この​記事で​分かる​こと

  • 内部格付の仕組み(債務者格付・案件格付)と、外部格付・債務者区分との違い
  • 内部格付がPD・期待損失を通じて貸出金利・与信限度・引当・規制資本に使われる流れ
  • 格付別の貸出金利を積み上げる整数設例(借り手から見た格付改善の効果)
  • 内部格付手法(IRB)のバーゼル規制上の位置付け

30秒で​分かる​定義

内部格付(Internal Rating、行内格付、読み方:ないぶかくづけ)とは、銀行等が自ら定めた基準で取引先の信用力を段階的に評価する仕組みです。格付会社が公表する外部格付(信用格付)とは別に、銀行が与信先ごとに内部で付与します。結果は非公開が一般的で、貸出金利や与信限度の設定、貸倒引当、デフォルト確率(PD)の推計、規制資本の算出などに用いられます。債務者区分(正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先)は、この格付と関連しつつ別の枠組みです。

なぜ実務で​重要なのか

借り手にとって内部格付は、借入の金利・条件・限度額を左右する見えない前提です。財務・経営企画は、財務指標の改善が与信条件にどう効くかを考えます。融資・与信審査担当は、格付に基づく採算と与信限度を判断します。LBOなどのファイナンス担当は、与信委員会での格付付与を前提に条件を組みます(LBO​ファイナンスの​銀行審査実務は貸し手側の手順です)。銀行のリスク管理部門は、PD・LGDを推計して引当と資本の水準を管理します。

計算式​(または仕組み)

内部格付は、一般に債務者格付(相手先の信用力)と案件格付(担保・保証・劣後性を加味した回収見込み)に分けて付与されます。債務者格付からPD、案件の特性からLGD(デフォルト時損失率)を導き、期待損失を求めます。

期待損失(EL)= PD × LGD × EAD
貸出金利 ≒ 資金調達コスト + 期待損失率(PD×LGD)+ 経費率 + 目標利益(資本コスト)
区分誰が・何のために付ける公表主な使い道
内部格付銀行が自行の基準で付与非公開が一般的金利・与信限度・引当・規制資本
外部格付(信用格付)格付会社が付与公表社債・市場での信用力の目安
債務者区分銀行が自己査定で区分開示債権の集計として公表貸倒引当金の算定、不良債権の開示

規制資本では、銀行が自行のPD等を使ってリスクアセットを計算する内部格付手法(IRB)があります。金融庁・日本銀行の資料は、バーゼルIIでは資本規制のリスク感応度の向上と金融機関のリスク管理の高度化のために内部モデル手法が促進され、信用リスクで内部格付手法が導入されたと説明しています。[1]バーゼルIII最終化では、モデル化になじまない資産クラスの内部モデル利用が制限され、大・中規模企業債権(グループ連結ベースの売上高が5億ユーロ超の企業向け)と金融機関債権では先進的内部格付手法(A-IRB)が廃止されて基礎的内部格付手法(F-IRB)または標準的手法となり、株式は標準的手法とされました。特定貸付債権では引き続きA-IRBも利用でき、大・中規模企業以外の事業法人債権とリテール債権では内部モデル手法の利用が引き続き認められます。[1]事業法人のPDには下限(5bp)が設けられています。[1]自己資本比率の基準は銀行法第14条の2に基づく告示で定められます。[2]日本での具体的な適用時期は金融庁の告示・公表資料で確認が必要です。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。銀行の簡易な金利積上げモデルです。資金調達コスト0.50%、経費率0.30%、目標利益0.20%、LGDは40%とします。実際の金利は競争・担保・取引全体の採算でも決まります。

内部格付(架空)債務者区分の例PD期待損失率(PD×40%)貸出金利(積上げ)
3正常先0.2%0.08%0.50 + 0.08 + 0.30 + 0.20 = 1.08%
5正常先(下位)1.0%0.40%0.50 + 0.40 + 0.30 + 0.20 = 1.40%
7要注意先5.0%2.00%0.50 + 2.00 + 0.30 + 0.20 = 3.00%

①期待損失:格付3ならPD0.2% × LGD40% = 0.08%、格付7ならPD5.0% × 40% = 2.00%です。貸出1,000百万円(EAD)でPD1%・LGD40%の先なら、期待損失は1,000 × 1% × 40% = 4百万円です。

②借り手の負担:借入10,000百万円の年間利払いは、格付3の金利1.08%なら10,000 × 1.08% = 108百万円、格付7の金利3.00%なら10,000 × 3.00% = 300百万円で、差は300 − 108 = 192百万円です。格付が下がると、金利が上がるだけでなく、与信限度の縮小や担保の要求にもつながります。

融資審査への​影響

融資審査では、内部格付は与信先の採算と限度額を決める起点になります。借り手側で改善できる点は、一般に次のようなものです。格付の具体的な基準は銀行ごとに異なり、通常は非開示のため、以下は一般的な傾向です。

  • 財務の改善:自己資本比率、利払い能力(ICR)、債務償還年数などの水準と推移。
  • 事業計画の説明:実現可能な計画と、前提の根拠・進捗の定期的な報告。
  • 担保・保証:案件格付(LGD)に影響し、回収見込みを高めます。
  • 情報開示の姿勢:業績報告の遅れは、期中管理上のリスクとして評価されやすくなります(CRE​ローンの​業績報告が​届かない​とき)。

貸し手側の格付の再現方法は銀行の​格付を​自社の​決算で​再現するにまとめています。PD・LGD・EADの考え方はクレジットリスク​分析入門が参考になります。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 格付テーブル:格付ごとにPD・LGDを入力した表を作り、=VLOOKUP(格付,表,列番号,FALSE) でPDを引きます。
  • 金利の積上げ:=調達コスト+PD*LGD+経費率+目標利益 で貸出金利を計算し、格付の変化による利払いの差を借入モデルに反映します。
  • 感応度:格付が1〜2段階下がった場合の金利上昇幅と、ICR・DSCRの変化を表にします。
  • 注意:実際の銀行格付は公表されないため、モデルの格付は仮定として扱い、根拠(想定する指標)を注記します。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

格付別の​PD・​LGDから​貸出金利を​積み上げ、​格付の​変化が​利払いと​DSCRに​与える​影響を​借入モデルに​組み​込めるようになる。

デットモデリング​教材で​金利・​与信条件の​組み方を​見る →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「内部格付は外部格付と同じ」→ 正しくは、銀行ごとの基準で付与される非公開の評価です。外部格付がない中堅・中小企業にも付与され、同じ企業でも銀行によって格付は異なります。

誤解2:「内部格付と債務者区分は同じもの」→ 正しくは、別の枠組みで、多くの銀行は正常先を複数の格付に細分します。債務者区分は引当・開示のための区分で、内部格付はそれより細かく与信条件に使われます。

確認ポイント:借り手として、格付の通知は通常受けられないため、自社の財務指標の推移と銀行の与信条件の変化(金利・担保・限度額)から、評価の方向を推定します。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本の銀行では、与信先ごとに内部格付を付与し、債務者区分との対応づけを行って自己査定・償却引当に用いるのが一般的です。自己資本比率規制のうち内部格付手法を採用するのは、銀行法に基づく告示の定めに従い、当局の承認を受けた銀行です。[1][2]一般に、国内の多くの銀行は標準的手法を用います。債務者区分は債務者区分に整理し、自己資本の構成は銀行の​自己資本構成で扱います。与信審査のモデル化は与信審査​モデルが関連します。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:銀行は内部格付をどう貸出金利に反映しますか。
「格付からPDを、案件の担保・保証からLGDを求め、期待損失率(PD×LGD)を、資金調達コスト・経費・目標利益に上乗せして金利を決めます。例えばPD0.2%なら期待損失率は0.08%、PD5.0%なら2.00%で、金利に約2ポイントの差が出ます。」

深掘りの観点:債務者格付と案件格付の違い、IRBとバーゼルIIIの制約、格付改善のための財務指標。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 自社の内部格付を銀行に教えてもらえますか?
A. 一般に、銀行は内部格付を非公開としており、通知されないことが多いです。借入条件や与信方針の変化から推定します。

Q. 内部格付手法(IRB)はどの銀行も使えますか?
A. いいえ。告示の定めに従い当局の承認を受けた銀行が、規制資本の計算に使う手法です。それ以外の銀行は標準的手法を使います。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 金融庁・日本銀行「「信用リスクに係る内部格付手法(IRB)」の概要」(2018年2月)バーゼルIII最終化に伴う見直し. https://www.fsa.go.jp/inter/bis/20171208-1/04.pdf(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「銀行法」第14条の2(経営の健全性の確保). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=356AC0000000059(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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