この記事で分かること
- 仕掛品の定義と、貸借対照表の棚卸資産での位置づけ
- 総合原価計算(平均法)での完成品換算量と、完成品・月末仕掛品への原価配分
- 完成品3,040・月末仕掛品580を導く整数設例と、仕掛品回転日数の計算
- 棚卸資産の評価(正味売却価額)と、受注産業での見方(2026年11月時点)
30秒で分かる定義
仕掛品(しかけひん、Work in Progress、WIP)とは、製造工程の途中にあり、まだ完成品になっていない製品の原価です。財務諸表等規則は、流動資産の区分として「商品及び製品(半製品を含む。)」「仕掛品」などを掲げ[1]、企業会計基準第9号は、棚卸資産を商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産としています[2]。貸借対照表では、仕掛品は原材料や製品とともに棚卸資産を構成します。原価計算の考え方は原価計算で解説しています。
なぜ実務で重要なのか
期末の仕掛品の金額が、売上原価と利益を左右するためです。製造した原価のうち、完成して販売された分が売上原価、期末に残った仕掛品や製品が棚卸資産になります。経理・原価計算担当は、月末の仕掛品の原価を計算して完成品原価を確定します。FAS・PEは、運転資本の分析で、仕掛品の滞留や評価の妥当性を確認します。融資担当は、仕掛品を含む棚卸資産の換金性を担保評価の観点で見ます(ABL
計算式(ま たは仕組み)
総合原価計算では、月末仕掛品の数量を、加工がどこまで進んでいるかを示す進捗度で完成品に換算した「完成品換算量」で表し、原価を完成品と月末仕掛品に配分します。平均法では、月初仕掛品の原価と当月の製造費用を合計し、完成品数量と月末仕掛品の完成品換算量の合計で割って単価を出します。先入先出法との違いは総合原価計算で完成品原価を求めるで扱っています。
| 原価の種類 | 数量の基準 | 単価の計算(平均法) |
|---|---|---|
| 材料費(工程の始点で投入) | 完成品+月末仕掛品(進捗にかかわらず全量) | (月初+当月の材料費)÷(完成品+月末仕掛品の数量) |
| 加工費 | 完成品+月末仕掛品×進捗度(完成品換算量) | (月初+当月の加工費)÷ 完成品換算量 |
受注生産では、案件別に原価を集計する個別原価計算が使われます(個別原価計算で案件別採算表を作るを参照)。
整数設例で確認する
設例(架空数値・平均法・材料は工程の始点で投入・金額は万円)。月初仕掛品50個(原価:材料費200、加工費100)、当月投入450個、当月製造費用は材料費1,800、加工費1,520です。完成品400個、月末仕掛品100個(進捗度50%)とします。数量の検算:50 + 450 = 500 = 400 + 100。
- 材料費:(200 + 1,800)÷(400 + 100)= 4.0 → 完成品 = 400 × 4.0 = 1,600、月末仕掛品 = 100 × 4.0 = 400
- 加工費:完成品換算量 = 400 + 100 × 50% = 450、単価 =(100 + 1,520)÷ 450 = 3.6 → 完成品 = 400 × 3.6 = 1,440、月末仕掛品 = 100 × 50% × 3.6 = 180
- 完成品原価 = 1,600 + 1,440 = 3,040、月末仕掛品原価 = 400 + 180 = 580(合計3,620 = 月初300 + 当月3,320)
月末仕掛品は100個ですが、加工費の完成品換算量は50個分です。材料費は全量を、加工費は進捗度に応じて配分するため、数量だけで配分すると完成品原価がずれます。仕掛品の滞留を見る指標として、月末仕掛品580を完成品原価3,040で割り、30日を掛けると、仕掛品回転日数は約5.7日です(当月基準・30日として計算)。
PL・BS・CFへの影響
月末仕掛品は貸借対照表の棚卸資産(流動資産)に計上され、完成品原価は完成品として製品の在庫になり、販売された時に売上原価に振り替えられます。財務諸表等規則は、商品及び製品、仕掛品、原材料及び貯蔵品を棚卸資産の科目で一括して掲記できるとし、その場合は各項目の科目と金額を注記するよう定めています[1]。キャッシュ・フロー計算書では、仕掛品の増加は営業キャッシュフローのマイナス要因になります(棚卸資産回転日数を参照)。
財務モデル・Excelでの使い方
- 総合原価計算シート:数量の表(月初・投入・完成・月末)を作り、検算
=月初+投入-完成-月末がゼロになることを確認します。 - 完成品換算量:材料費と加工費を分けて計算します。工程の始点で投入する材料費は
=月末数量*材料費単価、加工費は換算量=完成品数量+月末仕掛品数量*進捗度、単価=(月初加工費+当月加工費)/換算量から=月末数量*進捗度*加工費単価とし、両者を合計して月末仕掛品原価とします(設例では 400 + 180 = 580)。 - 三表への接続:月末仕掛品原価をBSの棚卸資産に、完成品原価を製品の在庫の増加として連動させます。
- 滞留の管理:
=仕掛品/完成品原価*日数で仕掛品回転日数を出し、受注や稼働率の変化と並べて推移を確認します。
この用語をExcelで
原価計算の数量と原価の表を作り、完成品原価と月末仕掛品を計算して、棚卸資産と運転資本にリンクできるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「仕掛品は数量で完成品と按分する」→ 材料と加工費で数量の基準が異なります。設例では、月末仕掛品100個のうち加工費の換算量は50個分で、原価配分が変わります。
誤解2:「仕掛品は製造業だけの概念」→ 工事や受託開発など、受注産業にも当てはまります。建設業では、仕掛の原価を未成工事支出金などの科目で表示する例があります(業種別の様式による)。
誤解3:「仕掛品は評価損の対象にならない」→ 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、期末の正味売却価額が取得原価より下落している場合、その価額に切り下げます。仕掛品も棚卸資産のため、完成までの追加原価と販売費用を見積もった評価を行います。
確認ポイント:期末仕掛品の進捗度の根拠と、長期間滞留している仕掛品の有無を確認します。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本基準では、通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末の正味売却価額が取得原価より下落している場合は正味売却価額とし、差額は当期の費用として処理します(企業会計基準第9号第7項)[2]。収益性の低下により帳簿価額を切り下げた場合の切下額は、原則として売上原価その他の項目の内訳項目として区分掲記します。ただし、切下げ後の金額で計上してその旨と切下額を注記する方法も認められ、重要性が乏しい場合や、連結財務諸表を作成している会社の個別財務諸表では、区分掲記・注記を省略できます[1]。同じ工事契約に係る棚卸資産と工事損失引当金がある場合の相殺表示の定めもあります[1]。製造業の費用の流れは、製造原価報告書で確認できます。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:仕掛品が増えると、キャッシュ・フローと利益にどう影響しますか。
「間接法では棚卸資産の増加として営業キャッシュフローから差し引かれるため、マイナス要因です(買掛金など仕入債務の増加で相殺されることもあります)。利益は、当月の製造費用・製品在庫・販売数量など他の条件が同じなら、期末の仕掛品が増えるほど完成品原価が減り、当期の売上原価が減って利益が増えます。ただし増産で当月の製造費用も同時に増えている場合は、利益が増えるとは限りません。ただし、滞留や評価損のリスクがないかを確認します。」
深掘りの観点:仕掛品の進捗度の見積りが利益に与える影響、受注産業での仕掛品と前受金の関係。
よくある質問(F AQ)
Q. 仕掛品と半製品の違いは何ですか。
A. 半製品は、加工の途中でも販売や保管が可能な、独立した状態の製品を指す一般的な用語です。仕掛品は、製造工程の途中にあり、まだ販売できる状態にない製品です。財務諸表等規則は、半製品を商品及び製品に含めています。
Q. 仕掛品の評価はどう行いますか。
A. 原価計算で集計した原価を取得原価とし、期末に正味売却価額(売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を控除した額)が取得原価を下回る場合は、切り下げます。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第17条、第54条の4、第80条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準」(2006年7月5日公表、2019年7月4日最終改正)第3項、第5項、第7項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/kichu_20251016_16.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。