この記事で分かること
- 時価算定に関する会計基準(企業会計基準第30号)の定義とIFRS第13号との関係
- レベル1〜3のインプット区分と、それぞれの算定の考え方
- 社債の時価算定の整数設例(レベル1とレベル3の違い)
- 有価証券報告書の開示での確認方法(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
時価算定に関する会計基準(企業会計基準第30号)とは、金融商品等の時価算定について国際的な会計基準(IFRS第13号「公正価値測定」)との整合性を図るため、企業会計基準委員会(ASBJ)が2019年7月に公表した、日本基準における時価の定義・算定方法・開示のルールです。「時価」を「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格(出口価格)」と定義しています。
なぜ実務で重要なのか
経理部(開示担当)は有価証券報告書の「金融商品関係」注記で、保有する金融商品をレベル1〜3に区分して開示する必要があります。監査法人は算定の前提・インプットの妥当性を監査手続の中で検証します。FAS(評価担当)はレベル3に区分される非上場株式・デリバティブ等の時価算定モデルの構築を担当します。IFRS任意適用企業に限らず、日本基準採用企業にも同様の開示義務がある点が実務上のポイントです。
計算式(または仕組み)
本基準は単一の計算式ではなく、時価の算定に用いるインプットの観察可能性に応じた3段階のヒエラルキーを定めています。
| 区分 | インプットの性質 | 代表例 |
|---|---|---|
| レベル1 | 活発な市場における同一資産・負債の相場価格(無調整) | 取引所で継続的に価格が公表される上場株式・国債 |
| レベル2 | 直接又は間接的に観察可能なインプット | 類似銘柄の利回り曲線を用いた社債の評価 |
| レベル3 | 観察できないインプット(自社の見積り等) | DCF等のモデルを用いた非上場株式・デリバティブの評価 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。保有する額面1,000百万円の社債の時価算定を、市場性の有無で比較します。
レベル1のケース:取引所で継続的に価格(対顧客価格)が公表されている場合、直近終値98.5(額面100当たり)を無調整で使用します。時価=1,000×98.5÷100=985百万円。
レベル3のケース:活発な取引がなく市場価格が入手できない場合、将来の元利金キャッシュフローを、類似格付の債券利回りで割り引くDCFにより算定します。仮に割引後現在価値が960百万円と算定された場合、この960百万円が時価となり、観察できない自社の見積り(適用する割引利回りの選定等)を用いているためレベル3に区分されます。
開示・規制上の位置付け
本基準に基づく開示は、財務諸表本体ではなく注記事項として行われます。レベル1〜3の区分ごとの残高、レベル間の振替の有無、レベル3について用いた評価技法・重要なインプットの説明などが開示対象です。監査人は、特にレベル3の評価について、前提の合理性を独自の見積りとの比較や外部評価専門家の見解を用いて検証するのが一般的です(前提の置き方でよくある誤りはバリュエーションの落とし穴20も参考になります)。
財務モデル・Excelでの使い方
Excel化が本質的な意味を持つのはレベル3の算定部分で、非上場株式のDCF評価は非上場企業の評価で扱う調整とも重なります。
- DCFモデルで割引率・将来キャッシュフローの前提をセルとして分離し、前提が変わった場合の時価の感応度を確認できるようにする
- レベル3資産については、複数の評価技法(DCF・類似取引比較法等)を並記し、レンジで示せるようにしておく
- 実務での調べ方としては、対象会社の有価証券報告書「金融商品関係」注記を確認し、同業他社がどの区分にどの評価技法を用いているかを比較することが出発点になる
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「時価=時価総額」→ 正しくは、本基準の「時価」は出口価格という概念であり、資産・負債の種類ごとに算定方法が異なります。上場株式のように市場価格がそのまま使えるケースは限られ、多くの金融商品はレベル2・3の算定を要します。
誤解2:「日本基準はIFRSと算定方法が全く別」→ 正しくは、本基準は公正価値ヒエラルキーという3レベルの骨格・出口価格の定義をIFRS第13号と整合させており、IFRS任意適用企業以外にも実質的に共通の考え方が適用されます。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)本基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用されており、有価証券報告書の「金融商品関係」注記でレベル1〜3別の時価情報が開示されています。あわせて企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等の関連基準も見直され、開示の整合性が図られました。なお、不動産の時価(注記のみの開示)は別途「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」で扱われ、本基準の対象範囲には含まれません。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:時価算定会計基準がIFRS第13号とどのように整合しているか説明してください。
「本基準は、時価を『市場参加者間の秩序ある取引を前提とした出口価格』と定義し、算定に用いるインプットの観察可能性に応じてレベル1〜3に区分するという骨格を、IFRS第13号『公正価値測定』と整合させています。これにより日本基準とIFRSの間で時価算定の考え方に大きな差異が生じないようにしています。」
深掘りでは「レベル3の算定でどのように監査上の検証が行われるか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. この基準はどの財務諸表項目に適用されますか?
A. 主に金融商品(有価証券・デリバティブ等)の時価算定が対象で、棚卸資産のうちトレーディング目的で保有するものの時価算定にも関連規定があります。不動産の時価は別の会計基準で扱われます。
Q. IFRS任意適用企業でなくても影響がありますか?
A. あります。日本基準を採用する上場企業も本基準に基づき「金融商品関係」注記でレベル別の時価情報を開示する義務を負います。
出典・参考(2026-08確認)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」 https://www.asb-j.jp/
- IFRS Foundation IFRS第13号「公正価値測定」 https://www.ifrs.org/
- 金融庁 有価証券報告書の開示制度 https://www.fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。