この記事で分かること
- 配当金(剰余金の配当)の定義と、決議から支払までの流れ
- 分配可能額の考え方と、配当に伴う準備金の積立を整数設例で計算
- 配当が損益計算書・貸借対照表・キャッシュ・フロー計算書に与える影響
- 基準日・権利付最終日、違法配当の責任、源泉徴収の基礎
30秒で分かる定義
配当金(Dividends)とは、株式会社が剰余金を株主に分配する金銭で、会社法上は「剰余金の配当」と呼ばれます。会社法上は金銭以外の財産を配当財産とすることもできます(第454条第4項)。株式会社は、その株主(自己株式を保有する会社自身を除く)に対して剰余金の配当をすることができます[1]。配当のたびに、株主総会の決議で配当財産の種類と帳簿価額の総額、株主への割当て、効力発生日を定め、配当財産の帳簿価額の総額は効力発生日の分配可能額を超えてはなりません。
配当を受け取れるのは、基準日(権利確定日)に株主名簿に記載された株主です。本ページは分配可能額・基準日・課税の基礎を扱い、配当政策や配当性向などの指標は配当政策ほか個別ページで扱います。
なぜ実務で重要なのか
経営企画・IR・財務は、配当を株主還元の手段として決め、財源(分配可能額)と資金繰りを確認します。IB・FAS・PEは、配当やリキャップによる資本構成の変化、銀行借入の配当制限条項(コベナンツ)を前提にモデルを組みます。株主・運用は、配当利回りや配当の継続性を銘柄評価に使います。配当を財務三表の連動に組み込む点検はAIで財務三表を読み解くでも扱われています。
計算式(ま たは仕組み)
配当は、決議から支払までを次の順で進めます。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 決議 | 配当財産の種類・帳簿価額の総額、株主への割当て、効力発生日を株主総会で決める。取締役会設置会社は、定款の定めで事業年度中に1回に限り取締役会決議で中間配当ができる | 会社法 第454条第1項・第5項 |
| ② 基準日 | 基準日に株主名簿に記載された株主が権利者。基準日株主の権利行使は基準日から3か月以内のものに限る | 会社法 第124条 |
| ③ 分配可能額 | 配当財産の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはならない | 会社法 第461条 |
| ④ 準備金 | 配当で減少する剰余金の額の10分の1を準備金に計上する(資本金の4分の1に達するまで) | 会社法 第445条第4項、会社計算規則 第22条 |
| ⑤ 支払 | 株主名簿に記載した株主の住所等で交付する。費用は会社負担 | 会社法 第457条 |
分配可能額は、剰余金の額から自己株式の帳簿価額などを控除して求めます。
剰余金の額(会社法第446条)は、最終事業年度末の資産・自己株式の帳簿価額の合計から、負債・資本金・準備金などを差し引いた額に、期末後の変動を加減して求めます。事業年度末の貸借対照表では、おおむね「その他資本剰余金+その他利益剰余金」です。会計監査人設置会社などが一定の要件を満たし、定款に定める場合は、取締役会が配当を決定することもできます(第459条)。純資産額が300万円を下回る場合は、配当に関する第453条から第457条までの規定が適用されず、剰余金の配当はできないとされます(第458条)[1]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。発行済株式数10,000,000株のうち自己株式500,000株(帳簿価額100百万円)。1株当たり配当(DPS)は20円。最終事業年度末のその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計(剰余金の額)は1,000百万円で、のれん等調整額などの追加控除はないものとします。資本金は2,000百万円、準備金(資本準備金と利益準備金の合計)は400百万円、配当の原資はその他利益剰余金とします。
① 配当総額:配当を受ける株式は10,000,000−500,000=9,500,000株、9,500,000×20円=190,000,000円=190百万円。
② 分配可能額:1,000−100=900。190≦900のため配当できます。なお、配当後の分配可能額は単純な900−190=710ではありません。③の準備金の積立額19も剰余金から減るため(会社法第446条第7号、会社計算規則第150条第1項第2号)、他の変動がなければ、配当後の剰余金791から自己株式100を引いた691になります。
③ 準備金:基準資本金額=2,000×1/4=500、準備金計上限度額=500−400=100。配当額の10分の1=190×1/10=19。少ない方の19を利益準備金に積み立てます(準備金は400→419)。剰余金の減少額は190+19=209で、剰余金は1,000→791です。
④ 個人株主の手取り:1,000株保有なら配当は1,000×20円=20,000円。上場株式等の配当等(大口株主等を除く)の源泉徴収は所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%なので、20,000×15.315%=3,063円、20,000×5%=1,000円。手取りは20,000−3,063−1,000=15,937円です[3]。
参考として、EPSが50円なら配当性向は20÷50=40%、株価が800円なら配当利回りは20÷800=2.5%です。
PL・BS・CFへの影響
配当は費用ではなく利益の処分で、損益計算書の利益には影響しません。設例の配当(190百万円を現金で支払う場合)の影響は次のとおりです。
- BS:現金が190減り、純資産が190減る。純資産の内訳は、その他利益剰余金が209減り、利益準備金が19増える(利益準備金も利益剰余金の内訳なので、利益剰余金合計は190減、純資産合計も190減)。
- CF:配当金の支払は、一般に財務活動によるキャッシュ・フローに計上される。
- PL:影響なし。期末の配当決議から支払までの期間にまたがるときは、未払配当金(負債)が計上される。
株式分割などで1株当たり配当を過去と比べるときは、調整が必要です(株式分割・併合の調整係数の作り方)。
財務モデル・Excelでの使い方
モデルでは、配当を「財源チェック」と「三表連動」の2点で組みます。
- 分配可能額チェック:
=IF(配当総額<=剰余金-自己株式簿価,"OK","NG")。実際の分配可能額は追加の控除項目(のれん等調整額、評価差額など)があるため、会計方針ごとに調整する。 - 準備金:
=MAX(0,MIN(資本金*1/4-準備金,配当総額*1/10))。 - 三表連動:現金(財務CFの配当支払)、その他利益剰余金(配当と準備金積立の合計額を減少)、利益準備金(積立額を増加)を連動させる(利益剰余金合計の減少は配当額と一致する)。
- 指標:配当性向は
=DPS/EPS、配当利回りは=DPS/株価。
この用語をExcelで
配当総額から分配可能額のチェック、準備金の積立、現金と純資産への反映までを、三表モデルに組み込める。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「配当は費用なので利益が減る」→ 配当は利益の処分で、損益計算書の費用ではありません。純資産(利益剰余金)が減ります。
誤解2:「赤字の年は配当できない」→ 法律上の財源は分配可能額で、当期の損益ではありません。当期が赤字でも、分配可能額の範囲内であれば配当は可能です(実際に出すかは会社の判断)。
誤解3:「基準日に株を買えば配当をもらえる」→ 基準日に株主名簿に記載されている必要があり、約定から名簿記載までに日数がかかるため、基準日より前に買う必要があります。この締切が権利付最終日で、翌日が権利落ち日です(権利落ちと権利確定日)。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)3月決算の上場会社では、基準日を3月31日、定時株主総会を6月下旬として期末配当を決議する例が多く見られます(基準日株主の権利は基準日から3か月以内に行使するもの、会社法第124条第2項)[1]。
上場会社の配当の決定は、金商法第166条第2項第1号トの「剰余金の配当」に関する決定として重要事実の類型に挙がっています。また、公表済みの配当の予想値との差異(内閣府令の基準に該当するもの)が生じた場合も、同項第3号の重要事実です[4]。このため、配当の決定や予想修正は適時開示で公表されるのが通例です。
課税面では、国税庁は、上場株式等の配当等(大口株主等を除く)について15.315%(他に地方税5%)、上場株式等以外の配当等は20.42%(地方税なし)を源泉徴収と案内しています。令和9年1月1日以後に生ずる所得は復興特別所得税の税率が引き下げられ、防衛特別所得税が併せて源泉徴収されるとされるため、最新の案内を確認します[3]。法人株主の受取配当は受取配当等の益金不算入制度が論点です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:会社法上、配当を出すための条件を説明してください。
「配当は、株主総会などで配当財産の総額や効力発生日を決議し、その帳簿価額の総額が効力発生日の分配可能額を超えないことが条件です。分配可能額は、剰余金の額から自己株式の帳簿価額などを差し引いて求めます。配当に際しては、減少する剰余金の10分の1を、資本金の4分の1に達するまで準備金に積み立てます。当期の損益ではなく、分配可能額が基準です。」
深掘りされる観点:①配当と自己株式取得の財源規制、②DPS・配当性向・配当利回り(1株当たり配当金)の関係、③配当政策と資本構成。
よくある質問(F AQ)
Q. 違法な配当をするとどうなりますか。
A. 分配可能額を超えて配当した場合、金銭の交付を受けた者と、その行為に関する職務を行った業務執行者は、会社に対して連帯して、交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います。業務執行者は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば義務を負いません(会社法第462条)。善意の株主は業務執行者からの求償に応じる義務を負わず、会社の債権者は株主に直接支払を求められます(第463条)。
Q. 配当と自己株式の取得は何が同じですか。
A. どちらも株主に金銭等を交付する行為として、分配可能額を超えてはならないという同じ財源規制がかかります(会社法第461条第1項)。配当は、原則として株主の持株数に応じて割り当てる点が特徴です(第454条第3項)。ただし、剰余金の配当について内容の異なる種類株式を発行している場合は、ある種類の株主に割り当てない、種類ごとに異なる取扱いをする、と定めることができます(第454条第2項、第108条第1項第1号)。
出典・参考(2 026-11確認)
- 会社法(平成17年法律第86号)第108条、第124条、第445条第4項、第446条、第453条、第454条、第457条〜第463条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- 会社計算規則(平成18年法務省令第13号)第22条・第23条・第150条(準備金の計上、減少する剰余金の額、最終事業年度の末日後に生ずる控除額). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)
- 国税庁タックスアンサー No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm(2026年11月参照)
- 金融商品取引法 第166条第2項第1号ト・第3号(重要事実:剰余金の配当の決定、配当の予想値との差異). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。