この記事で分かること
- ネット実効賃料(NER)の定義と、名目賃料・フリーレントとの違い
- 単純平均と割引後(現在価値ベース)の2通りの計算式
- 100坪・60か月契約の設例で、名目20,000円/坪が実効17,000円/坪になる過程
- 財務モデル・賃料比較での使い方と、鑑定の「実質賃料」との混同の注意
30秒で分かる定義
ネット実効賃料(Net Effective Rent、NER)とは、フリーレントや賃貸人が負担する内装工事費などの誘因を、賃貸借契約の期間で均した後の実質的な賃料水準です。ネット・エフェクティブ・レント、実効賃料とも呼び、読み方は「ねっとじっこうちんりょう」です。契約書に書かれた賃料は名目賃料(フェイス・レント)と呼んで区別します。
本ページは、賃貸人(オーナー)から見た実効賃料を扱います。個別の誘因であるフリーレントの説明は別ページに任せ、ここでは誘因全体を賃料に換算する方法を示します。
なぜ実務で重要なのか
リーシングの交渉では、名目賃料を維持する代わりにフリーレントや工事負担を増やす場合があります。名目賃料だけを並べると、市況の弱さが見えません。アセットマネージャー、J-REIT・私募ファンドの投資担当、鑑定士、仲介会社は、実効賃料でテナントの条件や市場賃料を比べます。レントロールの正規化(不動産投資分析でAIを使う)でも、誘因を含めた賃料を揃える作業が出てきます。
計算式(ま たは仕組み)
賃料収入合計 = 名目月額賃料 ×(契約月数 − フリーレント月数)
賃貸人負担の誘因 = 工事負担(TI)+ リーシング費用(仲介手数料・広告料など)
年金現価係数 = Σ 1/(1+月利)t(t=1〜契約月数)
割引後の計算は、時間価値を考えるため、フリーレントが契約の初期にあるか末期にあるかで結果が変わります。誘因として扱う項目は、案件の取り決めによって次のように分かれます。
| 項目 | 扱い | 備考 |
|---|---|---|
| フリーレント | 賃料収入から控除(受取りなし) | 名目賃料 × 月数で金額換算 |
| 賃貸人負担の工事費(TI) | 誘因として控除 | 賃借人の工事を賃貸人が負担する額 |
| 仲介手数料・広告料 | 誘因として控除(賃貸人負担分) | 契約ごとに支払者が異なる |
| 賃料のステップアップ | 賃料収入合計に反映 | 月ごとの賃料を合計して平均 |
| 敷金・保証金 | 通常は含めない | 返還債務。運用益を含める評価は別概念 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。100坪の区画で、5年(60か月)の定期借家契約を結びます。名目賃料は月20,000円/坪(月額2,000,000円)、フリーレント3か月、賃貸人負担の工事費10,000,000円、賃貸人負担の仲介手数料2,000,000円(名目賃料1か月分)とします。
① 賃料収入合計 = 2,000,000 ×(60 − 3)= 114,000,000円
② 誘因合計 = 10,000,000 + 2,000,000 = 12,000,000円
③ NER(単純平均)= (114,000,000 − 12,000,000) ÷ 60 = 1,700,000円/月(17,000円/坪)
④ 名目比 = 17,000 ÷ 20,000 − 1 = −15.0%
割引後(月利=年4% ÷ 12、賃料は月末払い、フリーレントは最初の3か月、工事費・仲介手数料の12,000,000円は契約開始時点(時点0)に全額支払う前提)で同じ契約を計算すると、賃料収入の現在価値は 102,637,917円、誘因を引いた現在価値は 90,637,917円、年金現価係数は 54.2991 です。NERは 90,637,917 ÷ 54.2991 = 約1,669,000円/月(16,692円/坪)で、名目比は約−16.5%です。フリーレントを契約の末尾に置くと、割引後のNERは約1,688,000円/月に上がります(賃料を契約の早い時期から受け取れて、現在価値が高くなるため)。
投資判断への影響
実効賃料は、条件の異なる契約を比べる指標です。名目賃料が低くても、誘因が少ない契約のほうが実質的に有利な場合があります。
| 契約 | 名目賃料(円/坪・月) | 誘因 | NER(円/坪・月) |
|---|---|---|---|
| A | 20,000 | フリーレント3か月、工事負担10,000,000円、仲介手数料2,000,000円 | 17,000 |
| B | 18,000 | 仲介手数料1,800,000円のみ | 17,700 |
B:賃料収入 = 1,800,000 × 60 = 108,000,000円、誘因 = 1,800,000円、NER = (108,000,000 − 1,800,000) ÷ 60 = 1,770,000円/月(17,700円/坪)です。名目ではAが高くても、実効ではBが700円/坪高くなります。
市場賃料と既存契約の差(ロス・トゥ・リース)を見るときも、名目か実効かを揃えます。J-REITのレポートを読む際は、公表の賃料改定が名目賃料ベースかどうかを確認します(J-REITの用途別の読み分け)。
財務モデル・Excelでの使い方
- 契約別の計算行:
=(月額賃料*(契約月数-FR月数)-TI-仲介手数料)/契約月数で単純平均のNERを出す。坪単価で見るときは区画面積(坪)で割る。 - 割引後:
=PV(月利,契約月数-FR月数,-月額賃料)/(1+月利)^FR月数で賃料の現在価値を出す(FRが期初の場合)。誘因を引いた値を=PMT(月利,契約月数,-(賃料PV-誘因))に入れるとNERの月額になる。 - DCFとの関係:DCFのキャッシュフローには、実際の入金(フリーレント月は賃料ゼロ)と、TI・リーシング費用を別行で入れる。NERはキャッシュフロー表の代わりではなく、市場賃料との比較用の指標として使う。誘因を賃料から引きながら、費用行にも入れる二重計上に注意する。
この用語をExcelで
契約ごとの賃料・フリーレント・工事負担から実効賃料を計算し、DCFのキャッシュフロー表と二重計上なしで連動できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「実効賃料は鑑定評価の実質賃料と同じ」→ 鑑定評価で使う実質賃料は、一般に敷金・保証金の運用益などを含めた概念で、ここで説明するネット実効賃料(誘因を均す指標)とは別物です。資料の用語の定義を確認します。
誤解2:「フリーレントは賃料を下げていないので、賃料水準は変わらない」→ 名目賃料は同じでも、設例のように期間全体では実効で15.0%下がります。
確認ポイント:誘因のうち、賃貸人の負担額と時期、契約期間(更新を含めるか)、割引の有無を、比較する契約で揃えます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本では、契約期間の定めがあり更新のない定期建物賃貸借(定期借家)が、公正証書による等書面(電磁的記録を含む)で結べると借地借家法に定められています(第38条第1項・第2項)[1]。ただし、賃貸人が事前に、更新がなく期間満了で終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければ、更新がない旨の定めは無効になります(同条第3項・第5項)。また期間が1年以上の場合、賃貸人が期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をしなければ、終了を賃借人に対抗できません(同条第6項。通知期間の経過後に通知したときは、通知の日から6か月を経過した後は対抗できる)[1]。これらの手続を満たしていれば、実効賃料を計算する期間を契約期間で置きやすくなります。
一方、普通借家では、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知をしなければ、従前と同一の条件で更新したものとみなされ、その場合の期間は定めがないものになります(第26条第1項)[1]。賃貸人が更新しない旨の通知をするには、正当の事由が必要です(第28条)[1]。実際の入居期間が契約期間より長くなる可能性があるため、モデルでは想定の入居期間を置いて計算します。フリーレントや賃貸人負担の工事の有無・大きさは、物件の用途や市況により異なり、公的な標準はありません。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:名目賃料が高い物件と低い物件で、どちらが有利か判断するには。
「フリーレント、工事負担、仲介手数料などを賃貸人の負担額として契約期間で均し、実効賃料で比べます。名目賃料が高くても誘因が重ければ、実効では低くなります。時間価値を見るなら、割引後のNERも出します。」
深掘りの観点:単純平均と割引後の差、フリーレントの時期による違い、契約期間の想定(定期借家か普通借家か)。
よくある質問(F AQ)
Q. NERの「ネット」は何を意味しますか。
A. 名目賃料から、賃貸人が負担した誘因(フリーレントによる賃料の不受領、工事負担、手数料など)を差し引いた後(ネット)の賃料であることを指します。
Q. 賃料のステップアップがある契約はどう計算しますか。
A. 月ごとの賃料を合計して賃料収入合計とし、そこから誘因を引いて契約月数で割ります。単純平均なら、設例と同じ式で、賃料収入合計だけを置き換えます。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「借地借家法」第26条第1項・第28条・第38条第1項〜第6項(定期建物賃貸借). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。