「M&A支援会社は東京に集中している」——これは体感としては誰もが知っています。しかしどの程度集中しているのかを、人口や企業数と同じ物差しで測った数字はほとんど示されてきませんでした。本記事では大手町プレップFA・M&A仲介会社データベース掲載327社のデータを人口統計・経済センサスと突き合わせ、日本のM&A支援業界の地域偏在を定量化します。

東京都の人口シェア11.6%総務省・東京都統計より算出
東京都の企業数シェア12.3%経済センサス2021
東京都のM&A会社シェア63%掲載327社中206社
東京都のM&A人材シェア78.7%専従者4,148人/5,273人

4つの物差しで測る東京集中

東京都が全国に占めるシェアを4つの指標で並べると、M&A支援業界の偏在ぶりが際立ちます。

人口
12% 総務省・東京都統計
企業数
12% 経済センサス2021
M&A支援会社数
63% 大手町プレップDB
M&A専従者数
79% 大手町プレップDB

図1: 東京都の全国シェア比較(%)。人口・企業数は総務省統計(出典は末尾)、M&A支援会社・専従者は掲載327社ベース。

人口の約11.6%、企業数の約12.3%しか占めない東京都に、M&A支援会社の63%、M&A専従人材の78.7%が集まっています。企業数シェアとの比率で言えば、東京のM&A支援会社の「密度」は全国平均の約5倍、人材密度では約6倍です。しかも会社数シェア(63%)より人員シェア(78.7%)が15ポイント以上高い——つまり、地方にも会社は点在するものの、大規模な組織はほぼ例外なく東京にあるという二重の集中構造です。

なぜここまで集中するのか

M&A支援業は、工場も店舗網も要らない知識集約型の産業です。理屈の上ではどこに立地してもよいはずですが、現実には次の三つの引力が東京への集中を生んでいます。

  • 買い手の集積——M&Aの成否は買い手探しで決まります。上場企業の本社、PEファンド、商社・事業会社のM&A部門は東京に集中しており、買い手ネットワークを商売道具とする支援会社は買い手の近くに立地する合理性があります。
  • 人材の集積——M&A支援の担い手は投資銀行・FAS・金融機関出身者が中心で、その労働市場自体が東京にあります。採用力で成長が決まる仲介ビジネスにとって、これは決定的です。
  • 出張型ビジネスモデル——売り手が地方でも、案件執行は出張とオンラインで完結できます。「需要の近く」ではなく「供給(買い手・人材)の近く」に立地するのが、この業界の均衡解になっています。

需要は逆に、地方に厚い

供給が東京に偏る一方で、需要——後継者不在の企業——は全国に分布しています。帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2025年)によれば、日本企業の後継者不在率は50.1%。改善傾向にあるとはいえ、なお約2社に1社に後継者がいません。しかも都道府県別の不在率は最低の三重県33.9%から最高の秋田県73.7%まで大きな地域差があり、不在率が高い地域ほど、地元のM&A支援体制は薄いという逆相関がこの市場の構造問題です。

実際、当データベースで東北地方に本社を置く会社は5社(専従者計37人)に過ぎません。地方の事業承継需要は、(1)東京大手の出張・支店対応、(2)地方の金融機関・士業系プレイヤー、(3)国の事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的支援、の三層で支えられているのが実情です。

ギャップを埋めるプレイヤーたち

この需給ギャップに向き合うのが、三大都市圏(東京・大阪・愛知)以外に本社を置く73社の地域プレイヤーです。専従者数の上位は次のとおりです。

会社本社専従者数分類
1FFGSuccession福岡県35人金融グループ系M&A専業会社
2事業承継協会埼玉支部埼玉県33人事業承継支援系
3大分綜合会計事務所大分県28人税理士法人系
4京都M&Aアドバイザリー京都府27人金融グループ系M&A専業会社
5ほくほくコンサルティング富山県19人金融グループ系M&A専業会社
6佐藤会計事務所兵庫県18人税理士法人系
7ユナイテッド・フロント・パートナーズ静岡県18人M&A仲介・FA複合
8北海道共創パートナーズ北海道17人金融グループ系M&A専業会社
9K・アセットマネジメント沖縄県16人その他M&A支援会社
10静銀経営コンサルティング静岡県15人金融グループ系M&A専業会社

表1: 三大都市圏以外に本社を置くM&A支援会社・専従者数上位10社

顔ぶれを見ると、金融グループ系・税理士法人系など地域の既存顧客基盤を持つプレイヤーが中心です。ゼロから看板を掲げるのではなく、すでに地域企業との接点を持つ組織がM&A機能を付加する——これが地方で成立しやすいモデルであることを示しています。また東京大手側も地域別分析で見たとおり拠点網を広げており、県別の空白は「支店・出張・オンライン」で埋められつつあります。

集計方法・定義・出典

M&A会社・専従者シェア
大手町プレップFA・M&A仲介会社DB掲載327社(M&A専従者5名以上・本社所在地ベース)。
人口シェア
東京都「東京都の人口(推計)」2025年12月1日現在(14,276,882人)と総務省「令和7年国勢調査」速報値の総人口(1億2,305万人)から大手町プレップが算出(約11.6%)。
企業数シェア
総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」企業等数(全国3,684,049・東京都453,145)から算出(約12.3%)。
後継者不在率
帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(全国50.1%・三重県33.9%・秋田県73.7%)。

本記事は中小企業庁「M&A支援機関登録制度」および各社の公式サイト等の公開情報をもとに、大手町プレップが独自に集計・分類したものです。公開情報で確認できない項目は推測で補完せず「未確認」として扱っています。

外部統計の出典: 総務省統計局 人口推計/東京都の人口(推計)/令和3年経済センサス‐活動調査/帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)(いずれも2026年8月確認)。

よくある質問

M&A仲介会社はなぜ東京に集中しているのですか?

買い手(上場企業・PEファンド)と人材(投資銀行・FAS出身者の労働市場)が東京に集積しているためです。売り手が地方でも案件執行は出張・オンラインで対応できるため、支援会社は需要側ではなく供給側の近くに立地します。結果として、企業数シェア約12.3%の東京都にM&A専従人材の約78.7%が集まっています。

地方の会社がM&Aを検討する場合、不利になりますか?

支援会社の選択肢は東京より少ないものの、東京大手の全国対応・地方拠点、地域金融機関系・税理士法人系のプレイヤー、公的な事業承継・引継ぎ支援センターという複数の経路があります。重要なのは1社に絞らず比較することです。データベースではエリアで絞り込んで比較できます。

東京一極集中は今後も続きますか?

買い手・人材の集積という構造要因は短期に変わらないため、供給側の東京集中は続く公算が大きい一方、需要側ではオンライン完結型の案件執行やマッチングプラットフォームの普及が地理的制約を下げつつあります。「本社所在地の集中」と「サービス提供範囲の全国化」が併存する形が当面の姿と考えられます。

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