この記事で分かること
- 流動性プレミアムの定義と、リスクプレミアムとの違い
- 非流動資産の期待収益率がなぜ高くなるのかという理論的根拠
- 整数設例による要求収益率の分解(リスクフリー+リスクプレミアム+流動性プレミアム)
- PE・不動産等のオルタナティブ投資評価での使われ方
30秒で分かる定義
流動性プレミアム(Liquidity Premium、読み方:りゅうどうせいぷれみあむ)とは、売買しにくい(流動性が低い)資産を保有することの対価として、投資家が追加的に要求する期待収益率の上乗せ分です。「非流動資産の要求超過収益」とも呼ばれます。同じ事業リスクを持つ資産であっても、いつでも売却できる上場株式と、数年単位で資金化できない未公開株式では、後者により高い期待収益率が求められるのが典型例です。
なぜ実務で重要なのか
PE・不動産・インフラ等のオルタナティブ投資では、なぜ公開市場の株式より高いリターンが期待されるのかを説明する際、流動性プレミアムが理論的な根拠の一つになります。年金基金・機関投資家のアセットアロケーションでは、非流動資産にどの程度配分するかを決める際、流動性プレミアムの大きさと、資金を長期間動かせないことによる機会損失を比較検討します。オルタナティブ投資全体の位置づけはオルタナティブ投資入門で解説しています。バリュエーション(非流動資産の評価)では、公開市場の類似資産の評価から出発し、流動性の欠如を理由とした評価減(DLOM:Discount for Lack of Marketability)を検討する場面で関連する考え方です。
計算式(仕組み)
流動性プレミアムは、同じ事業リスクを持つ資産の期待収益率のうち、「流動性の違いだけ」に起因する部分を切り出した概念です。理論的には、資産の保有期間中に予期せぬ資金需要が生じた場合に、市場価格に近い水準で速やかに売却できるかどうかの違いが、この上乗せ分の源泉とされます。流動性プレミアムの大きさは、資産クラス・市場環境(金融危機時には拡大しやすい)・売却に要する想定期間によって変動し、単一の「正しい」数値があるわけではありません。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。リスクフリーレート=1%、上場株式と同等の事業リスクに対する市場リスクプレミアム+5%とすると、上場株式と同じ事業リスクを持つ公開市場の資産の期待収益率=1%+5%=6%です。同じ事業リスクを持つ未公開株式(PE投資)について、投資家が流動性プレミアムとして+3%を追加的に要求する場合、PE投資の要求収益率=1%+5%+3%=9%となります。
この設例では、事業リスクは公開株式と全く同じであるにもかかわらず、流動性の違いだけで要求収益率に3ポイントの差(6%対9%)が生まれています。PEファンドが公開株式のリターンを上回ることを目指すのは、この流動性プレミアム分を含めて評価されるべきという理論的な整理になります。
投資判断への影響
流動性プレミアムの存在は、非流動資産への投資が「同じリスクでより高いリターンが得られるお得な投資」であることを必ずしも意味しません。投資家は、資金が長期間拘束されることで生じる機会損失や、市況悪化時に資金化できないまま評価損を抱え続けるリスクを、流動性プレミアムの対価として引き受けています。したがって、非流動資産への配分を検討する際は、期待収益率の高さだけでなく、自らの資金がどの程度の期間動かせないかという流動性ニーズとの整合性を必ず確認する必要があります。
財務モデル・Excelでの使い方
- 要求収益率のセルを「リスクフリーレート+事業リスクプレミアム+流動性プレミアム」の3行に分解し、流動性プレミアムの前提を独立したセルとして入力できるようにする
- 資産クラス別(上場株式・PE・不動産・インフラ等)に想定する流動性プレミアムの前提値を一覧表にまとめ、感応度分析で前提を変えた際の要求収益率・バリュエーションへの影響を確認する
- 非流動資産の評価では、公開市場の類似資産(コンプス)の評価倍率から出発し、流動性の欠如を理由とした評価減(DLOM)を別途調整する構成にする
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「非流動資産は流動資産より必ずリターンが高い」→ 正しくは、流動性プレミアムは事後的に確実に得られる超過収益ではなく、投資家が事前に要求する期待値にすぎません。個別の投資が失敗すれば、流動性プレミアムを織り込んだ期待収益率を実際には達成できないこともあります。
誤解2:「流動性プレミアムは常に一定の大きさ」→ 正しくは、金融危機時など市場全体の流動性が枯渇する局面では、投資家が要求する流動性プレミアムが急拡大することが知られており、平時の水準をそのまま危機時に当てはめるべきではありません。
日本実務での扱い(2026年8月時点)
日本の非上場株式の評価実務(相続税・事業承継における非上場株式評価や、M&Aにおけるバリュエーション)でも、公開市場の類似会社比較法から出発し、流動性の欠如を理由とした評価減(非流動性ディスカウント)を検討する考え方が用いられます(2026年8月時点)。年金基金・機関投資家の資産運用ガイドライン(投資方針書)でも、オルタナティブ資産への配分上限を検討する際、流動性リスクと期待される流動性プレミアムのバランスが議論の対象になります。資産配分の理論的基礎は現代ポートフォリオ理論(MPT)とアセットアロケーション入門を参照してください。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:流動性プレミアムとリスクプレミアムの違いを説明してください。
「リスクプレミアムは、その資産の事業・収益の不確実性(ボラティリティ)に対して投資家が要求する超過収益です。流動性プレミアムは、事業リスクが同じであっても、売買のしにくさという別の要因に対して追加的に要求される超過収益であり、両者は理論上区別される、独立した上乗せ要素です。」(30秒回答例)
深掘りでは「金融危機時に流動性プレミアムが拡大するメカニズム」「非流動性ディスカウントの実務での見積もり方法」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 流動性プレミアムはどのように推計しますか?
A. 決まった推計方法はなく、実務では類似の流動性を持つ資産間の利回り差を観察したり、非上場株式のオプション評価モデルを用いた非流動性ディスカウントの推計を参考にしたりする方法があります。いずれも前提次第で幅のある推計値になります。
Q. 流動性プレミアムは再投資リスクと関係がありますか?
A. 直接の理論的な関係はありませんが、両者とも「資金を計画通りに動かせないことに起因するリスク」という点で実務上は同じ文脈で検討されることが多い概念です。
出典・参考(2026-08確認)
- 国税庁 財産評価基本通達(取引相場のない株式の評価)関連情報 https://www.nta.go.jp/
- OECD 機関投資家・年金基金の資産配分関連資料 https://www.oecd.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。