この記事で分かること
- 棚卸減耗損の計算式と、数量の不足(減耗)と価格の低下(評価損)の違い
- 帳簿1,000個・実地970個の整数設例で、減耗損と評価損を順に計算して貸借対照表価額を検算
- 損益計算書での表示区分(売上原価・販管費・営業外費用・特別損失)の考え方
- 財務DDでの差異率の見方と、日本基準・規則での表示(2026年11月時点)
30秒で分かる定義
棚卸減耗(棚卸減耗損、Inventory Shrinkage、たなおろしげんもう)とは、紛失・盗難・破損・記録や計量の誤りなどにより、実地棚卸で数えた数量が帳簿上の数量より少なくなることをいい、その差額を原価で評価した金額が棚卸減耗損です。価格や品質の低下を原因とする評価損とは異なり、数量の不足を表します。
価格面の評価は棚卸資産の低価法、陳腐化は陳腐在庫・不良在庫の評価減のページで扱います。
なぜ実務で重要なのか
棚卸減耗は、在庫管理の質を映す数字です。経理・経営企画は期末の実地棚卸と帳簿の差異を、決算の損益と内部統制の両面で確認します。FAS・PEは財務DDで、棚卸減耗損が売上原価の中に埋もれていないかを調べ、利益の質と在庫管理の水準を確認します。融資担当は、在庫を担保にする貸付で、帳簿在庫と実在庫のずれの大きさを重視します。在庫評価の基本は在庫の評価方法とCOGSで整理しています。
計算式(ま たは仕組み)
帳簿棚卸数量は、入庫と出庫を継続して記録する継続記録法で得られます。出庫を記録せず、期末の実地数量から払出数量を逆算する棚卸計算法では、減耗が払出に紛れ込んで見えないため、減耗を把握するには継続記録法と実地棚卸の組み合わせが必要です(継続記録法と棚卸計算法)。
| 論点 | 棚卸減耗 | 評価損(低価法・陳腐化) |
|---|---|---|
| 原因 | 数量の不足(紛失・盗難・破損・記録誤り) | 価格・品質の低下(収益性の低下) |
| 計算の基準 | 数量差 × 取得原価 | 実地数量 ×(取得原価 − 正味売却価額) |
| 順序 | 先に数量を確定 | 実地数量に対して評価損を計算 |
収益性の低下による簿価切下額は、基準上は売上原価とし、臨時の事象(災害損失など)に起因して多額であれば特別損失とされます[1]。財務諸表等規則も、切下額を売上原価の内訳項目として区分掲記するか注記するよう定めています[2]。一方、棚卸減耗損そのものの表示は、一般に、原価性があれば売上原価または販売費及び一般管理費、原価性がなければ営業外費用または特別損失とされます(実務慣行)。営業外費用・特別損失には、それぞれ規則上の項目の区分があります[2]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は円。商品Aの帳簿棚卸数量1,000個、取得原価は1個2,000円、期末の実地棚卸数量970個、正味売却価額(売価から見積販売直接経費等を引いた額)は1個1,800円とします。
- 帳簿価額 = 1,000個 × 2,000円 = 2,000,000円
- 棚卸減耗損 = (1,000 − 970)個 × 2,000円 = 30個 × 2,000円 = 60,000円
- 評価損(収益性の低下による切下額)= 970個 × (2,000 − 1,800)円 = 970個 × 200円 = 194,000円
- 貸借対照表価額 = 970個 × 1,800円 = 1,746,000円(検算:2,000,000 − 60,000 − 194,000 = 1,746,000)
減耗の大きさは、減耗損 ÷ 帳簿価額 = 60,000 ÷ 2,000,000 = 3.0% で比べます。この比率を店舗別・倉庫別・期別に並べると、管理に問題のある拠点が分かります。
PL・BS・CFへの影響
BS:棚卸資産が、減耗した数量の原価分だけ減少します(設例では60,000円)。PL:減耗損は費用として利益を押し下げます。原価性ありと判断され売上原価に含めれば売上総利益と営業利益が、販管費に含めれば営業利益が減ります。突発的な盗難や災害で原価性がない場合は営業外費用や特別損失になり、営業利益には影響しません。CF:減耗損は現金支出を伴わないため、間接法の営業CFでは棚卸資産の減少として利益の減少分が戻ります。失った在庫を補充するときに、現金が出ていきます。
実務での調べ方・確認手順
- 差異表:品目別に「帳簿数量・実地数量・差異数量・単価・減耗損」を並べ、差異率の高い品目・拠点を上から確認します。計算式は
=(帳簿数量-実地数量)*単価。 - 期間比較:期別の差異率(減耗損÷帳簿棚卸高)を並べ、急に悪化していないかを確認します。
- 損益の置き場:減耗損が売上原価・販管費・営業外費用のどこに計上されているかを、勘定科目内訳で確認します。
- 実地棚卸の立会い:実地棚卸の日と決算日のずれ、カットオフ(入出庫の期間帰属)の処理も確認します。
この用語を実務で
帳簿数量と実地数量の差から減耗損を計算し、評価損と分けて損益・貸借対照表へ反映する表を組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「棚卸減耗損と評価損は同じものだ」→ 減耗損は数量の不足、評価損は価格・品質の低下で、計算の基準も表示区分も異なります。順序は、数量差を先に確定してから、実地数量に評価損を計算します。
誤解2:「減耗損は常に売上原価に入る」→ 原価性の有無で表示区分が分かれるのが一般的です。損益の位置によって営業利益やEBITDAの水準が変わるため、DDでは科目を確認します。
誤解3:「帳簿と実地の差は小さければ問題ない」→ 金額が小さくても、特定の拠点に偏る場合は内部統制の不備を示すことがあります。差異率の分布を見ます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性低下による簿価切下額は、企業会計基準第9号で売上原価とし、臨時かつ多額であれば特別損失とされます[1]。棚卸減耗損の表示区分を直接定めた条文は、本稿で確認した資料の範囲では見当たらないため、会社ごとの会計方針と、有価証券報告書の損益計算書の注記・内訳で確認します。財務諸表等規則では、売上原価に属する項目として期首棚卸高・当期仕入高または製造原価・期末棚卸高を掲記します[2]。
税務上の取扱いは会計と異なる場合があるため、税理士・会計士と確認します。M&Aの財務DDでは、棚卸の実施状況と差異の履歴を、在庫管理の質を測る資料として使います。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:帳簿1,000個、実地970個、単価2,000円の在庫の棚卸減耗損はいくらで、どこに計上しますか。
「数量差30個に取得原価2,000円を掛けて、60,000円です。通常の範囲で原価性があれば売上原価または販管費、突発的な災害や盗難で原価性がなければ営業外費用や特別損失に計上するのが一般的です。価格の下落があれば、実地数量970個に対して別に評価損を計算します。」
深掘りの観点:減耗損と評価損の計算順序/継続記録法と棚卸計算法の違い/差異率の使い方。
よくある質問(F AQ)
Q. 棚卸減耗損が出たら、帳簿数量を実地数量に合わせて修正しますか。
A. はい。実地棚卸の結果で帳簿数量を修正し、棚卸資産を減らして減耗損を計上します。ただし、差異の原因が仕入・売上の記帳漏れやカットオフのずれなど記録誤りと分かった場合は、該当取引を訂正し、実際に失われた数量だけを減耗損とします。原因の調査は再発防止にもつなげます。
Q. 在庫が帳簿より多かった場合はどうしますか。
A. 数量が増えた場合も、実地数量に合わせて帳簿を修正します。原因の多くは入庫・出庫の記録誤りやカットオフのずれなので、原因を確認してから処理します。
出典・参考(2 026-11確認)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」 第17項. https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=24(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和三十八年大蔵省令第五十九号) 第75条・第80条・第93条・第95条の3. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。