この記事で分かること

  • TAM・SAM・SOMそれぞれの定義と、混同しやすい境界の引き方
  • ボトムアップ算定とトップダウン算定の違いと、突合による検証手順
  • 営業体制から逆算してSOMを置く整数設例(図解つき)
  • 日本で市場規模を積み上げるときに使える公的統計と開示上の扱い(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

TAM・SAM・SOM(Total Addressable Market/Serviceable Available Market/Serviceable Obtainable Market、読み方:タム・サム・ソム)とは、市場規模を「理論上の全体」「自社が提供し得る範囲」「現実に獲得を狙う範囲」の三層に分解して評価するフレームワークです。TAMは対象となる課題を抱える全顧客が理想的に支払う年間金額、SAMはそのうち自社の製品・提供体制・地域で実際に対応できる部分、SOMはさらに一定期間内に獲得できる部分を指します。ピッチ資料と投資検討の双方で最も頻繁に使われる一方、定義の置き方で数字が何倍にも変わるため、算定根拠の説明が評価の対象になります。

なぜ実務で重要なのか

VC・グロース投資家は、TAMを「その投資が自社のファンドに必要なリターンをもたらし得る大きさか」を判断する足切りに使います。SAMは事業計画の現実性、SOMは短期の売上計画の妥当性を測る材料です。創業者・経営企画にとっては、どのセグメントから攻めるかという戦略そのものを数字で表現する道具になります。M&A・事業会社の投資検討でも、対象会社の成長余地を測る出発点として同じ考え方が使われます。数字を大きく見せるための道具ではなく、どこで戦い、どこで戦わないかを説明する道具だと理解すると使い方を誤りません。

計算式(または仕組み)

TAM = 対象となり得る全顧客数 × 1顧客当たり年間支払額
SAM = 自社が提供可能なセグメントの顧客数 × 1顧客当たり年間支払額
SOM = 一定期間に獲得できる顧客数 × 1顧客当たり年間支払額

算定には2つの方向があります。ボトムアップは「顧客数×単価」を自社のデータや公的統計から積み上げる方法で、前提が可視化されるため検証しやすい反面、隣接領域の広がりを取り込みにくくなります。トップダウンは調査会社等が公表する市場規模から自社の関連比率を掛けて求める方法で、大きな絵を描けますが、母数の定義が自社の事業と一致しているとは限りません。実務ではボトムアップを主、トップダウンを検算として両方を並べ、桁が合うかを確認します。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。中堅企業向けの業務システムを提供する会社が、国内市場を三層に分解します。年間の1社当たり支払額(ARPU)は120万円で共通とします。

TAM・SAM・SOMの三層(設例・架空数値) TAM 720億円 SAM 180億円 SOM 4.32億円 TAM:60,000社 × 120万円 = 720億円 SAM:15,000社 × 120万円 = 180億円 SOM:360社 × 120万円 = 4.32億円 SOM ÷ SAM = 360社 ÷ 15,000社       = 2.4%(3年後シェア)
図:ボトムアップで積み上げた三層の市場規模。SOMは営業体制から逆算する(単位:円、架空数値)
  • TAM=対象業種の全事業所60,000社×120万円=72,000百万円=720億円
  • SAM=そのうち従業員50名以上で自社製品が対応できる15,000社×120万円=18,000百万円=180億円
  • SOM=営業10名×1人当たり年間新規12社×3年=360社。360社×120万円=432百万円=4.32億円
  • SOMのSAMに対するシェア=360社÷15,000社=2.4%

トップダウンでも検算します。調査会社が「国内の関連システム市場は1,000億円」と公表しており、自社が対象とする業種・規模の比率を18%と置くなら、1,000億円×18%=180億円となり、ボトムアップのSAM180億円と一致します。両方向で桁が合うことが、前提の置き方が極端でないことの確認になります。

SOMを「SAMの5%」といった比率で置くのではなく、営業人員×生産性×期間から積み上げている点が重要です。前者は根拠がなく、後者は採用計画と直接つながるため、事業計画の他の数字と整合させられます。

投資判断への影響

投資家はTAMの絶対額だけでなく、そこから逆算した将来のExit規模を見ます。設例の会社が5年後にSAM180億円のうち売上30億円(シェア30億円÷180億円=16.7%)まで到達し、そのとき売上倍率6倍で評価されるとすれば、企業価値は30億円×6倍=180億円です。この水準が投資家の求めるリターンに足りるかどうかが、投資可否の分岐点になります。

逆に言えば、SAMが小さすぎると、どれだけシェアを取っても必要な企業価値に届きません。スタートアップのバリュエーションで扱う逆算の考え方と、この市場規模の三層は必ずセットで検討されます。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 入力シートに「セグメント(業種×従業員規模×地域)」を行に取り、社数・想定ARPU・自社対応可否のフラグを列に置く
  • TAMは =SUMPRODUCT(社数, ARPU)、SAMは対応可否フラグを掛けた =SUMPRODUCT(社数, ARPU, フラグ) で算出する
  • SOMは別ブロックに「営業人数×1人当たり年間新規社数×年数」を置き、採用計画シートと同じセルを参照させる
  • トップダウンの数値を別行に入力し、SAMとの乖離率を =SAM/トップダウン推計-1 で常時表示する
  • ARPUと社数を感応度テーブルの2軸に置き、前提が動いたときの市場規模の振れ幅を見る

投資検討側では、この三層をそのまま投資メモの市場セクションに転記できる形に整えます。VC Investment Memoの作り方で扱うMarketの章は、まさにこの検証結果を書く場所です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

公的統計と自社データからTAM・SAM・SOMをボトムアップで積み上げ、トップダウン推計と突合できるシートを組めるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「TAMは大きいほど評価される」→ 正しくは、根拠のない大きさはむしろ信頼性を損ないます。母数を広げるほど、なぜ自社がその市場を取れるのかという説明の負担が重くなります。

誤解2:「調査会社の市場規模をそのままTAMに使ってよい」→ 正しくは、その市場定義が自社の課金対象と一致しているかを必ず確認します。ハードウェアや人件費まで含んだ市場規模を、ソフトウェアのTAMとして使うのは典型的な誤りです。

誤解3:「SOMはSAMの数%と置けばよい」→ 正しくは、営業体制と獲得ペースから積み上げます。比率で置いた瞬間に、採用計画・販管費計画との整合が取れなくなります。

確認ポイントは、①ARPUが現在の実績値か将来の期待値か、②単年か累計か(TAMは年間の支払額で置くのが一般的)、③海外市場を含むなら参入時期と体制が計画に入っているか、の3点です。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)日本でボトムアップ算定を行う場合、母数となる事業所数・企業数は総務省統計局および経済産業省が公表する経済センサスなどの公的統計から取得できます。中小企業庁が公表する企業規模別の統計も、従業員規模でセグメントを切る際に使えます。公的統計は定義と調査時点が明示されているため、投資家に対して前提を説明しやすいという利点があります。

開示面では、東京証券取引所グロース市場の上場会社が継続的に開示する事業計画及び成長可能性に関する事項の中で、対象市場の規模と自社のポジションが説明されます。ここで示される市場規模の定義と根拠は投資家の検証対象になるため、上場準備の段階から、根拠資料をたどれる形で整理しておく実務が定着しています。なおTAM・SAM・SOMは会計基準や法令上の用語ではなく、開示の様式が定められているわけではありません。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:あるSaaS企業のTAMを、どのように算定しますか。
「まず課金対象を定義します。誰が、何に対して、年間いくら払うのかを一文で決めます。次にボトムアップで、対象となる企業数を公的統計から取り、想定ARPUを掛けて年間市場規模を出します。そのうえで調査会社の市場規模からトップダウンでも推計し、桁が合うかを検算します。最後に、自社が実際に提供できる範囲に絞ったSAMと、営業体制から積み上げたSOMを示して、計画の現実性まで説明します。」

深掘りでは「TAMを広げるためにARPUを引き上げる前提を置いてよいか」「市場が新規創出型でボトムアップの母数が存在しない場合どうするか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. TAMは年間金額と累計金額のどちらで表しますか?
A. 実務では年間の支払額(年間市場規模)で表すのが一般的です。累計で示すと期間の取り方次第で数字が変わり、他社との比較ができなくなります。年間で示したうえで、必要なら成長率を別に示します。

Q. 新しい市場を創る事業では、TAMをどう説明しますか?
A. 既存の代替手段に支払われている金額(人件費、外注費、旧来製品の購入額)を母数に置き、そのうちどれだけが自社製品に置き換わるかという形で説明します。置換率の前提を明示することが、数字そのものより重要です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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