この記事で分かること
- NCAV・1株当たりNCAV・ネットネット株の定義と計算式
- 流動資産6,400・負債3,900の整数設例と、掛け目を置いた場合の違い
- マイナスEV・純資産との違い、投資判断の限界(資産の質・簿外負債)
- 財務諸表等規則での区分とPBR1倍割れの背景(2026年11月時点)
30秒で分かる定義
NCAV(Net Current Asset Value、正味流動資産価値、えぬしーえーぶい)とは、流動資産から負債の総額を差し引いた金額です。時価総額がNCAVを下回る銘柄は「ネットネット株」と呼ばれ、ベンジャミン・グレアムが割安株の目安として紹介したとされます。
固定資産(工場や不動産)の価値をゼロとみなし、「流動資産(帳簿価額)だけで、すべての負債を払ってもなお残る価値」を見る保守的な簡便指標です。流動資産には棚卸資産や前払費用なども含まれ、帳簿価額どおりにすぐ現金化できるとは限りません。流動負債だけでなく固定負債も差し引く点が、運転資本(流動資産-流動負債)と異なります。
なぜ実務で重要なのか
バリュー投資家・ヘッジファンド・アクティビストは、株価が資産価値を大きく下回る銘柄の発掘に使います。PE・M&Aアドバイザーは、上場会社の非公開化(MBO・TOB)で、株価の下限の目安として資産価値を確認します。経営企画・IRは、自社の時価総額が資産価値を下回る場合の資本政策(自己株式取得、資産の見直しなど)を考える材料にします。融資部門は、換金性の高い資産が負債を上回るかを、保守的な返済能力の見方として使います。
バリュー投資の考え方はバリュー投資で扱っています。
計算式
普通株主ベースで見る場合:さらに優先株の残余財産優先額など普通株主より先に支払われる額を控除(負債に計上済みのものは除く)
1株当たりNCAV = NCAV ÷ 発行済株式数(自己株式を除く)
ネットネット株の判定:時価総額 < NCAV(保守的には NCAVの 2/3 などの安全域を設ける)
| 指標 | 資産の見方 | 負債の見方 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| NCAV | 流動資産のみ(固定資産は評価しない) | 流動負債と固定負債の両方 | 保守的(清算を意識) |
| 純資産(簿価) | 全資産 | 全負債 | 固定資産・のれんも含む |
| マイナスEV | 現金・預金(余剰) | 有利子負債のみ | 営業債務は考慮しない |
マイナスの企業価値(マイナスEV)が時価総額・有利子負債と現金だけを比べるのに対し、NCAVは売上債権・棚卸資産を含む流動資産全体から、営業債務を含む全負債を控除します。1株当たり純資産価値の保守版とも言えます。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位は百万円。発行済株式数10百万株、株価160円)。
- 流動資産:現金1,800 + 売上債権2,400 + 棚卸資産2,000 + その他200 = 6,400
- 負債合計:流動負債2,500(すべて営業債務等で、有利子負債を含まないと仮定)+ 固定負債(長期借入)1,400 = 3,900
- NCAV = 6,400 − 3,900 = 2,500、1株当たり = 2,500百万円 ÷ 10百万株 = 250円
- 時価総額 = 160円 × 10百万株 = 1,600。1,600 ÷ 2,500 = 0.64で、NCAVの2/3(0.667、1株当たり166.7円)を下回るため、ネットネット株の基準に該当
- マイナスEVとの比較:EV = 時価総額1,600 + 有利子負債1,400 − 現金1,800 = 1,200(正)。ネットネット株でも、マイナスEVとは限りません。
- 資産に掛け目を置いた場合:現金100%、売上債権80%、棚卸資産50%、その他0%と仮定すると、評価後の流動資産 = 1,800 + 1,920 + 1,000 = 4,720。4,720 − 3,900 = 820で、時価総額1,600は820の約1.95倍となり、割安とは言えなくなります。
掛け目の率は説明用の仮定です。実際には業種・資産の質・換金コストで大きく異なります。
投資判断への影響
ネットネット株は、資産価値に対して株価が低いことを示すだけで、投資の妥当性を保証しません。設例のように資産の質(棚卸の陳腐化、売上債権の回収可能性)を割り引くと、割安さが消えることがあります。
注意すべき点は3つあります。①赤字が続く企業では、流動資産が年々減り、NCAVそのものが毀損していきます。②簿外・偶発の負債(退職給付、訴訟、保証債務など)が負債に反映されていないことがあります。③資産が換金されないまま株価が放置される状況(いわゆるバリュートラップ)があり、株主還元や経営改革などのきっかけがなければ、株価が資産価値に収れんしない場合があります。
財務モデル・Excelでの使い方
- BSの取り込み:流動資産合計、流動負債、固定負債を別セルに置き、
=流動資産-流動負債-固定負債でNCAVを算出。 - 1株当たり:
=NCAV/(発行済株式数-自己株式数)。株式数は直近の決算短信や有価証券報告書の期末数値と時点を揃える。 - 判定:
=IF(時価総額<NCAV*2/3,"該当","")。安全域は入力セルにする。 - 掛け目表:資産科目ごとの掛け目を入力し、
=SUMPRODUCT(金額,掛け目)-負債の「保守NCAV」を併記する。
この用語をExcelで
流動資産と負債からNCAVと1株当たりNCAVを組み、掛け目を置いた保守的な値と並べて判断できる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「NCAVは清算価値と同じ」→NCAVは流動資産を帳簿価額で評価する簡便指標です。清算時には売掛金や在庫の換金に損失が生じ、解雇費用などの追加費用もかかります。
誤解2:「時価総額がNCAVを下回れば必ず買い」→資産の質、継続的な赤字、ガバナンスなどによっては、株価が割安のまま長期間放置されることがあります。
誤解3:「NCAVとマイナスEVは同じ」→マイナスEVは現金(余剰)が時価総額と有利子負債の合計を上回る状態(EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金 < 0)ですが、ネットネットは営業債務も含む全負債を控除した後の流動資産の価値を見ます。
確認ポイント:BSの時点、流動資産の内訳と質、簿外負債、リース負債の扱い、自己株式・優先株の取扱いを確認します。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の財務諸表等規則は、貸借対照表の負債を流動負債と固定負債に分類し(第45条)、流動資産の範囲(第15条)、流動負債の範囲(第47条)を定めています[1]。NCAVの計算に必要な流動資産・流動負債・固定負債は、有価証券報告書や決算短信の貸借対照表から取得できます。
PBR1倍割れは日本市場の大きな論点です。東京証券取引所は2023年3月31日の資料で、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満・PBR1倍割れの状況にあると整理し、資本コストや株価を意識した経営を要請しました[2]。割安に評価される小型株が日本に多いとされますが、その割合は本ページでは確認していません。割安さが続く理由(資本効率、情報開示、流動性)を個別に点検します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ネットネット株とは何で、どう評価しますか。
「流動資産から負債の総額を引いたNCAVより時価総額が小さい銘柄です。固定資産を一切評価しない保守的な指標なので、資産の質(売上債権・棚卸の換金可能性)、継続的な赤字、簿外負債を確認し、安全域として3分の2などの水準を置いて判断します。」
深掘り:マイナスEVとの違い、バリュートラップ、日本の低PBR企業での還元・改革の期待。
よくある質問(F AQ)
Q. 優先株や非支配株主持分はどう扱いますか。
A. 連結財務諸表で親会社の普通株主に帰属する価値を見るなら、非支配株主持分は保守性のためではなく帰属を合わせる調整として控除します(連結か個別か、控除額の基準を明記)。優先株は、定款・発行条件で定める残余財産の優先分配額など普通株主より先に支払われる額を控除し、会計上すでに負債に計上されている場合は二重に控除しません。
Q. 1株当たりNCAVは1株当たり純資産(BPS)と同じですか。
A. 異なります。BPSは固定資産を含む純資産、NCAVは流動資産から全負債を控除した値です。多くの場合、NCAV/株はBPSより小さくなります。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号)」第15条(流動資産の範囲)・第45条(負債の分類)・第47条(流動負債の範囲). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059(2026年11月参照)
- 東京証券取引所 上場部「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について(2023年3月31日)」背景・趣旨. https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/jr4eth0000004vj2-att/jr4eth0000004w6n.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。