この記事で分かること
- VaR(バリュー・アット・リスク)の定義と3つの計算手法
- 信頼水準・保有期間とVaRの関係、√t則によるスケーリング
- 整数設例によるVaRの計算と10日VaRへの換算
- VaRの限界と、リスク管理職での使われ方
30秒で分かる定義
VaR(ばりゅーあっとりすく、Value at Risk)とは、一定の保有期間・信頼水準のもとで、通常の市場環境において想定される最大損失額を統計的に推計するリスク指標のことです。例えば「1日・99%信頼水準のVaRが2億円」とは、通常の市場環境であれば1日の損失が2億円を超える確率は1%程度である、と解釈します。銀行・証券会社の市場リスク管理や、資産運用会社のポートフォリオ管理において最も広く使われる基礎的なリスク指標です。
なぜ実務で重要なのか
リスク管理部門では、トレーディング部門・運用部門ごとにVaRの上限(VaRリミット)を設定し、日次でモニタリングすることが標準的な管理手法になっています。市場部門(トレーディングデスク)では、自らのポジションのVaRを把握したうえでリスク量に見合った取引を行うことが求められます。規制対応では、バーゼル規制上の市場リスク資本賦課の算出根拠としてVaR(およびその後継指標である期待ショートフォール)が用いられてきました。
計算式(3つの計算手法)
VaRの計算手法には大きく3種類があります。「分散共分散法(パラメトリック法)」はリターンが正規分布に従うと仮定し、ポートフォリオの標準偏差から解析的にVaRを計算する方法です。「ヒストリカル法」は過去の実績データの分布をそのまま用いて、下位パーセンタイルの損失を読み取る方法です。「モンテカルロ法」は乱数を用いて多数の価格シナリオをシミュレーションし、損失分布を作る方法です。分散共分散法によるVaRは次の式で計算します。
信頼水準に対応するz値は、99%で約2.33、95%で約1.645が代表的な値です。また、日次のσから複数日のVaRへ変換する際は、リターンが独立で時間方向に一定と仮定できる場合、日数の平方根倍にスケーリングする「√t則」が用いられます。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。ポートフォリオ価値100億円、日次ボラティリティ(標準偏差)1%、信頼水準99%(z=2.33)とします。
- 1日VaR = 100億円 × 1% × 2.33 = 2.33億円
- 10日VaR(バーゼル規制で用いられる保有期間)= 2.33億円 × √10 ≈ 2.33億円 × 3.162 ≈ 7.37億円
この結果は、「通常の市場環境であれば、10営業日の間にこのポートフォリオが7.37億円を超える損失を被る確率は1%程度である」と解釈します。裏を返せば、100回に1回程度はこの損失額を超えることが統計的に想定されているという点が、VaRを理解するうえで重要です。
リスク配分への影響
VaRリミットは、トレーディングデスクごとの許容リスク量を定める資本配分の基準として使われます。あるデスクのVaRがリミットに近づくと、ポジションの縮小やヘッジの追加が求められます。また、全社的なVaRは、金融機関全体としてどの程度の市場リスクを取っているかを取締役会・リスク委員会に報告する経営指標としても用いられます。
財務モデル・Excelでの使い方
- 分散共分散法のVaRは、ポートフォリオの日次リターンの標準偏差をNORM.S.INV等の関数で信頼水準に対応するz値と組み合わせて計算します。
- ヒストリカル法のVaRは、過去数百日分の損益データを並べ替え、下位1%(99%信頼水準の場合)に相当する損失額をPERCENTILE関数等で抽出します。
- 複数資産のポートフォリオVaRでは、各資産間の相関係数を考慮した分散共分散行列を用いる必要があり、単純な加重平均では過大評価になる点に注意します。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解:「VaRはその金額を超える損失は絶対に起きない上限」→ 正しくは、その金額を超える確率が一定割合(信頼水準の残り、例えば1%)で存在することを前提とした指標です。VaRはあくまで「通常の市場環境」における統計的な推計であり、極端な市場変動(テールリスク)による損失はVaRの想定範囲を超えることがあります。
実務家はさらに、VaRがどの計算手法(分散共分散法・ヒストリカル法・モンテカルロ法)に基づくかによって、正規分布を前提とするかどうか、過去のどの期間のデータを使うかが異なり、結果に差が出る点を踏まえて解釈します。
日本実務での扱い(2026年7月時点)
日本の銀行・証券会社は、金融庁の監督のもとバーゼル規制に基づく市場リスク管理体制を整備しており、内部モデル方式を採用する場合はVaR(現在は期待ショートフォールへの移行が進められています)に基づく規制資本の算出が求められます。金融庁は金融機関に対し、VaRだけに依存せずストレステストを組み合わせた多面的なリスク管理を求めており、内部管理上もVaRとストレステストの併用が標準的な実務となっています(2026年7月時点)。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:VaRの3つの計算手法とそれぞれの長所・短所を説明してください。
「分散共分散法は計算が高速ですが、リターンの正規分布を仮定するためテールリスクを過小評価しやすい欠点があります。ヒストリカル法は過去の実績分布をそのまま使うため分布の仮定が不要ですが、過去に経験していない極端な事象を捉えられません。モンテカルロ法はシナリオを柔軟に設計でき非線形なポジションにも対応できますが、計算負荷が高く、シナリオ設計そのものの妥当性が結果を左右します。」(30秒回答例)
深掘りでは「VaRが加法的でない(分散効果が働く)理由」「VaRから期待ショートフォールへ移行した規制上の背景」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. VaRが小さいポートフォリオはリスクが低いと言えますか?
A. 一般的にはそう解釈されますが、VaRは正規分布を前提とする手法では特にテールリスクを過小評価しやすいという限界があります。VaRの数値だけでなく、期待ショートフォールやストレステストの結果もあわせて確認する必要があります。
Q. なぜ保有期間を10日に設定することが多いのですか?
A. バーゼル規制の市場リスク規制において、内部モデル方式では10営業日保有を前提としたVaRの算出が伝統的に求められてきたためです。ポジションを解消・ヘッジするのに必要な期間として設定されています。
出典・参考(2026-07-21確認)
- 金融庁「バーゼル規制」関連資料 https://www.fsa.go.jp/
- Bank for International Settlements「Minimum capital requirements for market risk」 https://www.bis.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。