この記事で分かること

  • 陳腐化在庫・不良在庫の評価減の定義と、低価法との関係・違い
  • 滞留期間区分ごとに評価減率を適用する実務の考え方
  • 整数設例による評価減額の計算と検算
  • 財務DDでこの論点がどう見られるか(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

陳腐化在庫・不良在庫の評価減(Write-Down for Obsolete and Slow-Moving Inventory、読み方:ちんぷかざいこ・ふりょうざいこのひょうかげん)とは、市場価格の下落ではなく、技術的陳腐化・モデルチェンジ・流行遅れ・長期滞留などにより実質的な価値が低下した棚卸資産について、帳簿価額を正味売却価額まで切り下げる会計処理です。会計基準上は棚卸資産の低価法(取得原価と正味売却価額のいずれか低い方で評価する考え方)の一形態ですが、実務では「陳腐化評価減」「滞留在庫の評価損」という呼び方で、通常の市況変動による低価法とは別枠の判断プロセスとして扱われます。

なぜ実務で重要なのか

経理・在庫管理部門は、決算ごとに在庫の滞留状況を棚卸資産管理システムから抽出し、評価減の要否を判定します。監査(会計監査人)は、評価減の見積り(滞留期間区分・評価減率の設定根拠)が合理的かを重点的に確認する重要な会計上の見積り項目として扱います。PE・FASの財務DDでは、在庫の含み損(本来計上すべき評価減の未計上)がEBITDA調整項目として頻繁に指摘されます。小売・製造業の経営企画は、評価減の発生自体を商品企画・生産計画の精度を測るKPIとして利用します。

仕組み:滞留期間区分による評価減率の設定

評価減額 = 帳簿価額 − 正味売却価額(=帳簿価額 × 滞留期間区分に応じた評価減率)

個々の在庫アイテムごとに正味売却価額を見積もるのは実務上困難なため、多くの企業は滞留期間(最終出庫日からの経過月数)を区分し、区分ごとに一律の評価減率を適用するアプローチを取ります。滞留が長いほど、将来販売できる可能性・価格ともに下がるという経験則に基づく近似計算です。

滞留期間区分評価減率
0〜6か月0%
6〜12か月30%
12〜24か月70%
24か月超100%

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。棚卸資産の帳簿価額を滞留期間区分別に整理すると次のとおりです。

  • 0〜6か月:帳簿価額400 → 評価減率0% → 評価減0
  • 6〜12か月:帳簿価額100 → 評価減率30% → 評価減 100×0.3=30
  • 12〜24か月:帳簿価額50 → 評価減率70% → 評価減 50×0.7=35
  • 24か月超:帳簿価額20 → 評価減率100% → 評価減 20×1.0=20

評価減額の合計 = 0+30+35+20 = 85。帳簿価額の合計 = 400+100+50+20 = 570。評価減後の棚卸資産残高 = 570-85 = 485となります。検算:区分ごとの評価減後残高(400、70、15、0)を合計しても400+70+15+0=485で一致します。

PL・BS・CFへの影響

評価減額はPL上、売上原価に含めるか「棚卸資産評価損」として独立掲記するかは企業の会計方針によりますが、いずれにせよ利益を押し下げます。BS上は棚卸資産の帳簿価額が減額されます。キャッシュフロー計算書(間接法)では、棚卸資産評価損は非現金項目ですが、多くの場合、棚卸資産の増減額そのものに評価減の効果が織り込まれるため、独立の調整項目として別建てしないことが一般的です。棚卸資産全体の評価方法は在庫の評価方法とCOGSで詳しく解説しています。

財務モデル・Excelでの使い方

評価減の見積りは、実績の滞留在庫エイジングリストを基にモデル化します。

  • SKU別・最終出庫日別に滞留月数を計算し、区分(0〜6/6〜12/12〜24/24か月超)へ自動仕分けする
  • 区分ごとの評価減率は過去の実際廃棄・処分実績(ロールフォワード検証)から見直し、机上の一律基準に固定しない
  • 予測モデルでは、売上原価の一定比率として評価減費用を見積もるシンプルな方法と、区分別エイジングを毎期更新する方法を、分析目的(実績分析かバリュエーションか)で使い分ける

運転資本全体の中での在庫の位置づけは運転資本(ワーキングキャピタル)を参照してください。

この用語をExcelで「組める」状態にする

在庫のエイジング区分から評価減額を自動計算するモデルを組めるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「陳腐化評価減と低価法は別の会計処理」→ 正しくは、いずれも取得原価と正味売却価額のいずれか低い方で評価するという同じ会計基準の枠組み内にあります。陳腐化評価減は、市況変動ではなく滞留・陳腐化という要因で正味売却価額を見積もる実務上のアプローチです。

誤解2:「評価減さえすれば在庫リスクは解消する」→ 正しくは、評価減は過去の在庫政策の結果を財務諸表に反映させるだけで、将来の同じ問題(過剰発注・需要予測の誤り)を防ぐものではありません。

財務DDでは、評価減率の基準が過去数期で変更されていないか、決算期直前だけ滞留区分の定義を緩めていないかを確認します。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の会計基準上、棚卸資産は取得原価と正味売却価額のいずれか低い方で貸借対照表価額とすることが定められており(棚卸資産の評価に関する会計基準)、陳腐化・品質低下により収益性が低下した場合は、この正味売却価額の見積りに反映させます。滞留期間区分による評価減率の設定は会計基準そのものが定める方法ではなく、各社が正味売却価額を合理的に見積もるための実務上の近似手法です。そのため監査上は、評価減率の設定根拠(過去の処分実績との整合性)が重要な検討項目になります(2026年8月時点)。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:財務DDで在庫の評価減が過小であることが疑われる場合、どのような点を確認しますか。
「まず滞留期間別のエイジングリストを入手し、区分ごとの評価減率が過去の実際の廃棄・値引き販売実績と整合しているかを確認します。次に、決算期直前だけ評価減率を緩めていないか、他社比で滞留在庫の比率が異常に高くないかを見ます。過小な評価減が疑われる場合は、あるべき評価減額とEBITDA調整額を試算し、バリュエーションに反映します。」

深掘りでは「低価法との会計基準上の関係」「評価減が翌期に戻し入れられることはあるか(原則不可、回復時は洗い替え法で対応)」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 評価減した在庫が後で売れた場合、利益は増えますか?
A. 評価減後の帳簿価額を下回らない価格で販売できれば、その分だけ想定より利益率が改善します。ただし評価減自体を取り消す(戻し入れる)会計処理とは区別されます。

Q. 評価減率は業種で違いますか?
A. はい。アパレル・電子機器のように陳腐化が早い業種ほど短い滞留期間で高い評価減率を設定する傾向があり、耐久性の高い部材を扱う業種では区分の期間を長めに設定することが一般的です。

出典・参考(2026-08確認)

  • ASBJ・企業会計基準委員会(棚卸資産の評価に関する会計基準) https://www.asb-j.jp/
  • 日本公認会計士協会(棚卸資産の監査上の留意点に関する実務指針) https://jicpa.or.jp/

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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