この記事で分かること
- 最大ドローダウン(MDD)の定義と計算の考え方
- ピーク・谷の推移から最大ドローダウンを求める整数設例
- シャープレシオ等のリターン指標を補完する理由
- Excelでの実装方法と日本の投資信託・私募ファンドでの扱い
30秒で分かる定義
最大ドローダウン(Maximum Drawdown、略称MDD、読み方:さいだいどろーだうん)とは、運用期間中のある時点での資産価値のピーク(最高値)から、その後に記録した最安値までの下落率のうち、最も大きいものを指す指標です。「最大下落率」とも呼ばれます。平均的なリターンやボラティリティ(標準偏差)とは異なり、「実際にどれだけ資産が目減りしたことがあるか」という下落局面の深さを直接的に示すため、ファンドのリスク許容度や投資家の心理的な耐性を評価する代表的な指標として使われます。
なぜ実務で重要なのか
PE・VC・ヘッジファンドのトラックレコード評価(機関投資家のデューデリジェンス)では、平均リターンやシャープレシオだけでなく、過去にどの程度の含み損失を経験したファンドかをMDDで確認します。アセットマネジメント・リスク管理では、複数戦略のポートフォリオ配分を決める際、各戦略のMDDを比較しながら下落耐性のバランスを取るのが一般的です。ヘッジファンドとPEファンドの違いで扱う流動性・レバレッジの違いは、MDDの出方や解釈にも直結します。
計算式
MDDは運用期間全体を通じて記録されたすべてのピーク→谷の下落幅のうち、最大のものを採用します。ピークを更新するたびに新しい基準点がリセットされ、そこからの下落幅と過去の最大値を比較し続けるのが計算の考え方です。下落から回復するまでの期間(回復日数)も、MDDと合わせて確認されることが多い関連指標です。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。あるファンドの基準価額(単位:円)が、運用開始からの推移で 10,000 → 12,000(ピーク①) → 9,000(谷①) → 11,000 → 15,000(ピーク②) → 10,500(谷②) → 13,000 と動いたとします。
ピーク①(12,000)からの下落は、(12,000-9,000)÷12,000=25%。ピーク②(15,000)からの下落は、(15,000-10,500)÷15,000=30%です。この2つの下落のうち大きい方を採用するため、最大ドローダウン=30%となります。基準価額が最終的に13,000まで回復し、運用開始時点(10,000)からは通算プラスであっても、投資家は途中で最大30%の含み損失を経験したことになります。
| 時点 | 基準価額 | 直前ピークからの下落率 |
|---|---|---|
| ピーク① | 12,000 | - |
| 谷① | 9,000 | 25% |
| ピーク② | 15,000 | - |
| 谷② | 10,500 | 30%(最大) |
リスク配分への影響
MDDは、平均リターンやシャープレシオだけでは見えない「下落局面の深さ」を補完します。同じ平均リターン・同じシャープレシオの2つのファンドでも、MDDが大きく異なれば、下落局面での投資家の心理的耐性・解約行動には大きな差が生じかねません。機関投資家がポートフォリオに複数の運用戦略を組み合わせる際、MDDの発生タイミングが異なる(相関の低い)戦略を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のMDDを抑える設計が行われます。
財務モデル・Excelでの使い方
基準価額の時系列データからMDDを計算するシートでは、次のように組みます。
- 各時点までの累積最高値を
=MAX($B$2:B2)(先頭から現在行までの最大値)のように行方向に更新しながら計算する - 各時点の下落率を
=(累積最高値-当該時点の値)/累積最高値で計算する列を作る - その下落率列全体の最大値を
=MAX(下落率列)で拾えば最大ドローダウンが求まる - 回復日数を確認したい場合は、谷を記録した時点から再びピークを更新するまでの日数を別途カウントする
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「MDDが小さいファンドは常に優れている」→ 正しくは、MDDが小さいのはリターン自体が低い(そもそも大きく上げていない)だけの場合もあり、リターンと合わせて評価する必要があります。
誤解2:「MDDは平均的なリスクの大きさを示す」→ 正しくは、MDDは過去に起きた最悪の1回の下落を示す指標であり、標準偏差のような平均的なばらつきの指標とは性質が異なる点に注意が必要です。極端な1回のイベントに強く影響されます。
日本実務での扱い(2026年8月時点)
日本の投資信託の月次・運用報告書では、基準価額の騰落率とあわせてリスク指標(標準偏差等)が開示されることが一般的ですが、MDDが標準的な開示項目として法令上義務付けられているわけではなく、運用会社が任意でファクトシート等に記載する形が多く見られます(2026年8月時点)。私募ファンド(PE・不動産ファンド等)の投資家向け報告では、案件単位のMDDよりもJ-カーブ(投資初期の含み損の深さ)としてリスクが語られることが多く、公開市場の運用戦略とは着目点がやや異なります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:シャープレシオが同じ2つのファンドを比較する際、MDDを見る意味を説明してください。
「シャープレシオはリターンとボラティリティ(標準偏差)の比率であり、下落の分布の形までは示しません。同じシャープレシオでも、緩やかに下落するファンドと、急激に大きく下落するファンドではMDDが異なり得ます。投資家の解約行動や心理的な耐性は、平均的なブレよりも最悪期の下落幅に強く左右されるため、MDDを併せて確認する意味があります。」(30秒回答例)
深掘りでは「MDDからの回復期間の重要性」「複数戦略を組み合わせてポートフォリオ全体のMDDを抑える設計」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. MDDはプラスの数値ですか、マイナスの数値ですか?
A. 表記の慣行によりますが、下落率そのものを正の数(例:30%)で示すことが多く、資産価値の変化としては「マイナス30%」という表現も一般的です。文脈でどちらの符号表記かを確認する必要があります。
Q. MDDが発生している最中かどうかはどう判断しますか?
A. 直近の資産価値が過去の累積最高値をまだ更新していなければ、ドローダウンは「進行中」と判断します。累積最高値を更新した時点でその回のドローダウンは終了し、そこから新しいピークを基準とする次のドローダウンの計測が始まります。
出典・参考(2026-08確認)
- 金融庁(投資信託・運用報告書制度) https://www.fsa.go.jp/
- 日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/
- 日本銀行「金融システムレポート」(ファンド等のリスク特性分析) https://www.boj.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。