この記事で分かること
- 法定監査が義務付けられる会社の条件(会社法・金商法それぞれ)
- 「大会社」の判定を整数設例で確認する方法
- 会社法監査と金商法監査の関係、なぜ二重に監査が必要になる会社があるか
- 日本のPE・M&A実務で法定監査の有無がなぜ重要か
30秒で分かる定義
法定監査制度(読み方:ほうていかんさせいど)とは、会社法または金融商品取引法の要件を満たす会社に義務付けられる、公認会計士・監査法人による財務諸表監査の制度です。会社法監査・金商法監査と呼び分けられることもあります。任意で行う内部監査や、M&Aの財務DDにおける調査(監査ではない)とは異なり、法令で監査を受けることそのものが義務化されている点が特徴です。監査を受けなければ、株主総会での計算書類承認や有価証券報告書の提出そのものができません。
なぜ実務で重要なのか
M&A・PEでは、買収対象会社が法定監査の対象かどうかで、入手できる財務情報の信頼性が大きく変わります。非上場の中小会社は法定監査の対象外であることが多く、その場合は財務DD(財務DD(QoE)入門)でより深く数値を検証する必要が生じます。IPO準備では、上場審査の要件として一定期間の監査済み財務諸表が求められるため、監査法人との契約は上場準備の初期段階で必須になります。融資審査でも、監査済み財務諸表の有無が与信判断の重要な材料になります。
仕組み
会社法と金融商品取引法は、それぞれ独立に監査義務の要件を定めています。
| 根拠法 | 対象 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 会社法 | 大会社 | 資本金5億円以上、または負債合計200億円以上 |
| 金融商品取引法 | 有価証券報告書提出会社 | 上場会社、一定規模以上の株主を有する会社等 |
両方の要件を満たす上場大会社は、会社法監査と金商法監査の両方の対象になりますが、実務上は同一の監査法人が両方の監査を一体的に実施し、それぞれの法律が求める監査報告書を作成する運用が一般的です。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。次の非上場3社が会社法上の「大会社」に該当するかを判定します。単位は億円です。
| 会社 | 資本金 | 負債合計 | 大会社判定 |
|---|---|---|---|
| A社 | 6 | 50 | 該当(資本金5億円以上) |
| B社 | 3 | 250 | 該当(負債200億円以上) |
| C社 | 4 | 80 | 非該当 |
A社は資本金5億円以上、B社は負債200億円以上といういずれか一方を満たせば大会社に該当します。C社はどちらの基準も満たさないため会社法上の会計監査人設置義務はありませんが、上場を予定していれば別途、金商法上の監査対応が必要になります。「資本金」と「負債」は「かつ」ではなく「または」の関係である点が、この判定でよく間違えられます。
案件プロセス上の位置付け
M&A・IPOの検討初期段階で、対象会社が法定監査の対象かどうかは、デューデリジェンスの設計そのものに影響します。監査済み財務諸表がある会社では監査調書の閲覧(レビュー)から着手できますが、監査対象外の会社では、そもそも数値の正確性を独自に検証するところから財務DDを始める必要があり、期間・コストが大きく増加します。IPO準備企業は、上場申請の直近2期について監査法人の監査を受けている必要があり、監査契約の締結タイミングがIPOスケジュール全体のクリティカルパスになることがあります。
財務モデル・Excelでの使い方
この用語自体は計算式を持ちませんが、DD・モデリングの前提整理に直結します。
- 対象会社が監査対象かどうかをDD計画書のチェック項目に含め、監査対象外の場合は追加の検証手続き(実査・確認状の取得等)を財務DDのスコープに追加する
- 過年度の監査意見の種類(無限定適正意見か、限定付き・不適正意見か)を確認し、モデルの出発点となる実績数値の信頼度を評価する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「上場していなければ監査は不要」→ 正しくは、非上場でも会社法上の大会社に該当すれば会計監査人の設置が義務付けられます。資本金5億円以上の非上場子会社などが典型例です。
誤解2:「監査を受けていれば数値に誤りはない」→ 正しくは、監査は財務諸表全体として重要な虚偽表示がないことの合理的な保証であり、個々の取引の完全な正確性を保証するものではありません。財務DDが監査と別に必要とされる理由もここにあります。
日本実務での扱い
会社法監査は有価証券報告書の提出義務とは別の枠組みであり、非上場の大会社であっても会計監査人の設置と監査報告書の取得が必要です(会社法328条・436条等、2026年7月時点)。監査報告書には無限定適正意見・限定付き適正意見・不適正意見・意見不表明のいずれかが記載され、投資家・取引先は有報の「監査報告書」欄でこれを確認できます。金商法監査は財務諸表等規則に基づき実施され、四半期報告制度の見直しなど開示制度自体が改正されることがあるため、対象会社の開示区分は最新の制度を都度確認する必要があります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:非上場会社を買収する際、法定監査の有無はDDにどう影響しますか。
「大会社に該当し会計監査人を設置していれば、監査調書のレビューを起点に効率的にDDを進められます。該当しない場合は監査済み財務諸表がないため、財務DDでより深く実査・突合を行い、簿外債務や不適切な収益認識のリスクを独自に検証する必要があります。買収価格の前提となる数値の信頼度が異なるため、DDの期間・費用・スコープの設計そのものが変わります。」
深掘りでは「会社法監査と金商法監査はなぜ両方必要になる会社があるのか」が定番です。
よくある質問(FAQ)
Q. 大会社に該当すると必ず有価証券報告書も提出しますか?
A. いいえ。会社法上の大会社であることと、金商法上の有価証券報告書提出義務は別の制度です。非上場の大会社は会計監査人の設置は必要ですが、有報の提出義務までは負いません。
Q. 監査法人はどのように選ばれますか?
A. 株主総会の決議で選任されます。上場会社は独立性の観点から、監査法人と経営陣の癒着を防ぐルール(監査役会等による監査法人の評価・選定プロセス)が求められます。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 法務省(会社法) https://www.moj.go.jp/
- 金融庁(金融商品取引法・財務諸表等規則) https://www.fsa.go.jp/
- 日本公認会計士協会(監査基準委員会報告書) https://jicpa.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。