想定読者:銀行・信用金庫・ノンバンクの管理回収部や与信審査部で、延滞した不動産担保債権の処分方針を稟議・方針書に書く若手の方。
前提知識:抵当権の順位の考え方と、将来の金額を一定の年率で現在価値に直す計算の基本(本記事ではこの年率を「換算率」と呼びます)。

結論:手取りと​期間を​1枚の​表に​並べてから、​ルートを​選ぶ

処分ルートの比較は、「想定処分価額 − 控除項目 = 手取り回収額」を出し、回収までの期間を踏まえて、将来の金額を現在価値に直すための年率(本記事では換算率と呼びます)で今の価値に直し、被担保債権(担保で守られている債権額)と並べる順で行います。処分価額だけを比べると、費用・先順位の優先債権・時間の差が抜け落ちます。

本記事の設例(学習用の架空事例。数値はすべて仮定)では、被担保債権1,080百万円に対し、競売の手取りは725百万円、任意売却は905百万円です。年4%の換算率で現在価値に直すと、それぞれ697.1百万円と878.8百万円で、差は181.7百万円になります。賃料で回収する収益執行は、5年続けても手取り270百万円で、単独では回収が遅くなります。ただし優劣は設例の仮定に依存し、後順位の同意が得られない場合や競売の価額が高く出る場合には逆転し得ます。

本記事は延滞した後の出口に絞ります(組成時の設計は商業用​不動産​ローンの​組成の記事を参照)。

3つの​出口の​位置づけ:裁判所が​関与する​手続と、​当事者間の​売却

日本では、抵当権などの不動産担保権の実行は、債権者が選択した次のいずれかの方法で行います。1つは、不動産を競売にかけて売却代金から配当を受ける担保不動産競売、もう1つは、不動産から生じる収益(賃料など)を被担保債権の弁済に充てる担保不動産収益執行です。1競売では、民事執行法188条により強制競売の規定の多くが準用されます。債務名義(確定判決など)がなくても、担保権の登記された登記事項証明書などを提出すれば手続が始まる点が、通常の強制執行との違いです。2

これに対して任意売却は、所有者が売主となって市場で売る通常の売買で、民事執行法が定める実行手続ではありません(条文が挙げる実行の方法は上の2つであることからの編集部の整理です)。ただし、物件に付いている担保権を抹消するには担保権者の同意が要るため、同意の取り付けが手続の中心になります。米国の住宅ローンを前提にした海外の入門解説の流れは、日本の手続にそのまま当てはまりません。3

「収益弁済」は法令用語ではないため、本記事では収益執行を民事執行法の担保不動産収益執行(裁判所が選任する管理人が賃料などを取り立てて配当に充てる手続)の意味で使います。賃料債権を差し押さえる物上代位(民法372条が304条を準用)や、約定による賃料の入金管理は別の方法です。4図表1は3つの流れを整理したものです。

図表1:担保不動産の3つの処分ルートと流れ 延滞 → 担保の評価の見直し → 回収方針の決定 担保不動産競売 任意売却 担保不動産収益執行 申立て・開始決定 現況調査・評価 入札・売却・配当 担保権者間の調整 市場での売却活動 抹消同意・代金配分 申立て・管理人の選任 賃料の収取・管理 費用控除後に配当 裁判所:手続を進める 裁判所:関与しない 裁判所:管理人を選任 債務者の同意:不要 同意:所有者・担保権者全員 債務者の同意:不要
対象:​不動産を​担保と​する​債権の​回収。​単位:なし​(流れ図)。​出所:民事執行法180条・181条・188条、​裁判所​BIT​用語集を​基に​大手町​プレップ作成​(任意売却の位置づけは編集部の整理)。​(スマートフォンでは​図を​横に​スクロールできます)

図表1のとおり、競売と収益執行は債権者の申立てで進み、債務者の同意は要りません。任意売却は裁判所を通さない代わりに、所有者と担保権者全員の同意が揃わなければ進みません。担保権の設定と対抗要件は担保権設定の解説に委ねます。

設例の​前提:同じ​物件・​同じ​債権で​3つを​比べる

以下は学習用の架空事例です。実在の物件・企業とは関係なく、数値は売却比率や期間の実績を示す統計ではなく、すべて設例上の仮定です(単位は百万円、特記のない限り)。

  • 物件:地方都市の築20年超の賃貸オフィスビル1棟。借入人は不動産賃貸会社のA社、B銀行が第1順位の抵当権者で、後順位にC(債権300)がいます。
  • 被担保債権:貸出元本1,000と未収利息・遅延損害金80(担保される範囲内と仮定)の合計1,080。鑑定評価額は1,100。
  • 先順位の租税:国税30(法定納期限等が抵当権の設定より前で、競売・任意売却の代金から先に払われると仮定)。
  • 競売:評価額の70%(770)で売却、執行費用15、申立てから配当まで12か月。
  • 任意売却:評価額の90%(990)で売却、売却諸費用35、Cへの抹消同意料20、9か月。
  • 収益執行:満室賃料が年120、稼働率85%、管理費・修繕費・公租公課が年36、管理人報酬が年6。将来の金額を現在価値に直す年率(換算率。ファイナンスでは一般にディスカウントレートと呼ばれます)は年4%、賃料は年末受取と置きます。年4%なら、1年後の100は今の価値で100÷1.04=96.2(小数第2位を四捨五入)です。

年4%の換算率は、銀行内部の償却・引当や担保評価のルールとは別の、この比較のための仮定です。債務者区分と引当は債務者区分の解説に委ねます。

処分価額と​控除項目:評価額を​そのまま​使わない​理由

競売の​価額:売却基準価額と​買受可能価額

競売では、執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定め、入札や買受けの申出の額は、売却基準価額からその10分の2を引いた買受可能価額以上でなければなりません。5仮に売却基準価額が880なら、買受可能価額は880×(1−0.2)=704です。東京地方裁判所の案内では、入札の保証は通常、売却基準価額の20%(この例では176)とされています。6

鑑定評価額(不動産鑑定評価の価格)を回収見込みに置かないのは、競売の不動産が所有者の意思にかかわらず原則として現状のまま売られ、買い手が占有者や賃借権などの負担を織り込んで入札するためです。3点セット(物件明細書・現況調査報告書・評価書)も、競売手続で集められた限りの参考資料とされ、買い手が自分で調査する前提です。設例では、競売の想定売却価額を評価額の70%の770と置きます。この比率は実績ではなく、感応度表で動かす仮定です。

手取りを​減らす​控除項目

B銀行への配当は、売却代金から次の項目を引いた残りです。第1に執行費用です。執行費用は売却代金から先に支払われるため、手続費用すら賄えない場合に備えた規定があります。民事執行法は、先順位の債権がなく買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき(先順位があれば手続費用と先順位債権の見込額の合計に満たないとき)に、差押債権者へ通知し、一定の申出がなければ手続を取り消すと定めています(無剰余の場合の扱い)。7設例の執行費用15は仮定で、予納金などの実際の額ではありません。

第2に、先順位の租税です。国税徴収法8条は、国税は別段の定めがある場合を除き、すべての公課その他の債権に先立って徴収すると定め(国税優先の原則)、16条はその例外として、国税の法定納期限等以前に設定された抵当権の被担保債権を国税より先にすると定めています。また、担保権の実行としての競売が行われた場合、国税は税務署長の交付要求によって配当を求めます。8ここから、抵当権の設定が法定納期限等より後であれば国税が先に払われる、というのが条文の組み立てからの編集部の整理です。設例の国税30は、この条件に当たり、交付要求もされていると仮定したもので、条文が設例の金額や先後を定めているわけではありません。地方税などの優先関係は条文を確認していないため扱いません。実案件では専門家に確認してください。

第3に、後順位の担保権者です。抵当権の順位は登記の前後で決まり、9競売では民事執行法59条1項により抵当権は売却で消滅し、配当は87条1項の債権者に配当表に基づいて行われます。10設例では第1順位のB銀行が先に回収するため、競売での後順位Cの配当は0です。一方、任意売却では、Cが抵当権の抹消に同意しなければ売却できません。抹消同意料は実務慣行として行われることがあるもので、法律上の権利ではなく、金額は一般化できません。設例の20は仮定です。

第4に、利息の範囲です。民法375条は、満期となった最後の2年分の利息についてのみ抵当権を行使できると定めています(遅延損害金を含めて通算2年分)。11設例の80は、この範囲内と仮定します。根抵当権なら極度額が上限で、超える部分は無担保債権です(根抵当権の解説を参照)。

なお、B銀行自身が競売の買受人になる場合は、配当を受けるべき額を差し引いて代金を納付できる仕組みがあります。12米国のクレジットビッドと同一ではなく、利用は専門家に確認してください。

比較表の​組み立て:手取り、​現在価値、​回収率、​不足額

計算式
手取り回収額 = 想定処分価額 − 執行費用(または売却諸費用) − 先順位の国税 − 後順位への抹消同意料
現在価値 = 手取り回収額 ÷ (1+換算率)^(月数÷12)
回収率 = 手取り回収額 ÷ 被担保債権1,080 / 不足額 = 1,080 − 手取り回収額

図表2は、この式を設例に当てはめたものです。競売は770−15−30=725、任意売却は990−35−30−20=905です。現在価値は、競売が725÷1.04^(12÷12)=697.1、任意売却が905÷1.04^(9÷12)=878.8です(小数第2位を四捨五入)。収益執行は、後述の年次の手取り60から1年目に国税30を差し引く仮定での5年累計です。

図表2:ルート別の手取り回収額と回収率の比較(設例)(単位:百万円)
項目担保不動産競売任意売却収益執行(5年間)
想定処分価額(評価額1,100に対する比率)770(70%)990(90%)売却なし(賃料のみ)
− 執行費用/売却諸費用1535年42(管理費等36+管理人報酬6)は賃料手取りに含む
− 先順位の国税303030(1年目の手取りから控除する設例上の仮定)
− 後順位Cへの抹消同意料0200
B銀行の手取り回収額725905270(5年累計)
期間(月)12960(5年)
現在価値(換算率4%)697.1878.8238.3
回収率(手取り÷1,080)67.1%83.8%25.0%
現在価値の回収率(÷1,080)64.5%81.4%22.1%
不足額(1,080−手取り)355175810
検算:処分価額の内訳(C配当を含む)770=15+30+0+725+0990=35+30+20+905+0(該当なし)
対象:延滞時点の​被担保債権1,080(元本1,000+未収80)。​換算率は​年4%、​収益執行の​賃料は​年末受取。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

図表2から読み取れるのは3点です。第1に、任意売却の手取りは競売より180百万円多く、その内訳は売却価額の差が+220、費用の差が−20(35−15)、抹消同意料が−20です。第2に、現在価値の差は181.7で、名目の差180より少し広がります。第3に、どのルートでも不足額(担保でカバーされない残債)が残り、競売では355、任意売却でも175です。これは無担保の債権として、引当と弁済順位の問題に移ります(貸倒引当金、弁済順位と​リカバリー・​ウォーターフォール)。

期間と​延滞利息:時間は​価値を​削り、​不足額は​増える

年4%では、1年遅れるごとに現在価値が約3.8%減ります。設例では、任意売却が競売より3か月早いことによる差は約9百万円(905÷1.04^(9÷12)=878.8と905÷1.04=870.2の差)にとどまり、価額の差約180百万円に比べて小さく、期間は優劣をほとんど動かしません。延滞利息・遅延損害金は期間中も増えますが、手取りは処分代金で決まるため増えず、不足額だけが大きくなります(担保される利息は2年分まで)。

収益執行:賃料の​手取りで​残債が​どう​減るか

収益執行では、執行裁判所が選任した管理人が管理と収益の収取を行い、収益から不動産に課される租税その他の公課や管理人の報酬などを引いた額を、裁判所の定める期間ごとに配当します。13

設例の賃料手取りは、満室賃料120×稼働率85%=102から、管理費等36と管理人報酬6を引いた年60です。収益執行の配当で滞納国税30がどう扱われるかは条文で確認していないため、比較をそろえる設例上の簡略化として1年目の手取りから差し引きます(106条の「不動産に対して課される租税その他の公課」は管理費等36に含めています)。累計の手取りは1年目30、2年目90、5年目270、8年目450で、未回収額(1,080−累計)は8年目でも630です。図表3はこの未回収額の推移を、競売後・任意売却後の不足額と比べています。

図表3:収益執行による未回収額の推移(設例) 未回収額(百万円) 0 300 600 900 1,200 競売後の不足額 355(破線) 任意売却後の不足額 175(点線) 1,080 870 630 0年 2年 4年 6年 8年 収益執行の開始からの年数(実線:未回収額=1,080−累計手取り)
単位:百万円。​対象期間:開始後0〜​8年​(年末時点)。​現在価値換算なし・​以後の​延滞利息は​考慮しない​簡略化。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​図を​横に​スクロールできます)

図表3のとおり、賃料の手取りだけでは未回収額は年60のペースでしか減りません。未回収額が競売後の不足額355を下回るのは13年目、任意売却後の175を下回るのは16年目です。現在価値では、累計の手取りが競売の697.1に届くのは17年目、任意売却の878.8に届くのは24年目になります(年末受取で計算)。延滞利息を考慮していないため、実際はさらに長くなります。設例では、収益執行は単独で回収を完了させる手段というより、賃料を押さえながら売却の機会を待つ手段と位置づけられます。

賃借人がいる物件では、売却後の扱いに注意が必要です。抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使用している人(競売手続の開始前から使用している人など)は、競売の買受人の買受けの時から6か月を経過するまで、建物を引き渡さなくてよいとされています(民法395条)。14東京地方裁判所の案内では、引渡命令の申立ては通常、代金納付日から6か月以内(猶予のある賃借人には9か月以内)です。15占有や賃借権が複雑な物件ほど競売の価額比率は低く出る、というのが編集部の仮説です(設例では70%と置くにとどめます)。

感応度表:優劣が​逆転する​条件を​数字で​探す

図表4は、任意売却の現在価値から競売の現在価値を引いた差額(プラスなら任意売却が有利)を、価額比率と期間・換算率を動かして示します。他の前提は設例のままです。

図表4:感応度表(A)価額比率の組合せ。任意売却9か月、競売12か月、換算率4%(単位:百万円)
競売の価額比率\任意売却の価額比率80%90%100%
60%+180.6+287.4+394.2
70%+74.8+181.7(基準)+288.5
80%▲ −30.9+75.9+182.7
(B)期間と換算率。競売70%・任意売却90%、競売は12か月(単位:百万円)
任意売却の期間(競売は12か月)\換算率2%4%8%
6か月+185.3+190.3+199.5
9か月+180.9+181.7(基準)+182.9
18か月+167.7+156.2+135.0
36か月+142.0+107.4+47.1
60か月+108.9+46.7▲ −55.4
値は​「任意売却の現在価値−競売の現在価値」。​プラスは​任意売却が​有利、​▲(マイナス)は​競売が​有利。​小数第2位を​四捨五入。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

表Aでは、競売の価額比率が80%まで上がり、任意売却が80%にとどまると、差は−30.9(▲)になり、競売が有利になります。他の条件を基準に固定して任意売却の価額比率だけを下げると、現在価値が競売と並ぶのは評価額の73.0%(802.9)です。この水準が、任意売却の価額の下限の目安です。表Bでは、換算率2〜8%、任意売却の期間6〜18か月の範囲で、差は135.0〜199.5と大きく動きません。期間が効き始めるのは36か月以上で、換算率4%では約80か月(6年8か月)、8%なら約47か月(4年弱)で逆転します(表Bの60か月では▲55.4)。

数字に表れない逆転要因もあります。第1に後順位担保権者の同意で、得られなければ任意売却は成立しません(同意料が約207.1まで上がれば現在価値で並ぶのは設例の算術にすぎず、実務では同意の可否と期限が争点です)。第2に占有・賃借権の状況、第3に債務者の協力の有無です。

方針メモへの​落と​し込み:推奨​ルートと​前提を​一緒に​書く

比較結果は、推奨ルートに前提と見直しの条件を添えて書きます。設例の文案を示します(書き方の例であり、個別案件の助言ではありません)。

方針メモの文案(設例)

  • 推奨:任意売却を第一とし、後順位Cの抹消同意が期限(例:着手後3か月)までに得られない場合は、担保不動産競売を申し立てる。
  • 根拠:被担保債権1,080に対し、手取りは任意売却905(現在価値878.8)、競売725(同697.1)。不足額は175と355。
  • 前提:任意売却価額が評価額の73.0%(802.9)以上、同意料20、期間9か月、競売は評価額の70%・12か月、換算率4%(いずれも仮定)。
  • 見直し条件:競売の価額比率が任意売却を上回る見込みとなったとき、または任意売却が長期化したとき。

処分を前提に価額を引き直す考え方は清算価値の​算定手法と共通します。不良債権をまとめて売る第4の出口(バルクセール)はNPL​バルクセールの​価格算定で扱っています。

実務​チェックリスト

  • 被担保債権を元本・未収利息・遅延損害金に分け、利息等が民法375条の2年分(根抵当なら極度額)の範囲内かを確認したか。
  • 処分価額を鑑定評価額のまま置かず、ルートごとの価額比率を仮定として明示し、根拠(物件明細書・売却事例)の有無を書いたか。
  • 執行費用・売却諸費用・先順位の租税・後順位への同意料を、登記簿と租税の確認結果から洗い出したか。
  • 期間と換算率を明記し、現在価値で比べたか。換算率は内部の引当ルールと別の仮定と書いたか。
  • 後順位担保権者の同意の見通しと期限を確認し、同意が得られない場合の代替(競売)を方針に書いたか。
  • 賃借人・占有者の有無と、明渡猶予(民法395条)の影響を点検し、不足額を引当・債務者区分の担当へ引き継いだか。

よく​ある​質問​(FAQ)

後順位の​担保権者が​同意しない​とき、​任意売却は​できませんか。

担保権を​抹消できない​物件は、​買い手が​取得しに​くくなります。​期限を​決めて​交渉し、​まとまらなければ​競売を​申し立てる​二段構えが​整理の​仕方です。​競売では​抵当権は​売却に​よって​消滅する​ため​(民事執行法59条1項)、​後順位の​同意は​要りません。

​収益執行と、​賃料の​差押え​(物上代位)は​どう​違いますか。

収益執行は、​物件全体を​差し押さえて​裁判所が​選任した​管理人が​管理と​収益の​収取を​行う​手続です。​物上代位は、​抵当権者が​賃料債権を​差し押さえる​方法で、​管理人は​置きません。

まとめ

延滞した不動産担保債権の出口は、処分価額から控除項目を引いた手取りと、期間を踏まえた現在価値で並べて比べます。設例では任意売却が有利でしたが、これは仮定に依存し、優劣は主に売却価額の差で決まり、後順位の同意や賃借人の状況で逆転し得ます。収益執行は単独では長期になります。方針メモには、推奨ルートと逆転する条件を前提として書き添えてください。

脚注

  1. 民事執行法180条は、不動産担保権の実行を「担保不動産競売」または「担保不動産収益執行」のうち債権者が選択したものにより行うと定める。181条は、担保権の登記された不動産についての実行の申立てなどにより開始すると定める(参考文献 R1)。↩
  2. 裁判所「BIT 不動産競売物件情報サイト」用語集「担保権の実行」に、担保不動産競売と担保不動産収益執行の説明、債務名義は不要で担保権が登記されている登記簿謄本などが提出されれば手続が開始されること、それ以外の手続は強制執行とほぼ同じことが書かれている(参考文献 R2)。↩
  3. Corporate Finance Institute「Foreclosure」。住宅ローンの返済が止まった後、貸し手が物件を売却に回す一般的な流れが説明されている。米国の住宅ローンを前提とした短い解説で、日本の手続の根拠にはしていない(参考文献 R3)。↩
  4. 民法372条は、296条・304条・351条の規定を抵当権について準用すると定める。304条は、先取特権が目的物の売却・賃貸などによって債務者が受けるべき金銭にも、払渡し・引渡しの前に差押えをして行使できると定める(参考文献 R6)。↩
  5. 民事執行法60条1項は評価人の評価に基づく売却基準価額の決定、3項は買受けの申出の額が売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(買受可能価額)以上でなければならないことを定める。同188条により担保不動産競売に準用される(参考文献 R1)。↩
  6. 東京地方裁判所「競売不動産の買受手続」の「3 不動産の調査」「4 買受けの申出」。物件明細書・現況調査報告書・評価書のいわゆる3点セット、不動産は原則として申立て時の現状で売却されること、入札価格は買受可能価額以上であること、保証の額は通常は売却基準価額の20パーセントであることが書かれている(参考文献 R4)。↩
  7. 民事執行法63条1項・2項は、優先債権がない場合は買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、優先債権がある場合は買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないときに、その旨を差押債権者に通知し、申出及び保証の提供がなければ手続を取り消すと定める。同188条により担保不動産競売に準用される(参考文献 R1)。↩
  8. 国税徴収法8条は、国税は納税者の総財産について、別段の定めがある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だって徴収すると定める。16条は、納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収すると定める。15条は「法定納期限等」の定義を含む。82条1項は、滞納者の財産につき強制換価手続(2条12号により担保権の実行としての競売を含む)が行われた場合、税務署長は執行機関に交付要求をしなければならないと定める(参考文献 R5)。↩
  9. 民法373条は、同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときの順位は登記の前後によると定める(参考文献 R6)。↩
  10. 民事執行法59条1項は、不動産の上に存する先取特権・使用収益しない旨の定めのある質権・抵当権は売却により消滅すると定める。87条1項4号は、差押えの登記前に登記された抵当権等で売却により消滅するものを有する債権者を配当等を受けるべき債権者に挙げる。84条1項は、代金納付があれば配当表に基づいて配当を実施すると定める(参考文献 R1)。↩
  11. 民法375条1項は、満期となった最後の二年分についてのみ抵当権を行使できると定め(ただし満期後に特別の登記をしたときはその時から行使できる)、2項は債務の不履行による損害賠償についても最後の二年分で、利息等と通算して二年分を超えられないと定める(参考文献 R6)。↩
  12. 民事執行法78条4項は、買受人が売却代金から配当又は弁済を受けるべき債権者であるときは、売却許可決定が確定するまでに執行裁判所に申し出て、配当又は弁済を受けるべき額を差し引いて代金を配当期日又は弁済金の交付の日に納付できると定める(参考文献 R1)。↩
  13. 民事執行法188条により、担保不動産収益執行には強制管理の規定(第2節第1款第3目)が準用される。94条1項は管理人の選任、95条1項は管理・収益の収取・換価、96条1項は債務者の占有を解いて管理人が占有できること、106条1項は配当等に充てる金銭が収益から租税その他の公課・管理人の報酬等の必要な費用を控除したものであること、107条1項は期間ごとの配当の実施を定める(参考文献 R1)。↩
  14. 民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者のうち、競売手続の開始前から使用又は収益をする者と、強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者は、競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を買受人に引き渡すことを要しないと定める(参考文献 R6)。↩
  15. 東京地方裁判所「競売不動産の買受手続」の「5 所有権の移転」(4)。引渡命令を申し立てられる期間が通常は代金納付の日から6か月、6か月間明渡しの猶予が認められる建物の賃借人に対しては9か月以内とされていること(参考文献 R4)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。