この記事で分かること
- 米国会計基準(US GAAP)の設定主体(FASB)とSEC登録企業との関係
- のれん・連結(VIE)・営業CFの出発点など、日本基準との主な差異
- のれんの償却と減損の違いが営業利益に与える影響を整数設例で検算
- 日本企業が米国基準で連結財務諸表を作成できる制度(連結財務諸表規則第316条)
30秒で分かる定義
米国会計基準(US GAAP、べいこくかいけいきじゅん)とは、米国の民間機関である財務会計基準審議会(FASB)が設定する財務会計・報告の基準で、米国証券取引委員会(SEC)に登録する米国企業などが財務諸表の作成に用いる基準です。なお、外国民間発行体は、IASBが公表するIFRSによる財務諸表でも年次報告書(Form 20-F)を提出できます[9]。SECは2003年の政策声明で、FASBの基準をSEC登録企業にとって「一般に公正妥当と認められた」ものと認め、登録企業はそれに従うと整理しました[1]。基準は個別の会計基準更新書(ASU)で公表され、トピック別に体系化された基準集(ASC)に反映されます。
日本の実務では、米国上場の日本企業の連結財務諸表や、米国企業を対象とするM&A・財務DDで米国基準の数値に触れます。本ページは「日本基準・IFRSとの違いを読み解くための入口」として、のれん・連結・営業CFの出発点に絞って整理します。IFRSとの関係は国際財務報告基準を参照してください。
なぜ実務で重要なのか
IB・PE・FASは、米国企業の買収や、米国基準で開示する日本企業のバリュエーションで、日本基準・IFRSの企業とEBITDAや営業利益を並べる場面があります。のれんの償却の有無や連結範囲の判定が違えば、同じ経済実態でも営業利益・総資産・自己資本が異なって見えるためです。経営企画・経理は、米国子会社を持つ場合や米国上場の親会社に連結される場合に、グループ会計方針との差異調整を求められます。エクイティ・リサーチは、海外同業とのコンプス作成で調整後指標を揃える必要があります。
計算式(ま たは仕組み)
US GAAPは数式で定義される概念ではなく、設定主体・基準体系・適用主体の関係で理解します。
| 層 | 内容 |
|---|---|
| 設定主体 | FASB(民間・非営利。基準の公表はASU) |
| 基準体系 | ASC(トピック番号。例:350=無形資産・のれん、810=連結) |
| 適用の強制力 | SEC登録企業はSECの政策声明によりFASB基準に従う[1](外国民間発行体はIASBのIFRSも可[9]) |
| 日本企業の位置付け | 連結財務諸表規則に、SEC登録会社の米国式連結財務諸表を提出できる特例がある[7] |
のれんについて、ASC 350-20-35-1は「のれんは償却しない。代わりに、報告単位のレベルで少なくとも年1回、減損テストを行う」と定めます[2]。減損損失は、報告単位の帳簿価額が公正価値を超える額(のれんの配分額を上限)として認識されます(ASU 2017-04による簡素化後)[2]。日本基準との主な違いは次の表のとおりです。
| 論点 | 米国基準(US GAAP) | 日本基準(連結) |
|---|---|---|
| のれん | 償却せず、少なくとも年1回、報告単位で減損テスト[2](非公開企業には償却を選べる代替処理がある) | 20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり規則的に償却(重要性が乏しい場合は発生年度の費用処理も可)[3] |
| 連結の支配判定 | 議決権モデルとVIEモデルの二本立て。VIEでは主たる受益者が連結[4] | 議決権の過半数のほか、実質的な支配(支配力基準)で子会社を判定[5] |
| 営業CFの間接法の出発点 | 一般に当期純利益から出発する | 税金等調整前当期純利益から出発(連結CF作成基準の様式)[6] |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。のれん1,000を計上した買収を考えます。のれん償却前の営業利益は年500とし、他の条件は同じと仮定します。
- 日本基準(償却期間を10年と仮定):のれん償却額 = 1,000 ÷ 10 = 100。営業利益 = 500 − 100 = 400
- 米国基準(減損なしの年度):償却なし。営業利益 = 500
- 米国基準(報告単位の帳簿価額5,000、公正価値4,700の年度):減損損失 = min(5,000 − 4,700, のれん配分額1,000) = 300。営業利益 = 500 − 300 = 200
償却の有無でEBITDAは変わりませんが、営業利益は日本基準で100小さく見えます。一方、米国基準では償却がない代わりに、減損が発生した年度に一括で損失が出ます。同業比較では、のれん償却前の営業利益や、のれん関連の損益を除いた指標で揃えるのが実務的です。
開示・規制上の位置付け
米国基準の財務諸表は、SEC登録企業が米国の開示書類で用いる基準です。日本では、連結財務諸表規則が日本基準による作成を原則としつつ、指定国際会計基準(第312条)・修正国際基準(第314条)の特例と、SEC登録会社が米国式連結財務諸表を提出できる特例(第316条)を設けています[7]。第316条の適用では、金融庁長官が公益または投資者保護に欠けないと認めることが前提で、日本語での記載と、日本基準で作成した場合との主要な相違点の注記が求められます[7]。
なお、2011年の金融担当大臣談話で、米国会計基準の使用期限の撤廃と、当面IFRSの強制適用を行わない方針が示され、米国基準の使用は続いているとされています[8]。
財務モデル・Excelでの使い方
- 会計基準のスイッチ:コンプス表に「会計基準」列(日本基準/IFRS/US GAAP)を置き、基準ごとにのれん償却額を別行で持ちます。
- 調整後営業利益:
=営業利益 + 営業利益に含まれるのれん償却額・のれん減損損失(足し戻すのは営業利益の計算に含まれた額だけです。日本基準では減損損失は原則として特別損失に表示されるため[10]、通常はのれん償却額のみを加算します。特別損失の減損まで加えると過大になります)。 - 減損の検算行:
=MAX(0, MIN(報告単位の帳簿価額 − 公正価値, のれん配分額))。 - PPAとの接続:取得価額配分で生じるのれんの額と償却方針はPurchase Accountingをモデルへ反映する方法で組み立てます。
- 注意:差異はのれんだけではありません。連結範囲・リース・金融商品なども基準ごとに異なるため、正式な調整は注記の差異説明(日本基準との主要な相違点の注記)で確認します。
この用語を実務で
日本基準・IFRS・米国基準の企業の財務諸表を、のれんや連結範囲の違いに注意して同じ土俵に揃えるモデルを組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「米国基準はのれんを償却しない=負担が軽い」→ 償却がない代わりに、減損が起きた年度に一括で損失が出ます。設例では償却年100に対し、減損年は300です。
誤解2:「米国基準は日本基準より厳しい(または緩い)」→ 基準全体を一言で比較することはできません。論点ごとに差異があります。
誤解3:「非公開企業も米国基準ならのれんを償却しない」→ 非公開企業向けには償却を選べる代替処理があります[2]。公開企業との比較では適用している処理を確認します。
確認ポイント:数値を比較する会社の会計基準、のれんの処理、連結範囲(VIEを含む)、営業CFの区分を、注記で確かめてから比べます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却します(企業結合に関する会計基準第32項)[3]。償却の考え方はのれん償却
米国上場の日本企業の有価証券報告書では、連結財務諸表規則第316条に基づく米国式連結財務諸表が提出されることがあり、日本基準で作成した場合との主要な相違点が注記されます[7]。日本語の財務諸表と英語の10-K・20-Fのどちらを一次資料にするかを、比較の前に決めておくと混乱を避けられます。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:のれんの会計処理は、米国基準と日本基準でどう違いますか。
「米国基準は、公開企業ののれんは償却せず、少なくとも年1回、報告単位で減損テストを行います。日本基準は20年以内で規則的に償却します。そのため同じ買収でも、日本基準では毎年償却費が営業利益を押し下げ、米国基準では減損が出た年度に大きな損失が出ます。比較ではのれん関連を除いた営業利益かEBITDAで揃えます。」
深掘りの観点:VIEとは何か、営業CFの出発点の違い、IFRSとの違い(IFRSも原則としてのれんを償却しない)、非公開企業向けの代替処理、などが続けて聞かれます。英語での説明練習はファイナンス論点を英語で説明するが使えます。
よくある質問(F AQ)
Q. 日本企業は米国基準で有価証券報告書を作成できますか。
A. 連結財務諸表規則第316条は、米国式連結財務諸表を米国証券取引委員会に登録している連結財務諸表提出会社が、金融庁長官が認める場合にそれを提出できると定めています[7]。実際に使えるかは会社ごとの要件によるため、個別に確認が必要です。
Q. 米国基準の最新の基準はどこで確認しますか。
A. FASBが公表するASUと、ASC(基準集)が一次資料です。ASUは公表後にASCへ反映されるため、条文は基準集で確認します。
出典・参考(2 026-11確認)
- SEC「Commission Statement of Policy Reaffirming the Status of the FASB as a Designated Private-Sector Standard Setter」(Release No. 33-8221、2003年4月25日). https://www.sec.gov/rules/policy/33-8221.htm(2026年11月参照)
- FASB「Accounting Standards Update No. 2017-04, Intangibles—Goodwill and Other (Topic 350)」ASC 350-20-35-1・35-8、350-20-05-5A. https://storage.fasb.org/ASU2017-04.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準」第32項. https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=123(2026年11月参照)
- FASB「Accounting Standards Update No. 2014-07, Consolidation (Topic 810)」(VIEモデルと主たる受益者の説明). https://storage.fasb.org/ASU%202014-07.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準」第6項・第7項(支配力基準). https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=111(2026年11月参照)
- 企業会計審議会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(1998年3月13日)第三・様式2. https://www.fsa.go.jp/p_mof/singikai/kaikei/tosin/1a909b2.htm(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第312条・第314条・第316条・第318条・第319条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351M50000040028(2026年11月参照)
- 金融庁「企業会計審議会総会 議事録」(2023年4月7日)事務局説明(2011年の金融担当大臣談話と米国会計基準の使用期限の撤廃). https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/gijiroku/soukai/20230407.html(2026年11月参照)
- SEC「Form 20-F」General Instructions A・Item 17(c)(外国民間発行体の財務諸表は米国基準またはIASBが公表するIFRSで作成できる). https://www.sec.gov/files/form20-f.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」(2002年8月9日)四・2(減損損失は、原則として、特別損失とする). https://www.fsa.go.jp/news/newsj/14/singi/f-20020809-1/f-20020809c.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。