この記事で分かること
結論:日系証券IBDの企業研究は「一 次資料を自分で開く」ことに尽きる
日系証券会社のIBD(投資銀行)部門を志望する場合、外資系投資銀行の日本拠点を調べるときとは前提が異なります。外資系拠点の多くは非上場の現地法人であり、日本拠点単体の業績や部門構成が独立して開示されることはほとんどありません。一方で野村ホールディングス、大和証券グループ本社、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった日系証券各社は、多くが上場持株会社の傘下にあるか、上場持株会社そのものであり、日本の金融商品取引法に基づく開示制度の対象になっています。つまり、有価証券報告書・統合報告書・決算説明資料・中期経営計画という、外資系拠点では手に入りにくい一次資料が、日系証券では公式サイトから誰でも入手できます。
ここでは、これらの一次資料をどの順番で、どのページを、何を確認する目的で読むかという調査の手順そのものに絞って解説します。リーグテーブルの数字が集計主体によってなぜ異なって見えるかという読み方の基礎は、外資系・日系・独立系を横断してすでに日本の投資銀行・IBD業界地図で扱っているため、本記事では繰り返しません。また、外資系IBDと日系証券IBDのビジネス・カルチャーの類型比較は外資系IBDと日系証券IBDの違い、外資系拠点を対象にした企業研究の手順は姉妹記事の外資系投資銀行の企業研究ガイドで扱っていますので、あわせて確認してください。
なぜ日系証券は外資系と調べ方が違うのか
最大の違いは、日系証券の多くが単独の会社ではなく、金融持株会社グループの一部門として経営されている点です。SMBC日興証券は自社サイトで、2009年10月にSMBCグループの傘下に入った経緯を明らかにしています(出典参照)。このように銀行を中核とする金融グループの傘下にある証券会社では、証券単体の業績だけでなく、グループ内の銀行・信託銀行・アセットマネジメント会社との連携が、IBD部門の案件創出(オリジネーション)にどう関わっているかという視点が欠かせません。銀行の融資先企業がM&Aや資金調達を検討する際に、グループ内の証券会社へ案件が紹介される、いわゆる銀証連携は、日系証券のIBDを理解するうえで外資系にはない固有の論点です。
もう一つの違いは、情報の非対称性です。外資系拠点は日本法人単体の決算を公表する義務が薄く、部門別の収益構造は基本的に外部からは分かりません。これに対して日系証券は、持株会社が上場している以上、法定開示(有価証券報告書)と任意開示(統合報告書・決算説明資料・中期経営計画)の両方で、投資銀行業務を含むセグメントの情報を継続的に開示しています。企業研究の質を上げたいなら、この「開示の厚み」を生かさない手はありません。
有価証券報告書のどこを読むか
有価証券報告書(有報)は、EDINET(金融庁の開示書類閲覧システム)で誰でも無料で閲覧できます。EDINETの書類検索画面では、提出者名や証券コードで会社を指定し、書類種別を「有価証券報告書」に絞り、提出期間を指定して検索する、という簡単な操作で目的の書類にたどり着けます(出典参照)。持株会社形態の証券グループであれば、証券会社単体ではなく持株会社の名前で検索すると見つけやすくなります。例えばSMBC日興証券の場合、「SMBCグループ」は複数のグループ会社を指す総称であり提出者名ではないため、有報の提出者である「株式会社三井住友フィナンシャルグループ」の名前で検索する必要があります(大和証券であれば大和証券グループ本社)。
有報の中で企業研究に直結するのは、主に次の4つの記載箇所です。第一に「セグメント情報」です。証券グループは通常、リテール(個人向け)・ホールセール(法人向け、投資銀行業務を含む)・アセットマネジメントといった単位でセグメントを区分しており、各セグメントの収益・費用・利益の推移を数値で確認できます。どのような基準でセグメントが束ねられているかは報告セグメントの集約基準で整理されている考え方が前提になっており、セグメント利益と連結損益計算書の利益に差が生じる場合は、注記の調整額(セグメント情報の調整額)を見ると理由が分かります。第二に「大株主の状況」で、グループの資本関係や、事業会社が政策保有株式として証券グループの株式を保有していないかを確認できます。第三に「関係会社の状況」で、グループ内にどのような子会社・関連会社があるか、証券以外に銀行・信託・アセットマネジメント機能を持つかが一覧できます。第四に、政策保有株式(いわゆる系列的な株式持合い)の開示状況で、証券グループ自身がどの事業会社と資本関係を持っているかが分かります。
統合報告書で「な ぜ」を補う
統合報告書は、有報のような法定開示ではなく、財務情報と非財務情報をまとめて投資家に伝えるための任意の開示資料です。有報が「何が起きたか」を数字で示す資料だとすれば、統合報告書は「なぜそうしているか」という経営の意図を補う資料と位置づけると理解しやすくなります。社長・グループCEOのメッセージには、投資銀行部門を含む事業ポートフォリオの中で、どの領域を重点的に伸ばそうとしているかという方針が語られていることが多く、有報のセグメント情報だけでは読み取れない「意図」を補完できます。また、人的資本や気候変動対応といった非財務情報のページも、IBD部門が近年強化しているとされるサステナビリティ関連のアドバイザリー業務(いわゆるサステナブルファイナンス領域)を理解するうえで参考になります。
統合報告書は企業によって構成が異なりますが、多くは「トップメッセージ」「価値創造プロセス」「事業戦略(セグメント別)」「非財務情報」という順に構成されています。有報でセグメント利益の増減を確認したら、統合報告書の事業戦略パートで、その増減の背景にどのような経営判断があったかを照らし合わせる、という順番で読むと効率的です。
決算説明資料で投資銀行部門の収益内訳を追う【設例】
決算説明資料は、上場している証券持株会社が四半期ごとにIRサイトで公表する資料で、有報よりも高い頻度で、かつ経営陣の言葉に近い形でセグメントの動きを説明しています。ホールセール部門(投資銀行部門を含む区分)の資料には、業務粗利益や営業費用の推移に加えて、M&Aアドバイザリー・引受業務の手数料収入がどう変化したかという内訳が示されることが一般的です。
以下は説明用の仮設例です。実在の企業のデータではありません。持株会社「コスモス証券グループ株式会社」(架空)のホールセール部門(投資銀行業務を含む)について、決算説明資料に3期分の推移が示されていたとします。
| 項目(単位:億円) | FY2024 | FY2025 | FY2026(見込み) |
|---|---|---|---|
| 業務粗利益 | 820 | 905 | 960 |
| うちM&A・引受関連手数料 | 210 | 260 | 300 |
| 営業費用 | 640 | 690 | 715 |
| セグメント利益 | 180 | 215 | 245 |
式:セグメント利益率=セグメント利益÷業務粗利益
FY2024:180億円÷820億円=22.0%。FY2025:215億円÷905億円=23.8%。FY2026(見込み):245億円÷960億円=25.5%。
式:M&A・引受関連手数料比率=M&A・引受関連手数料÷業務粗利益
FY2024:210億円÷820億円=25.6%。FY2025:260億円÷905億円=28.7%。FY2026(見込み):300億円÷960億円=31.3%。
この仮設例から読み取れるのは、単に業務粗利益が増えているという事実だけではありません。セグメント利益率が22.0%→23.8%→25.5%と上昇し、さらにM&A・引受関連手数料が業務粗利益に占める比率も25.6%→28.7%→31.3%と拡大していることから、「収益全体が伸びているだけでなく、収益性の高いアドバイザリー業務の比重そのものが高まっている」という構造変化を指摘できます。決算説明資料を読むときは、金額の大小だけでなく、この比率の変化を毎期追いかけることが、企業研究の解像度を上げる近道です。
中期経営計画から投資銀行部門の戦略を読み取る【設例】
中期経営計画(中計)は、多くの証券グループが3〜5年程度の期間を区切って策定し、IRサイトで公表している経営方針です。中計を読む価値は、決算説明資料が「直近の実績」を語る資料であるのに対し、中計は「これから何を重点的に伸ばすか」という前向きな方針を示している点にあります。IBD部門の企業研究では、中計の中で投資銀行部門・ホールセール部門がどのような重点セクター(例えばヘルスケア、事業承継、GX=グリーントランスフォーメーション関連など)を掲げているか、人員をどの程度増強する計画かといった記載を確認します。
ここでも先ほどのコスモス証券グループ(架空)を使った仮設例で考えます。同社の中期経営計画(FY2025〜FY2027、仮設)では、最終年度であるFY2027のホールセール部門セグメント利益の目標を260億円、M&A・引受関連手数料比率を35%以上、重点セクターを「ヘルスケア・GX・事業承継」と設定していたとします。
| 指標 | 中期経営計画の目標(FY2027) | FY2026実績見込み | 進捗の読み方 |
|---|---|---|---|
| セグメント利益 | 260億円 | 245億円 | 目標比94.2%まで進捗 |
| M&A・引受関連手数料比率 | 35%以上 | 31.3% | 目標まで3.7ポイント不足 |
| 重点セクター | ヘルスケア・GX・事業承継 | (定性方針のため、案件公表ベースで個別確認) | 数値化しにくく案件単位で確認 |
式:計画進捗率=実績(見込み)÷中期経営計画の目標
245億円÷260億円=94.2%。
この仮設例が示す読み方のポイントは、「利益額は計画に対して1年前倒しに近いペースで進んでいる一方、手数料構成比という質的な指標は目標に届いていない」という、金額と構成比のズレを見つけることです。金額だけを見て「計画は順調」と結論づけるのではなく、中計が掲げた戦略の方向性(この場合はアドバイザリー業務の比重拡大)が実際にどこまで実現しているかを、複数の指標を突き合わせて確認する姿勢が重要です。重点セクターのような定性的な方針は、決算説明資料や中計の文章だけでは進捗が測りにくいため、次に説明する適時開示・プレスリリースで、実際にその分野の案件が公表されているかを確認する必要があります。
実際の決算説明資料・中期経営計画を、自分の手で開いてみる
本記事の数字はすべて説明用の仮設例です。実際の数字は、志望する証券グループのIRサイトで今日から確認できます。まずは1社、直近の決算説明資料をダウンロードし、ホールセール部門のページだけを読んで、本記事と同じように利益率とM&A関連手数料比率を自分で計算してみることから始めてみてください。
適時開示・プレスリリースで案件の手がかりを拾う
案件実績の網羅的なランキングを見るならリーグテーブルが基本ですが、集計主体によって基準が異なるといった読み方の注意点はすでに日本の投資銀行・IBD業界地図で解説されているため、本記事では繰り返しません。ここで扱うのは、リーグテーブルとは別の角度、つまり個別の案件を1件ずつ追いかける方法です。
上場企業がM&Aを実施する際は、金融商品取引所のTDnet(適時開示情報伝達システム)を通じて、当事会社自身がリリースを開示します。このリリースの中に「フィナンシャル・アドバイザー」「財務アドバイザー」といった表記でどの証券会社・投資銀行が助言を担ったかが記載されていることがあります。この方法の利点は、当事会社の一次情報から直接確認できる点ですが、限界もあります。すべてのM&A案件でアドバイザー名が開示されるわけではなく、開示するかどうかは当事会社の判断に委ねられているため、網羅性という点ではリーグテーブルに劣ります。企業研究の場面では、「気になる1社が、中期経営計画で掲げた重点セクター(例えばヘルスケアや事業承継)で、実際にどのような案件のリリースに名前が出ているか」を数件拾って確認する、という個別確認の使い方が向いています。
大株主・持株会社構造から系列連携を読み解く
日系証券のIBD企業研究で外資系にはない視点が、系列連携です。銀行を中核とする金融グループ傘下の証券会社では、グループ内の銀行が持つ法人取引先とのリレーションシップが、証券会社のIBD案件創出にどう生かされているかが実務上の関心事になります。有報の「関係会社の状況」欄を見ると、証券グループが銀行・信託銀行・アセットマネジメント会社など、どのような機能会社を傘下に持っているかが分かり、これが銀証連携の土台となる組織構造を把握する出発点になります。
あわせて確認しておきたいのが、銀行と証券の間で顧客情報や非公開情報をどこまで共有できるかを定める規制の存在です。銀行と証券会社が同じグループに属していても、両者の間の情報の授受には金融商品取引法に基づく規制(いわゆるファイアウォール規制)がかかっており、社内的にも案件情報を無制限に共有できるわけではありません。投資銀行の内部でも案件チームと他部門の情報を隔てる仕組みはエシカルウォールと呼ばれますが、日系の銀行グループ内では、これに加えてグループ会社間の規制も意識する必要がある、という点が独立系証券グループとの違いです。近年は大企業向け業務を中心にこうした規制の運用が見直される動きもあるため、面接で銀証連携について語る際は、「連携すれば自動的に案件が生まれる」という単純化を避け、規制の存在を踏まえたうえで「グループのどの機能と、どのような形で連携しているか」を具体的な仮説として語る姿勢が評価されます。
また、有報の「大株主の状況」や政策保有株式の開示は、証券グループ自身が事業会社とどのような資本関係(いわゆる系列)を持っているかを確認する手がかりにもなります。証券グループが特定の事業会社の株式を政策保有株式として保有している場合、その企業とのリレーションシップの厚みを推測する材料になりますが、あくまで「関係がある可能性」を示すものであり、実際の案件創出に直結するとは限らない点には注意が必要です。
各社を比較する視点:メガバンク系グループと独立系証券グループ
日系証券各社を比較する際の切り口として押さえておきたいのが、銀行持株会社の傘下にあるかどうかという違いです。SMBC日興証券のように銀行を中核とする金融グループの傘下にある証券会社は、グループ内の銀行・信託銀行・アセットマネジメント会社との連携が組織構造の前提になっています。一方で、野村ホールディングスや大和証券グループ本社のように、銀行持株会社の傘下に入らず証券業を中核とする独立した証券グループとして経営されている会社では、系列連携よりも、グループ内の海外拠点や、証券本体が持つリサーチ・トレーディング機能との連携が組織上の焦点になりやすいという違いがあります。
この違いを企業研究に生かすには、有報の「関係会社の状況」欄で、証券グループの傘下にどのような機能会社が並んでいるかを実際に確認し、「このグループはどの機能と組み合わせて案件を作っているのか」という仮説を自分の言葉で立ててみることが有効です。特定の会社の現在の順位や部門人数、収益額を暗記することよりも、こうした調べ方の型を身につけておくほうが、面接で企業ごとに応用が利きます。
志望動機への繋げ方
ここまでの調査手順を踏まえると、志望動機は「この会社は業界大手だから」といった漠然とした理由ではなく、一次資料から拾った具体的な事実を根拠に組み立てられます。例えば、「中期経営計画で重点セクターとして掲げているヘルスケア・事業承継といった領域は、決算説明資料でも手数料構成比が伸びている領域であり、かつ有報の関係会社の状況からグループ内に事業承継支援を担う機能会社があることが確認できる。この掛け合わせに関心がある」というように、複数の一次資料を突き合わせた仮説として語ると、説明会やOB・OG訪問で得た印象だけに頼った志望動機より説得力が増します。
志望動機を職務経歴書に落とし込む際の全体構成は職務経歴書のフォーマット完全ガイド、面接でのフィット質問への答え方は同じキャリア・面接カテゴリーの関連記事で扱っています。IBD各職位が案件でどのような役割を担うかを理解しておくと、企業研究で見つけた戦略を「自分がどのポジションでどう関わることになるか」という解像度まで落とし込めるようになるため、投資銀行の職位別キャリアガイドもあわせて確認しておくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
有価証券報告書と統合報告書、どちらを先に読むべきですか。
先に有報でセグメント情報や大株主の状況といった数字を確認し、その数字がなぜそうなっているのかという背景を統合報告書の社長メッセージや事業戦略パートで補う、という順番がおすすめです。統合報告書だけを読むと、数字の裏付けがない印象論になりやすい点に注意してください。
決算説明資料は誰でも見られますか。
上場している証券持株会社であれば、投資家向けのIR資料として決算説明資料を公式サイトで公開しているのが一般的です。四半期ごとに更新されるため、直近の資料だけでなく過去数期分をさかのぼって比較すると、セグメント利益率のような比率の変化まで確認できます。
案件実績はリーグテーブル以外でどう調べられますか。
TDnetを通じて当事会社が開示する
系列連携は面接でどう聞かれますか。
独立系の証券グループと銀行系証券で、調べ方は変わりますか。
銀行系証券では銀行・信託銀行との連携が調査の中心になりますが、独立系の証券グループでは、有報の関係会社の状況欄で海外拠点や国内のグループ会社
まとめ
日系証券IBDの企業研究は、外資系拠点よりも一次資料が豊富にあるという特徴を生かすことに尽きます。有報のセグメント情報・大株主の状況・関係会社の状況、統合報告書の事業戦略、決算説明資料の部門別収益内訳、中期経営計画のKPIと重点セクター、そして適時開示・プレスリリースという複数の資料を突き合わせることで、「この会社はどこに力を入れていて、自分はどう関われそうか」という仮説を、暗記した会社概要ではなく自分の言葉で語れるようになります。案件実績の網羅的な読み方は既存記事に委ね、本記事で扱った系列連携・一次資料の読み方という視点とあわせて使うことで、面接での企業研究の説得力を高めてください。
出典・参考(2026年9月確認)
- 金融庁 EDINET
「書 類検索」
disclosure2.edinet-fsa.go.jp - SMBC日興証券株式会社
「会 社情報」(S MBCグループへの参加経緯を含む)
smbcnikko.co.jp - 株式会社東京証券取引所「TDnet(適時開示情報伝達システム)」(本文中で言及。同システムの公式ページは検証時にアクセス制限が生じたため、外部URLは記載せず制度名のみを表記しています)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。企業名を挙げた箇所のうち、収益額・利益額・部門人数・案件実績・順位はすべて仮設例であり、実在企業の現在の数値を示すものではありません。年収・採用市場に関する言及はなく、企業研究の調べ方を扱ったものです。