この記事で分かること

  • IFRS第5号における「売却目的保有資産」の分類要件
  • 分類後は減価償却が停止し、流動資産として区分表示される仕組み
  • 帳簿価額と正味売却価額の比較による評価損の整数設例
  • 日本基準にはこの分類が存在しないという実務上の重要な差異(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

売却目的で保有する資産(Non-Current Assets Held for Sale)とは、IFRS第5号に基づき、1年以内の売却が確実視される非流動資産または処分グループを、通常の資産区分から切り離して流動資産として区分表示するIFRS特有の資産分類です。読み方は「ばいきゃくもくてきでほゆうするしさん」。分類された資産は減価償却・償却を停止し、帳簿価額と正味売却価額(公正価値から売却費用を控除した額)のいずれか低い方で評価します。

なぜ実務で重要なのか

IFRS任意適用企業の経理・IRでは、事業売却の意思決定が固まった時点でこの分類への切り替えが必要になり、BS表示・減価償却費・当期純利益に直接影響します。M&A(売り手側)では、売却プロセスが進行中の資産・事業がこの要件を満たすかどうかが、財務諸表上いつから「売却対象」として可視化されるかを左右します。監査では、分類要件(売却の確実性、1年以内の完了見込み)を満たしているかの判断が重要な監査上の論点になります。

仕組み:分類要件と会計処理

分類には、①現状のまま即座に売却可能であること、②売却の可能性が非常に高いこと(経営者が売却計画を承認し、買主を積極的に探索し、合理的な価格で売りに出しており、原則1年以内に売却が完了する見込みであること)が必要です。要件を満たすと、その時点で減価償却を停止し、帳簿価額と正味売却価額のいずれか低い方で評価します。帳簿価額が正味売却価額を上回る場合はその差額を評価損としてPLに計上します。

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:千円)。ある建物を売却目的保有資産に分類する時点の帳簿価額(正味簿価)が800,000、見積公正価値900,000、見積売却費用(仲介手数料・法務費用等)50,000だとします。正味売却価額=900,000-50,000=850,000。帳簿価額800,000は正味売却価額850,000を下回るため、この場合は評価損を計上する必要はありません。

一方、帳簿価額が870,000だった場合は、870,000と正味売却価額850,000を比較し、870,000-850,000=20,000の評価損を計上します。分類後は、実際に売却が完了するまでの間、この建物の減価償却は行いません。

PL・BS・CFへの影響

分類時点で評価損が生じればPLの費用として計上され、当期純利益を押し下げます。BS上は、通常であれば固定資産に計上される資産が、分類後は流動資産の区分に独立して表示されます。減価償却が停止するため、その期以降のPLの減価償却費は他の資産に比べて相対的に軽くなります。実際の売却が完了すればキャッシュ・インフローが発生し、帳簿価額との差額が売却損益としてPLに反映されます。

財務モデル・Excelでの使い方

売却目的保有資産に関するモデルでは、通常の固定資産スケジュールとは別枠で管理します。

  • 分類時点で減価償却行を停止(=IF(分類フラグ=1,0,通常の償却計算))にする
  • 帳簿価額と正味売却価額(公正価値-売却費用)を並べ、=MIN(帳簿価額,正味売却価額)で評価額を計算する
  • 売却完了予定時期を入力し、実行後の売却損益・現金収入をキャッシュフロー計画に接続する

この用語を実務で「使える」状態にする

分類要件の判定から評価損の計算、売却完了時の会計処理までを一連の流れとして押さえられるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「売却を検討し始めた時点で分類できる」→ 正しくは、経営者の正式な承認と積極的な買主探索、合理的な価格設定など、売却の可能性が非常に高い状態に至って初めて分類できます。単なる検討段階では要件を満たしません。

誤解2:「分類すれば評価損が必ず出る」→ 正しくは、正味売却価額が帳簿価額を上回っていれば評価損は発生しません。評価損は帳簿価額が正味売却価額を超える場合にのみ計上されます。

確認ポイントとして、1年以内に売却が完了しなかった場合に分類を維持できる例外要件(買主都合など会社の責めに帰さない事情による遅延)を満たしているかも見ます。

日本実務での扱い

日本基準(J-GAAP)には、IFRS第5号に相当する「売却目的保有資産」への独立した資産区分の組み替えという概念は存在しません。売却予定資産であっても、日本基準では通常の固定資産として扱われ、実際に処分されるまで減価償却を継続するのが基本です(売却の意思決定自体は固定資産の減損会計における兆候の一つとして考慮されます)。このため、IFRSを任意適用する日本企業では、事業売却の意思決定時点でIFRS特有のこの組み替え処理が必要になり、日本基準の連結子会社と会計処理のタイミングがずれる点に注意が必要です(2026年8月時点)。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:IFRS第5号の売却目的保有資産の分類基準と、日本基準との実務上の違いを説明してください。
「IFRSでは、売却の可能性が非常に高く1年以内の完了が見込まれる資産を流動資産に組み替え、減価償却を停止して正味売却価額と帳簿価額のいずれか低い方で評価します。日本基準にはこの独立した資産区分がなく、実際の処分まで通常の固定資産として減価償却を継続する点が大きな違いです。」

深掘りでは「非継続事業(discontinued operations)との関係」(事業全体の処分の場合はPL上も区分表示される)が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 1年以内に売却できなかった場合はどうなりますか?
A. 会社の責めに帰さない事情(買主都合による遅延など)により1年を超える場合で、引き続き売却計画が有効であることを示せれば分類を維持できます。それ以外の理由で遅延した場合は分類が解除され、通常の資産に戻して未計上だった減価償却を追いつかせます。

Q. 事業全体を売却する場合も同じ処理ですか?
A. 個別の資産だけでなく、資産と負債の組み合わせである「処分グループ」単位でも同じ分類が可能です。事業セグメントの処分に該当する規模であれば、非継続事業としてPL上も区分表示する必要があります。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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