益分岐の株価上昇率保有時価100億円のアクティビストX(架空の数値)0%10%20%30%非同族企業費用4.0億円・成功50%8.0%同族企業(乙社)費用4.65億円・成功50%9.3%同族企業(乙社)費用4.65億円・成功30%15.5%同族企業(乙社)費用4.65億円・成功20%23.3%損益分岐=費用÷(保有時価×成功確率)同族の費用は論文の平均費用の比で上乗せ成功確率はすべて仮定
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成(アクティビストX・乙社は架空)。​Xの​保有時価100億円、​非同族企業に​対する​介入の​費用4.0億円と​成功確率50%は​仮定。​同族企業の​費用4.65億円は、​R1(p.16)の​1件当たり​平均費用​(同族3.70百万​ドル、​非同族3.18百万​ドル)の​比 約1.16倍を​当てた​仮定の​置き方で、​論文が​円建ての​費用を​示した​ものではない。​同族企業の​成功確率50%・30%・20%は、​介入前に​Xが​見込む​確率の​仮定​(R1 の​理論は​同族企業で​事前の​見込みが​低いと​するが、​数値は​示していない)。​時間価値と​株の​売却の​費用は​考えない。

経営企画とIRは、図2の水準の改善余地が非中核事業の売却価値から来るのか、会社全体の売却価値から来るのかを、相手より先に数字で示せるかを問われる。数値は学習用の仮定で、実在のファンドの採算や論文の推定ではない。

明日から​使える​確認項目

  1. 自社が研究の定義で同族企業に当たるかを確かめる。基準は「創業者または一族が役員・取締役・5%超の大口株主のいずれか」。取締役に一族が何人いるかも数える
  2. 研究で同族企業に多かった要求を、自社の事業に当てはめる。セグメントごとに「売却・分割を求められたら何と答えるか」「会社全体の売却の打診にどう答えるか」を1枚にまとめ、事業別の価値の試算を添える
  3. 総会の票の構成を数字で持つ。一族、取引先・持ち合い先、国内外の機関投資家、個人の保有比率と、過去の総会の出席率から、会社側議案の賛成率の下限を試算する。政策保有株式の売却予定があれば反映する
  4. 取締役会の独立性を説明できるかを点検する。支配株主がいる場合は、独立社外取締役の比率がCGコードの水準に達しているか、達していなければ特別委員会による代替の対応や未実施の理由を説明できるか
  5. FAは、オーナー企業の案件では要求交渉から委任状争奪までを一つの日程表に載せ、公表時に株価が大きく反応した場合に一般株主の賛否がどう動くかを、シナリオ別に見積もる

よく​ある​質問

創業家が​大株主であれば、​アクティビストに​狙われに​くいのですか。

米国の​大企業を​対象に​した​研究では、​一族が​大口株主であるだけでは、​標的に​なる​見込みに​統計的に​有意な​差が​ありませんでした。​差が​出たのは​一族が​取締役会に​いる​場合です。​日本は​取締役の​選任・解任の​制度が​違う​ため、​そのまま​当ては​まるとは​限りません。

標的に​なった​同族企業の​業績は​良くなるのですか。

主に​参照した​研究は、​公表前後​3日間の​株価反応が​非同族企業より​大きい​ことを​示しましたが、​介入後の​業績は​分析していません。​後続の​未査読の​研究は、​要旨で​同族企業の​業績の​改善が​大きいと​していますが、​本稿では​数値を​確認できていません。

まとめ

2010〜2018年の米国の大企業を対象にした研究では、アクティビスト・ヘッジファンドが同族企業を標的にするオッズは非同族企業より約41%低く、その差は一族の持株ではなく取締役会の一族と結びついていた。一方で、標的になった同族企業には委任状争奪や取締役の要求といった強い手段がとられ、要求は事業や会社の売却に向かい、公表時の株価反応は約2.0%ポイント大きかった。介入後の業績は検証されておらず、日本では取締役の選任と解任の仕組みが異なる。オーナー企業は「狙われにくい」ことを安心材料にせず、狙われたときに問われる事業の価値と票の構成を、先に数字で持っておきたい。

脚注

  1. R1 p.1(受付2022年7月25日、改訂2023年11月8日、受理2024年1月4日)・p.24(謝辞:INSEAD・Columbia Business School の家族企業の会議、2022年の Academy of Management 年次大会など)。旧題と2022年の発表は R2(第1著者の CV。2022年6月版の Working Papers・発表一覧、2026年4月版の発表一覧)による。2020年5月版の CV には進行中の研究として題名だけが載る。SSRN などの WP 版の公開は確認できなかった。オンライン掲載日は掲載誌の DOI 登録(2024年2月11日)。↩
  2. R1(Strategic Management Journal 掲載版, 2024年)p.9〜10(3.1節・3.2.2節)。定義は、創業者または血縁・婚姻による一族が、その年の委任状説明書(proxy statement)で役員(officer)・取締役・受益所有5%超の大口株主のいずれかに個人または一族として記載されている企業。創業家の特定は企業サイト・訃報・Wikipedia 等、役職・保有・支配構造は SEC への提出書類から研究者が手で収集。本記事のページは PDF の物理ページ(p.1=誌面1273。以下同じ)。↩
  3. R1 p.9(3.1節)。FactSet SharkWatch で2010年1月1日〜2018年12月31日に公表されたキャンペーンを収集し、社会・環境・政治の要求だけのもの、年金基金・元取締役・労組によるものを除外。250社に対する635件。経済的な要求とあわせて社会・環境・政治の要求を含む23件は残している(p.9 脚注5)。↩
  4. R1 p.9〜10(3.2.1節)。推定期間は公表日の800〜551営業日前の250日、イベント期間は公表日の前日〜翌日の3日間。別の推定期間・イベント期間でも結果は同様(p.10 脚注7)。オッズ比の説明は編集部による。↩
  5. R1 p.9(3.1節)。期間中に一度でも標的になった企業の割合の単純な比較(統制なし)。↩
  6. R1 表1列1(p.11)、p.12。企業年単位のロジット回帰。統制変数は売上高(対数)、トービンのQ、ROA、資本集約度、レバレッジ、無関連多角化、CEOの属性(交代・兼任・年齢・報酬・持株)、取締役会の規模・持株・在任期間、機関投資家の保有、二重議決権株式、所有と議決権の乖離、G指数、アナリストの数など。2桁SIC業種と年の固定効果、標準誤差は企業でクラスター(p.10)。観測数は企業年3,500。オッズ比 exp(−0.527)≈0.59 は編集部計算で、論文の「約41%」と一致。↩
  7. R1 表1列2(p.11)、p.12。キャンペーン単位の OLS。係数0.020は CAR(割合)の差で、2.0%ポイントに当たる。観測数445件。同時期に配当変更・決算発表・買収などの公表が重なった60件を除いても結果は同様(p.10 脚注6)。↩
  8. R1 表2(p.14〜15)、p.12〜13(4.2.1節)。一族が取締役(D)−0.450(p=.018)、取締役か大口株主で役員なし(行8)−0.484(p=.037)。大口株主(B)0.249(p=.286)、役員(O)−0.266(p=.217)、一族CEO 0.130(p=.562)、創業者CEO・後継者CEO、最大の議決権保有者(行3)−0.014(p=.956)、最大株主(行4)−0.040(p=.874)、最大株主かつ議決権20%以上(行7)はいずれも有意でない。最も条件を絞った行9(最大の議決権保有者で議決権20%以上、一族の役員と取締役が各1人以上、第2世代以降)は −0.530(p=.085)、CAR −0.003(p=.852)で、著者らは該当する観測が少ないため結果が弱まったとする(p.13 脚注9)。各定義は別々の回帰で、統制変数と固定効果は表1と同じ。↩
  9. R1 表3(p.16)、p.13・p.15。取締役に一族がいて、一族の持株が1%未満 −0.600(p=.035)・5%未満 −0.897(p<.001)・10%未満 −0.484(p=.026)、議決権が20%未満 −0.327(p=.074)・33%未満 −0.383(p=.036)。CAR はいずれも正で5%水準以下で有意。↩
  10. R1 p.13 脚注10。一族の取締役の人数を説明変数にした推定。↩
  11. R1 p.13・p.15(4.2.1節)、p.22(5.1節)。著者らは、取締役会の支配によって問題が株主の評価・解決の場に届かない可能性を挙げる。理論の土台は DesJardine, Shi and Marti(2023)の「問題」と「介入の機会」の組み合わせ、支配株主のいる企業でのアクティビズムを論じた Kastiel(2016)で、いずれも R1 の記述を通じて参照(本稿では原典未読)。↩
  12. R1 表4(p.17)、p.15(4.2.2節)。キャンペーン単位のロジット(観測数559)。係数は要求交渉0.798(p=.050)、取締役の要求1.350(p=.003)、委任状争奪1.146(p=.007)。論文は「2倍」「4倍近く」「3倍超」と表記。小数1桁のオッズ比は編集部計算。↩
  13. R1 p.15 脚注11。↩
  14. R1 p.16(4.2.2節)・脚注12。単価は Gantchev(2013)の推定で、要求交渉294万ドル、取締役の要求183万ドル、委任状争奪594万ドル(p.6・p.16)。期間の差は p=.3976。約16%は編集部計算(3.70÷3.18−1)。↩
  15. R1 p.18(4.2.2節)。補足資料の表A4に基づく本文の記述(委任状争奪の勝利 p=.041、取締役の席の獲得 p<.001)。補足資料は掲載誌のサイトにのみあり、本稿では未確認。↩
  16. R1 p.18(4.2.2節)。Gantchev(2013)にならい費用を調整した公表時リターンの差(p=.021)。↩
  17. R1 表5(p.20)、p.18(4.2.3節)。有意に多い要求の係数は、事業の売却・分割2.305(p<.001)、会社の売却・合併・清算2.622(p=.001)、取締役の席1.817(p<.001)、買収防衛策の撤廃1.732(p=.043)。有意でないのは戦略的選択肢の検討1.543(p=.107)、その他のガバナンス、役員の解任、報酬、資本構成、配当・自社株買い −0.221(p=.750)。↩
  18. R1 p.7〜8(2.3.2節)、p.18、p.23(5.1節)。会社支配権市場(敵対的買収)との比較は著者らの議論で、実証したものではない。↩
  19. R1 p.8〜9(3.1節)、表1(p.11)・表2(p.14)・表4(p.17)。706社から非上場の75社を除いた631社・5,100企業年。表1の観測数は企業年3,500・キャンペーン445件、表2の分類ではキャンペーン458件、表4は559件。観測数が異なる理由は本文に明記されていない。↩
  20. R1 p.19〜21(4.3節)。非同族の定義を分散所有の企業、専業的な長期機関投資家のいない企業などに変えた推定(補足表A5)と、1対3の最近傍マッチング(caliper 0.01、補足表A6〜A8)。補足資料は本稿では未確認で、本文の記述による。研究データは共有されていない(p.24 Data Availability Statement)。↩
  21. R1 p.23〜24(5.2節)。分析は公表時の CAR までで、介入後の業績・長期の株価の分析はない(本文・表の範囲で編集部が確認)。↩
  22. R3 の要旨(Crossref に登録された SSRN 5759585 の要旨、2025年11月登録。控えは papers/P0063/related/an_niu_2025_abstract.txt)。本文は未確認で、標本・期間・効果の大きさは確認できていない。未査読(WP)。↩
  23. R1 p.22 脚注15。↩
  24. R1 p.23〜24(5.2節)。著者らは、同族企業への介入で公表時に200ベーシスポイント多く得られるのになぜ介入が少ないのか、投資家が支持するのになぜ強硬な戦術を使うのかを問い、投資家のほうがアクティビストより楽観的である可能性を一つの答えとして挙げる。勝率の結果は p.18(補足表A4に基づく記述)。勝率と事前の見込みの対比、選別による説明は編集部の考察で、著者らが論じたものではない。↩
  25. R4 会社法332条1項・3項・6項(任期)、339条1項(解任)、341条(選任・解任の決議要件)。↩
  26. R4 会社法303条2項(取締役会設置会社の株主提案権。議決権1%以上または300個以上を6か月前から引き続き保有)、297条1項(総株主の議決権の3%以上を6か月前から引き続き保有する株主による招集の請求)。いずれも公開会社の場合で、割合・個数・期間は定款で緩めることができる。↩
  27. R5 原則4-10(PDF p.23)と同原則の解釈指針(PDF p.24。支配株主を有する上場会社は、適切と考える場合には、過半数(その他の市場は3分の1以上)の選任に代えて、支配株主と少数株主の利益が相反する重要な取引・行為を審議・検討する、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置することも考えられる)。プライム市場・スタンダード市場の上場会社はコードの全原則について、実施しない場合に理由を説明する(東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードのページ)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。