この記事で分かること
- イールド・オン・コスト(YOC)の定義と、取得時キャップレート(市場価格基準)との違い
- YOC・開発スプレッド・開発利益の計算式
- 総事業費8,100・NOI 486の設例で、YOC 6.00%と開発利益2,700を計算し、感応度を確認
- 財務モデルでの組み方と、日本の物流・賃貸住宅開発で確認すべきポイント
30秒で分かる定義
イールド・オン・コスト(Yield on Cost、YOC、開発利回り)とは、開発・バリューアッド案件で、安定稼働時のNOIを、土地・建築費・諸費用・建中金利などの総事業費で割った利回りです。読み方は「かいはつりまわり(いーるど・おん・こすと)」です。市場のキャップレートとの差が、開発によって生まれる利益の目安になります。
取得時のキャップレートがNOIを「市場で付く価格」で割るのに対し、YOCは分母が「実際にかかった(かかる予定の)原価」です。基準が異なる利回りなので、比べることに意味があります。
なぜ実務で重要なのか
デベロッパー、REPEなど開発型のファンド、開発ローンの貸し手が、開発の採算を判断するときに使います。完成後の安定したNOIが総事業費に対して何%になるかを示し、市場で売却・評価される水準(キャップレート)との差で開発の利益を示します。
開発案件の投資分析の全体像は不動産開発案件の投資分析に整理しています。REPEがバリューアップや開発をどう投資プロセスに組み込むかはREPEの投資実務が参考になります。
計算式(ま たは仕組み)
開発スプレッド = YOC − 市場キャップレート
開発利益(評価上・売却費用等控除前)= 安定稼働時のNOI ÷ 市場キャップレート − 総事業費
開発利益率 = 開発利益 ÷ 総事業費
| 指標 | 分母 | 基準 | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| 取得時キャップレート | 取得価格(市場の価格) | 市場価格 | 既存物件の取得・評価 |
| YOC(開発利回り) | 総事業費(原価) | 原価 | 開発・バリューアッドの採算 |
総事業費には、土地の取得費、建築費、設計・諸経費、建中金利、リーシング費用などを含めます。分子のNOIは、完成後に稼働が安定した時点の予想値(フォワードNOI・安定化NOI)で、空室・フリーレント・運営費用を織り込んだものを使います。開発利益の式は安定稼働時の評価額と原価の差で、売却費用、安定稼働までの追加費用、評価時点の違いを反映する前の評価上の利益です。実際の売却益や会計上の利益とは一致しません。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。総事業費は、土地3,000、建築費4,200、設計・諸経費400、建中金利350、リーシング費用150の合計で 8,100。安定稼働時のNOIは486、市場キャップレートは4.5%とします。
① YOC = 486 ÷ 8,100 = 6.00%
② 開発スプレッド = 6.00% − 4.5% = 1.50ポイント(150bp)
③ 完成後の評価額 = 486 ÷ 4.5% = 10,800
④ 開発利益 = 10,800 − 8,100 = 2,700、開発利益率 = 2,700 ÷ 8,100 = 33.3%
| ケース | 総事業費 | NOI | キャップレート | YOC | 評価額 | 開発利益(率) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 基準 | 8,100 | 486 | 4.5% | 6.00% | 10,800 | 2,700(33.3%) |
| 建築費+10%(+420) | 8,520 | 486 | 4.5% | 5.70% | 10,800 | 2,280(26.8%) |
| キャップレート5.0% | 8,100 | 486 | 5.0% | 6.00% | 9,720 | 1,620(20.0%) |
| 両方 | 8,520 | 486 | 5.0% | 5.70% | 9,720 | 1,200(14.1%) |
建築費が10%上がると、YOCは486 ÷ 8,520 = 5.70%に下がります。さらにキャップレートが5.0%に上がると、開発スプレッドは0.70ポイントに縮み、開発利益は基準の2,700から1,200に減ります。
投資判断への影響
開発は、建設費の上振れ、リースアップの遅れ、完成時のキャップレートの上昇というリスクを負います。YOCと市場キャップレートの差が、これらのリスクに見合うかを判断します。スプレッドの目安は用途・市況・リスクにより異なり、一律の数値はありません。
融資では、総事業費に対する借入の割合(LTC)とYOCを併せて確認します。ただし、YOCと金利の比較だけでは返済できるかは判断できません。利息のみの単純化でも、利払いの条件は NOI ≧ 借入 × 金利、すなわち YOC ≧ LTC × 金利 です(例:総事業費100・借入50・NOI 3・金利4%なら、YOC 3%は金利を下回っても利息2を賄えます)。元本返済や資本的支出を含めた返済余力は、DSCRと資金繰りで確認します。感応度は、建築費・賃料・稼働率・キャップレートの組合せで示します。
財務モデル・Excelでの使い方
- 総事業費:
=SUM(土地,建築費,設計諸経費,建中金利,リーシング費用)。費目を別行に置き、増減の影響を追えるようにする。建中金利は期中の借入残高から計算するため、循環参照に注意する(期首残高ベースで回避する)。 - 安定化NOI:
=賃貸可能面積*賃料単価*稼働率-運営費用。フリーレントやリーシング費用の扱いを注記する。 - YOCと利益:
=NOI/総事業費、=YOC-キャップレート、=NOI/キャップレート-総事業費。 - 感応度:建築費の増減(−10〜+10%)×キャップレート(4.0〜5.5%)の二次元テーブルで開発利益を示す。
月次の建設費と建中金利の組み方は不動産開発モデルの作り方で扱っています。
この用語をExcelで
総事業費と安定化NOIからYOCと開発スプレッドを計算し、建築費とキャップレートの感応度で開発利益を示せるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「YOCはキャップレートと同じ種類の利回りだ」→ YOCは原価基準、キャップレートは市場価格基準です。両者の差が、開発による価値の創出を示します。
誤解2:「YOCが高ければ良い案件だ」→ 分子の賃料・稼働率の前提が楽観的なら、YOCは高く出ます。安定化NOIの前提(賃料の根拠、リースアップ期間)を確認します。
誤解3:「土地は取得原価で入れれば足りる」→ 既に保有している土地は、時価(機会費用)で入れる考え方もあります。どちらで計算しているかを明記します。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本では、物流施設や賃貸住宅などの開発で、完成・稼働安定後に、保有または売却(J-REITや私募ファンドへの売却など)で出口を取るのが一般的です。出口の価格は、その時点のキャップレートで決まるため、YOCと完成時のキャップレートの差が開発利益の目安になります。
総事業費は、事業計画上の費目の合計で、会計・税務上の取得価額とは範囲が異なることがあります。例えば、自己の建設に係る減価償却資産の取得価額は、建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額と、事業の用に供するために直接要した費用の額で構成されると法人税法施行令に定められています(第54条第1項第2号)[1]。事業計画のYOCと決算上の数値を比べるときは、含まれる範囲を確認します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:イールド・オン・コストとキャップレートの違いと、比べる意味を説明してください。
「どちらもNOIを分母で割る利回りですが、キャップレートは市場価格、YOCは実際の総事業費が分母です。YOCがキャップレートを上回る分(開発スプレッド)が、完成時の価値と原価の差、つまり開発利益の源泉になります。設例ではYOC 6.00%、キャップレート4.5%で、スプレッド150bp、開発利益は2,700です。」
深掘りの観点:建築費・賃料・キャップレートの感応度、スプレッドの水準の考え方、安定化NOIの前提。
よくある質問(F AQ)
Q. 開発スプレッドはどのくらい必要ですか。
A. 用途、立地、市況、開発リスク(建設費の上振れ・リースアップ)で異なり、一律の水準はありません。リスクに見合う水準を、感応度の結果と併せて判断します。
Q. 建中金利は総事業費に含めますか。
A. 事業計画のYOCでは、資金調達コストも原価として含めるのが一般的です。含めるか否かでYOCは変わるため、定義を明記して比べます。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」第54条第1項第2号(自己の建設等に係る減価償却資産の取得価額). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000097(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。