この記事で分かること
- カード決済1万円の加盟店手数料が、イシュア(発行会社)とアクワイアラ(加盟店管理会社)にどう残るか
- 架空のカード会社A社の収益を、取扱高1万円あたり営業収益380円・営業利益79.4円に分解し、各行を「量×率」に結ぶ手順
- 取扱高・リボ残高比率・延滞率を動かしたときの営業利益と、法令が関わる行
想定読者:カード・信販会社を分析する投資銀行のFIG(金融機関)担当、クレジットアナリスト、PE(プライベート・エクイティ)や事業会社の若手
前提知識:損益計算書の基本。カード業界の用語は本文で説明します。
結論:収益は「取 扱高×率」と「残 高×率」に分け、費用を残高と延滞率に結ぶ
カード会社の決算では、取扱高(会員がカードで決済した金額の総額)と営業収益・利益の伸びが一致しないことがあります。ショッピングの手数料は取扱高に、リボ・分割の手数料とキャッシングの利息は残高に、貸倒関連費用は残高と延滞率に連動するからです。ショッピングの手数料は、自社が発行と加盟店管理の両方を行う取引(オンアス取引)か否かでも、自社に残る額が変わります。
以下の学習用の架空事例のA社(率と金額はすべて仮定)では、取扱高1万円あたりの営業収益は380円、営業利益は79.4円です。取扱高が10%増えると営業収益は8.9%、営業利益は31.1%増え、延滞率が1ポイント上がると営業利益は7.9%減ります。
カード1件の手数料は誰に配分されるか
公正取引委員会の「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」(2022年4月公表)は、会員契約を結ぶ会社を「イシュア」、加盟店契約を結ぶ会社を「アクワイアラ」と呼び、両者が同一の取引を「オンアス取引」、異なる取引を「オフアス取引」と呼びます。オフアスは会員・イシュア・アクワイアラ・加盟店の4者、オンアスは3者の取引です1。
加盟店はアクワイアラへ加盟店手数料を払い、オフアス取引ではアクワイアラからイシュアへイシュア手数料が支払われます。このうち、Visa・Mastercardなど自らは発行しない国際ブランド(報告書のカテゴリーⅠ)のインターチェンジ取引(グループ内取引を除く)で発生するものがインターチェンジフィーです。成長戦略実行計画(2021年6月閣議決定)は、ヒアリングでは加盟店手数料の約7割をインターチェンジフィーが占めると記し、公正取引委員会は調査の趣旨にこれを挙げています2。
同報告書の国際ブランド向け書面調査では、カテゴリーⅠのインターチェンジフィーとカテゴリーⅡのイシュア手数料の総額が、オフアス取引の取扱高に占める割合はどちらも1.56%でした3。平均加盟店手数料率はカテゴリーⅠが2.63%、カテゴリーⅡが2.89%、ハウスカード(国際ブランドのマークがないカード)が2.51%です4。集計の対象が異なるため、引き算してアクワイアラの取り分とはできません。設例では加盟店の手数料率をオンアス・オフアスで同じと置きます。JCBは自社のページで、加盟店手数料は概ねイシュア「3」対アクワイアラ「1」で配分され、固定料率ではないと記しています5。
設例では、加盟店手数料率2.50%、オフアスでA社(イシュアのみ)が受け取るインターチェンジ相当1.50%と仮定します(実在の料率ではありません)。
図表1のとおり、手数料250円のうちA社に残るのはオフアスで150円、オンアスで250円です。差の100円はオフアスでは他社のアクワイアラが受け取ります。オンアスの加盟店管理の費用は販管費に含めます。
設例の前提:A社の年間の数字
以下は学習用の架空事例です(単位は百万円、率は仮定)。
- A社発行カードの国内ショッピング取扱高は1,200,000、うちオンアス60%・オフアス40%。
- 加盟店手数料率2.50%、インターチェンジ相当1.50%、ブランド・処理費用は取扱高の0.10%、ポイント関連費用は0.50%。
- リボ・分割(支払いを分けたり毎月の支払額を一定にしたりして、残高に手数料がかかる利用)の平均残高は取扱高の10%(120,000)、手数料率13.0%。
- キャッシング(カードで現金を借りる利用)の平均残高は30,000、利回り16.0%で、取扱高と連動しないと置きます。通常の利用枠とは別枠で条件も異なるのが一般的です6。
- 立替債権(加盟店への支払いから会員の入金までの債権)は取扱高の1か月分(100,000)。リボ・キャッシング残高との合計250,000×資金調達コスト率1.0%。
- 貸倒関連費用は、与信残高(リボ・キャッシング残高の合計150,000)×延滞率3.0%×損失率50%(延滞債権のうち損失になる割合)。会計上の算定方法とは異なる簡略化です。
- 利息返還損失引当金繰入はキャッシング利息の2.5%(簡略化。後述)、販管費は24,000で固定。
1万円から損益計算書まで:収益分解表
1万円あたりの金額は、年間の金額÷取扱高1,200,000×10,000です(図表2)。
| 損益の行(量×率) | 1万円当たり | 年間 |
|---|---|---|
| ショッピング手数料オンアス:取扱高×60%×2.50% | 150.0 | 18,000 |
| ショッピング手数料オフアス:取扱高×40%×1.50% | 60.0 | 7,200 |
| リボ・分割手数料残高120,000×13.0% | 130.0 | 15,600 |
| キャッシング利息残高30,000×16.0% | 40.0 | 4,800 |
| 営業収益上の4行の合計 | 380.0 | 45,600 |
| ブランド・処理費用取扱高×0.10% | ▲10.0 | ▲1,200 |
| ポイント関連費用取扱高×0.50% | ▲50.0 | ▲6,000 |
| 資金調達費用債権残高250,000×1.0% | ▲20.8 | ▲2,500 |
| 貸倒関連費用与信残高150,000×3.0%×50% | ▲18.8 | ▲2,250 |
| 利息返還損失引当金繰入キャッシング利息×2.5% | ▲1.0 | ▲120 |
| 販管費固定とみなす | ▲200.0 | ▲24,000 |
| 営業利益営業利益率20.9% | 79.4 | 9,530 |
営業収益は18,000+7,200+15,600+4,800=45,600、費用は1,200+6,000+2,500+2,250+120=12,070で、営業利益は45,600-12,070-24,000=9,530です。収益の内訳はショッピング手数料55.3%(25,200)、リボ・分割手数料34.2%、キャッシング利息10.5%です。ショッピング手数料の実効率は25,200÷1,200,000=2.10%で、オフアスの分だけ2.50%を下回ります。収益の約45%は残高に連動し、残高が増えれば資金調達費用と貸倒関連費用も増えます。
費用の行を何に結ぶか:貸倒・利息返還・ポイント
貸倒関連費用は、延滞率(返済が一定期間以上遅れている債権の割合)が上がると増えます。会計上は貸倒引当金(回収できない見込みの額をあらかじめ見積もる引当金)を債権の区分ごとに計上します。
利息返還損失引当金繰入は別の行です。日本公認会計士協会の業種別委員会実務指針第37号(2006年10月公表、2012年5月改正)は、消費者金融会社等が利息制限法の上限を超えて受け取った「グレーゾーン金利」の返還請求について、過去の返還実績と最近の返還状況から返還額を見積もり、「利息返還損失引当金」等として計上されているかに留意するとしています。一部を貸倒引当金に含める場合は、その旨と金額の注記に留意します7。同指針によれば2010年6月の改正貸金業法の完全施行で上限金利は利息制限法の水準となり、算定例もグレーゾーン金利による貸付金が対象です。この費用は過去の貸付けに由来し、当期のキャッシング利息に比例しません(編集部の整理)。設例の「利息×2.5%」は行の位置を示す置き方です。評価での扱いは消費者金融のPBR評価と過払金引当金とリース会社・信販会社の評価に委ねます。
ポイント関連費用は取扱高に連動させました。カード会社は顧客獲得のためにポイントなどの特典に多額を投じるという一般的な説明があります8。
取扱高・リボ残高比率・延滞率を動かす:感応度表
図表3は3つの変数を1つずつ、最後に同時に動かした結果です。取扱高を動かすときはリボ・分割残高、立替債権、ブランド・処理費用、ポイント関連費用を連動させ、キャッシング残高と販管費は据え置きます。
| シナリオ | 営業利益 | 基準比 | 営業収益 | 貸倒関連費用 |
|---|---|---|---|---|
| 基準 | 9,530 | - | 45,600 | 2,250 |
| 取扱高+10% | 12,490 | +31.1% | 49,680 | 2,430 |
| リボ比率12% | 12,050 | +26.4% | 48,720 | 2,610 |
| 延滞率4.0% | 8,780 | ▲7.9% | 45,600 | 3,000 |
| 3つ同時 | 14,320 | +50.3% | 53,112 | 3,768 |
第一に、取扱高が10%増えても、連動しないキャッシング利息4,800があるため営業収益は8.9%増にとどまり、販管費を固定とみなしたため営業利益は2,960(31.1%)増えます。
第二に、延滞率が1ポイント上がると貸倒関連費用が750増え、営業利益は7.9%減ります。取扱高10%増の状態(与信残高162,000)では、延滞率が約6.7%(約3.7ポイント上昇)で増益2,960が消えます。
第三に、リボ比率が上がると営業利益は増えます。手数料率13.0%が資金調達コスト1.0%と貸倒の率(3.0%×50%=1.5%)を上回るためです。変数どうしの相関(リボ比率が上がると延滞が増える等)は置いていない試算です。
第四に、3つを同時に動かすと営業利益は14,320(+50.3%)に増えますが、貸倒関連費用は2,250から3,768へ67.5%増え、営業収益の増加率16.5%を大きく上回ります。収益が2つの量に分かれ、費用が別の量に連動し、固定費(取扱高に連動しない費用)が変化を増幅するため、取扱高と利益の伸びは一致しません。表の作り方は感応度分析・シナリオ分析の作り方に委ねます。
割賦販売法・貸金業法・利息制限法が関わる行
図表4は、2026年10月にe-Gov法令検索で確認した条文と損益の行の対応です。個別の取引への当てはめは判断しません。
| 法令・条文と要旨 | 関わる行 |
|---|---|
| 割賦販売法 第30条の2カード等の交付や極度額の増額の前に、包括支払可能見込額の算定に必要な年収・預貯金・支払状況などを調査する(例外あり)。 | 取扱高リボ・分割残高貸倒関連費用 |
| 割賦販売法 第2条第3項包括信用購入あっせんの定義。第1号は2か月以内に支払いを受けるものを除く。第2号はリボルビング方式。 | 分割・リボの手数料 |
| 貸金業法 第13条の2返済能力を超える貸付けの禁止。個人過剰貸付契約は、個人顧客合算額が年収等の3分の1を超える契約(極度方式貸付けに係る契約等を除く)。 | キャッシング残高キャッシング利息 |
| 貸金業法 第12条の8第1項、利息制限法 第1条利息制限法の上限超の利息の契約を禁止。上限は元本10万円未満20%、100万円未満18%、それ以上15%(年率)。 | キャッシング利回り利息返還 |
割賦販売法第30条の2の調査は、カードの交付と極度額(利用できる額の上限)の増額の前に行うもので、取扱高とリボ・分割残高の上限に関わります9。貸金業法第13条の2の個人過剰貸付契約は極度方式貸付けに係る契約を除き、極度方式基本契約には第13条の3に別の調査義務があります。カードのキャッシングへの当てはめは判断しません10。設例の利回り16.0%は、元本10万円以上100万円未満の上限(年18%)を下回る仮定です11。
実在のカード会社の有価証券報告書で探す順序
実在の会社では次の順に確認します(全体の読み方は有価証券報告書の読み方)。
- セグメント情報で、稼いでいる事業を見ます(セグメント情報の読み方)。
- 営業収益の内訳で、加盟店手数料、リボ・分割手数料、キャッシング利息の構成を見ます(業態の比較はフィンテック企業の収益モデル)。
- 費用で、資金調達・貸倒・ポイント・利息返還の各行を探します(科目名は会社ごとに異なります)。
- 注記で、各引当金の残高と見積り方法を確かめます。
開示がなければ推計で補いません。銀行の信用コストは銀行モデリング入門、証券化は証券化・ABS入門へ。
実務チェックリスト
- 営業収益の各行に、連動する量と率を並べたか。
- ショッピング手数料について、オンアスとオフアスの構成と自社に残る率を確認したか。
- 貸倒関連費用の増減を、残高の増加と延滞率の上昇に分けたか。
- 利息返還損失引当金の残高・繰入・見積りの前提と、貸倒引当金との併用の有無を注記で確認したか。
- 法令は確認日と施行日を記録し、会社や取引への当てはめを断定していないか。
よくある質問(F AQ)
オンアス比率が上がると、利益は増えますか。
設例では増えます。60%を70%にすると、ショッピング手数料は1,200,000×70%×2.50%+1,200,000×30%×1.50%=26,400で、基準より1,200
インターチェンジフィーの標準料率は公表されていますか。
公正取引委員会と経済産業省の2022年11月30日の発表によれば、Mastercard、UnionPay
まとめ
カード会社の収益を取扱高×率と残高×率に分けると、取扱高と利益の伸びがずれる理由が見えます。設例では取扱高10%増で営業利益が31.1%増え、延滞率1ポイント上昇で7.9%減りました。オンアス比率、費用の連動先、法令が関わる行を表にしてから、実在の会社の開示に当てはめます。
脚注
- 公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」(2022年4月8日公表)第2の2(2)イ・ウ(p.9)のイシュア・アクワイアラの定義と、第2の3「取引形態」(p.10)のオンアス・オフアス取引と4者・3者の説明(要約。参考文献 R1)。↩
- 公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査について」(2022年4月8日)「第1 調査趣旨」。成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定)の引用部分(参考文献 R2)。↩
- 同報告書 第2の4(p.16)の定義と図表2-14。書面調査(国際ブランド向け)(参考文献 R1)。↩
- 同報告書 第2の5(p.17)図表2-16(参考文献 R1)。↩
- JCB「ブランド」ページの配分の記載(時点の記載なし)。公正取引委員会・経済産業省の2023年6月1日の発表は、JCBがこの配分率を公開したと伝えている(参考文献 R3・R4)。↩
- Wall Street Oasis「Credit Card Analysis」の、現金を借りる枠の条件は通常の利用と異なるのが一般的という記述(米国が前提の一般概念。参考文献 R5)。↩
- 日本公認会計士協会 業種別委員会実務指針第37号(2006年10月13日、2012年5月15日改正)「1.はじめに」「2.引当金の計上の要否」「3.引当金について」(2)(3)と末尾の(参考)算定方法の例(要約。参考文献 R6)。↩
- Wall Street Oasis「Credit Card Industry Analysis」の、顧客獲得のための特典への投資に関する一般的な記述(参考文献 R7)。↩
- 割賦販売法 第2条第3項、第30条の2第1項・第2項(要約。2025年6月1日施行の版。参考文献 R8)。↩
- 貸金業法 第13条の2第1項・第2項、第13条の3第1項・第2項(要約。2025年10月1日施行の版。関連する内閣府令は確認していない。参考文献 R9)。↩
- 貸金業法 第12条の8第1項(参考文献 R9)、利息制限法 第1条(2010年6月18日施行の版。参考文献 R10)。↩
- 公正取引委員会「クレジットカードのインターチェンジフィーの標準料率の公開について」(2022年11月30日)。同ページに料率の数値は記載されていない(参考文献 R11)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」(2022年4月8日公表) jftc.go.jp (参照箇所:pp.9〜10、16、17。脚注1・3・4の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R2 公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査について」(2022年4月8日) jftc.go.jp (参照箇所:第1 調査趣旨。脚注2の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R3 JCB
「ブ ランド」 global.jcb (参照箇所:加盟店手数料の配分の記載。脚注5の根拠。閲覧日:2026年10月22日) - R4 公正取引委員会「JCBによるクレジットカードの加盟店手数料の配分率の公開について」(2023年6月1日) jftc.go.jp (参照箇所:本文。脚注5の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R5 Wall Street Oasis「Credit Card Analysis」(2024年11月11日更新) wallstreetoasis.com (参照箇所:一般的な概念の参考。What Is a Credit Card?。脚注6の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R6 日本公認会計士協会 業種別委員会実務指針第37号(2006年10月13日、2012年5月15日改正) jicpa.or.jp (参照箇所:1〜3。脚注7の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R7 Wall Street Oasis「Credit Card Industry Analysis」(2024年12月10日更新) wallstreetoasis.com (参照箇所:一般的な概念の参考。冒頭の節。脚注8の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R8 e-Gov法令検索
「割 賦販売法」(昭 和36年法律第159号) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第2条第3項、第30条の2。脚注9の根拠。閲覧日:2026年10月22日) - R9 e-Gov法令検索
「貸 金業法」(昭 和58年法律第32号) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第12条の8、第13条の2、第13条の3。脚注10・11の根拠。閲覧日:2026年10月22日) - R10 e-Gov法令検索
「利 息制限法」(昭 和29年法律第100号) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第1条。脚注11の根拠。閲覧日:2026年10月22日) - R11 公正取引委員会「クレジットカードのインターチェンジフィーの標準料率の公開について」(2022年11月30日) jftc.go.jp (参照箇所:本文。脚注12の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。