この記事で分かること
- 利益準備金の定義と、配当時の積立ルール(配当額の10分の1、資本金の4分の1が上限)
- 資本準備金との違いと、分配可能額に含まれない理由
- 積立額を整数設例で計算し、2期連続の配当で上限に達する様子を確認
- 準備金の減少(取崩し)に必要な手続
30秒で分かる定義
利益準備金(Legal Reserve/Retained Earnings Reserve)とは、会社法上の準備金の一つで、剰余金の配当をするときに、配当により減少する剰余金の額の10分の1を、資本準備金または利益準備金として計上するものです。積立は、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1(基準資本金額)に達するまで求められます[1][2]。その他利益剰余金を原資とする配当に対応する積立が利益準備金、その他資本剰余金を原資とする配当に対応する積立が資本準備金です。準備金は剰余金の額の計算で控除されるため、分配可能額には含まれません[1]。
なぜ実務で重要なのか
経理・財務の担当者は、配当を決める際に、積立額を加えた剰余金の減少額を見込みます。M&A・PEの担当者は、買収後の配当や資本政策(配当によるリキャップなど)で、積立後も分配可能額が足りるかを確認します。融資担当者は、純資産の部のうち準備金が株主に分配できない部分であることを見て、分配可能額の余力を判断します。分配可能額の全体像は分配可能額、払込資本側の準備金は資本金と資本準備金で扱います。
計算式(ま たは仕組み)
積立額 = MIN(準備金計上限度額、配当により減少する剰余金の額 × 1/10) ※準備金の額が基準資本金額以上なら零
会社計算規則第22条は、剰余金の配当後の準備金の額を、この式で定めています。配当の原資がその他資本剰余金とその他利益剰余金の両方にまたがる場合は、積立額を資本剰余金配当割合・利益剰余金配当割合で按分し、資本準備金と利益準備金にそれぞれ計上します[2]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。資本金10,000、資本準備金1,500、利益準備金500の会社が、その他利益剰余金を原資に配当します。
| 1回目(配当3,000) | 2回目(配当6,000) | |
|---|---|---|
| 基準資本金額(資本金 × 1/4) | 10,000 × 1/4 = 2,500 | 2,500 |
| 配当前の準備金 | 1,500 + 500 = 2,000 | 1,500 + 800 = 2,300 |
| 準備金計上限度額 | 2,500 − 2,000 = 500 | 2,500 − 2,300 = 200 |
| 配当 × 1/10 | 3,000 × 1/10 = 300 | 6,000 × 1/10 = 600 |
| 積立額(小さい方) | MIN(500, 300) = 300 | MIN(200, 600) = 200 |
| 配当後の利益準備金 | 500 + 300 = 800 | 800 + 200 = 1,000 |
1回目の仕訳は、その他利益剰余金3,300/現金3,000、利益準備金300です。2回目で準備金の合計は 1,500 + 1,000 = 2,500 となり基準資本金額に達するため、資本金と準備金の額が変わらない限り、以後の配当では積立は不要です。判定は配当をする日の準備金の額と基準資本金額で行うため、増資や準備金の減少で準備金が基準資本金額を下回れば、再び積立が必要になります[2]。
開示・規制上の位置付け
株主資本は、貸借対照表の純資産の部で、資本金・資本剰余金・利益剰余金に分かれ、資本剰余金は資本準備金とその他資本剰余金、利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金に区分されます[2]。準備金を減少させる場合は、原則として株主総会の決議で、減少額と効力発生日などを決めます(会社法第448条第1項)。株式の発行と同時に準備金を減少し、効力発生日後の準備金の額が従前を下回らない場合は、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)で足ります(同条第3項)。債権者の異議手続は原則必要ですが、準備金のみを減少し、定時株主総会で決議し、減少額が欠損の額を超えない場合などは要りません(第449条第1項ただし書)[1]。準備金を減少すると、その減少額は剰余金に加算されます。ただし、減少額のうち資本金とする額(第448条第1項第2号)は加算されません(第446条第4号)。
財務モデル・Excelでの使い方
- 積立額:配当原資がその他利益剰余金のみの簡易版は
=IF(準備金計>=資本金/4,0,MIN(資本金/4-準備金計,配当額*0.1))です。 - 純資産の部のつなぎ:その他利益剰余金の減少額 = 配当額 + 積立額、利益準備金の増加額 = 積立額とし、貸借対照表の貸借を一致させます。
- 分配可能額の確認:配当と積立の合計がその他利益剰余金(など)の範囲内か、配当ごとにチェックセルで確認します。
この用語を実務で
配当に連動する準備金の積立を純資産の部のスケジュールに組み込み、貸借対照表を崩さずに予測できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「配当をすれば必ず配当額の10分の1を積み立てる」→ 準備金の合計が資本金の4分の1に達していれば積立は零です。設例の2回目のように、上限までの残額が小さければ、10分の1より少ない額で足ります[2]。
誤解2:「利益準備金は配当の原資になる」→ 準備金は剰余金の額から除かれるため、そのままでは分配できません。配当に回すには、準備金の減少(取崩し)の手続を経て剰余金に加算する必要があります[1]。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)会社法第445条第4項と会社計算規則第22条が積立の根拠です[1][2]。準備金がすでに基準資本金額に達している会社では、新たな積立は不要です。LBO後の配当や子会社からの配当を受ける持株会社では、子会社の分配可能額と準備金の状況を、配当の都度確認します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:利益準備金とは何で、配当にどう影響しますか。
「配当をするたびに、配当額の10分の1を、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで積み立てる、会社法上の準備金です。準備金は剰余金に含まれないので分配可能額から外れ、株主に分配できません。配当額を決めるときは、積立額を含めた剰余金の減少額が分配可能額の範囲内かを確認します。」
よくある質問(F AQ)
Q. 資本準備金と利益準備金のどちらを積み立てますか。
A. 原資による区分です。その他資本剰余金を原資とする配当には資本準備金、その他利益剰余金を原資とする配当には利益準備金を積み立てます。両方を原資にする場合は割合で按分します[2]。
Q. 準備金を取り崩すと何が変わりますか。
A. 準備金が減り、その減少額(資本金とする額を除く)は剰余金に加算されます。原則として株主総会の決議と、場合により債権者保護手続が必要です[1]。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「会社法」第445条第4項、第446条、第448条、第449条第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「会社計算規則」第22条、第76条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。