想定読者:海外子会社と共同で研究開発を行う企業を買収・評価するFA・FAS・PEの担当者、税務DDの結果を価値算定に反映する人、多国籍企業の実効税率を分析する財務・経営企画の担当者
前提知識:損金算入が税金を減らす仕組み、移転価格税制の基本的な考え方(独立企業間価格)

買収を検討している日本のソフトウェア会社が、シンガポールの子会社と共同開発の契約を結んでいる。開発費は両社が見込みの便益に応じて分け合う約束で、子会社は開発した技術を海外で使う権利を持つ。税務​デューデリジェンス(税務DD)の途中で、契約書が定める「開発費」に、開発者に付与した株式報酬が入っていないことに気づく。株式報酬は全額が日本の親会社の費用として処理されている。これは単なる経理の慣行なのか、それとも税負担と研究開発の採算を左右する選択なのか。

米国では、まさにこの「株式報酬を共同開発の費用に含めるか」が十数年にわたって争われた。その間に企業がどう反応したかを、米国の税務申告の個票で調べた研究がある。以下では研究が示したことと示していないことを確かめ、日本の規定に当てはめてDDで聞くべきことを整理する。

この記事が主に参照する研究

Lysle Boller、Clare M. Doyle、Juan Carlos Suárez Serrato(2025)「R&D補助金としての租税回避:米国多国籍企業による費用分担契約の利用(Tax Avoidance as an R&D Subsidy: The Use of Cost Sharing Agreements by US Multinationals)」NBER Working Paper No. 33805

  • 公表:初版 2025年5月(NBER・スタンフォード大学経済政策研究所 SIEPR のワーキングペーパー)。参照した版:同じ2025年5月版。査読:WP版は未査読。同年に International Tax and Public Finance 誌に掲載(掲載版は未読)1
  • データ:米内国歳入庁(IRS)の法人税申告書の標本(1992〜2016年)と海外子会社の情報申告書を、株価・財務データとつないだもの。費用分担契約を結ぶ米国多国籍企業113社と、結んでいない1,134社2
  • 方法:予想外の判決を使ったイベント・スタディ(株価)と、判決前後の差の差(R&D・費用の比率)。結果を簡単なモデルで税引後コストの弾力性に換算
  • 位置づけ:税とR&Dの関係という既存の論点を、新しい行政データと準自然実験で検証した研究

費用分担契約では、​R&Dの​費用は​どこの​損金に​なるのか

米国の多国籍企業が海外でも使う技術を開発する場合、税の上では大きく二つのやり方があった。一つは、親会社が開発費を全額負担し、できた技術を海外子会社にライセンスして使用料を受け取る形である。開発費はすべて米国で損金になるが、受け取る使用料には米国ですぐに課税される。もう一つが費用分担契約で、開発の前に親会社と海外子会社が開発費の分担を決め、子会社は海外で技術を使う権利を持つ。子会社が負担した開発費は米国の損金にならない代わりに、子会社が海外で稼いだ利益には、2017年の税制改革前の米国の制度では本国に戻すまで課税されなかった3。

節税を考える企業にとって理想は、海外の利益は低税率国に残し、費用はできるだけ税率の高い米国で損金にすることだ。研究はこの関係を一つの式にまとめる。R&D1ドルの税引後コストは「1−(親会社の負担割合×親会社側の税の価値)−(子会社の負担割合×子会社側の税の価値)」で、税の価値には法人税率だけでなく研究開発の税額控除も入る。親会社側の税の価値が子会社側より大きければ、親会社の負担割合が上がるほど税引後コストは下がり、R&Dは割に合うようになる4。

争点は株式オプションだった。1995年の規則は株式オプションを分担すべき費用に含めるかを定めていなかった。2005年8月30日、租税裁判所は、アイルランド子会社と費用分担契約を結びながら株式オプションの費用を分担に含めず、米国で損金と研究開発の税額控除を主張したXilinx社を支持した。控訴審は2009年に一度逆転させたが、2010年に再びXilinxを支持した5。財務省は2003年に分担を求める規則を定めていたが、租税裁判所は2015年のAltera事件でこれを無効とし、控訴審が2019年に税務当局を支持して、2020年6月に最高裁が上告を受理しないことで一応の決着を見た。著者らは2005〜2020年を「規制が定まらない期間」と呼ぶ6。

判決の​あと、​株価と​R&Dは​どう​動いたか

研究の工夫は、公表されない費用分担契約の有無を、海外子会社の情報申告書(様式5471)から特定したことにある。費用分担契約を結ぶ企業は、結んでいない企業より平均のR&Dが619百万ドル対91百万ドル、株式報酬が144百万ドル対16百万ドルと、ともに大きい7。

まず株価である。判決後10営業日の累積異常リターンは、生の収益率で見ると約5%、海外利益の比率を曝露とする連続の指標では7.5%超だった。後者は平均の海外利益比率(約0.6)を掛けて二値と比べる尺度で、換算すると約4.5%超にあたる。市場全体の動きを差し引く推計では検出力が下がり、それぞれ1.5%超と3%程度(換算後約1.8%)になる8。著者らは、利益移転を制限する政策の発表で企業価値が約2.5%下がったという先行研究などと同程度の大きさだとしている9。

次にR&Dである。費用分担契約を結ぶ企業の世界全体のR&D(財務データ上の連結の研究開発費)は、判決の後、結んでいない企業と比べて対数で0.345〜0.390増えた。金額の比率に直すと約41〜48%の増加にあたる。判決の前には両者の傾向に有意な差は見られなかった10。

図1 判決後のR&Dの相対的な増加図1 判決後のR&Dの相対的な増加世界全体のR&D(対数)の差の差の係数企業・年の固定効果規模の四分位×年も追加95%信頼区間(編集部計算)基準(2008年の申告で特定)0.345(0.1%水準)0.390(0.1%水準)2005年の開示で確認0.310(0.1%水準)0.345(0.1%水準)株価反応で選定0.256(5%水準)0.339(1%水準)ヘイブンに分担先0.349(0.1%水準)0.370(0.1%水準)0.00.20.40.6係数(対数の差。0.35は約42%増)比較対象は費用分担契約のない企業95%信頼区間はどれも0を含まないR&Dは連結財務データの研究開発費
出所:R1(NBER WP 33805、​2025年5月版)​表2(p.24)の​係数と​標準誤差を​基に​大手町​プレップ作成​(原図ではなく、​表の​8つの​推計を​標本別に​並べ直した​独自の​図)。​95%信頼区間は​係数±1.96×標準誤差で​編集部が​計算した​もの。​有意性は​論文の​表記に​よる。​「基準」は​2008年の​海外子会社の​申告で​費用分担契約を​特定した​113社、​「2005年の開示で確認」は​そのうち2005年までに​開示資料で​契約を​確認できた​企業、​「株価反応で選定」は​判決直後の​株価反応が​大きかった​企業、​「ヘイブンに分担先」は​2008年に​タックスヘイブンの​子会社と​契約していた​企業。​比較対象は​費用分担契約の​ない​1,134社。​0.35の​対数の​差は​約42%​(exp(0.35)−1)に​あたる​(編集部換算)。

図1のとおり、契約の特定方法を変えても係数は0.26〜0.39の範囲にあり、いずれも統計的に有意だった。2005年時点で契約があったことを開示資料で確かめた企業に絞っても結果はほぼ同じで、著者らは、判決の後に契約を結んだ企業が結果を押し上げているという懸念は限られるとしている。費用分担先がタックスヘイブンにある企業では、効果がはるかに明確に出たと著者らは書く11。

付け替えか、​報酬の​組み替えか

親会社の負担割合が上がる経路は二つある。既存の株式オプションの費用を子会社の分担から親会社の計上へ移す「報告の反応」と、報酬に占める株式オプションの比率を高める「報酬の反応」である。

表1 付け替えと報酬の組み替えを示す推計(R1)

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比率2005年基準
基本
2005年基準
追加
2006年基準
基本
2006年基準
追加
国内R&D(税務)÷世界R&D(財務)0.022
(10%水準)
0.046
(1%水準)
——
株式報酬÷世界R&D0.077
(0.1%水準)
0.070
(1%水準)
0.055
(1%水準)
0.071
(0.1%水準)
株式報酬÷労務費0.041
(0.1%水準)
0.057
(0.1%水準)
0.016
(10%水準)
0.011
(有意でない)
出所:R1(NBER WP 33805、​2025年5月版)​表4(p.28)の​列1〜2と​表A.3(p.47)の​列1〜2の​係数を​基に​大手町​プレップ作成​(基準の​標本だけを​選んで​整理。​表の​転載ではない)。​係数は​判決後の​比率の​上昇幅​(比率の差。0.077は7.7%ポイント)。​「基本」は​企業・年の​固定効果、​「追加」は​規模の​四分位×年の​固定効果も​入れた​推計。​2006年基準は、​株式報酬の​会計基準の​変更で​2006年から​財務データの​計上が​広がった​影響を​避ける​ため、​基準年を​ずらした​頑健性の​確認。​国内R&Dの​比率は​2006年基準の​推計が​示されていない。

表1のとおり、国内で申告したR&D(税務データ)の世界全体のR&D(財務データ)に対する比率は上がった。著者らは、判決は研究をどこで行うかの損得を変えず、費用の一部をどちらの国で計上するかを変えたにすぎないとして、これを付け替えと解釈している12。株式報酬のR&Dに対する比率も7.7%ポイント上がった。ただし2005年には株式報酬の会計基準が変わり、財務データでの計上が広がった。基準年を2006年にずらすと、株式報酬の労務費に対する比率の上昇は小さくなり、一方の推計では統計的に有意でなくなる13。

著者らは、二つの経路の大きさをモデルに当てはめた。親会社側の税の価値を61%(法人税と研究開発税額控除の合計)、子会社側を10%、判決前の親会社の負担割合を50%、R&Dに対する株式オプションの比率を0.25と置くと、親会社の負担割合は約66%に上がり、R&Dの税引後コストは対数で約0.14下がる(著者らの表現は14%の低下、通常の変化率では約13%)。仮定を変えると対数で0.09〜0.15(約9〜14%)になる。R&Dの増加0.35をこの下げ幅で割ると、税引後コストに対する弾力性は−2.53で、仮定と推定値の幅を入れると−1.68〜−4.68だった14。編集部も論文の式で再現した(対数で−0.1384、通常の変化率で12.9%、弾力性−2.528)。著者らは、この大きさは研究開発税額控除の先行研究の中心的な推定値(約−2.5)と整合的だとしている15。

負担割合の上昇のうち、付け替えにあたる部分は0.125、報酬の組み替えは0.0385で、著者らは付け替えが約78%を占めると述べる(同じ数値で割り戻すと76.5%)16。R&Dの税引後コストを下げた主因は、報酬の設計よりも費用の計上先の選択だった、というのが研究の見立てである。モデルの較正による分解で、実測の比較ではない。

この​研究から​言えない​こと

第一に、費用分担契約は2008年の申告からしか直接観察できない。様式に項目が加わったのが2007年で、海外子会社のデータは偶数年しかないためだ。著者らは開示資料や株価反応で標本を作り直しているが、採用時期の誤分類は完全には除けない17。

第二に、結果は2017年以前の米国の制度と、判決で規則の効力が揺らいだ特殊な期間のものである。いまの米国の規則は、株式報酬を費用分担の対象となる開発費用に明示的に含めている18。ただし著者らによれば、2024年にも同じ規則の効力を争う申立てがあり、問題は完全には決着していない19。

第三に、研究はR&Dが増えたことを示したが、それが社会にとって望ましかったか、政府の税収をいくら減らしたかは測っていない。著者ら自身、財政コストや、当局が勝った後に税が回収されたか、費用分担契約を制限するとR&Dがどれだけ減るかを今後の課題に挙げている20。同じ著者を含むグループの別の研究は、低税率国の事業体を組み合わせる「ハイブリッド型」の節税ストラクチャーの採用企業ほど費用分担契約を使っていたことを示し、開発中の技術を子会社に持たせる際の対価(buy-in)は価格付けが難しく、過少になる余地があると説明している21。

大手町​プレップの​考察:損金の​場所は​価値の​前提に​なる

ここからは編集部の見方である。持ち帰るべきは株式オプションの節税策ではなく、次の三つの読み方だと考える。

一つ目に、研究開発の採算は、研究をどこで行うかだけでなく、費用をどこで損金にするかでも変わる。研究では、著者らの解釈によれば研究の場所の損得は変わらないまま、計上先の選択がR&Dの税引後コストを1割前後(通常の変化率で約9〜14%)動かした。事業計画のR&D予算は、どの会社の損金になる前提かまで確かめる価値がある。

二つ目に、争われている税務上の取扱いは、当局や裁判所の判断で元に戻りうる「期限つきの便益」として評価すべきだ。研究の企業群は判決で価値が上がったが、規則は2019〜2020年に当局の勝ちで落ち着いた。DDで見つけた有利な取扱いを、将来も続く前提で実効税率に織り込むのは危うい(仮説)。

三つ目に、著者らによれば分担先がタックスヘイブンにある企業で効果がより明確だった。これは、費用の付け替えが低税率国での利益の蓄積と組み合わさって効くことを示唆する(仮説)。費用分担契約を見たら、相手方の税率と、開発された無形資産の持分がどこにあるかを一緒に見る必要がある。

日本の​実務への​応用:規定に​沿って​何を​確かめるか

日本にも費用分担契約の取扱いがある。国税庁の移転価格税制の事務運営要領は、費用分担契約を、無形資産などの開発を共同で行い、その貢献を分担する契約と定義する。参加者の見込みの便益の割合(予測便益割合)が適正に見積もられ、各参加者の貢献の価値が独立企業間の対価で測られ、貢献価値の割合が予測便益割合と一致していれば、独立企業原則に即したものとして扱われる。法人の貢献価値の割合が過大なら、移転価格税制(租税特別措置法66条の4第1項)の適用がある。費用と貢献の価値が大きく違わなければ、費用の額をそのまま貢献の価値としてよい22。

調査の留意事項には、予測便益の算定基準(売上高・営業利益など)とその見直し、実際の便益との大きな乖離、参加者の加入・脱退・契約終了の際に、それまでに形成された無形資産を評価して対価を授受しているかが挙げられている。M&Aで対象会社が売り手のグループを離れれば、この「脱退」にあたりうる(編集部の見方)。共同開発の成果が特定無形資産にあたる場合は、事後に価格を調整する措置(租税特別措置法66条の4第8項)も検討される23。一方、編集部が確認した範囲では、事務運営要領の費用分担契約の箇所(3-15〜3-19)に、株式報酬を費用に含めるかを個別に定めた記述は見当たらない。

株式報酬が日本で損金になるかどうかも、研究の仕組みを持ち込む前に確かめる点だ。法人税法は、役務の対価として交付した譲渡制限付の新株予約権について、個人に給与等として課税される事由が生じた日に役務の提供を受けたものとし、その事由が生じないときは損金に算入しないと定める24。税制非適格のストックオプションは、雇用関係に基づくものなら権利行使時に給与所得として課税される25。税制適格​ストックオプションを含め、どの報酬がいつ損金になるかで、株式報酬を親会社に寄せる価値は大きく変わる。

研究開発の税額控除も、費用の配分と直結する。一般試験研究費の税額控除の対象は、損金に算入される試験研究費で、その費用に充てるため他の者から支払を受ける金額は差し引き、国外の事業所等を通じた事業の費用は除く26。低税率国の子会社の利益の扱いは、外国子会社合算税制やグローバル・​ミニマム​課税の判定とも重なる。

設例:株式報酬を​親会社に​寄せた​ときの​税の​軽減と、​否認された​ときの​影響

学習用の設例(架空)

  • 買収対象の甲社(日本)と海外子会社の乙社が費用分担契約。年間の共同開発費10,000百万円、うち株式報酬1,500百万円(15%)
  • 予測便益割合は甲社60%、乙社40%。研究はすべて日本で行う
  • 甲社の税率30%、試験研究費の税額控除の限界的な率10%(合計40%)。乙社の税率17%。いずれも仮定で、実際の控除率・上限・合算課税は考えない
  • A:株式報酬も60対40で分担。B:株式報酬を契約から外し、甲社が全額負担
図2 設例 配分と損金算入で変わる税引後コスト図2 設例:配分と損金算入で変わるコスト共同開発費10,000百万円の税引後コスト開発費に対する割合(%)。短いほど有利株式報酬が甲社で損金になる場合A 株式報酬も60対40で分担69.2%B 株式報酬は甲社が全額67.8%税の軽減額はBで年138百万円増株式報酬が甲社で損金にならない場合A 株式報酬も60対40で分担72.8%B 株式報酬は甲社が全額73.8%税の軽減額はBで年102百万円減0%20%40%60%80%甲社の税率30%+税額控除10%、乙社17%金色の棒=株式報酬を甲社に寄せた場合論文のデータではない学習用の仮定
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(甲社・乙社は架空)。​税引後​コスト=​(開発費−損金算入と​税額控除に​よる​税の​軽減額)​÷開発費。​R1 の​式1(p.11)の​考え方を​当てはめた。​開発費10,000百万円の​うち株式報酬1,500百万円、​予測便益割合は​甲社60%・乙社40%。​甲社の​税の​価値は​税率30%と​税額控除の​限界的な​率10%の​合計40%、​乙社は​17%​(乙社が​負担した​株式報酬は​乙社で​損金に​なると​仮定)。​損金に​ならない​場合は、​甲社の​負担した​株式報酬の​税の​価値を​0とした。​軽減額:損金に​なる​場合 A 3,080・​B 3,218百万円、​ならない​場合 A 2,720・​B 2,618百万円。​税額控除の​上限、​繰越欠損金、​合算課税、​移転価格の​否認は​考えない。

図2の上の2本は、株式報酬が甲社で損金になる場合である。Bでは甲社の負担が6,000百万円から6,600百万円に増え、グループ全体の税の軽減額は年138百万円増える。R&Dの税引後コストは69.2%から67.8%へ、対数で0.020(約2.0%)下がる。研究が整合的とした弾力性−2.5を当てはめると、R&Dは対数で約0.050(通常の増加率で約5.2%)増える計算だが、研究の結果ではなく規模感の例示である。

下の2本は、甲社で株式報酬が損金にならない場合だ。Bにすると、乙社で損金になったはずの600百万円の費用を甲社が抱えるだけで、軽減額はかえって年102百万円減る。研究の仕組みは、親会社側で株式報酬が損金になり、しかも控除の対象になるという前提の上に成り立っていた。

次に、Bの配分が否認された場合である。株式報酬も共同活動への貢献にあたるとされ、甲社の貢献価値の割合(66%)が予測便益割合(60%)より過大と判断されたとする。設例では、超過した600百万円が甲社の所得に戻され、同じ額だけ税額控除の基礎も減ると仮定する。このとき甲社側の追加の税額は年約240百万円になる。

表2 設例:株式報酬の配分が否認された場合の甲社の追加税額(目安)

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株式報酬の比率3年分5年分7年分
株式報酬の比率 10%4808001,120
株式報酬の比率 15%7201,2001,680
株式報酬の比率 20%9601,6002,240
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(架空)。​単位は​百万円。​追加税額の​目安=開発費10,000百万円×株式報酬の​比率×乙社の​予測便益割合40%×(甲社の​税率30%+税額控除の​限界的な​率10%)×年数。​株式報酬の​うち乙社が​負担すべきだった​部分が​甲社の​所得に​戻され、​同じ​額だけ​税額控除の​基礎も​減ると​仮定した。​年数は​否認される​期間の​仮定で、​法令上の​更正の​期間を​示す​ものではない。​加算税・​延滞税・​地方税の​詳細、​相互協議に​よる​二重課税の​調整、​乙社側の​減額は​含めない。

表2は、株式報酬の比率と遡る年数で、この影響を並べたものだ。株式報酬の比率が高く、有利な取扱いを長く続けている企業ほど、潜在的な税務リスクは大きい。加算税・延滞税や、相手国での二重課税の調整(相互協議)の行方は、この表には入れていない。

明日から​使える​確認項目

  1. 費用分担契約・共同開発契約の一覧を求め、各契約の「分担する費用」の定義に、株式報酬・間接費・既存の無形資産の使用料相当額が入っているかを確かめる。入っていなければ、その理由と社内の検討記録を質問する。
  2. 予測便益割合の基準(売上高・営業利益など)と見直しの頻度、直近3期の実際の便益との乖離を一覧にする。乖離が大きいのに見直していなければ、指摘を受けやすい論点として記録する(乖離の閾値は研究で検証されたものではなく、案件ごとに専門家と決める)。将来の取引については事前確認​(APA)の有無も確かめる。
  3. 株式報酬について、付与した会社・費用を計上した会社・損金にした会社と時期を対応表にする。日本の会社で計上した分は、法人税法54条の2の要件と、試験研究費の税額控除の基礎に入れたかを確かめる。
  4. 試験研究費の税額控除の計算で、子会社から受け取る負担金を差し引いているか、国外事業所等を通じて行う事業に係る費用を除いているか、国外で行う委託研究を改正後の割合で計上しているかを、申告書の明細で確かめる。
  5. 買収で対象会社が売り手グループの契約から脱退・加入する場合、それまでに形成された無形資産の評価と対価の授受の方法を、株式譲渡契約の前提条件・表明保証に織り込むかを決める(買収後の​グループ​内取引の見直しと一緒に検討する)。
  6. 過去に有利な判断・取扱いを受けた論点は、否認された場合の追加税額を表2の形で年数別に見積もり、実効税率の前提と補償条項の交渉に反映する。

よく​ある​質問

研究は​「株式オプションを使うと節税になる」と​言っているのですか。

いいえ。​研究が​扱ったのは、​株式​オプションの​費用を​費用分担契約から​外して​親会社だけで​損金に​できた、​米国の​特定の​期間の​取扱いです。​現在の​米国の​規則は​株式報酬を​分担の​対象に​含めています。​研究の​主眼は、​損金の​場所が​変わると​R&Dの​税引後​コストと​投資が​変わる​ことを​示した​点に​あります。

まとめ

2005年の米国の判決は、費用分担契約を結ぶ多国籍企業に、株式オプションの費用を親会社だけで損金にする道を開いた。研究によれば、その企業群の株価は判決直後に上がり、R&Dは相対的に対数で0.345〜0.390(約41〜48%)増えた。著者のモデルによる分解では、税引後コスト低下の主因は報酬構成の変更より既存の費用の計上先の付け替えだった。結果は米国の特定の期間と制度のものである。日本の実務では、費用分担契約の費用の範囲と配分基準、株式報酬の損金算入、試験研究費の税額控除の基礎を一つの表にまとめ、否認された場合の影響を年数別に見積もることがDDの出発点になる。

脚注

  1. R1(NBER WP 33805/SIEPR WP 25-24、2025年5月版)p.1〜2(表紙。WP は査読前と明記)。ページは PDF の物理ページ(印刷ページ+3。以下同じ)。NBER の PDF は取得できず(403)、SIEPR が掲載ページで公開している同一本文を読んだ。掲載版:International Tax and Public Finance 32(6), pp.1691-1733(2025年6月23日オンライン、Crossref)。掲載版の本文は未読で、WP 版との違いは確認していない。第3著者の CV と研究ページの過去の保存版(2020〜2024年)を見た範囲では、2025年5月より前の版・旧題は見つからなかった。↩
  2. R1 p.14〜17(4.1〜4.2節・表1)。法人税申告書は SOI 法人サンプルの C 法人(1992〜2016年)、海外子会社は SOI 国際事業サンプルの様式5471。株価は CRSP、R&D と株式報酬は Compustat。多国籍企業は1社以上の被支配外国法人について様式5471を出す企業と定義。2001〜2004年の株式報酬のデータがない企業などは表1から除かれている。↩
  3. R1 p.7〜8(2.1節・図1)。ライセンス方式で受け取る使用料は Subpart F の規定により即時に米国で課税される、との説明。↩
  4. R1 p.11〜13(3節、式1〜4)。「税の価値」は論文の t̃(州・連邦の法人税率と研究開発税額控除を含む項)を編集部が言い換えたもの。親会社側が大きくなりやすい理由として、州税、子会社の欠損、税額控除を挙げている(p.12)。↩
  5. R1 p.9(2.2節)。↩
  6. R1 p.9〜11(2.3節)。Altera 社は Xilinx 判決の直後に契約を改め、株式報酬を分担から外していた(p.9〜10)。↩
  7. R1 p.17(表1、IRS 標本の平均。単位は百万ドル)。↩
  8. R1 p.18〜20(5節・式5・図2)。判決は2005年8月30日、判決後最初の取引日は8月31日、最初の報道は9月2日。累積異常リターンは9月13日(10営業日目)の値で、論文の表現は「5%に近い」「7.5%超」「1.5%超」「3%」。企業は総資産で加重。連続の曝露は2004年の海外利益の比率(平均約0.6)で重み付けしており、0.6を掛けると二値の値と比べられると著者は説明している(p.20)。↩
  9. R1 p.20(5節)。比較対象の Garrett and Suárez Serrato(2019)は第3著者の共著。↩
  10. R1 p.21〜24(6節・式6・表2の列1〜2・図3)。係数0.345(標準誤差0.094)は企業と年の固定効果、0.390(同0.093)は2004年の資産・売上の四分位×年の固定効果を加えた推計で、いずれも0.1%水準で有意。観測数7,567。百分率への換算(exp(係数)−1)は編集部の計算。↩
  11. R1 p.16〜17(4.2節・脚注12)、p.21〜24(表2の列3〜8・図3)。株価反応で選んだ標本(Residual)は選び方の性質上、判決前の最初の2年に傾向の差が出る(p.21)。タックスヘイブンは Blouin and Robinson(2023)のリスト。p.17 脚注12 はルクセンブルクを含むが、表A.2 の注(p.36)は含まず、記載が食い違っている。↩
  12. R1 p.27〜29(7.1節・表4パネルA・図4)。比率が0〜1の範囲外の観測は除いている。↩
  13. R1 p.28〜31(7.2節・表4パネルB・C)、p.47(表A.3)。2005年基準:株式報酬/R&D は0.077(0.1%水準)と0.070(1%水準)、株式報酬/労務費は0.041と0.057(ともに0.1%水準)。2006年基準:株式報酬/R&D は0.055(1%水準)と0.071(0.1%水準)、株式報酬/労務費は0.016(10%水準)と0.011(有意でない)。著者は、R&D の約8割が人件費であることから、R&D 人員の報酬に占める株式オプションが約10%上がったと述べている(p.29)。↩
  14. R1 p.22、p.25〜26(表3)。親会社側は連邦法人税35%+州法人税の平均6.6%+連邦の税額控除14%+州の税額控除の平均5.7%(合計61.3%、論文の表示は61%)。株式オプション比率の上昇0.077は表4パネルB の推定値。下げ幅は税引後コストの対数の変化(論文の表示は−0.14、仮定により−0.09〜−0.15)。↩
  15. R1 p.26(6節)。著者が挙げる先行研究の推定値は、Güçeri and Liu(2019)の−1.6〜−2.7、Wilson(2009)の−2.5、Rao(2016)の約−2(賃金に限ると−3.5)など。先行研究の本文は未読。編集部の再現は finance/calc.py(親会社の負担割合0.6635、下げ幅−0.1384)。↩
  16. R1 p.32(7.3節)。論文は0.125を丸めた合計0.16で割って約78%としている。編集部が0.125÷0.1635で計算すると76.5%。↩
  17. R1 p.15〜16(4.1〜4.2節)。様式5471の費用分担の項目は2007年に追加、国際事業サンプルの海外子会社のデータは偶数年のみ(2014年なし)。著者は、データの制約や同時期の出来事による測定誤差は完全には除けないと書いている(p.15)。↩
  18. R3(26 CFR §1.482-7(d)(1)(iii)・(d)(3)、eCFR の現行版)。開発費用(intangible development costs)に株式報酬を含むと定める。↩
  19. R1 p.4〜5(脚注1)、p.11(2.3節)。2024年の Abbott Laboratories の申立ては、著者が Tax Notes の記事を引いて述べたもので、本稿は申立ての内容を確認していない。第9巡回区以外の企業は必ずしも Altera の判断に拘束されないとも書いている。↩
  20. R1 p.32〜33(8節)。↩
  21. R2(NBER WP 35874、2026年10月版、未査読)p.28(図5パネルD)、p.85〜86(付録C.1)。R2 は R1 の第1・第3著者を含む4名の研究で、同じ IRS のデータを使う。↩
  22. R4 第3章 3-15(費用分担契約の定義)・3-16(取扱い。(1)イ〜ハの3要件、(2)貢献価値割合が過大な場合、(3)費用の額を貢献価値額として扱える場合)。↩
  23. R4 第3章 3-17((3)予測便益割合の算定と見直し・実現便益割合との乖離、(6)加入・脱退・終了時の無形資産の評価)、3-18(既存の無形資産の使用)、3-19(調査で求める書類)、第4章 4-15(特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置。研究開発段階にあるもの等は該当性を十分に検討)。↩
  24. R5(法人税法54条の2第1項・第2項、e-Gov 法令検索で確認)。対象は譲渡制限その他の条件が付された新株予約権で、役務の提供の対価と認められるものなどの要件がある。↩
  25. R6(国税庁タックスアンサー No.1543、令和8年4月1日現在法令等)。業務に関連して与えられた場合は事業所得または雑所得、退職後の行使などで雑所得となる場合がある。↩
  26. R7(国税庁タックスアンサー No.5442、令和8年4月1日現在法令等)。人件費は専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られる。国外で行われる委託試験研究の費用の扱いは令和8年度税制改正で改められている。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。