想定読者:海外PEファンドに出資するLP担当、セカンダリーやファンド・オブ・ファンズの投資委員会メンバー、GP側のIR・財務担当
前提知識:LP・GP・キャリーの基本と、GP主導セカンダリーの大まかな仕組み(本文でも説明します)

継続ビークルの案件資料には、たいてい同じ説明が書いてある。成長の余地はまだ大きく、ファンドの期限を理由に売るのは惜しい、という説明である。ところが同じ説明の下に、実際には三種類の会社が入りうる。追加の資金と時間で本当に伸びる会社、いま外部に売っても高い値がつく会社、売れないので移すしかない会社である。

投資委員会で問われるのは、目の前の案件がどれかだ。資料の説明からは見分けにくいこの問いに、資産の側ではなくGPの報酬の側から答えようとした理論研究がある。移された資産の実態や、既存LPが売るか残るかの損益分岐は別稿で扱った。本稿はその手前の、どの資産が選ばれるのかという仕組みと、それを確かめる手順に絞る。

この記事が主に参照する研究

Victoria Ivashina, Simon Mayer, Ludovic Phalippou(2026)「PEの継続ビークル:戦略的な資産移転のモデル(Private Equity Continuation Vehicles: A Model of Strategic Asset Transfers)」 SSRN Working Paper No. 5400386

  • 公表:初版 2025年9月(SSRN)。参照した版:2026年5月3日付の版(著者のサイトに掲載された82ページのPDF)。査読:未査読(WP)1
  • データ:非公開の大手セカンダリー投資家2社の資料。米欧で2023〜2025年にクローズした15件の投資メモ(株式で約200億ドル)など2
  • 方法:三時点の最適契約のモデル。データは契約条件の記述に使われ、モデルの予測の統計的な検証は行われていない
  • 位置づけ:新しい理論。GPを売り手かつ買い手として定式化し、同じ時期の実証研究が報告した事実を契約の面から説明しようとする

三種類の​資産と、​向きの​違う​二つの​歪み

継続ビークル​(CV)は、GPが運用中の旧ファンドから投資先を選び、自ら運用する新しいビークルに移す仕組みである。論文が紹介する業界統計では、年間の取引額は約1,000億ドル、PEのエグジットの約20%に達した3。論文の資料では、資産は旧ファンドで平均5.1年(中央値4.8年)保有された後に移され、保有できる期間は約4年延びる4。

モデルは旧ファンドに2社を置き、途中の時点で各社が三つの状態のどれかになるとする。いま外部に高く売れる「勝ち資産」、いまは売れないが追加資金とGPの努力で成功しうる「見込み資産」、将来も価値のない「不振資産」である。状態を知るのはGPだけで、著者らの設定では、継続して価値を生むのは見込み資産だけだ。勝ち資産と不振資産の継続は、費用をかけても価値が増えないので非効率と置かれている。著者らがクラウンジュエルと呼ぶのは、このうち勝ち資産である5。

この設定から向きの違う二つの歪みが生じる。一つは、質の低い資産に新しいLPが払いすぎる問題で、論文のadverse selectionにあたる。本稿では割高移管と呼ぶ。もう一つは、質の高い資産が安く移され、売却する既存LPが損をする問題で、論文のinverse selectionにあたる。本稿では割安移管と呼ぶ。著者らは、後者のほうが根本的な懸念であることが多いと述べている6。

どちらに傾くかを決める変数がキャリーである。最適契約は二つの形をとる。基本モデル(LPの間に情報や利害の差を置かない設定)では、ハードルの高い契約(2社とも成功して初めて報酬が出る)と低い契約(1社の成功で報酬が出る)に分かれる。以下、GPの報酬が発生する水準にある状態をイン、届いていない状態をアウトと書く。著者らは、この二つの契約をキャリー率やキャッチアップなど複数の条項を束ねた表現として読めるとしている7。

モデルの​結論:アウトなら​勝ち資産が、​インなら​見込みと​不振が​移る

図1が中心の結果で、CVに移せるのが1社だけの場合を示す。まず基本モデルでは、高いハードルの下で1社だけが成功した場合、GPは旧ファンドで報酬を得られない。その成功した会社を売っても自分の取り分はゼロのままなので、CVに移して将来のキャリーを取りにいく。これが割安移管の起きる局面である。低いハードルの下では、勝ち資産を売れば旧ファンドで報酬が入るため、GPは勝ち資産を売り、見込み資産をCVに回す。勝ち資産と不振資産の組み合わせでは、不振資産も処分して何も移さないのが基本の形である。ところが売却を必要とする既存LPが十分に多いと、彼らは不振資産をCVに売って現金にしたい。GPにとっては処分しても移しても取り分が同じなので、わずかな見返りで判断が動く8。割高移管は、GPだけでなく既存LPの事情からも生じるという見立てである。

図1図1 キャリーの位置で移る資産が変わる2資産の状態高いハードル1勝ではアウト低いハードル1勝でイン勝ち+勝ち両方売却両方売却勝ち+見込み▲ 勝ちを移す● 見込みを移す勝ち+不振▲ 勝ちを移す▼ 不振も移しうる見込み+見込み● 見込みを移す● 見込みを移す見込み+不振● 見込みを移す● 見込みを移す不振+不振▼ 不振を移す▼ 不振を移す▲ 割安移管の恐れ(売る既存LPが負担)▼ 割高移管の恐れ(新規LPが負担)● 価値を生みうる移管
CVに​移せるのが​1社だけの​場合の​モデルの​整理。​実データの​観測ではない。​低い​ハードルの​「勝ち+不振」は、​基本の​形では​両方を​売却し、​売却を​必要と​する​既存LPが​十分に​多いと​不振資産が​移る。​出所:R1(2026年5月版)​p.25 命題3・​p.37 命題5・​p.38〜39 命題6を​基に​大手町​プレップ​作成。

平均像で見ると、高いハードルの均衡では移る資産の質と評価額が高く、成長の余地は小さい。低いハードルの均衡ではその逆になる9。資産の説明がどれも「成長余地」に寄っていても、均衡によって中身の構成が違うことになる。

読み手にとって厄介なのは価格である。モデルでは、見込み資産と不振資産は情報を持たない投資家の入札で決まる同じ価格で移される。勝ち資産を見抜ける専門投資家が競争的に入札すれば、勝ち資産の価格は本来の水準まで上がる。しかし専門投資家が競り上げない場合、GPは隠れた取引で割安分の利益の一部を受け取りうる。そのときの価格は、GPの報酬が移管価格に連動しない契約なら、ほかの資産と同じ入札価格にとどまる。隠れた取引の例として、著者らはキックバックやステープルのコミットを挙げる10。入札があったという事実だけでは割安移管を否定できない、というのがこのモデルの含意である。ただしこれは仮定から導かれた結論で、実際の取引で確かめられてはいない。

売却の量も結果を左右する。売却する既存LPの比率が高いほどGPの利得は増え、既存LPの利得は減る。GPは両者の間に立って利益を得ており、その余地が売買の量とともに広がるからで、二つの歪みはともに強まる。資産の質への影響は一方向ではなく、低いハードルでは質が下がるが、隠れた取引でのGPの取り分が十分大きければ、売却の必要が非常に大きいときに高いハードルの契約に切り替わり、成熟した勝ち資産が移る11。なお、個々のLPが売るか残るかの判断はモデルの外に置かれ、どちらが得かは示されていない。論文の資料提供者によれば、実際のロールは金額で約10%にとどまる12。

著者らが主眼に置くのは、こうした歪みを抑える最適契約である。三つの特徴の組み合わせとして、CVの組成で得たキャリーを再投資すること、旧ファンドの報酬を十分に大きくCVより急にすること、単一資産のCVに絞ることを挙げる。再投資は不振資産を移す誘因を抑え、急な報酬は勝ち資産を売る誘因を保ち、単一資産への制限はGPの裁量を狭める。ハードルの高低もこの中で決まり、GPのCV持分が大きいほど高いハードルが最適に傾く。報酬は軽くなるが、勝ち資産の移管は受け入れることになる。再投資には裏面もある。GPの報酬が移管後の成績に集中すると買い手の側に寄り、移管価格を高くする誘因が弱まる。そのため著者らは、買い手が情報を持ちGPが価格に裁量を持つ局面では、キャリーの一部を移管価格に連動させ、再投資を一部にとどめるべきだと結論づける。ただし命題の上では無条件の結果ではない。価格連動の報酬が最適になるのは、勝ち資産を移す高いハードルの契約で、かつ隠れた取引でのGPの取り分が小さいといった条件を満たす場合である13。表1は、論文が記述した条項の水準と、モデルによる説明を並べたものである。

表1 CVの条項:観察された水準とモデルの説明

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項目資料で見た水準モデルの説明
報酬の傾きCVは10%から20%の階層型(最上位はIRR20%かつMOIC2倍が条件の例)、主要ファンドは20%(8%超)旧ファンドの報酬がCVより急だと、勝ち資産を安く移す誘因を抑える
キャリーの再投資確定したキャリーの100%(税引後)を再投資不振資産を移す誘因を抑える。ただしGPを買い手側に寄せ、価格を高くする誘因を弱めるため、局面によっては一部の再投資が望ましい
GPの追加出資ばらつきが大きい。小規模ファンドのGP持分は10〜11%程度CVの持分が増えると移る資産の質は上がるが、勝ち資産を移す誘因も強まる
既存LPのロール金額で約10%(資料提供者の情報)売却が多いほどGPの利得は増え、既存LPの利得は減り、二つの歪みは強まる
資産の数単一資産型が多いとの記述単一資産への制限は最適契約の一部。平均の質も複数資産型より高い
「資料で見た水準」は​非公開の​投資家2社の​資料に​よる​もので​市場全体の​統計ではない。​「モデルの説明」は​理論上の​結果で、​データで​検証されていない。​出所:R1 p.6、​p.9〜12(第1節・表1)、​p.21〜23、​p.29〜32、​p.38、​p.40〜42の​記述を​基に​大手町​プレップ​作成。

勝ち資産の移管が起きるのは、CVが旧ファンドより小さい場合に限られる。旧ファンドの資産が1社だけのモデルや、2社とも移せる契約の下では、勝ち資産は売却される14。

理論の​射程:検証されていない​こと、​実証との​緊張

最も大きな留保は、これが理論だという点である。論文のデータは15件の投資メモと内部資料で、非公開の投資家2社が見た米欧の中大型案件に限られる。契約条件の記述には役立つが、図1の予測を検証するものではない。2社3状態の設定は大幅な単純化である。高いハードルの結果は報酬の単調性という技術的な仮定に支えられ、隠れた取引の起きやすさやGPの取り分はモデルの外から与えられている15。

実証研究との間にも緊張がある。モデルで勝ち資産が移るのは旧ファンドの報酬がハードルに届かない局面だが、論文自身が、CV取引では原則としてキャリーはインだと注記している。ここでのハードルは複数の条項を束ねた実効的な水準で、優先リターンそのものではないため、両者の対応は単純ではない。主に米国の取引を調べたAbuzovらの研究では、IRRが8%を超えるファンドほどCVを組成しやすく、移された資産のRVPIは平均2.02倍と、残った資産の1.37倍を上回った。著者らは、CVの資産の質が高いことはLPの利益を意味せず、勝ち資産を抜き取った結果でもありうると述べる16。ただしRVPIは移管直前の資産の成績で、この比較だけでは移管価格が価値を下回ったかどうかは判定できない。その点を判定した研究は確認できなかった。同時期のLuepertzらの実証研究は本文を入手できず、本稿では確認していない。

読むときの注意が二つある。論文は2023年のSEC規則がフェアネス・オピニオンを義務づけたと記すが、SECの案内によれば、この規則は2024年6月に連邦控訴裁判所で無効とされた17。また論文が紹介する、移管価格が過小だとして大口LPがGPを訴えた例は、原告の主張であって裁判所の認定ではない18。

大手町​プレップの​考察:説明を​読む前に、​GPの​損得を​読む

以下は編集部の見方で、論文が検証した内容ではない。

モデルの実務的な価値は、結論の当否よりも問いの順序にあると考える。案件資料の説明はどの資産にも同じように書ける。著者らも、GPが勝ち資産を見込み資産と偽って移す場面を描いている19。そうであれば、説明の出来を比べる前に、この案件で売った場合と移した場合のGPの取り分を並べるほうが情報量が多い。

もう一つは、再投資を一律に歓迎しないことである。GPの​出資が大きいほど整合していると見られがちだが、高値で移すのを抑える力と、安値で移すのを抑える力は別物で、著者らの結論もこの点に沿う。GPが買い手として資産を安く手に入れる立場に回れば、再投資は割安移管の誘因を強める。自分が売る側か買う側かによって、同じ条項の意味が変わる。既存LPが警戒すべき案件と、新規LPが警戒すべき案件は、同じ材料から逆向きに導かれるはずである。

日本の​実務への​応用

研究は日本の取引を対象にしていない。日本のLPに直接関係するのは、主に海外のファンドに出資していて案内を受ける場面である。論文によれば、既存LPへの連絡はアンカー投資家を確保した後になることが多く、大口LPとの非公式の接触はデータルームの外でも行われる20。業界団体ILPAの2023年の指針は、選択の期間として30暦日または20営業日以上を求める一方、10日程度の例があること、回答がなければ売却として扱うことを述べている21。ロール比率が低いほどGPが有利というモデルの結果を踏まえると、社内の投資委員会の日程が合わずに既定の売却に流れる事態は、価格の問題とは別に避けたい(編集部の見方)。LPの​PE投資実務の中で、案内を受けてからの決裁手順を先に決めておく意味はここにある。

国内のファンドでも構造は同じ方向を向く。投資事業有限責任組合では組合契約書に存続期間を記載し、その満了は解散の事由である22。期限と未売却の投資先という条件は日本にもあるが、ファンド間の移管や利益相反の承認の扱いは個々の組合契約によるため、LPAの​条項とLPACの権限を案件ごとに確かめる必要がある。

設例:GPの​損得表を​作る

学習用の設例(架空)

  • 旧ファンドのキャリー率は20%、キャッチアップなし。GPのキャリーが発生するまでの残額を0・60・120億円の3通りとする
  • 優良資産の実力は100億円で、CVに85億円で移す。弱い資産の実力は40億円で、CVに70億円で移す
  • 実力は外部への売却でもCVの出口でも同じとする。CVのキャリー率は10%で、ハードルなしに簡略化する
  • 再投資なしの場合はキャリーを現金で受け取る。全額再投資の場合は確定キャリーの全額を移管価格でCVの持分に換える。管理報酬・税・サイド取引は含めない

この設例は編集部が作った簡略計算で、論文のモデルを再現したものではない。GPの取り分を、外部に実力どおりの価格で売る場合と比べる。結果は表2のとおりである。

表2 GPの損得表:売却と比べた差額(億円)

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移管の内容旧ファンドの状態売却時の取り分再投資なしの差額全額再投資の差額
優良資産を85で移す深くイン(残額0)20.0−1.5+1.2
優良資産を85で移す途中でイン(残額60)8.0−1.5−0.7
優良資産を85で移すアウト(残額120)0.0+1.5+1.5
弱い資産を70で移す深くイン(残額0)8.0+6.00.0
弱い資産を70で移す売却ではアウト・移管ではイン(残額60)0.0+2.0+1.1
弱い資産を70で移すアウト(残額120)0.00.00.0
学習用の​設例​(架空)。​優良資産の​実力100億円、​弱い​資産の​実力40億円。​残額は​GPの​キャリーが​発生するまでの​金額。​差額が​+なら​GPは​CVを​選ぶ​誘因を​持つ。​管理報酬・​税・​サイド​取引は​含めない。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。

優良資産の行を見る。アウトのファンドでは、売っても取り分はゼロなので、安く移すほど差額は増え、85億円の移管で+1.5億円になる。インのファンドで再投資がなければ、移管価格を1億円下げるごとに旧ファンドの取り分が減り、差額は−0.10億円ずつ動く。旧ファンドのキャリー率がCVを上回ることが歯止めになっている。論文が旧ファンドの報酬の傾きを重視する理由を、簡単な形で見たものと言える。なお、再投資なしのままCVのキャリー率を一律20%に置き換える比較計算では、差額は0.0億円となり、率の差による歯止めは消える(全額再投資なら+2.4億円)。これは定率の置き換えで、実際の階層への到達を再現したものではない。論文が示す典型例では、20%の階層はグロスIRR20%に加えてMOIC(投下資本倍率)2倍を条件とし23、移管価格の約1.18倍にとどまるこの設例の優良資産はそこに届かない。

図2図2 安く移すとGPの取り分はどう動くか優良資産(実力100億円)。売却との差額−2−10+1+280859095100移管価格(億円)■ アウト(残額120億円)○ イン(残額0)全額再投資◆ イン(残額0)再投資なし
学習用の​設例​(架空)。​旧ファンドの​キャリー​率20%、​CVの​キャリー​率10%。​縦軸の​単位は​億円。​管理報酬・​税・​サイド​取引は​含めない。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。

図2の破線が再投資の効果である。深くインのファンドでキャリーを全額再投資すると、差額の符号は−1.5億円から+1.2億円に反転する。GP自身が安い価格で持分を買う立場に回るからで、モデルの、再投資がGPを買い手の側に寄せるという説明と同じ向きを示している。一方、弱い資産の行では、深くインのファンドの再投資なしの+6.0億円が、全額再投資で0.0億円に下がる。高値で確定したキャリーをその価格で持ち続けることになるため、再投資は割高移管には効く。負担する側は、優良資産の例では売却する既存LP(キャリー控除前で実力との差15億円のうち売却分)、弱い資産の例では新規LP(差30億円のうち取得分)である。

明日から​使える​確認項目

閾値は編集部の仮の目安で、研究で検証されたものではない。論文が直接示したのは誘因の向きまでである。まず分配​ウォーターフォールに沿って現在地を測る。既存LPとLPACの委員は次の順に確かめる。

  1. GPに「この資産を外部に実力どおりの価格で売った場合と、提示価格で移管した場合で、貴社の取り分はそれぞれいくらか」と尋ね、表2の形にする。回答が出なければ、ハードルまでの残額を開示資料から自分で計算する。
  2. 外部売却と提示価格での移管の双方で、キャリーが発生するかを確かめる。どちらでも発生しなければアウトと扱い、残る資産と合わせて割安移管の誘因を主な論点に置く。一方でだけ発生する場合は、表2の差額の符号で見る。価格の根拠として、代替案の検討と外部の買い手の反応を求める。ILPAの指針も、外部売却や期間延長などの代替案の説明を求めている24。
  3. 残る資産と並べて見る。移す資産以外に成功した資産がなく、かつ移す資産が今すぐ外部に売れるなら、追加資金の使途を具体的に問う。
  4. ステープルの有無を確認する。主導投資家が次号ファンドにコミットしているか、そのコミットが価格や条件と結びついているかを、入札の件数・価格帯とともに開示を求める25。
  5. GPの報酬のうち移管価格に連動する部分を確かめる。全額再投資で連動する部分がなければ、価格を高くする誘因を何で担保するのかを問う。
  6. 期限、回答しない場合の扱い、ステータスクオの有無を確認し、決裁の日程に間に合うかを最初の週に判断する。

新規に出資するセカンダリー投資家の投資委員会は、向きを逆にして確かめる。

  • 旧ファンドがインで、直前に他の案件を売却して報酬が見えている場合は、不振資産の混入を主な論点に置く。
  • 追加資金の計画を見る。論文の15件では未払込が株式エクスポージャーの平均15%(中央値11%)だった26。これを大きく下回り、使途も曖昧なら、継続の理由を「時間」だけで説明していないかを問う(比較の目安であり、適正水準ではない)。
  • GPの再投資を、確定キャリーに対する比率と、追加の現金出資に分けて記録する。ILPAの指針は原則100%の再投資を求めており27、下回るなら理由を確認する。モデルには一部の再投資が望ましい局面もあるので、比率だけで可否を決めない。
  • 複数資産型では資産ごとの​価格と質を分けて見る。モデルでは、単一資産型のほうが平均の質は高い。

よく​ある​質問

GPが​キャリーを​全額再投資していれば​安心ですか。

弱い​資産を​高く​移す誘因には​効きますが、​優良資産を​安く​移す誘因は​むしろ強まる​場合が​あります。​論文も、​条件に​よっては​一部の​再投資が​望ましいと​結論づけています。​売却する​既存LPに​とっては、​再投資の​比率だけで​判断しない​ほうが​安全です。

​フェアネス・​オピニオンが​あれば​割安移管は​防げますか。

論文の​モデルでは、​競争的に​見える​入札でも​割安な​価格が​残りえます。​フェアネス・​オピニオンは​手続きの​材料の​一つと​考え、​GPの​損得と​入札の​中身を​あわせて​確認するのが​現実的です。​この​点は​モデルの​仮定に​依存し、​実際の​取引での​検証は​ありません。

まとめ

Ivashinaらの理論は、GPがどの資産を移すかは資産の質だけでは決まらず、旧ファンドのキャリーの位置と残る資産の組み合わせに左右されると示した。アウトのファンドでは勝ち資産が安く移る恐れがあり、インのファンドでは不振資産が高く移る恐れがある。再投資は後者には効くが、前者を強めることもあり、著者らは条件次第で一部の再投資を勧める。結果は未検証の理論であり、実証との整合も未解決である。それでも、説明を読む前にGPの損得表を作るという手順は、次の案件からそのまま使える。

脚注

  1. R1 p.1(題名・著者・2026年5月3日)。全82ページ。SSRN の掲載ページの Internet Archive 保存版(2025年10月4日)で Posted: 3 Sep 2025、Date Written: August 21, 2025、80 Pages を確認。保存版(2026年10月11日)では Last revised: 3 May 2026、82 Pages。SSRN からは本文を取得できなかったが、同じ日付・ページ数の PDF が著者 Simon Mayer のサイトに掲載されており、本稿はこれを読んだ。2026年2月27日付の版(表紙の日付。Mannheim 大学のセミナー[2026年3月16日]のページで公開された PDF)と比べると、要旨の主眼が最適契約へ移り、命題は13本から8本に再編されて番号が変わった。読者に関係する変更は次のとおり。(1) 一部の再投資を求める結論が加わった。(2) 不振資産が移る経路が既存LPの流動性の事情に結びつけられた。(3) 既存LPの売却とロールの損得比較、CV の選択肢が投資時の選別努力を弱めるという結果、GP 共同投資を諸刃とする命題は本文から外れた。(4) クラウンジュエルの語に見込み資産が含まれる場合があるという注記はなくなった。初版の本文は未確認で、比較は2月版との間のもの。前身の別題の稿は見つからなかった。学術誌への掲載は確認できない。ページ番号は PDF の物理ページ(印刷ページ+1)。↩
  2. R1 p.8(第1節。2社の資料、2023年第1四半期〜2025年第2四半期の15件、2019年第1四半期〜2025年第1四半期の内部要約、投資チームへの聞き取り)。投資家の名称は非公開。↩
  3. R1 p.2 と脚注1(Jefferies の2025年7月の報告からの二次引用。2025年半ばの時点。原資料は未確認)。↩
  4. R1 p.8〜9(Fact 1)。CV の標準は5年+1年延長2回で、ファンド設定後7年目頃に移すと、約4年延びるという著者の計算。↩
  5. R1 p.4、p.14〜15(第2節)、p.29。「勝ち資産」「見込み資産」「不振資産」は本稿の訳語で、原文は H 型(successful)、M 型(high-potential)、L 型(unsuccessful)。↩
  6. R1 p.1〜3、p.6〜7、p.45。「割安移管」「割高移管」は本稿の用語。原文の adverse selection は売り手の情報優位を指す通常の用語で、inverse selection は著者らが対比のために用いている。↩
  7. R1 p.24(3.3節)と脚注14。基本モデルは第3節で、LP の利害と情報の差は第4節で導入される(p.5)。↩
  8. R1 p.25(命題3)、p.26〜27(高いハードルでは勝ち資産の継続が見込み資産の継続を押し出す)、p.38〜39(命題6。売却比率 θ が θV_U>(I−λ)X を満たすと、勝ち+不振で不振資産が移る。既存LPからの見返りもモデルの含意)。高いハードルで1社だけが成功した場合に報酬が出ないのは基本モデルの結果で、第4節では、移管価格が高い場合に時点1の報酬が生じうる(p.37 命題5の3。価格が本来の水準を下回れば報酬はゼロ)。↩
  9. R1 p.29〜30(系2)、p.5。↩
  10. R1 p.33〜34(CV Pricing、Transaction Price and Contract)、p.37(命題5)、p.39(命題6)。隠れた取引はモデルの仮定で、キックバックやステープルのコミットの例は p.33 脚注20。↩
  11. R1 p.40〜42(系4と図6の説明)、p.5〜6、p.32(売却比率 θ はモデルの外で与えられる)。高いハードルへの切り替えは、GP の取り分 α が十分に大きい場合の結果(系4の3)。↩
  12. R1 p.11(Fact 3。資料提供者の情報)。Kastiel and Nili(R3)も80〜90%のLPが売却を選ぶと記す(ECGI 版 p.27)。Abuzov ら(R2)の米国公的年金の観測は件数で約5%(p.5・p.18)で、測り方が異なる。↩
  13. R1 p.3、p.5〜6、p.21〜23(命題2)、p.25〜27(命題3)、p.29〜31(系2、3.5節)、p.37〜38(命題5、条件式(6))、p.45。一部の再投資は、情報を持つ買い手と価格の裁量を入れた第4節の含意で、高いハードルの契約で価格連動の報酬を使う場合の結論。その採用は条件式(6)を満たす場合に限られ(p.37 命題5の2)、GP が隠れた取引から得る取り分が小さいと満たされやすい(p.38)。低いハードルの契約では報酬は移管価格に連動しない(p.38〜39 命題6)。第3節の基本モデルでは再投資が誘因の役割を果たす。↩
  14. R1 p.43〜44(5.2節、命題8)、p.18(命題1)、p.22(2社とも移せる契約では勝ち資産は継続されない)。↩
  15. R1 p.8(資料)、p.24(仮定1と脚注16。この仮定がなければ平坦な報酬が高いハードルの契約を上回りうる)、p.32〜33(θ・ρ・α の設定)、p.45(結論)。↩
  16. R1 p.9 脚注6、p.24 脚注14(実効的なハードル)、p.29(CV の質は LP の厚生の尺度ではない)。R2(2026年3月22日の著者版)p.4・p.19・p.43(IRR 8%超の係数は0.247で1%水準で有意。p.43 の表題は Table 4 だが、本文 p.19 は同じ回帰を Table 3 と呼ぶ)、p.18・p.41(表2 Panel B。RVPI、1%水準で有意)。R2 の標本は主に米国。↩
  17. R1 p.9〜10(SEC 2023 の記述)。R5(SEC の案内。National Association of Private Fund Managers v. SEC, No. 23-60471 (5th Cir. 2024)、無効の一覧に規則 275.211(h)(2)-2 を含む)。判決文の本文と後続手続は未確認。↩
  18. R1 p.2。論文の記述によるもので、訴訟資料と結果は未確認。↩
  19. R1 p.20。資産の型は LP が観察も検証もできないと仮定される(p.15)。↩
  20. R1 p.11〜13(Fact 3・4)。↩
  21. R4(ILPA, 2023)p.3・p.4・p.9・p.10。業界団体の推奨で、法的な義務ではない。参照した PDF は IREI 掲載の写し。↩
  22. 投資事業有限責任組合契約に関する法律(R6)第3条第3項第7号、第13条第3号。↩
  23. R1 p.11(第1節。典型的なキャリーは三階層で、MOIC の条件も一般的との記述)、p.12(表1)。表1は15%の階層にも1.5〜1.7倍の MOIC 条件を示す。設例の約1.18倍は編集部の計算(実力÷移管価格)で、IRR は設例では計算していない。↩
  24. R4 p.4・p.6(取引の理由と代替案の説明)。↩
  25. R4 p.7〜8(入札の説明、ステープルなどの開示)。↩
  26. R1 p.9(Fact 1)。↩
  27. R4 p.4・p.11(キャリーの扱い)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。