この記事で分かること
- 行使価格(行使価額・ストライクプライス)の意味と、オプションと新株予約権での呼び方の違い
- 行使価格とマネーネス(ITM・ATM・OTM)、本源的価値の関係
- 新株予約権の行使で調達額・希薄化がどう決まるかの整数設例
- 会社法上の位置づけと、行使価額の修正・調整条項を確認する観点
30秒で分かる定義
行使価格(Strike Price / Exercise Price)とは、オプションや新株予約権を行使して原資産を売買できる、あらかじめ定められた価格です。読みは「こうしかかく」。取引所のオプション取引では「権利行使価格」「ストライクプライス」、新株予約権の実務では「行使価額」と表記するのが一般的です。コールオプションなら「この価格で買える権利」、プットオプションなら「この価格で売れる権利」の基準になります。
なぜ実務で重要なのか
VC・スタートアップ・経営企画は、ストックオプション・新株予約権の設計で付与時の行使価額を決めます(Option Pool設計の実務)。投資銀行・ECMは、新株予約権付社債や第三者割当の行使価額と希薄化を設計し、市場部門・トレーディングは、オプションの行使価格をどこに置くかで損益構造(オプション取引の基礎)を決めます。バリュエーション担当は、オプション評価モデルへの入力値として使います。
計算式(ま たは仕組み)
プットの本源的価値 = MAX(行使価格 - 原資産価格, 0)
新株予約権の行使による調達額 = 行使価額 × 行使される株式数
| 原資産価格と行使価格 | コール | プット |
|---|---|---|
| 原資産価格 > 行使価格 | イン・ザ・マネー(ITM):行使すると利益 | アウト・オブ・ザ・マネー(OTM) |
| 原資産価格 = 行使価格 | アット・ザ・マネー(ATM) | アット・ザ・マネー(ATM) |
| 原資産価格 < 行使価格 | アウト・オブ・ザ・マネー(OTM) | イン・ザ・マネー(ITM) |
ITM・ATM・OTMの詳細はオプションのマネーネスで扱っています。行使価格が原資産価格に近いほど時間価値が大きくなるなど、オプション価格は行使価格との位置関係で決まります。
整数設例で確認する
設例(架空数値):非上場のスタートアップが、役職員に新株予約権を付与します。行使価額は1株1,000円、新株予約権1個で1株を取得でき、付与総数は1,000千個(=1,000千株分)、発行済株式数は10,000千株とします(払込金額・手数料・税は考えません)。
① 株価が1,500円のとき:1個当たりの本源的価値は 1,500 − 1,000 = 500円。全体では 500円 × 1,000千株 = 500百万円。行使すると払込みは 1,000円 × 1,000千株 = 1,000百万円。新規発行は1,000千株で、希薄化率は 1,000 ÷ (10,000 + 1,000) ≒ 9.09%です。
② 株価が800円のとき:800 − 1,000 < 0なので本源的価値は 0。行使すると市場より高く買うことになるため、合理的には行使しません(OTM)。
③ マネーネスの目安:①で、行使価格 ÷ 株価 = 1,000 ÷ 1,500 ≒ 66.7%。株価は行使価格の1.5倍で、行使価格より50%高い水準(ITM)です。
契約条項への影響
新株予約権では、行使価額は発行条件の中核です。会社法は、新株予約権の内容として「行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」を定めなければならないとしています(第236条第1項第2号)[1]。ただし、上場会社が取締役の報酬等として、定款又は株主総会の決議による定め(指名委員会等設置会社では執行役・取締役について報酬委員会の決定)に従って発行する場合は、この事項を定める必要はなく、行使時に金銭の払込み等を要しない旨などを定めます(同条第3項・第4項)[1]。募集の場面では、募集事項(払込金額など)を定める必要があり、払込金額が引受人に特に有利な金額などの場合、取締役は株主総会で、その条件で募集する理由を説明しなければなりません(第238条第3項)[2]。実務では、次の条項が行使価額を動かします。
| 条項 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| 行使価額の調整(希薄化防止) | 株式分割・時価を下回る発行などで行使価額を調整 | 既存の権利者の経済価値を保護(転換価額の希薄化防止条項) |
| 行使価額の修正 | 株価に連動して行使価額を見直す | 目的株数が固定の新株予約権では交付株数は変わらず、行使時の調達額が減少。MSCBのように一定額を修正後の価額で割る設計では、株価下落時に交付株数が増え、希薄化が拡大 |
| 行使条件・期間 | 行使できる時期・業績条件など | 付与目的(インセンティブ)の設計に直結 |
財務モデル・Excelでの使い方
- 入力セル:行使価額、個数、1個当たり株数、発行済株式数、想定株価を青字で入力します。
- 本源的価値:
=MAX(株価-行使価額,0)*株数。プットは=MAX(行使価額-株価,0)*株数。 - 希薄化の計算:
=新株数/(発行済株式数+新株数)。ITMのときだけ行使される前提をIF(株価>行使価額,…,0)で入れます。 - 感応度:株価を横軸にして、行使有無・調達額・希薄化率を表にします。FD(完全希薄化後)株式数は、トレジャリーストック法と併せて確認します(ストックオプションの公正価値評価)。
この用語をExcelで
行使価額と株価から、本源的価値・調達額・完全希薄化後の株式数をExcelで計算し、1株当たり価値への影響を確認できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「行使価格はオプションの購入価格」→ 購入価格(プレミアム、新株予約権では払込金額)とは別です。行使価格は、権利を行使したときに原資産を売買する価格です。
誤解2:「行使価額は一度決めたら変わらない」→ 調整条項・修正条項により動くことがあります。設計書や発行要項で、どの事由でどう変わるかを確認します。
誤解3:「ITMなら必ず行使する」→ 行使には払込資金が必要で、行使期間・譲渡制限・税負担もあります。上場株式の新株予約権でも、行使して得た株式の売却時期を含めて判断されます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)会社法では、新株予約権の内容として、行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法を原則として定める必要があります(第236条第1項第2号。上場会社が取締役等の報酬として発行する場合の例外は同条第3項・第4項)[1]。募集事項の決定は株主総会の決議によるのが原則ですが、公開会社では、払込金額が特に有利な場合などを除き、取締役会の決議で定めることができます(第238条第2項、第240条第1項)[2]。表記は、新株予約権・ストックオプションでは「行使価額」、取引所のオプション取引では「権利行使価格」とされます。税制上の取扱い(税制適格ストックオプションの要件など)は、税制適格ストックオプションのページで扱い、個別の判断は税務の専門家に確認してください。上場会社の新株予約権では、発行要項・適時開示で行使価額と修正条項を確認します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:行使価格と、オプションの価値(プレミアム)の違いを説明してください。
「行使価格は、権利を行使して原資産を売買できる価格で、契約で決まっています。プレミアムは、その権利そのものの価格です。コールの本源的価値は株価マイナス行使価格(0が下限)で、プレミアムはそれに時間価値が加わった額です。」
深掘りの観点:マネーネスと時間価値の関係、行使価額の修正条項が希薄化に与える影響、ストックオプションの付与時の行使価額の決め方。
よくある質問(F AQ)
Q. 「行使価格」「行使価額」「権利行使価格」は同じですか。
A. 基本的に同じ概念で、呼び方の違いです。新株予約権では「行使価額」、取引所のオプション取引では「権利行使価格」と表記されるのが一般的です。
Q. 行使価額が時価より低いと、有利発行になりますか。
A. 有利発行か否かは、払込金額や行使価額を含む発行条件全体で検討される個別の判断です。行使価額が低いこと自体だけで一律に決まるわけではないため、設計時は法務・会計の専門家に確認します。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「会社法」第236条(新株予約権の内容)第1項第2号・第3項・第4項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「会社法」第238条(募集事項の決定)第2項・第3項、第240条(公開会社における募集事項の決定の特則)第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。