この​記事で​分かる​こと

  • ADTV(平均売買代金・平均出来高)の定義と、株数ベースと金額ベースの違い
  • 算定期間の取り方と、立会外取引を含めるかどうかで数値が変わる理由
  • 自己株式の市場買付けの1日の数量上限(取引規制府令第17条)とADTVの関係
  • 自社株買い・ブロックトレードの執行日数を整数設例で見積もる方法

30秒で​分かる​定義

ADTV(Average Daily Trading Volume、平均売買代金・平均出来高)とは、一定期間の1日当たり平均の売買高(株数)または売買代金(金額)で、株式の流動性を測る基本指標です。英語の略称は同じADTVでも、株数ベース(出来高)を指す場合と金額ベース(売買代金)を指す場合があるため、使う前にどちらかを確認します。ADTVは「エー・ディー・ティー・ブイ」と読み、日本語では「平均売買代金(へいきんばいばいだいきん)」のほか「1日平均売買代金」「平均出来高」とも呼ばれます。日本の取引所市場の売買高・売買代金は、日本取引所グループの統計資料で確認できます[1]。

なぜ実務で​重要なのか

ADTVは「その株をどれだけの速さで、どれだけの量売買できるか」の目安です。ECM・エクイティデスクは、大株主の売出しやブロックトレードで、売却株数がADTVの何日分かを見てディスカウントや執行方法を決めます(ブロックトレードの​実務)。コーポレート・ファイナンスでは、自社株買いを市場で何日かけて執行できるかをADTVから見積もります(自己株式取得・​自社株買い)。トレーディングでは、注文を分割して市場への影響を抑える際、ADTVに対する参加率を基準にします(株式​トレーディングデスクの​実務)。PE・バリュエーションでは、上場株の大口保有の換金性や、非流動性ディスカウントを議論する際の材料になります。

計算式

ADTV(株数)= 算定期間の売買高の合計 ÷ 算定期間の売買日数
ADTV(金額)= 算定期間の売買代金の合計 ÷ 算定期間の売買日数
ADTV何日分 = 売買したい株数 ÷ ADTV(株数)

算定期間は、直近20営業日(約1か月)、60営業日(約3か月)、6か月などが使われます。期間が短いと直近の材料(決算発表や指数組入れ)の影響を受けやすく、長いと流動性の変化に遅れます。立会外取引(ToSTNeTなど)を含めるかも数値を左右します。大口の相対取引が多い銘柄では、立会外を含めるとADTVが大きく見え、市場で実際に執行できる量を過大評価するおそれがあります。金額ベースは株価水準が違う銘柄同士の比較に、株数ベースは執行株数の計画に向いています。

制度上の例として、上場会社が取引所市場で自己株式を買い付ける場合、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第17条は、1日の買付注文の数量の合計が、イ「買付日の属する週の前4週間の売買数量(立会外売買を除く)を、その4週間の売買立会日数で割った数量を売買単位で表した数(一日平均売買単位数)」、またはロ「前6か月の月間平均売買単位数の区分に応じた数量」のいずれかを超えないことを要件の一つとしています[2]。この府令は、相場操縦を防止するため金融商品取引法第162条の2に基づいて定められたものです[3]。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。上場会社Qの株式について、直近20営業日の立会内の売買高合計が8,000,000株、この期間の売買高加重平均価格(VWAP)が2,500円、売買単位が100株とします。

①ADTV:株数 = 8,000,000 ÷ 20 = 400,000株。金額 = 400,000株 × 2,500円 = 1,000百万円。売買単位で表すと 400,000 ÷ 100 = 4,000単位です。

②自社株買いの規模:取得総額5,000百万円を株価2,500円で買うと、5,000百万円 ÷ 2,500円 = 2,000,000株。ADTVの 2,000,000 ÷ 400,000 = 5日分です。

③府令の数量上限と執行日数:単純化のため、この20営業日が府令第17条第3号イの「前4週間」と一致するとすると、一日平均売買単位数は4,000単位で、1日の買付注文はイの基準では4,000単位(400,000株)が上限になります。最短でも 2,000,000 ÷ 400,000 = 5日かかります。実務では市場への影響を抑えるため、さらにADTVの一定割合に抑えて執行することが多く、仮に参加率を20%とすると1日 400,000 × 20% = 80,000株、執行日数は 2,000,000 ÷ 80,000 = 25日 です。

④ブロックトレードの比較:大株主が3,000,000株を売却したい場合、3,000,000 ÷ 400,000 = 7.5日分です。市場で分割売却すると時間と価格変動リスクがかかるため、立会外でのブロックトレードや売出しを検討します(売出し​(セカンダリー・オファリング)と​POの​違い)。

市場・​取引制度上の​位置付け

ADTVそのものは法令上の用語ではありませんが、同じ考え方の数値が規制に組み込まれています。自己株式の市場買付けでは、府令第17条が数量のほか、1日に2以上の証券会社に買付けを委託しないこと、注文価格の制限なども要件としています[2]。数量の基準は売買立会による売買数量で計算し、立会外売買の数量は除かれます。取引所の指数組入れや流動性に関する基準でも売買代金が参照されることが多く、投資家は売買代金の小さい銘柄ほど、大口売買で価格が動きやすい(マーケットインパクトが大きい)と考えます。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 日次データの整理:日付・終値・売買高・売買代金の列を作り、=AVERAGE(直近20行の売買高) で20日ADTV、=AVERAGE(直近60行) で60日ADTVを並べます。株数と金額の両方を出しておきます。
  • 中央値の併記:決算日や指数入替日の異常値で平均が膨らむため、=MEDIAN() も併記して差を確認します。
  • 執行日数の計算:=取得株数 ÷ (ADTV × 参加率) で日数を出し、規制上の1日上限(府令第17条第3号のイ「一日平均売買単位数」とロ「月間平均売買単位数の区分に応じた数量」の両方を計算し、いずれかを超えない範囲=大きい方 × 売買単位。低流動性銘柄ではロの数量を使える場合があります)と =MIN() で比べて小さい方を1日の執行株数にします。
  • 流動性指標の比較:=ADTV(金額) ÷ 時価総額 で売買回転率(日次)を出し、同業他社と比べます。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

日次の​売買​データから​ADTVを​計算し、​自社株買いや​大口売却の​執行日数と​規制上の​上限を​一枚で​試算できるようになる。

M&Aの​教材で​上場株の​取得・売却の​実務を​学ぶ →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「ADTVは常に金額ベース」→ 正しくは、株数ベース(出来高)と金額ベース(売買代金)の両方の意味で使われます。資料を受け取ったら、単位(株・百万円)と算定期間を必ず確認します。

誤解2:「ADTVの数量なら1日で問題なく売買できる」→ 正しくは、ADTVは市場全体の売買量で、1人の投資家がその全量を取れば価格は大きく動きます。実務では参加率をADTVの一部に抑えて執行計画を立てます。

誤解3:「自社株買いの1日上限の計算に立会外の売買も含めてよい」→ 正しくは、府令第17条の一日平均売買単位数は立会外売買の売買数量を除いて計算します。市場データの取り方を規制の定義に合わせる必要があります[2]。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)上場会社の自己株式の市場買付けは、会社法の自己株式取得の手続に加え、金融商品取引法第162条の2と有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第17条の要件に沿って行います[2][3]。1日の数量の基準は、買付日の属する週の前4週間の立会内売買数量に基づく「一日平均売買単位数」と、前6か月の月間平均売買単位数の区分に応じた数量の2つが定められており、マーケットメイク銘柄については第18条に別の定めがあります。市場の売買高・売買代金は日本取引所グループの「売買代金順位表・売買高・売買代金」などで月次・年次に確認できます[1]。海外の取引所や規制では算定期間や上限の比率が異なるため、外国株の自社株買いでは現地の規制を別途確認します。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:ADTVが4億円の銘柄で、80億円の株式を大株主が売りたいと言っています。どう考えますか。
「80億円はADTVの20日分に当たり、市場で少しずつ売ると1か月以上かかり、その間の株価下落と情報の漏れのリスクが大きいと考えます。そのため、立会外のブロックトレードや、需要を集めて一度に売る売出しを検討します。ディスカウントは、ADTVに対する規模、株価の変動性、需給の状況から決まります。」

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 20日ADTVと60日ADTVはどちらを使うべきですか?
A. 用途によります。直近の執行計画には20日、構造的な流動性の評価には60日以上を使うことが多く、両方を並べて差が大きければ一時的な要因を疑います。

Q. 売買代金が大きい銘柄ほど株価は安定しますか?
A. 一般に、売買代金が大きい銘柄ほど同じ金額の売買による価格への影響は小さくなります。ただし、株価の変動性は業績や市場環境にも左右されるため、流動性が高いことと値動きが小さいことは同じではありません。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 日本取引所グループ「その他統計資料(売買代金順位表・売買高・売買代金)」. https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/index.html(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(平成十九年内閣府令第五十九号)第17条、第18条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419M60000002059(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「金融商品取引法」(昭和二十三年法律第二十五号)第162条の2. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

共有: