この​記事で​分かる​こと

  • 賃貸等不動産の定義と範囲(企業会計基準第20号)と、自社使用不動産との違い
  • 貸借対照表計上額・時価・損益を示す注記の4項目と、時価の算定・みなしの扱い
  • 時価と簿価の差(含み益)を税効果込みで純資産・PBRに反映する整数設例
  • 有価証券報告書での探し方と、含み益を使うときの限界

30秒で​分かる​定義

賃貸等不動産(ちんたいとうふどうさん、Investment and Rental Property)とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のもので、賃貸収益またはキャピタル・ゲインの獲得を目的として、所有者または使用権資産の形でリースの借手が保有する不動産(ファイナンス・リースの貸手における不動産を除く)です。物品の製造・販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産は含まれません[1]。日本基準では、これらの不動産を時価に評価替えせず、適用される会計処理による帳簿価額(取得原価から減価償却累計額・減損損失累計額を控除した額など)で貸借対照表に計上したまま、貸借対照表計上額と時価などを注記で開示します。

投資家の立場で不動産を保有する話はオフィス​不動産投資で扱い、本ページは事業会社の開示注記としての賃貸等不動産を扱います。

なぜ実務で​重要なのか

株式アナリスト・アクティビスト・PEは、注記の時価から含み益を拾い、純資産やPBRの割安さを検証します(アクティビストの​株主提案を​自分で​検算する)。M&AのFA・FASは、時価純資産法の調整(時価純資産法)や、事業用でない資産の個別評価で、この注記を出発点にします。経営企画・IRは、保有不動産の開示が投資家にどう読まれるかを意識します。

仕組み:範囲と​注記事項

賃貸等不動産には、貸借対照表で投資不動産として区分されている不動産、将来の使用が見込まれていない遊休不動産、それ以外で賃貸されている不動産が含まれます(会計基準第5項)。開発中・再開発中のもの、一時的に借手がいないものも含みます(第6項)。一つの不動産に自己使用部分と賃貸部分があるときは、賃貸部分を賃貸等不動産に含めますが、賃貸部分の割合が低いと考えられる場合は含めないことができます(第7項)[1]。

注記事項内容確認ポイント
①賃貸等不動産の概要主な物件・用途などどの地域・用途に偏っているか
②貸借対照表計上額と期中の主な変動期首残高・増減・期末残高取得・売却・減損・減価償却の別
③当期末の時価と算定方法不動産鑑定評価・指標による調整・取得時の価額など時価の算定時点と方法
④賃貸等不動産に関する損益賃貸収益・賃貸費用・売却損益・減損損失など賃貸損益の水準(利回り)

賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は、注記を省略できます(会計基準第8項)。時価は、観察可能な市場価格がなければ、不動産鑑定評価基準による方法または類似の方法で算定した価額を使います。取得時または直近の算定から重要な変動がない場合は、指標で調整した額、さらに変動が軽微なら取得時等の価額を時価とみなせます(適用指針第11項・第12項)。時価の把握が極めて困難な場合は時価を注記せず、その事由などを開示します(第14項)[2]。

本稿は2024年9月改正後の基準本文・適用指針を確認したものです。この改正はリース会計基準(企業会計基準第34号)の公表に伴うもので、使用権資産の形で借手が保有する賃貸等不動産は、①②④を注記し、時価とその算定方法は注記の対象外です(会計基準第8項)。2024年改正の適用時期はリース会計基準と同じです(第9-3項)[1]。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。ある事業会社の注記は次のとおりで、連結の純資産は100,000百万円、時価総額は60,000百万円です。非支配株主持分・新株予約権はなく、純資産と賃貸等不動産の含み益は全額が親会社株主に帰属すると仮定します。

①含み益:賃貸等不動産の貸借対照表計上額が50,000百万円、当期末の時価が80,000百万円なら、含み益は80,000 − 50,000 = 30,000百万円です(税引前)。

②税効果の反映:実効税率を30%と仮定し、売却すれば課税されるとして税引後の含み益を出すと、30,000 × (1 − 30%) = 21,000百万円です。

③PBRの比較:帳簿ベースのPBRは60,000 ÷ 100,000 = 0.60倍です。含み益を反映した純資産は100,000 + 21,000 = 121,000百万円で、調整後PBRは60,000 ÷ 121,000 ≒ 0.50倍(0.496)になります※。

④賃貸損益の利回り:賃貸収益が3,000百万円、賃貸費用が1,200百万円なら賃貸損益は1,800百万円です。期末の計上額と時価を分母にした簡便な比率は、1,800 ÷ 50,000 = 3.6%(簿価ベース)、1,800 ÷ 80,000 = 2.25%(時価ベース)で、時価で見ると収益性は低く見えます。

※税率30%は仮定です。実際は売却の有無、課税関係、売却コストで変わります。注記の時価は期末の評価額で、売却できる価格を保証するものではありません。

開示・​規制上の​位置付け

賃貸等不動産の注記は財務諸表の注記事項で、連結財務諸表で時価等を開示している場合、個別財務諸表での開示は要しません(会計基準第3項)。適用時期は、平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表からです(第9項)[1]。有価証券報告書では、財務諸表の注記として探します(一般に「賃貸等不動産関係」の見出しで記載されます)。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  1. 注記から3つの数字を拾う:期末の貸借対照表計上額、当期末の時価、差額(注記の表に載っていることが多い)をセルに入力します。
  2. 含み益を計算する:含み益 = 時価 − 貸借対照表計上額。税率は仮定として別セルに置きます。
  3. 調整純資産・調整PBRを作る:調整純資産 = 純資産 + 含み益 ×(1 − 税率)、調整PBR = 時価総額 ÷ 調整純資産。PBRとの比較を並べます。
  4. 時価の算定方法を確認する:取得時の価額を時価とみなすのは、指標などの変動が軽微な場合に限られます(適用指針第12項)。それでも、みなしの物件が多い場合は時価が取得時点の水準にとどまるため、算定時点を確認し、上振れ・下振れの両方の可能性を考えます。

この​用語を​実務で​「使える」​状態に​する

有価証券報告書の​賃貸等​不動産の​注記から​含み益を​拾い、​純資産・​PBRへの​影響を​税効果込みで​計算できるようになる。

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実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「時価を注記するので貸借対照表も時価になる」→ 正しくは、注記の時価への評価替えは行わず、貸借対照表は適用される会計処理による帳簿価額(減価償却・減損の後の額など)のままです。時価は注記であり、時価と帳簿価額の差額は損益や純資産には反映されません。

誤解2:「注記の含み益はすべて株主価値に上乗せできる」→ 正しくは、売却による課税、売却コスト、売却の実現可能性を考える必要があります。設例の調整PBRも税引後で計算しています。

誤解3:「本社ビルや工場も賃貸等不動産に入る」→ 正しくは、物品の製造・販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産は含まれません。自己使用の不動産の含み益は、原則としてこの注記からは分かりません。ただし、自己使用部分と賃貸部分が混在する不動産で、賃貸部分の時価や損益の把握が実務上困難な場合は、不動産全体を注記の対象とし、その旨を他の賃貸等不動産と区別して記載できます(適用指針第17項)[2]。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本基準では、不動産は原価で計上して時価を注記する扱いです。基準の結論の背景では、IFRSの投資不動産(IAS第40号)は時価評価と原価評価の選択適用で、原価評価を選ぶ場合に時価等を注記するとされており、注記による時価の開示はそれとのコンバージェンスを図る趣旨です(第11項、第18項)[1]。日本のアクティビスト投資や非公開化の検討では、保有不動産の含み益が、資本効率や株主還元の議論の材料として使われます。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:賃貸等不動産の注記を使って、PBR1倍割れの会社をどう評価しますか。
「注記から貸借対照表計上額と時価を拾い、含み益を税引後で純資産に足して調整PBRを出します。例えば含み益30,000百万円、税率30%なら21,000百万円を加え、PBRは0.60倍から約0.50倍に変わります。ただし自己使用の不動産は原則として含まれず、時価が古い場合もあるため、時価の算定方法も確認します。」

深掘りの観点:注記の対象範囲、時価のみなしの扱い、税効果の置き方、含み益が実現可能かを説明できるかが問われます。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 賃貸等不動産の時価は、必ず不動産鑑定士の評価ですか。
A. いいえ。基準の適用指針は、市場価格が観察できない場合は不動産鑑定評価基準による方法または類似の方法で算定するとしており、自社の合理的な見積りでも算定できます。一定の条件のもとで取得時の価額などを時価とみなすことも認めています(適用指針第11項・第12項)。

Q. 重要性が乏しい場合はどうなりますか。
A. 賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略できます(会計基準第8項)。このため、不動産の保有が小さい会社の有価証券報告書には注記がないことがあります。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第20号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(2008年11月28日、最終改正2024年9月13日)第3項・第4項・第5項〜第9-3項、結論の背景 第11項・第18項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20240913_10.pdf(2026年11月参照)
  2. 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準適用指針第23号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」(2008年11月28日、最終改正2024年9月13日)第11項〜第15項・第17項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20240913_24.pdf(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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