この記事で分かること
- GICSの4階層(セクター・産業グループ・産業・サブ産業)と、分類の基本的な考え方
- 東証33業種との違い(提供主体・階層・決め方・変更ルール)
- 類似会社を階層で絞り込み、倍率の中央値で企業価値を出す整数設例
- GICSだけで類似会社を決めてはいけない理由と、実務での確認手順
30秒で分かる定義
GICS(Global Industry Classification Standard、世界産業分類基準、じーあいしーえす)とは、MSCIとS&P Dow Jones Indicesが開発した世界共通の産業分類で、上場会社をセクター・産業グループ・産業・サブ産業の4階層に分類するものです。一般に、2023年の改定後の構成は11セクター、25産業グループ、74産業、163サブ産業とされます。分類は年次の見直しで変わり得るため、最新の構成は提供元の公表資料で確認します。
類似会社を選ぶ考え方は類似会社選定基準で扱い、本ページは分類体系そのものと、東証33業種との対応・限界を整理します。
なぜ実務で重要なのか
IB・FAS・PE・経営企画は、類似会社比較法で比較対象を探す最初の絞り込みにGICSを使います(AIで類似会社を選ぶ)。株式のアナリスト・運用者は、セクター別の比較やポートフォリオの偏りの点検に使います(AIでポートフォリオを点検する)。海外の同業と国内会社を同じ物差しで比べるときの共通言語になる点が実務上の価値です。
仕組み:階層構造と東証33業種との違い
| 階層 | 数(2023年改定後・一般的な理解) | 例(情報技術セクターの場合) |
|---|---|---|
| セクター | 11 | 情報技術 |
| 産業グループ | 25 | ソフトウェア・サービス |
| 産業 | 74 | ソフトウェア |
| サブ産業 | 163 | アプリケーション・ソフトウェア |
会社は、主たる事業活動に基づいて、サブ産業のうち1つに分類されるとされます。複数の事業を持つコングロマリットでも、分類は1つです。
| 項目 | GICS | 東証33業種 |
|---|---|---|
| 提供・決定主体 | MSCI・S&P Dow Jones Indices | 証券コード協議会が個別銘柄の業種を決定 |
| 階層 | 4階層(11・25・74・163) | 10の大分類の下に33の中分類。通常「業種」といえば中分類 |
| 分類の拠り所 | 主たる事業活動(一般的な理解) | 総務省の日本標準産業分類による |
| 対象 | 世界の上場会社 | 国内の上場会社 |
| 変更の考え方 | 年次の見直しと企業ごとの再分類 | 現在の主要業務の売上高が所属業種の売上高の2倍以上で、それが2年間連続したとき(合併等は個別審査) |
東証33業種の決め方と変更基準は、JPXの業種別分類の説明に記載されています[1]。JPXは、この33業種を基にした東証業種別株価指数や、17業種に集約したTOPIX-17シリーズも算出しています(TOPIX)。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。評価対象会社(EBITDA 2,000百万円)の類似会社を、上場会社40社の候補から階層で絞り込みます。
①絞り込み:同じセクター12社 → 同じ産業グループ6社 → 同じサブ産業4社、と絞ります。
②倍率の計算(サブ産業の4社):EV/EBITDAが8倍・9倍・10倍・12倍なら、中央値は(9 + 10) ÷ 2 = 9.5倍、平均は(8 + 9 + 10 + 12) ÷ 4 = 9.75倍です。中央値を使うと、対象会社のEVは9.5 × 2,000 = 19,000百万円です。
③産業グループ(6社)に広げた場合:追加の2社が6倍と14倍なら、6社は6・8・9・10・12・14倍で、中央値は(9 + 10) ÷ 2 = 9.5倍と変わらず、平均は59 ÷ 6 ≒ 9.83倍です。平均は外れ値に動きやすいため、EVは中央値で9.5 × 2,000 = 19,000百万円、平均なら約19,667百万円になります。
階層を広げるほどサンプルは増えますが、事業の類似性は下がります。分類で絞った後に、事業構成・規模・成長率・利益率で候補を点検する作業が必要です。
市場・取引制度上の位置付け
GICSは、指数のセクター分類や、ETF・ファンドのセクター配分、運用会社の調査体制の区分に使われます。企業価値評価では、類似会社の選定要素として、業界、取扱商品・サービス、許認可、事業規模、成長性などが挙げられており、分類はその第一歩にすぎません[2]。分類の使い方は、市場分析か、類似会社の候補抽出かで変わります。
財務モデル・Excelでの使い方
- コンプスの表に分類列を持つ:会社名、GICSのセクター・産業グループ・産業・サブ産業、東証33業種、時価総額、EV/EBITDAなどを並べます。
- 階層別に集計する:サブ産業が一致する行だけの中央値を、配列数式(例:MEDIAN(IF(分類列=対象の分類, 倍率列)))で計算します。
- 社数を表示する:階層ごとの会社数をCOUNTIFSで表示し、サンプルが少ない階層は広げて比較します。
- 取得日を残す:分類は変わり得るため、データを取得した日付と分類のバージョンをシートに記録します。
この用語をExcelで
分類で絞り込んだ類似会社群から、EV/EBITDAなどの倍率の中央値と平均を自分で組み、評価の幅を出せるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「GICSのサブ産業が同じなら類似会社である」→ 正しくは、同じ分類でも事業構成・規模・成長率・地域が違います。分類は候補を探す出発点で、類似性の判断は財務・事業の内容で行います。
誤解2:「東証33業種とGICSは一対一に対応する」→ 正しくは、階層も決め方も違うため、対応はずれます。例えば東証の「電気機器」に属する会社が、GICSでは情報技術や資本財など別のセクターに分かれることがあります。
誤解3:「分類は変わらない」→ 正しくは、年次の見直しと企業の事業変化で変わります。過去の分析を再現するときは、当時の分類を使います。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)国内の上場会社は、東証33業種が決算短信、統計、指数など広く使われ、日本の同業比較では33業種が基本の区分です[1]。海外の同業と比べる場合や、グローバルの投資家向け資料では、GICSなど、使うデータ・指数や読み手の投資家が採用する分類体系に合わせることが多いです(一般的な実務の説明です)。業種の変更には売上高の基準があるため、事業構成が変わっても分類がすぐ変わらないことがあります。GICSのデータは提供元の知的財産で、データベンダー経由で利用するのが一般的なため、再配布の可否などライセンス条件を確認してください。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:類似会社をGICSで選ぶとき、何に注意しますか。
「GICSは候補を探す出発点で、同じサブ産業でも事業構成や規模、成長率が違います。まずサブ産業で絞り、社数が足りなければ産業・産業グループに広げます。その後、財務指標と事業内容で外れ値を除外し、倍率は中央値で見ます。」
深掘りの観点:階層を広げたときの社数と類似性のトレードオフ、東証33業種との違い、平均より中央値を使う理由が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. GICSのどの階層で絞るのが適切ですか。
A. 決まった正解はなく、評価の目的と社数で判断します。サブ産業で十分な社数が取れればそこで見ます。少なければ産業・産業グループへ広げ、その分、事業・財務で候補を点検します。
Q. 日本の会社だけを比べるなら東証33業種でよいですか。
A. 国内の同業比較の出発点としては使えます。ただし33業種は粗い区分のため、事業内容で候補を絞る作業が必要です。海外会社も含めて比べる場合はGICSなど共通の分類を併用します。
出典・参考(2 026-11確認)
- 日本取引所グループ「業種別分類(FAQ)」(証券コード協議会の「業種別分類に関する取扱要領」、10の大分類と33の中分類、業種変更の基準). https://www.jpx.co.jp/sicc/sectors/02.html(2026年11月参照)
- 日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」(平成19年5月16日、改正 平成25年7月3日)マーケット・アプローチにおける評価法(類似上場会社法・図表Ⅳ-17 類似上場会社選定の判断要素例). https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。