この​記事で​分かる​こと

  • 発行済株式数(自己株式を含む)と、自己株式を除く株数・期中平均株式数・希薄化後株式数の違い
  • 時価総額とEPSでどの株数を使うかを整数設例で確認
  • 自己株式方式による新株予約権の希薄化の計算
  • 決算短信のサマリー情報の記載項目と、日本実務での確認先

30秒で​分かる​定義

発行済株式数(Issued Shares)とは、会社が発行して現に存在する株式の総数で、通常は自己株式を含んだ数を指します。英文資料の shares outstanding は自己株式を除いた株数を指すことがあり、日本の発行済株式数と範囲が異なる場合があるため、英文資料では定義を確認します。読みは「はっこうずみかぶしきすう」です。一方、自己株式は議決権を持たず(会社法第308条第2項)[1]、剰余金の配当の対象にもなりません(第453条)[2]。このため、時価総額や1株当たり指標を計算するときは、自己株式を含めるか除くかを意識して使い分ける必要があります。決算短信(サマリー情報)では、期末発行済株式数(自己株式を含む)、期末自己株式数、期中平均株式数の3つが示されます[3]。

なぜ実務で​重要なのか

株数は、バリュエーションとリターン分析のすべての分母です。IB・FAS・株式アナリストは時価総額と1株当たり価値の計算、PE・M&A担当はTOBで取得すべき株式数と買収総額の算定、VC・スタートアップ財務はキャップテーブルと希薄化、経営企画・IRはEPSや配当総額の前提に使います。株数の取り違えは、株価×株数で求める株式価値(時価総額)の誤差に直結し、そこから純有利子負債などを調整して求める企業価値(EV)にもそのまま波及します。希薄化後の株式数は完全希薄化​ベース​株式数で、Take-Privateでの使い方はTake-Private​(非公開化)​LBOの​モデルと​実務で扱っています。

計算式​(または仕組み)

株数にはいくつかの種類があります。用途によって使うものが決まります。

株数の種類内容主な用途
発行済株式数(自己株式を含む)発行された株式の総数決算短信・有価証券報告書の開示の起点[3]
自己株式会社が保有する自社株式(議決権なし、配当なし)発行済株式から控除する
発行済株式数(自己株式を除く)発行済株式数−自己株式数時価総額、1株当たり純資産、配当総額の計算
期中平均株式数期中の株式数の加重平均(自己株式を除く)[3]EPS(1株当たり当期純利益)の計算
希薄化後株式数新株予約権などの行使を仮定した株式数バリュエーション、希薄化後EPS
時価総額 = 株価 × 発行済株式数(自己株式を除く) / EPS = 普通株式に係る当期純利益 ÷ 普通株式の期中平均株式数(自己株式を除く)

普通株式に係る当期純利益は、当期純利益(連結では親会社株主に帰属する当期純利益)から、優先配当額など普通株主に帰属しない金額を控除したものです[4]。下の設例は普通株式だけを発行し、この控除がない前提です。時価総額の算出に、自己株式を含む株数を使う資料もあります。どちらを使うかは分析の目的で決め、前提を明記します。1株当たり純利益は1株当たり​利益、自己株式は自己株式のページで扱います。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。会社の事業年度は4月1日から翌年3月31日、発行済株式数(自己株式を含む)は120,000千株で期中不変、自己株式は期首5,000千株、10月1日に3,000千株を取得して期末は8,000千株とします。株価は2,000円、当期純利益は11,350百万円です。

項目計算結果
期末の株式数(自己株式を除く)120,000−8,000112,000千株
期中平均の自己株式5,000×6/12+8,000×6/126,500千株
期中平均株式数120,000−6,500113,500千株
EPS11,350百万円÷113,500千株100.0円
時価総額(自己株式を含む株数)120,000千株×2,000円240,000百万円
時価総額(自己株式を除く株数)112,000千株×2,000円224,000百万円

2つの時価総額の差は 240,000−224,000=16,000百万円で、自己株式8,000千株×2,000円に一致します。さらに、行使価格1,500円の新株予約権3,000千株が株価2,000円で行使された場合、自己株式方式(自己株式方式​(TSM)に​よる​希薄化後株式数の​算定)では、行使代金 3,000千株×1,500円=4,500百万円で自己株式を 4,500÷2,000=2,250千株買い戻すと仮定し、純増は 3,000−2,250=750千株です。希薄化後の株式数は 112,000+750=112,750千株(時価総額は 112,750×2,000=225,500百万円)です。

PL・​BS・​CFへの​影響

自己株式を取得すると、BSでは純資産の控除項目(自己株式)が増えて現預金が減りますが、発行済株式数(自己株式を含む)は変わりません。消却すると発行済株式数そのものが減ります。株式分割や併合は発行済株式数を変えるため、過去のEPSなど1株当たり指標も遡って調整します。調整の手順は株式分割・​併合の​調整係数で確認できます。株数はPL・CFに直接現れませんが、EPSと配当総額を通じて財務数値に反映されます。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 株数のブリッジ:期首発行済株式数+新株発行-消却=期末発行済株式数、期末発行済株式数-期末自己株式数=期末株式数(自己株式を除く) を行で持ち、増減の要因を追えるようにします。
  • 期中平均:期中の増減が月単位なら =期首株数+Σ(増減×残存月数/12) で加重平均を計算します。
  • 希薄化後株式数:新株予約権の行使価格と株価を入力して =MAX(0,数量-数量*行使価格/株価) で純増を計算し、基本株式数に加えます(行使価格が株価を上回る場合は希薄化なし)。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

発行済株式数から​自己株式を​除いた​株数と​希薄化後の​株数を​計算し、​時価総額・​EPS・1株当たり​価値に​一貫して​使えるようになる。

バリュエーション​教材で​希薄化後株式数の​組み方を​見る →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「発行済株式数=市場で売買できる株数」→ 発行済株式には、創業者や親会社などの固定的な保有分や自己株式が含まれ、実際に流通する株数(流通株式)より多くなります。

誤解2:「時価総額は株価×発行済株式数で一つに決まる」→ 自己株式を含めるか、希薄化後の株数を使うかで値が変わります。比較する会社間で株数の定義をそろえる必要があります。

誤解3:「EPSは期末株式数で割る」→ 決算短信の説明のとおり、EPSの算定には期中平均株式数を使います[3]。期末の株数で割ると、期中に株数が変動した会社でEPSがずれます。

日本実務での​扱い

日本の決算短信(サマリー情報)では、普通株式について期末発行済株式数(自己株式を含む)、期末自己株式数、期中平均株式数を、当期末と前期末について1株単位で記載します[3](2026年11月時点)。有価証券報告書の「株式等の状況」でも、発行済株式総数や議決権の状況が開示されます。会社が信託を使って役員・従業員向けの株式報酬制度を運営している場合、信託が保有する自社株式が自己株式に含まれて開示されることがあるため、注記の確認が必要です。日本の上場会社は単元株制度をとるのが一般的で、売買単位と議決権の単位は単元株制度で整理しています。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:時価総額を計算するときの株数は、自己株式を含めますか。
「一般には、会社が持つ自己株式は議決権も配当もなく、株主に帰属する価値に関わらないため、発行済株式数から自己株式を除いた株数で計算します。ただし資料によって含める定義もあるため、前提を明記します。希薄化を考えるバリュエーションでは、さらに新株予約権の行使を加えた株数を使います。」

深掘りの観点:①期中平均株式数とEPSの関係、②自己株式方式での希薄化の計算、③株式分割時の遡及調整です。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 発行済株式数はどこで確認できますか。
A. 決算短信のサマリー情報の注記(期末発行済株式数・期末自己株式数・期中平均株式数)[3]、有価証券報告書の「株式等の状況」、取引所に適時開示される自己株式の取得状況などで確認します。数値の基準日をそろえてください。

Q. 自己株式を取得すると発行済株式数は減りますか。
A. 取得しただけでは、発行済株式数(自己株式を含む)は変わらず、自己株式数が増えます。消却すると、発行済株式数が減ります。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. e-Gov法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第308条第2項(議決権の数). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「会社法」第453条(株主に対する剰余金の配当). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  3. 日本取引所グループ・東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」(2.決算短信の作成要領。サマリー情報の「発行済株式数(普通株式)」). https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/tvdivq0000004wuh-att/mklp770000003457.pdf(2026年11月参照)
  4. 企業会計基準委員会 企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第12項・第14項・第15項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/kouhatsujisyou20260109_10.pdf(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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