この​記事で​分かる​こと

  • 会計上の剰余金(資本剰余金・利益剰余金)の区分と中身
  • 会社法上の「剰余金の額」が準備金を含まない理由と計算方法
  • 剰余金の額から分配可能額へ進む流れを設例で確認
  • 配当時の準備金の積立てと、有報・計算書類で確認する箇所

30秒で​分かる​定義

剰余金(じょうよきん、Surplus)とは、株主資本のうち、株主からの払込みに由来する資本剰余金と、利益の積み上げに由来する利益剰余金の総称です。個別貸借対照表では、資本剰余金を資本準備金とその他資本剰余金に、利益剰余金を利益準備金とその他利益剰余金に分けて表示します[1]。一方、会社法の「剰余金の額」は準備金を含まない別の概念で、配当などの上限である分配可能額の計算の出発点になります[2]。利益の積み上げ部分は利益剰余金で扱います。

なぜ実務で​重要なのか

剰余金は、配当・自己株式取得・減資など株主還元と資本政策の議論の中心にあります。経営企画・財務は配当や自社株買いの前に分配可能額を確認し、PE・FASはLBO後に対象会社から持株会社へ配当で資金を上げられるか(配当可能な剰余金があるか)を検討します。融資担当は、配当制限条項の基準として剰余金や純資産の水準を確認します。純資産の部全体の読み方は純資産の​部の​読み方で扱っています。

計算式​(または仕組み)

会計上の剰余金 = 資本剰余金(資本準備金 + その他資本剰余金) + 利益剰余金(利益準備金 + その他利益剰余金)
会社法上の剰余金の額(最終事業年度末時点) = その他資本剰余金 + その他利益剰余金

会社法第446条は、剰余金の額を「資産+自己株式の帳簿価額−負債−資本金及び準備金−法務省令で定める額」に、期末後の自己株式処分・減資・準備金減少・配当などを加減して求めると定めています[2]。法務省令(会社計算規則第149条)の控除額を当てはめると、期末時点の剰余金の額はその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計になります[3]。

項目会計上の剰余金会社法上の剰余金の額
資本準備金・利益準備金含む含まない
その他資本剰余金・その他利益剰余金含む含む
期末後の配当・自己株式処分など期末BSには反映されない加減する

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。ある株式会社の期末の個別BSの株主資本が、資本金1,000、資本準備金250、その他資本剰余金400、利益準備金150、その他利益剰余金2,200、自己株式△300とします。期末後に剰余金の変動はなく、のれん・繰延資産・評価差額金のマイナスなど他の控除項目はないものとします。

  • 会計上の資本剰余金 = 250 + 400 = 650、利益剰余金 = 150 + 2,200 = 2,350
  • 株主資本 = 1,000 + 650 + 2,350 − 300 = 3,700
  • 会社法上の剰余金の額 = 400 + 2,200 = 2,600(準備金250・150は含めない)
  • 分配可能額 = 剰余金の額2,600 − 自己株式の帳簿価額300 = 2,300

この会社が100の配当をする場合、準備金の合計(250 + 150 = 400)が資本金の4分の1(250)以上なので、配当に伴う準備金の積立ては不要です。仮に準備金が資本金の4分の1未満なら、配当で減る剰余金の10分の1(100 × 1/10 = 10)を、資本金の4分の1に達するまでの範囲で準備金として計上します[2][3]。

PL・​BS・​CFへの​影響

当期純利益は利益剰余金(その他利益剰余金)を増やし、配当は原資に応じてその他利益剰余金またはその他資本剰余金を減らします。自己株式の取得では剰余金は直接減らず、株主資本の控除項目として自己株式が増えますが、分配可能額の計算では自己株式の帳簿価額を差し引きます[2]。配当は現金を減らしますが、剰余金の残高と手元資金の額は一致しません。剰余金が多くても現金が乏しければ配当は難しく、その逆もあります。財務三表のつながりは財務三表の​つながり完全​ガイドで確認できます。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 4行で持つ:資本準備金・その他資本剰余金・利益準備金・その他利益剰余金を別行にし、会計上の剰余金と会社法上の剰余金の額をそれぞれ集計行で出します。
  • 分配可能額のチェック:=その他資本剰余金+その他利益剰余金−自己株式−その他の控除項目 を計算し、配当・自社株買いの計画値がこれを超えないかをフラグで確認します。
  • LBOの配当経路:対象会社の単体の分配可能額をスケジュールで持ち、持株会社のデット返済に回せる上限として使います。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

純資産の​部の​各項目から、​会計上の​剰余金と​会社法上の​剰余金の​額・​分配可能額を​分けて​計算できるようになる。

財務会計の​教材で​純資産と​剰余金を​整理する →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「利益剰余金の全額を配当できる」→ 正しくは、利益準備金は剰余金の額に含まれません。さらに自己株式やのれん等調整額などの控除があるため、分配可能額は利益剰余金より小さくなるのが通常です。

誤解2:「連結の利益剰余金で配当の上限が決まる」→ 正しくは、配当の上限は各社の個別の計算書類で計算します。連結では利益剰余金が厚くても、親会社単体に剰余金がなければ配当できません。なお、連結配当規制適用会社を選んだ会社は、個別の額を基礎にしつつ、連結の株主資本等が個別より少ない場合にその差額を追加で控除します[3]。

誤解3:「資本剰余金からは配当できない」→ 正しくは、その他資本剰余金を原資とする配当もできます。ただし税務上はみなし配当など別の論点が生じ得るため、専門家に確認します。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)剰余金の額は会社法第446条、分配可能額は第461条第2項で定められ、分配可能額は剰余金の額から自己株式の帳簿価額などを差し引き、さらに会社計算規則第158条の額(のれん等調整額の超過額など)を控除して求めます[2][3]。配当をするときは、減少する剰余金の額の10分の1を、準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで資本準備金または利益準備金として計上します[2][3]。上場会社の場合、個別の剰余金の内訳は有価証券報告書の個別貸借対照表と株主資本等変動計算書で確認できます。分配可能額の詳しい計算は分配可能額のページで扱います。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:利益剰余金が十分にある会社でも、配当できないことがあるのはなぜですか。
「配当の上限は会社法の分配可能額で決まり、会計上の利益剰余金とは違うからです。利益準備金は含まれず、自己株式の帳簿価額や、のれん等調整額が一定の額を超える部分などが差し引かれます。また連結ではなく親会社単体の計算書類で判断するので、子会社に利益がたまっているだけでは配当原資になりません。」

深掘りでは「期末後に自己株式を取得した場合の分配可能額への影響」「減資で剰余金を増やす手続」が問われます。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 剰余金と内部留保は同じですか?
A. 内部留保は法令上の用語ではなく、一般に利益剰余金を指して使われることが多い言葉です。資本剰余金を含む会計上の剰余金とは範囲が異なります。

Q. 準備金を取り崩して剰余金を増やせますか?
A. できます。会社法上、準備金の額を減少させると、その減少額は剰余金の額の計算で加算されます(資本金・準備金に振り替えた部分を除く)[2]。手続には原則として株主総会の決議と債権者異議手続が必要です(定時株主総会で欠損の額の範囲内で準備金のみを減らす場合などは、債権者異議手続が不要)[2]。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 企業会計基準委員会 企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(最終改正2021年1月28日)第5項・第6項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/zeikouka_20260707_16.pdf(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「会社法」第445条・第446条・第448条・第449条・第461条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「会社計算規則」第2条第3項第55号・第22条・第76条・第149条・第158条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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