この​記事で​分かる​こと

  • 正規分布の式・z値・68-95-99.7の目安
  • VaRと−5σの頻度の整数設例
  • リターンは正規分布、価格は対数正規分布という使い分け
  • ファットテールの限界とExcel関数(NORM.DIST等)

30秒で​分かる​定義

正規分布(Normal Distribution、せいきぶんぷ)とは、平均を中心に左右対称の釣鐘型をなす確率分布で、平均(μ)と標準偏差(σ)の二つだけで形が決まります。ガウス分布とも呼ばれます。金融では、リターンの分布をこれで近似して、VaRの計算やオプション価格理論(ブラック・ショールズ・マートン・モデル)の前提に使います。ただし、実際の市場リターンは極端な値が正規分布の想定より起こりやすく(テールが厚い)、その限界を知って使うことが重要です。

なぜ実務で​重要なのか

市場部門・リスク管理部門はVaRを、デリバティブ・クオンツはオプション評価を、運用部門はリターンの推定誤差や信頼区間の判断を、正規分布の性質に頼って行います。経営企画・FP&Aのモンテカルロ・シミュレーションでも、入力の変動を正規分布で表すことが多くあります(モンテカルロシミュレーション​入門)。実際のリターンの歪度・尖度の読み方は正規分布と​歪度・尖度で​リターン​分布を​読むが詳しく扱っています。

計算式​(または仕組み)

f(x) = 1 ÷ (σ√(2π)) × exp[ −(x − μ)² ÷ (2σ²) ] / z = (x − μ) ÷ σ

xを標準化したz(平均からの距離を標準偏差で測った値)が分かれば、確率は標準正規分布の表から読めます。代表的な値は次のとおりです。

範囲(μ±)含まれる確率
1σ約68.3%
2σ約95.4%
3σ約99.7%

VaRでよく使う片側の分位点は、片側95%でz=1.645、片側97.5%で1.96、片側99%で2.326です。

株価そのものは負にならないため、連続複利のリターンを正規分布とみなし、価格は対数正規分布に従うと置くのが標準的です。単利のリターンは−100%を下回れないので、正規分布とは整合しません。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。

①VaR:月次の単利リターンが平均0.8%、標準偏差4.0%の正規分布に従うと近似し、ポジション10,000百万円とします。片側95%のVaR率 = 1.645 × 4.0% − 0.8% = 6.58% − 0.8% = 5.78%、金額は 10,000 × 5.78% = 約578百万円。片側99%なら 2.326 × 4.0% − 0.8% = 9.304% − 0.8% = 8.50%、約850百万円です(平均を加味した場合)。対数リターンが同じ平均・標準偏差の正規分布に従うとするなら、損失率は 1 − e^(μ − zσ) となり、片側95%は約5.62%(約562百万円)、片側99%は約8.15%(約815百万円)です。

②−5σの頻度:正規分布なら、平均から5σ以上下回る確率は約0.0000287%(2.87 × 10⁻⁷)で、日次リターンなら 1 ÷ (2.87 × 10⁻⁷) ≒ 349万日、年250営業日で換算して約13,900年に1回です。実際の市場では、それよりはるかに頻繁に大きな下落が観測されることがあり、これがファットテールの問題です。

③対数リターン:100が110になったときの連続複利リターンは ln(110 ÷ 100) = ln 1.1 ≒ 9.53%で、単利の10%とは異なります。

リスク​配分への​影響

正規分布を前提にすると、VaRの計算は簡単になりますが、極端な損失を過小に見積もるおそれがあります。そのため実務では、①過去の実績分布を使うヒストリカル法や、厚いテールやボラティリティの変動を織り込んだ確率モデルによるモンテカルロ法でテールを見る(ヒストリカル法は過去に観測されていない危機を捉えられず、モンテカルロ法の結果は入力した確率モデルに依存します)、②ストレステストで過去の危機や想定シナリオを当てる、③VaRを超えた場合の平均損失(期待ショートフォール)を併用する、などで補います。バーゼル規制の市場リスクの標準も、内部モデル方式で期待ショートフォールのモデルに依拠しています[1]。テールの極端な事象はテールリスクのページで扱います。分布の違いは二項分布・​ポアソン​分布・​対数正規分布の​違いが整理しています。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 確率:=NORM.DIST(x,μ,σ,TRUE) で累積確率、=NORM.S.DIST(z,TRUE) で標準正規の累積確率を求めます。
  • 分位点:=NORM.INV(0.05,μ,σ) で下位5%のリターン、=NORM.S.INV(0.99) でz値(2.326)を求めます。
  • 推定:平均は AVERAGE、標準偏差は STDEV.S、歪度は SKEW、超過尖度は KURT(正規分布なら0)で測ります。歪度と超過尖度が0から大きく離れていれば、正規分布の近似が不適切な兆候です。
  • シミュレーション:=NORM.INV(RAND(),μ,σ) で正規乱数を発生させ、感応度分析の入力に使います。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

平均と​標準偏差から​確率・​分位点・​VaRを​計算し、​その前提の​限界を​説明できるようになる。

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実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「金融リターンは正規分布に従う」→ 正しくは、近似としては便利ですが、極端な値が起こりやすく(ファットテール)、分布が左右非対称(歪み)になることも多くあります。

誤解2:「3σを超える下落は起こらない」→ 正しくは、正規分布の計算上でも片側で約0.135%の確率で起こり、実際にはそれより頻繁に起こり得ます。

誤解3:「平均と標準偏差が分かれば分布の形が決まる」→ 正しくは、正規分布と仮定した場合だけです。歪度・尖度が違う分布では、同じ平均・標準偏差でもテールの損失が大きく変わります。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本の金融機関や運用会社でも、VaR、ストレステスト、オプション評価、シミュレーションの基礎として正規分布が使われています。銀行・証券会社の市場リスク管理は、バーゼル規制の枠組みに沿って内部モデル(VaRやESなど)を使うことがあり、規制の標準は期待ショートフォールのモデルに依拠しています[1]。日本の市場データ(TOPIX・日経平均など)でも、日次リターンには歪みと厚いテールが見られるのが一般的です。有価証券報告書では、市場リスクの定量的情報としてVaRを開示する会社がありますが、開示様式は会社ごとに異なります。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:正規分布を使ってVaRを計算するときの限界を教えてください。
「実際のリターンは正規分布よりテールが厚く、極端な損失の確率を過小評価します。また、日次でリターンが独立で、ボラティリティが一定という仮定も現実には成り立ちません。そのため、ヒストリカル法、モンテカルロ法、ストレステスト、期待ショートフォールで補います。」深掘りでは、正規分布の95%・99%のz値(1.645・2.326)を暗算で答えるよう求められることがあります。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 標準偏差が大きいとなぜリスクが大きいのですか?
A. 標準偏差は、リターンが平均からどれだけばらつくかを示します。正規分布を仮定すると、標準偏差が2倍になれば、同じ確率で起こる損失の幅も約2倍になります。

Q. 正規分布と対数正規分布はどう使い分けますか?
A. 連続複利(対数)のリターンを正規分布、価格を対数正規分布とするのが標準的です。価格が負にならないためです。単利のリターンを正規分布で表すのは、変動が小さい場合の近似です。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. バーゼル銀行監督委員会「Minimum capital requirements for market risk」(2019年1月14日公表、同年2月25日に誤記訂正版)公表ページ. https://www.bis.org/bcbs/publ/d457.htm(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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