この記事で分かること
- 損金経理の法律上の定義(法人税法第2条第25号)と確定決算主義との関係
- 損金経理が要件になる主な項目(減価償却費・評価損・引当金・圧縮記帳など)
- 償却不足と償却超過を整数設例で比べ、申告調整で取り戻せない理由を確認
- 税務DD・事業計画で損金経理要件が問題になる場面
30秒で分かる定義
損金経理(そんきんけいり、Book Expense Requirement)とは、法人がその確定した決算において費用または損失として経理することをいいます(法人税法第2条第25号)[1]。減価償却費や資産の評価損など一部の項目は、会計上の決算で費用に計上した金額の範囲でしか税務上の損金に算入できません。法人税の申告書は「確定した決算に基づき」作成するとされており(同第74条第1項)[1]、この仕組みを確定決算主義と呼びます。
損金の範囲そのものは損金算入で扱い、本ページは「会計処理が損金算入の前提になる」要件に絞って説明します。
なぜ実務で重要なのか
損金経理が要件の項目は、決算で費用計上しなかった分を申告書の上だけで減算して損金にすることができません。経理・税務担当は決算の締めで償却費や引当金の計上漏れがないかを確認します。FAS・税務DDでは、対象会社が利益を見せるために償却費を抑えていないか、税務上の簿価と会計上の簿価の差(償却超過額など)がどれだけ残っているかを調べます。PE・事業会社のM&A担当は、買収後に会計方針をそろえたときに税金がどう変わるかを事業計画に反映します。
仕組み:損金経理が要件となる主な項目
| 項目 | 損金算入の仕組み | 条文 |
|---|---|---|
| 減価償却資産の償却費 | 償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額 | 法人税法 第31条第1項 |
| 繰延資産の償却費 | 損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額 | 同 第32条第1項 |
| 資産の評価損 | 災害による著しい損傷など政令で定める事実がある場合に、損金経理により帳簿価額を減額した金額(時価との差額まで) | 同 第33条第2項 |
| 貸倒引当金 | 対象となる法人(資本金1億円以下の普通法人などに限定)が損金経理により繰り入れた金額のうち繰入限度額まで | 同 第52条 |
| 国庫補助金等の圧縮記帳 | 損金経理による帳簿価額の減額、または確定した決算で積立金として積み立てる方法 | 同 第42条第1項 |
評価換えによる帳簿価額の減額は原則として損金になりません(第33条第1項)。損金になるのは第2項以下の場合に限られ、第2項の場合はさらに損金経理が条件です[1]。圧縮記帳のように、損金経理のほかに決算での積立金方式(剰余金の処分による積立てを含む)が認められている項目もあります[1]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。機械の取得価額1,000、税務上の償却方法は定額法で償却率0.100とし、当期の償却限度額は 1,000 × 0.100 = 100 とします。法定実効税率は30%と仮定します。
ケースA(償却不足):会計上の償却費を80だけ計上。損金算入額 = MIN(80, 100)= 80。差の20は当期の損金にできず、申告書で20を減算して損金にすることもできません。当期の税額は 20 × 30% = 6 だけ、限度額どおり償却した場合より多くなります。償却が後ろにずれるだけで、取り戻すには将来の期に損金経理を続ける必要があります。
ケースB(償却超過):会計上130を計上。損金算入額 = MIN(130, 100)= 100、償却超過額 = 130 − 100 = 30 を別表四で加算します。この30は、以後の期の損金経理額に含めて扱われ、償却費が償却限度額に満たない期に損金に算入されます(第31条第4項)[1]。会計と税務の差は法人税申告調整
まとめると、損金経理が要件の項目では、会計上の費用が税務上の上限を超えた部分は加算できても、下回った部分を申告で足すことはできないという非対称があります。
PL・BS・CFへの影響
損金経理を要件とする項目では、会計上の費用計上額がそのまま税金の額に影響します。償却費を抑えればPLの利益は増えますが、損金も減って当期の納税額が増え、営業CFは減ります。償却超過や有税の評価損を計上した場合は、会計上の費用が先に出て損金は後になるため、将来減算一時差異として繰延税金資産の対象になります(回収可能性の検討が必要です。会計利益から課税所得を組む)。
財務モデル・Excelでの使い方
- 償却の二重管理:会計上の減価償却費の行と税務上の償却限度額の行を分け、
=MIN(会計償却費+前期までの償却超過額の残高,償却限度額)で損金算入額を計算します(繰越の償却超過額は当期の損金経理額に含めて扱うため。第31条第4項)。超過額の残高は別行で繰り越し、損金に算入された分だけ減らします。 - 課税所得の計算:税引前利益に、償却超過額・有税評価損などの加算と、認容額の減算を足し引きして課税所得を出します。
- 不動産・設備投資の税引後CF:償却費の損金算入額が税金を減らす効果(タックスシールド)を、損金経理額ベースで計算します(賃貸不動産の税引後キャッシュフロー)。
この用語をExcelで
会計上の償却費と税務上の償却限度額を分けて管理し、償却超過額の繰越と課税所得への影響を計算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「償却費を計上し忘れても申告書で減算すれば損金になる」→ 正しくは、損金経理が要件の項目は申告調整だけでは損金にできません。決算の確定前に費用計上しておく必要があります。
誤解2:「会計上の減損損失はそのまま損金になる」→ 正しくは、評価換えによる減額は原則として損金不算入です。損金になるのは政令で定める事実がある場合などに限られ、その場合も損金経理が条件です[1]。減損損失の多くは別表四で加算され、繰延税金資産の検討対象になります。
誤解3:「損金経理は費用全般の要件」→ 正しくは、条文で損金経理を求めている項目に限られます。売上原価や給与など、損金経理を要件としない費用も多くあります。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)損金経理の定義は法人税法第2条第25号、確定申告書を確定した決算に基づいて提出する定めは第74条第1項にあります[1]。確定申告書の提出期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内が原則で、定款の定めなどにより定時総会が2か月以内に招集されない常況にある場合は、申請により延長される特例があります(第75条の2)[1]。税務DDでは、対象会社の別表五(一)で償却超過額などの留保金額を確認し、買収後に会計方針をそろえたときの損金算入額の変化を試算します。会社分割・現物出資などの適格組織再編成では、移転した資産の償却超過額の引継ぎや期中の損金経理額の扱いに特別な定めがあるため(第31条第2項〜第4項)[1]、再編スキームを組むときは税務の専門家と条文を確認します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:買収対象会社が過去に減価償却費を少なく計上していた場合、買い手は何に注意しますか。
「法人税では償却費は損金経理をした範囲でしか損金にならないため、過去の償却不足は申告で取り戻せず、その分の税金は既に払われています。買い手としては、会計上の利益が償却を抑えて押し上げられていないか、正常な償却費で利益を引き直すとEBITDA以外の利益指標や将来の税額がどう変わるかを確認します。逆に償却超過額が残っていれば、将来の損金として税金を減らす効果を評価に織り込めます。」
よくある質問(F AQ)
Q. 「確定した決算」とはいつの決算ですか?
A. 一般に、株式会社では株主総会の承認(会計監査人設置会社で承認が不要な場合は取締役会の承認)を受けた決算を指すと解されています。申告書はその決算の数値を基に作成します。
Q. 損金経理と税効果会計はどう関係しますか?
A. 損金経理で会計上の費用が税務上の上限を超えると、超過分が将来の損金として残り、繰延税金資産の対象になります(繰延税金資産・負債)。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)第2条第25号、第31条第1項〜第4項、第32条第1項、第33条第1項・第2項、第42条第1項、第52条第1項、第74条第1項、第75条の2第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。