想定読者:運用会社のスチュワードシップ・議決権行使の担当者、年金基金の運用担当者、上場会社のIR・総務(株主総会担当)、株主提案やアクティビスト対応を助言するFA・証券会社
前提知識:株主総会の普通決議の要件と、機関投資家による議決権行使の大枠

株主総会の票読みでは、大手の指数運用会社の保有分を一つの塊として扱うのが普通だ。運用会社の行使基準を読めば、その塊が賛成に回るか反対に回るかはおおむね見通せる。ところが米国では、この塊がほどけ始めている。BlackRock・Vanguard・State Street は、ファンドの投資家が運用会社に行使を任せるか、議決権行使助言会社のテーマ別の方針などを自分で選ぶかを決められる仕組みを広げた。BlackRock では2025年第3四半期までに、対象資産の20%超にあたる8,000億ドル超の投資家が自ら行使する側を選んだ1。米議会には、受動運用​(パッシブ運用)のファンドに投資家の指図を集めることを義務づける法案(INDEX Act)も出ている2。

議決権を最終投資家に戻すことは、一見すると民主的で、反対する理由はなさそうに見える。ただ、運用会社は議案を調べたうえで投票しており、その情報を使う票が減るという面もある。本稿では、この二つの面を一つの枠組みで比べた理論研究を手がかりに、日本の運用会社・年金・発行体の実務に何が言えるかを考える。

この記事が主に参照する研究

Andrey Malenko、Nadya Malenko「投票選択(Voting Choice)」Review of Financial Studies(2026年7月に電子版掲載。巻号未付与)

  • 公表:初版 2023年3月(SSRN)。NBER Working Paper No. 31636(2023年8月)。参照した版:ECGI Finance Working Paper No. 910/2023 の改訂版(2026年7月。表紙に同誌掲載予定と記載)。査読:済(学術誌掲載。掲載版との差は未確認)
  • データ:実データは使わない。理論モデルと数値例
  • 方法:投資家と運用会社の行動をゲーム理論で分析し、完全委任・強制パススルー・投票選択の三方式で投資家全体の期待効用を比べる
  • 位置づけ:投資家が一人ずつ委任を選ぶ仕組みを初めて理論で分析した研究(著者の説明)。米国の制度と議論が背景だが、モデルは国を特定しない

三つの​方式と、​票が​運ぶ​二つの​もの

論文は三つの方式を比べる。一つ目の完全委任は、運用会社がすべての投資家の分をまとめて行使する従来の方式である。二つ目の強制パススルーは、全投資家が自分で行使する方式で、INDEX Act が目指す形にあたる。三つ目の投票選択は、各投資家が総会シーズンの前に、委任するか自分で行使するかを選ぶ方式で、現在の大手運用会社の仕組みに近い3。

比較の物差しは、議案の結果が投資家にもたらす効用である。論文はこれを二つに分ける。共通価値は、議案がすべての株主にとっての企業価値を上げるかどうかで、運用会社は調べることで手がかり(信号)を得る。私的価値は、たとえば環境・社会(ES)の議案への立場のように投資家ごとに異なる好みで、運用会社は分布だけを知り、一人ひとりの値は知らない。委任状争奪戦で言えば、アクティビストの経営方針が企業価値を高めるかが共通価値、その方針が環境重視であることへの好き嫌いが私的価値にあたる4。

票は、この二つを同時に運ぶ。運用会社に委任された票は運用会社の情報を運び、投資家が自分で投じた票はその人の好みを運ぶ。投票選択の評価は、この二つの運び手の配分がうまく決まるかどうかにかかっている。

研究が​示した​こと:委任は​多すぎも​少な​すぎも​する

出発点は、投資家の利害が完全に一致し、各自の情報があらかじめ与えられている(情報を集める費用を考えない)基本設定である。この場合、投票選択の下で投資家が選ぶ委任の度合いは、投資家全体の期待効用を最大にする度合いと一致する。情報の乏しい投資家は運用会社に任せ、運用会社より確かな情報を持つ投資家だけが自分で投票するからだ。強制パススルーでは情報のない投資家も投票せざるをえないので、この利点は投資家に選ぶ自由があることが前提になる5。論文は、地域の事情に通じた年金基金のような機関投資家が持つ情報を票に取り込める点を、これまでの議論で見落とされてきた利点として挙げる。

利害が食い違うと話が変わる。投資家は議案について独自の情報を持たず、好みだけが違う設定では、好みがほどほどの投資家は委任し、好みの強い投資家は自分で投票する。好みの強さが一定の水準(運用会社の情報の確かさで決まる)を超えるかどうかで分かれる6。問題は、各投資家がこの判断を自分の損得だけで行い、他の投資家への影響を考えないことにある。論文はその影響を二つに分けた7。

  • 情報効果:ある投資家が委任すると、結果が運用会社の情報に沿いやすくなり、他の投資家の共通価値も上がる。本人はこの便益を自分の持分の分しか考えないので、委任は少なすぎになりやすい。
  • 選好効果:一人の委任で結果が変わるのは票が拮抗している場面に限られる。そうした場面では、委任しない好みの強い投資家のうち運用会社と反対の立場の人が多いはずで(そうでなければ拮抗しない)、委任は結果をその人たちの好みから遠ざける。この負の影響を考えないので、委任は多すぎになりやすい。

二つの効果は逆向きに働くので、投票選択の下での委任は過少にも過多にもなりうる。どちらが勝つかは投資家の好みの分布で決まる。表1は、論文の結論を条件ごとに整理したものである。

表1 どんな条件で、どの方式が投資家全体にとって望ましいか(論文の結論の整理)

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条件論文の結論理由(論文の説明)根拠
投資家の利害が一致し、情報だけが分散している(情報は所与で、集める費用を考えない)投票選択が最もよい(委任の度合いが厚生を最大にする水準と一致)情報の乏しい投資家は委任し、確かな情報を持つ投資家だけが自ら投票する。強制パススルーでは無情報の票が入る命題1(p.21〜22)
好みが割れ、中位の投資家まで強い好みを持つように広がる完全委任が投票選択に勝ちうる委任が減り、運用会社の情報が使われない損失が、好みを反映する利益を上回る例2(p.31)、p.33
好みが割れ、中央は変わらず、もともと強い投資家だけがさらに強くなる(裾が重くなる)裾が十分重ければ投票選択が完全委任に勝ち、さらに重いと強制パススルーが両方に勝つ。裾が十分薄ければ完全委任が勝つ委任する票の塊が残るので情報の損失は小さい。裾が重いと委任は多すぎ、薄いと少なすぎになる命題2・3(p.32〜33)
情報を集めるのに費用がかかる投資家全体の効用を最大にする均衡に協調できれば、投票選択は完全委任以上。協調に失敗すると、完全委任に劣ることがある委任が減ると運用会社が調べなくなり、さらに委任が減る。誰も委任しない均衡が常に存在する命題4・5(p.39〜41)
運用会社自身に好み(偏り)がある投票選択が偏りを強めうる運用会社と立場の近い投資家ほど委任し、反対の投資家は自ら投票する。接戦では、委任しない投資家の平均的な好みも議案寄りだと運用会社が推論し、偏りが強まる3.3.1節(p.34〜35)
他に情報を集めるのが得意な株主がいる投票選択の弊害は小さい大きなファンドの票がほどけると、他の株主の票が結果を左右しやすくなり、調べる誘因が強まる4.1節(p.41〜42)
出所:R1(ECGI WP 改訂版, 2026年7月)の​命題・​数値例・​拡張を​基に​大手町​プレップ作成​(ページは PDF の物理ページ)。​いずれも​理論モデルの​結論で、​実データで​検証された​ものではない。​「よい」は​投資家全体の​期待効用​(共通価値と私的価値の合計)で​比べた​意味。​完全委任=運用会社が​すべて行使、​強制​パススルー=全投​資家が​自ら行使、​投票選択=各投資家が​どちらかを​選ぶ。

論文の数値例は、好みの分布が広がると何が起きるかを示す。投資家5人、運用会社の信号が正しい確率0.75の設定で、中位の投資家の一部が強い好みを持つように分布を広げると、委任する投資家の割合は60%から30%に下がる。1株当たりの期待効用は、投票選択の下で0.2518から0.2411に下がり、完全委任の0.2500を下回る。好みが多様になったのに、全員に運用会社への委任を求める方式のほうがよくなるという結果である8。図1は、論文の式を使って、委任の閾値を動かしたときの期待効用を編集部が計算し直したものだ。

図1 委任の閾値と投資家の期待効用図1 委任の閾値と投資家の期待効用(例2)投資家5人、運用会社の信号の正確さ0.75縦軸:1株当たり期待効用 横軸:委任の閾値0.200.220.240.260.00.51.01.5完全委任 0.2500投票選択の均衡0.25180.2411分布F(委任率60%)分布G(委任率30%)●■=投票選択の均衡○□=効用が最も高い閾値F:0.71で0.2532 G:0.85で0.2589閾値0(強制パススルー)は図の範囲外F:0.1031 G:0.1453
出所:R1(ECGI WP 改訂版, 2026年7月)の​例2(p.31)の​設定と​式(11)​(p.24)を​用いて​大手町​プレップが​計算。​均衡の値​(0.2518・0.2411)と​完全委任​(0.2500)、​委任率は​論文の​記載と​一致する。​曲線全体と​最適な​閾値・​その​値は​論文に​記載が​なく、​編集部の​計算​(閾値は0.01刻み)。​閾値は​「私的価値の​絶対値が​この​値以下の​投資家が​委任する」と​いう​境目で、​大きい​ほど​委任が​多い​(右端に近づくほど完全委任に近い)。​分布Gは​分布Fより​好みの​散らばりが​大きい​(平均は同じ)。​期待効用は​単位を​持たない​指標。

図1から読み取れるのは二点である。一つは、どちらの分布でも、投票選択の均衡(閾値0.5)は効用が最も高くなる閾値(0.71と0.85)より左、つまり委任が少なすぎる側にあることだ。この例では情報効果が選好効果に勝っている。もう一つは、分布が広い場合でも、委任の境目を仮に最適な位置に置ければ、その部分的な委任(0.2589)は完全委任(0.2500)を上回ることである。問題は投票選択そのものより、委任が足りないことにある。なお、最適な閾値と、その効用の値は論文に書かれておらず、編集部の計算である。

ただし、結論は好みがどう広がるかで逆になる。中位の投資家はそのままで、もともと好みの強い投資家だけがさらに強くなる(分布の裾が重くなる)場合には、委任する票の塊は残るので情報の損失は小さい。裾が十分に重ければ投票選択が完全委任に勝ち、さらに重くなると委任は逆に多すぎになり、強制パススルーが両方に勝つことさえある。裾が十分に薄ければ、完全委任のほうが勝つ9。論文は、ES議案をめぐる分極化の影響は、全員が分極化する型か、裾だけが分極化する型かで異なるとしている。

情報を集めるのに費用がかかると、別の問題も生じる。委任される票が少ないほど、運用会社が議案を調べる誘因は弱まる。調べなくなれば委任する価値も下がり、さらに委任が減る。この循環のため、好みが完全に一致していても、誰も委任せず運用会社も調べない状態が均衡として残り、投資家が運用会社に任せたほうがよい場合でも抜け出せないことがある10。運用会社に自分の好み(たとえばES重視)がある場合には、立場の近い投資家だけが委任するため、投票選択がその偏りを強める。投資家が資金を引き揚げられる場合には、運用会社は資産残高を守るために、投資家全体の利益を下げてでも投票選択を提供しうる11。一方、他にヘッジファンドのような情報を集めるのが得意な株主がいれば、大きなファンドの票がほどけることで彼らの票の重みが増し、調べる誘因が強まるので、投票選択の弊害は小さくなる12。

理論の​前提と、​実際の​参加状況

この研究は理論で、結論はモデルの仮定の範囲で成り立つ。投資家は棄権せず、運用会社は預かった票を分割しない。運用会社は投資家の好みの分布は知るが個々の値は知らず、委任された票の数も見ないで投票する。分析は一回限りの静学で、運用会社と投資家が互いの傾向を学んでいく過程は今後の課題とされている13。本稿で再計算した数値例(例2)も、現実の分布や運用会社の情報の確かさを推計したものではない。

著者は、現実の仕組みが理論の懸念をいくらか和らげる点も挙げる。参加する顧客の多くは機関投資家で、機関はほとんど棄権しない(投資信託の棄権は議案の1%未満という著者の計算)。参加の方法も、議案ごとの直接行使より、助言会社が用意するテーマ別の方針(気候、社会的責任投資、宗教系など)を選ぶ形が中心だ。選べる方針が粗く、議案ごとに選び分けられないことは好みの反映では不利だが、狭いテーマにだけ強い関心を持つ投資家が権利を手元に残す誘因を弱め、運用会社の情報を生かす面がある14。テーマ別方針が実際にどう作られ使われているかは、議決権行使助言会社の​カスタム​推奨を​調べた​研究の​記事で扱った。

実際の参加は、まだ小さい。Vanguard の試行データを分析した別の研究(Brav、Li、Lund、Pan)によれば、2024年7月〜2025年6月の8ファンドの参加率は合計2.8%(ファンド別に1.1〜5.1%)だった15。参加者が選んだ方針は、保有額ベースで Vanguard 自身の方針が35%、取締役会の推奨に従う方針が24%、ESを重視する Glass Lewis の方針が18%、ESの議案に原則反対する Egan-Jones の資産重視型が23%と、両方向に分かれた16。同じ研究は、2025年の賛成率40〜60%の接戦132議案について、全投資家が参加し試行と同じ比率で方針を選ぶと仮定すると、14議案で結果が反転したと試算している。ただし、全員参加という仮定には著者自身も疑問の余地を認めている17。

大手町​プレップの​考察:​「誰が行使するか」は​票の​中身を​変える

以下は編集部の見方であり、論文が検証したものではない。

第一に、投票選択の是非は「民主的かどうか」だけでは決まらない。論文の枠組みに従えば、問うべきは、その議案で票に乗せたいのが情報なのか好みなのかである。取締役の選任や役員報酬のように、株主の利害がおおむね一致し企業価値への影響が争点になる議案では、議案を調べた主体に票を集めたほうが結果の質は上がりやすい。論文も、取締役選任や役員報酬の議案は伝統的に利害がおおむね一致する領域で、情報の違いが中心になる設定に当てはまるとしている。ただし、こうした議案にも投資家が気候や多様性への見方を反映させつつあるという実証も、あわせて引いている18。ES議案のように好みそのものが割れる議案では、好みを反映させる価値が大きくなる。同じ投票選択でも、議案の性質によって評価が変わるはずだ。

第二に、運用会社が投票選択を提供するときは、参加率と方針別の票数を開示することが、受益者と発行体の双方にとって検証の材料になる。委任が減ると運用会社の調査の誘因が下がるという論文の指摘を踏まえると、参加が増えた後も運用会社が議案の調査と対話の水準を保っているかを、受益者側が確かめる手段が要る。

第三に、発行体の票読みでは、運用会社の行使基準だけでなく、その運用会社の顧客が選びうる方針の構成を見る必要が出てくる。拮抗した議案ほど、参加率の小さな変化が結果を左右する。この点は後の設例で確かめる。

日本で​確かめられる​こと:委託会社が​指図する​仕組みと​コードの​要請

日本の公募投資信託では、法律が行使の主体を定めている。投資信託財産として持つ株式の議決権は、投資信託委託会社(運用会社)が行使を指図する19。米国型の投票選択を日本の投信に持ち込むなら、この規定との関係をまず整理する必要があると編集部は考える。本稿の調査では、日本の公募投信で受益者が行使方針を選べる仕組みの有無までは確認していない。

スチュワードシップ・​コード(2025年6月の第三次改訂版)は、機関投資家に対し、すべての保有株式の議決権を行使するよう努めること、行使の方針を定めて公表すること、行使結果を個別の企業・議案ごとに公表すること(適切でない場合は理由を説明)を求めている。議決権行使助言会社を使う場合も機械的に依拠せず、利用するなら助言会社の名称と活用の方法を公表するよう求める20。運用会社が顧客ごとに異なる方針で行使するようになれば、「方針」と「個別の行使結果」の開示をどの単位で行うかが新しい論点になる。

年金側では、日本はすでに「誰が行使するか」を設計している。コードは企業年金などのアセットオーナーに、運用機関の選定や契約の際に議決権行使を含めて求める事項を明示し、大規模なアセットオーナーは運用機関の方針を検証なしに採用しないよう求める21。GPIF は株式を自ら運用することが制度上認められておらず、運用受託機関を通じて議決権を行使し、自らの議決権行使原則で受託機関に個別の行使結果の公表を求めている22。これは、最終的な資金の出し手が原則を示し、行使は情報を持つ運用機関に任せるという形で、論文の言う委任に近い。論文の論理を当てはめれば、年金が自ら行使や指図に踏み込む価値が大きいのは、運用機関より確かな情報を持つ議案か、受益者の利益に照らして運用機関と考えが明確に異なる議案に限られる、という見方になる(編集部の推論)。

学習用の​設例:参加率が​いくらで​結果が​変わるか

学習用の設例(架空)

  • 甲社の会社提案の取締役選任議案。行使された議決権を100とし、棄権・無効はないと置く(行使された議決権を出席株主の議決権とみなす)
  • 大手運用会社X社の指数ファンドが12を持つ。X社の標準方針は賛成
  • その他の株主(88)の賛成率は45.5%
  • X社のファンドの投資家の一部が投票選択に参加し、方針を自ら選ぶ。参加者の選ぶ方針の構成は二通り。ケースAは反対寄りの方針が40%、ケースBは20%(残りは賛成の方針)

参加者がいなければ、賛成率は52.0%で、可決ラインとの差は2.0%ポイントしかない。ケースAでは、参加率が10%ポイント上がるごとに賛成率が0.48%ポイント下がり、参加率が42.5%を超えると否決に転じる。全員が参加すれば47.2%である。反対寄りの方針が少ないケースBでも、参加率が85%を超えると50%を下回り、全員参加で49.6%になる(図2)。

図2 設例 投票選択の参加率と賛成率図2 設例:投票選択の参加率と賛成率甲社(架空)の取締役選任議案縦軸:行使された議決権に対する賛成率44%46%48%50%52%54%0%25%50%75%100%X社の保有分のうち投票選択に参加する割合参考:Vanguardの試行 2.8%52.0%42.5%85%47.2%ケースA:反対寄りの方針 40%ケースB:反対寄りの方針 20%●■=賛成率が50%を下回り始める参加率赤線=可決ライン(50%) 全員参加時:A 47.2%・B 49.6%
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(甲社・X社は架空)。​行使された​議決権を​100とし、​X社の​指数​ファンド12(標準方針は賛成)、​その​他の​株主88(賛成率45.5%)と​置く。​参加者は​賛成の​方針​(X社の標準方針・取締役会賛成型)か​反対寄りの​方針の​どちらかを​選ぶ。​棄権・無効は​ないと​仮定。​参考線の​2.8%だけは R2(p.29 表5)の​実際の​値で、​方針の​構成は R2 の​値ではない。

読み取るべき点は、X社の行使基準が賛成でも、X社の保有分の一部は賛成に入らないかもしれないということだ。参加率を先の Vanguard の試行並みの2.8%に置けば賛成率は51.9%で、ほとんど変わらない。影響が出るのは、参加率が大きく上がり、しかも議案が拮抗している場合である。票読みでは、参加率と方針の構成を幅で置き、結果が変わる点がどこにあるかを確かめておくとよい。

運用会社・​年金・​発行体が​確かめる点

  1. 発行体(IR・総務):大株主の運用会社ごとに、投票選択の仕組みがあるか、自社株を持つファンドが対象か、参加率と方針別の票数を開示しているかを、各社の公表資料で確かめる。対象の範囲が分からなければ、運用会社のスチュワードシップ担当に質問する。
  2. 発行体:拮抗が見込まれる議案では、主要な運用会社の保有分について「標準方針で行使される部分」と「顧客が選んだ方針で行使される部分」を分けて置き、参加率を0%・10%・30%と動かしたときの賛成率を計算する。結果が変わる参加率が現実の範囲内にあるかを見る。
  3. 発行体:顧客が選びうる方針(取締役会賛成型、ES重視型、資産重視型など)の判断基準を読み、自社の議案がどの方針で反対になりうるかを洗い出す。対話の相手は運用会社の担当者だけでは足りなくなることがある。
  4. 運用会社:投票選択を検討するなら、参加率が上がっても議案の調査と対話の水準を保てるか、費用の負担と合わせて決める。コードの個別開示を、標準方針の行使と顧客方針の行使に分けて示せるかを確かめる。
  5. 年金(アセットオーナー):自ら方針を選ぶか運用機関に任せるかは、議案の種類ごとに「運用機関より確かな情報があるか」「受益者の利益に照らして運用機関と明確に考えが違うか」の二つで判断し、その理由を記録する。

よく​ある​質問

投資家に​選ばせれば、​投資家全体の​利益は​必ず​上がるのではないですか。

投資家が​一人だけなら​選択肢が​増えて​損を​する​ことは​ありませんが、​多数の​投資家が​いると、​各自の​選択が​他の​投資家に​及ぼす影響を​誰も​考えないため、​全体では​悪くなりうると​いうのが​この​研究の​結論です23。​利害が​完全に​一致し、​情報を​集める​費用を​考えない​基本設定では​投票選択が​最も​よい​方式に​なりますが、​費用が​かかる​場合は、​利害が​一致していても​協調の​失敗で​完全委任に​劣ることがあります。

​日本企業の​株主総会にも​影響しますか。

米国の​大手運用会社の​ファンドが​日本株を​持っていても、​その​ファンドが​投票選択の​対象か、​日本株の​議案にも​適用されるかは​運用会社ごとに​確かめる​必要が​あります。​日本の​公募投資信託では、​法律上、​運用会社が​議決権の​行使を​指図します。

まとめ

議決権を運用会社に任せるか最終投資家が行使するかは、票に情報を乗せるか好みを乗せるかの配分の問題である。Malenko と Malenko の理論では、投資家の利害が一致し情報を集める費用を考えない基本設定では投票選択は最もよい方式になるが、好みが割れたり情報の取得に費用がかかったりすると、各自の選択が他者に及ぼす影響が無視され、委任は過少にも過多にもなる。好みの分極化の型によって、完全委任が勝つことも投票選択が勝つこともある。米国での参加はまだ小さいが、日本の発行体は票読みの単位を見直す準備を、運用会社と年金は誰がどの議案で行使するかの判断と開示の方法を、今から考えておく価値がある。

脚注

  1. R1(ECGI WP 改訂版, 2026年7月)p.4。R1 は BlackRock が2021年に先行したと書き、R2(ECGI WP, 2026年5月)p.15 は、BlackRock の投票選択に参加する資産を、対象の指数株式3.65兆ドルのうち8,120億ドルとしています(同 脚注10は機関投資家向けの開始を2022年1月とします)。いずれも各社の公表資料に基づく研究者の記述で、本稿は各社の資料を直接確認していません。↩
  2. R1 p.4 と脚注3。2022年に提出され2025年に再提出された法案で、2022年の案は、発行済株式の1%超を持つ受動運用のファンドが、日常的な議案を除き投資家の指図なしに行使できないとしていました。法案の成否は本稿の調査範囲外です。↩
  3. R1 p.5、p.17(1節)。投票選択では、委任の決定は総会シーズンの初めに、個別の議案を見る前に行うとモデル化されています(現行の仕組みに合わせた設定と著者は説明)。↩
  4. R1 p.15〜16(1節、式(1)〜(4))。委任状争奪戦の例と、環境重視のアクティビストの例(2021年の Exxon における Engine No. 1)は論文自身のものです。私的価値の分布は平均0で0の周りに対称と仮定されています。↩
  5. R1 p.21〜22(2節、命題1)、p.6。地域の情報を持つ年金基金の例も同 p.6・p.22 によります。↩
  6. R1 p.24(式(10))。投資家は私的価値の絶対値が 2p−1(p は運用会社の信号が正しい確率)以下なら委任します。↩
  7. R1 p.7〜9、p.26〜29(3.1節、表1・図1)。「情報効果」「選好効果」は論文の用語(information effect、preference effect)の訳です。↩
  8. R1 p.31(例2、式(13)(14))と脚注15。期待効用は議案1件・1株当たりの値で、単位を持たない指標です。強制パススルーは、この例では二つの分布のどちらでも投票選択と完全委任の両方に劣ります。編集部が論文の式(11)で再計算し、委任率と三つの値が小数4桁まで一致することを確かめました。なお、NBER 2023年版の同種の例(例1)は分布と数値が異なります。↩
  9. R1 p.32〜33(命題2・3)、p.8。↩
  10. R1 p.9、p.36(3.3.3節)、p.39〜41(4節、命題4・5)。運用会社が情報を集めず誰も委任しない均衡は常に存在するとされています。↩
  11. R1 p.9〜10、p.34〜36(3.3.1節・3.3.2節)。詳細はインターネット付録(本稿では未確認)にあります。↩
  12. R1 p.10〜11、p.41〜42(4.1節)。↩
  13. R1 p.17、p.37〜38(3.3.4節)、p.44(6節)。運用会社が信号を公表し投資家が自ら投票する方式は投票選択と同じ均衡になる一方、運用会社は勧誘などの規制上の懸念から行使予定を事前に公表しない、とも著者は述べています(p.38 と脚注17)。↩
  14. R1 p.42〜43(5節)と脚注18・19。棄権の比率は、著者が ISS Voting Analytics を使って計算した値とされています。BlackRock の S&P 500 連動 ETF(IVV)の個人投資家は、委任するか助言会社のテーマ別方針を選ぶかで、直接の行使は提供されていないとも書かれています(脚注19)。↩
  15. R2 p.17〜18、p.28〜29(表5 Panel B)。参加率は、ファンドの議決権のうち各方針で行使された割合から著者が逆算した値です。対象は Vanguard の8本の指数ファンドで、試行は招待制でした。↩
  16. R2 p.29(表5 Panel B の合計行)。参加者が選んだ方針の保有額ベースの構成で、残りはミラー投票(他の株主の票の構成に合わせて行使)の0.5%です。Egan-Jones の方針は、企業価値に直接寄与しない環境・社会・政治的な議案に原則として反対するものと説明されています(R2 p.18)。↩
  17. R2 p.29〜31(III部C)。接戦132議案のうち84議案は、可決の閾値に近づくものの結果は変わらないとされています。仮定は、全ファンドで100%の参加、試行と同じ選択比率、試行の投票パターンの維持の三つです。↩
  18. R1 p.18〜19(1節「Interpretation」)。論文は、ES議案で投資家が小口の場合を選好の異質性の設定に、伝統的なガバナンスの議案で顧客が大口の機関投資家の場合を情報の異質性の設定に対応させています。↩
  19. R3 投資信託及び投資法人に関する法律 第10条第1項(e-Gov 法令検索で確認、2026年10月24日)。対象は投資信託財産として有する有価証券に係る議決権などです。↩
  20. R4 金融庁「日本版スチュワードシップ・コード(第三次改訂版)」(2025年6月26日)指針5-1〜5-4(印刷 p.12〜13)。↩
  21. R4 同 指針1-3・1-4(印刷 p.7)。↩
  22. R5 年金積立金管理運用独立行政法人『2024/25年 スチュワードシップ活動報告』(2025年3月)PDF p.11〜12・p.19。国内株式の運用受託機関は1社を除き個別の行使結果を公表している、と同報告書は記載しています(2023年度業務概況書に基づく)。↩
  23. R1 p.17〜18(1節「One vs. multiple fund investors」)。投資家が一人なら投票選択は他の二方式を弱い意味で下回らず、複数の投資家がいると個々の最適な選択が全体の最適と一致しないとされています。利害が一致する場合は命題1(p.21)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。