この記事で分かること
- JICPAが公認会計士法でどう位置づけられているか(設立・会員・会則・業務の運営の状況の調査)
- 品質管理レビューと、実務指針・研究報告の公表という2つの役割
- 企業価値評価ガイドラインの企業価値・株主価値の区分と、EVブリッジの整数設例
- JICPAの公表物と法令・会計基準(ASBJ)との関係、引用時の確認点(2026年11月時点)
30秒で分かる定義
日本公認会計士協会(JICPA、Japanese Institute of Certified Public Accountants、にほんこうにんかいけいしきょうかい)とは、公認会計士法に基づいて設立された、公認会計士・監査法人の自主規制団体です。公認会計士は、全国を通じて一つの日本公認会計士協会を設立しなければならず、協会は法人とされています[1]。公認会計士および監査法人は、当然に協会の会員となります[1]。
協会は、監査・会計・税務・企業価値評価などの分野で実務指針や研究報告を公表します。M&A・PEの実務では、評価の実務指針である企業価値評価ガイドラインの公表主体として参照されることが多い団体です。
なぜ実務で重要なのか
JICPAの公表物は、法律そのものではありませんが、監査・会計・評価の実務の拠り所になります。監査法人・FASは、監査の品質管理や実務指針に沿って業務を設計します。IB・FAS・PEは、株式価値算定書の作成や受領のとき、企業価値評価ガイドラインの枠組みで手法(インカム・マーケット・ネットアセット)を整理します。経営企画・CFO・監査役は、監査の枠組みを理解する上で協会の公表物を参照します。監査意見の読み方は監査意見の読み方、財務DDへの応用は監査アサーションとはで扱っています。
計算式(ま たは仕組み)
協会の役割は、法律上の枠組みと、自主的な公表活動の2つに分けて整理できます。
| 区分 | 内容 | 根拠・位置づけ |
|---|---|---|
| 設立・会員 | 公認会計士・監査法人は当然に会員。協会は法人 | 公認会計士法 第43条・第46条の2 |
| 目的 | 会員の品位の保持と業務の改善進歩のため、指導・連絡・監督や登録事務を行う | 同法 第43条第2項 |
| 会則 | 会員の研修、業務の運営の状況の調査などを会則に定める。変更は内閣総理大臣の認可 | 同法 第44条 |
| 業務の運営の状況の調査 | 会員の業務の運営状況を調査し、定期的又は必要に応じ結果を内閣総理大臣に報告 | 同法 第46条の9の2(品質管理レビュー等として実施) |
| 実務指針・研究報告の公表 | 監査、会計、評価などの実務指針・研究報告 | 協会の自主的な公表。法令ではない |
協会が会員の業務の運営の状況の調査を行い、その結果を報告する仕組みは、公認会計士法に定められています[1]。協会はこれを品質管理レビュー制度として実施しており、1999年度から行っていると説明しています[2]。
役割の線引きとして、一般に、監査の基準は企業会計審議会、会計基準は企業会計基準委員会(ASBJ)が定め、JICPAはそれらを実務に落とす指針を示す立場にあります。ASBJについては企業会計基準委員会
整数設例で確認する
協会が公表した企業価値評価ガイドラインは、企業価値と株主価値を別の概念として定義し、株主価値は企業価値から有利子負債等の他人資本を差し引いた価値としています。種類株式の取扱いや少数株主持分の減算も必要です[3]。この考え方に沿った設例(架空数値)です。単位は百万円。
- 事業価値(将来の営業フリー・キャッシュ・フローを加重平均資本コストで割り引いた現在価値):12,000
- 非事業資産(遊休不動産など):500 → 企業価値 = 12,000 + 500 = 12,500
- 有利子負債等:3,000、非支配株主持分:400
- 株主価値 = 12,500 − 3,000 − 400 = 9,100
- 発行済株式数が9.1百万株なら、1株当たり株主価値 = 9,100 ÷ 9.1 = 1,000円
実務では、ここに至る事業価値の算定(DCF法・マルチプル法など)、非事業資産と有利子負債等の範囲、種類株式の取扱いを、評価書で一つずつ説明します。ガイドラインはその整理の枠組みを提供します。
開示・規制上の位置付け
JICPAの実務指針・研究報告は、法令ではありません。ただし、会員である公認会計士・監査法人は、協会の会則を守る義務があります[1]。監査では、監査人は、監査基準報告書を含む協会の監査実務指針のうち個々の監査業務に関連するものを全て遵守しなければならないとされています[4]。一方、企業価値評価ガイドラインのような研究報告は、評価者が「合理的な評価の枠組み」として参照する性格で、依頼者との契約や評価目的に応じて、どこまで準拠するかを評価書に明記します。
自主規制と公的な監督を組み合わせて監査の品質への信頼を支える仕組みになっており、会員の業務の運営状況の調査結果が内閣総理大臣に報告される点は、その一例です[1]。
実務での調べ方・確認手順
- 公表物の探し方:協会の公式サイトで、分野別(監査、会計、税務、経営研究調査会の研究報告)の公表物を検索します。企業価値評価ガイドラインは経営研究調査会研究報告第32号です。
- 版と日付の確認:実務指針は改正が重なるため、最新の改正日と施行日を確認します。引用するときは、公表物名・番号・改正日を書きます。
- 評価書への引用:評価書では、準拠した範囲と、準拠しなかった部分の理由を分けて書きます。
- 確認が必要な場面:監査意見の種類、会計方針の変更、訂正の有無などは、協会の指針だけでなく、有価証券報告書の開示と合わせて確認します。
この用語を実務で
企業価値評価ガイドラインの枠組みに沿って、事業価値から株主価値へのブリッジを組み、評価書の前提を説明できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「JICPAの指針は法律だから必ず従う」→ 協会の実務指針・研究報告は、法令そのものではありません。会員の監査業務では従う前提で運用されますが、評価に関する研究報告は、評価の目的や契約に応じて参照の範囲を決めます。
誤解2:「JICPAが会計基準を作っている」→ 日本の会計基準は企業会計基準委員会(ASBJ)が開発します。JICPAは、会計・監査の実務指針や研究報告を公表する立場です。
誤解3:「企業価値評価ガイドラインに従えば評価額が一意に決まる」→ ガイドラインは手法と整理の枠組みで、割引率や将来予測は評価者の判断で決まります。前提の根拠を開示することが、評価書の説得力の源です。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)公認会計士法に基づき、協会は全国を通じて一つ設立され、法人格を持ちます[1]。上場会社の法定監査は、協会の会員である公認会計士・監査法人が担います。M&Aの実務では、第三者評価機関の算定書や、フェアネス・オピニオンの作成者が、企業価値評価ガイドラインを参照して手法を説明する例があります。
協会の公表物は改正されるため、実務で引用するときは、公表日と最新版かどうかを必ず確認してください。本稿では企業価値評価ガイドラインのうち、企業価値と株主価値の区分に関する記述を確認しています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:企業価値評価ガイドラインで、企業価値と株主価値はどう区別されていますか。
「企業価値は事業価値に非事業資産を加えた価値で、株主価値は企業価値から有利子負債等を差し引いた株主に帰属する価値です。種類株式や非支配株主持分があれば、さらに控除します。DCFでは、将来のフリー・キャッシュ・フローと継続価値をWACCで割り引いて事業価値を求め、そこから株主価値へブリッジします。」
深掘りの観点:EVブリッジの項目(現金・非事業資産・有利子負債・非支配株主持分)/JICPAとASBJの役割の違い/評価書での準拠範囲の書き方。
よくある質問(F AQ)
Q. JICPAは何をしている団体ですか。
A. 公認会計士・監査法人が会員となる自主規制団体で、会員の指導・連絡・監督、会員の業務の運営の状況の調査(品質管理レビュー)、研修、実務指針・研究報告の公表などを行います[1]。
Q. 公認会計士でない人もJICPAの公表物を使えますか。
A. 公表物は協会の公式サイトで公開されており、評価・会計・監査を学ぶ人が参照できます。使うときは、版と公表日、引用の範囲を確認してください。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「公認会計士法」(昭和二十三年法律第百三号) 第43条・第44条・第46条の2・第46条の3・第46条の9の2. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000103(2026年11月参照)
- 日本公認会計士協会「品質管理レビュー制度」(協会公式サイト). https://jicpa.or.jp/about/activity/self-regulatory/quality/(2026年11月参照)
- 日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(企業価値と株主価値の定義). https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf(2026年11月参照)
- 日本公認会計士協会 監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」 第17項・第21項. https://jicpa.or.jp/specialized_field/2-24-200-2-20230112.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。