この記事で分かること

  • プレマネー・ポストマネーの定義と「ポストマネー=プレマネー+調達額」の関係
  • 投資家持分が「投資額÷ポストマネー」で決まる理由と、株数ベースでの検算方法
  • 2ラウンドのキャップテーブル設例で持分%と希薄化を追う手順
  • J-KISS・SAFEのバリュエーションキャップとの関係と、日本実務での注意点

30秒で分かる定義

プレマネー(Pre-Money Valuation)とは資金調達の直前時点の企業評価額、ポストマネー(Post-Money Valuation)とは調達直後の企業評価額のことで、「ポストマネー=プレマネー+調達額」の関係が成り立ちます。読み方はそのまま「ぷれまねー・ぽすとまねー」で、日本語では「調達前評価額・調達後評価額」とも呼ばれます。投資家が取得する持分は「投資額÷ポストマネー」で決まるため、プレマネーの合意は実質的に「創業者がどれだけ希薄化するか」の合意と同じ意味を持ちます。

なぜ実務で重要なのか

VCの投資担当者にとっては、タームシートの最初の数字がプレマネーです。同じ200百万円を投資しても、プレマネーが800百万円なら持分20%、1,200百万円なら約14.3%と、リターンの分母が大きく変わります。スタートアップのCFO・経営企画にとっては、調達額と許容できる希薄化率からプレマネーの交渉レンジを逆算する作業が資本政策の中心です。また、IB・FASでも未上場の成長企業を扱う場面(レイターステージ調達、M&A、IPO準備)では、過去ラウンドのプレ/ポストと優先株の条件を読み解くことが評価の出発点になります。全体像はVC・スタートアップファイナンス入門VCタームシート完全ガイドが参考になります。

計算式

ポストマネー = プレマネー + 調達額
投資家持分(%) = 投資額 ÷ ポストマネー
1株あたり発行価額 = プレマネー ÷ 調達直前の完全希薄化後株式数

ポイントは、投資家持分の分母が「プレ」ではなく「ポスト」であることです。投資家のお金は払い込まれた瞬間に会社の価値の一部になるため、自分の投資額を含めた全体に対する割合で持分が決まります。また、1株あたり価格はプレマネーを既存株式数(ストックオプション等を含む完全希薄化後)で割って求めるため、プレマネーの定義に「発行済のみか、完全希薄化後か」が含まれているかを必ず確認します。

プレマネー+調達額=ポストマネー(設例) 調達前 プレマネー 800百万円(既存株主100%) 調達後 既存株主 800百万円=80% 投資家 200 =20% +調達額 200百万円 ポスト 1,000百万円
図:プレマネーと調達額の合計がポストマネーになり、投資家持分は投資額÷ポストマネーで決まる(架空数値)

整数設例で確認する

設例(架空数値)で、シリーズA・Bの2ラウンドを株数ベースで検算します。創業者が40,000株を保有する会社が、シリーズAでプレマネー800百万円・調達額200百万円の条件で調達するとします。

  • 1株あたり発行価額 = 800百万円 ÷ 40,000株 = 20,000円
  • 新規発行株式数 = 200百万円 ÷ 20,000円 = 10,000株
  • 調達後の総株式数 = 40,000 + 10,000 = 50,000株
  • 投資家A持分 = 10,000株 ÷ 50,000株 = 20%(検算:200百万円 ÷ ポスト1,000百万円 = 20%で一致)

1年後、シリーズBをプレマネー2,400百万円・調達額600百万円で実施します。1株価格は2,400百万円÷50,000株=48,000円、新株は600百万円÷48,000円=12,500株です。

株主株式数シリーズA後 持分シリーズB後 株式数シリーズB後 持分
創業者40,00080%40,00064%
シリーズA投資家10,00020%10,00016%
シリーズB投資家12,50020%
合計50,000100%62,500100%

検算すると、シリーズB投資家の持分は600百万円÷ポスト3,000百万円=20%=12,500÷62,500株で一致します。創業者の持分は80%→64%に下がりますが、保有価値は800百万円(40,000株×20,000円)→1,920百万円(40,000株×48,000円)に増えています。「持分の希薄化」と「価値の毀損」は別物である点が、この設例の最重要ポイントです。ラウンドを重ねた持分変化の追い方はキャップテーブルと希薄化で詳しく解説しています。

財務モデル・Excelでの使い方

キャップテーブルは「入力=プレマネーと調達額、計算=それ以外すべて」という構造で組みます。典型的なシート設計は次のとおりです。

  • 入力セル:ラウンドごとのプレマネー、調達額、オプションプール比率
  • 計算セル:ポストマネー=プレ+調達額、1株価格=プレ÷直前の完全希薄化後株式数、新株数=調達額÷1株価格、各株主持分=保有株数÷総株式数
  • チェックセル:持分合計が100%になるか、株数×1株価格がポストマネーと一致するかをSUMで検証

実務では新株数に端数が出るためROUNDDOWNで整数化し、端数分だけ実際の調達額がわずかにずれる点に注意します。また、転換社債型新株予約権付社債やJ-KISSがある場合は、転換後の完全希薄化ベースの列を別に持たせるのが定石です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

ラウンドごとのキャップテーブルを組み、プレ/ポスト・1株価格・持分・希薄化を自動計算できるようにする。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「ポストマネー=会社の公正価値」→ ポストマネーは優先株の条件(清算優先権・希薄化防止条項など)とセットで決まる交渉価格です。手厚い優先権と引き換えに高いプレマネーが付くことがあり、普通株の価値がポストマネー÷株式数より低いことは珍しくありません。

誤解2:「プレマネーの数字だけ比較すればよい」→ オプションプールを「プレマネーに含めて」拡大する慣行(プール分の希薄化を既存株主が負担する建付け)があるため、同じプレマネーでも実質的な条件は異なります。プールの計算基準(プレかポストか)を必ず確認します。

誤解3:「調達すると創業者は損をする」→ 上の設例のとおり、持分%は下がっても1株価格が上がれば保有価値は増えます。確認すべきは希薄化率そのものではなく、調達資金が価値向上に見合うかです。

日本実務での扱い(会社法・優先株・J-KISS)

日本のVC投資では、会社法108条に基づく種類株式(優先株式)での調達が主流で、投資契約・株主間契約の設計については経済産業省が公表する「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」が実務の参照点になっています(2026年7月時点)。また、シード段階ではJ-KISS(新株予約権型)やSAFEのような転換型証券が使われますが、これらは投資時点でプレマネーを確定させず、次回ラウンドの価格またはバリュエーションキャップ(多くはポストマネー基準の上限評価額)で転換価額が決まる仕組みです。キャップがポストマネー基準の場合、追加の転換証券発行による希薄化を既存株主側が負担するため、プレ基準か・ポスト基準かの確認は日本実務でも必須です。詳細はJ-KISSとはを参照してください。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:プレマネー800百万円の会社に200百万円投資すると、持分は何%ですか?
「ポストマネーは800+200=1,000百万円なので、持分は200÷1,000=20%です。株数で言えば、1株価格=プレ800百万円÷既存株式数で決まり、その価格で発行される新株が総株式数の20%になります」

深掘りでは「オプションプールを調達と同時にポストの10%まで拡大する場合、誰が希薄化を負担するか」「転換社債がある場合の完全希薄化後株式数の扱い」が問われます。分母の定義を自分の言葉で説明できるかが評価の分かれ目です。

よくある質問(FAQ)

Q. プレマネーはどうやって決まるのですか?
A. レイターステージではマルチプルやDCFも参照されますが、アーリーステージでは「必要調達額」と「投資家・創業者が許容する希薄化率(1ラウンド15〜25%程度が目安)」から逆算される交渉価格という性格が強いです。類似企業の調達事例も重要な参照点になります。

Q. ポストマネーは次のラウンドまで会社の評価額として使い続けてよいですか?
A. あくまで直近ラウンド時点の参照値です。業績が計画を下回れば次のラウンドで前回を下回る評価(ダウンラウンド)になることもあり、その場合は希薄化防止条項が発動して持分計算がさらに複雑になります。

出典・参考(2026-07-20確認)

  • 経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(https://www.meti.go.jp/)
  • 会社法108条(種類株式)・199条(募集株式の発行)/e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
  • NVCA(全米ベンチャーキャピタル協会)Model Legal Documents(https://nvca.org/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。