この記事で分かること

  • DLOMが何に対する減価なのかという定義の整理
  • 制限株式スタディ・IPO前後比較・オプション価格モデルの3アプローチ
  • プットオプション近似で割引率を試算する整数設例と検算
  • 日本の税務・M&A・株式買取請求で根拠不明な一律控除が問題になる理由

30秒で分かる定義

非流動性ディスカウント(Discount for Lack of Marketability、略称DLOM、読み方:ディーエルオーエム)とは、株式に市場性がなく即座に換金できないことによる価値の減価をいい、その水準を実証データやオプション価格モデルで見積もる方法がDLOMの定量化手法です。上場株式は取引所で直ちに売却できますが、非上場株式は買い手を探す時間・費用・価格の不確実性を伴います。DLOMはこの「出口の不自由さ」を価格に反映させる調整であり、支配権の有無に着目するコントロールプレミアムとは別次元の概念です。

なぜ実務で重要なのか

FAS・バリュエーションファームでは、非上場株式の算定書でDLOMをいくらにするかが結論金額を大きく動かすため、根拠の記述に最も神経を使う項目のひとつです。税理士・事業承継実務では、税務調査で「なぜその率なのか」を問われた際に説明できるかが問題になります。PE・VCでは、ポートフォリオの期末評価やセカンダリー取引の価格交渉で、上場類似会社の倍率から非上場企業の価値を導く際の調整として使います。株式買取請求や価格決定の場面では当事者双方が異なるDLOMを主張しやすく、根拠の説得力が争点になります。

計算式(または仕組み)

DLOMの定量化には大きく3系統のアプローチがあり、何を根拠にしているかが異なります。

アプローチ根拠となるデータ主な論点
制限株式スタディ譲渡制限株式が同一銘柄の市場価格に対しどれだけ低い価格で取引されたかの実証観察市場構造の異なるデータを日本の非上場株に当てはめてよいか
IPO前後価格比較上場直前の私募取引価格と上場後の市場価格の比較上場できた企業のみが対象という選択バイアス
オプション価格モデル売却できない期間を「価格変動リスクを固定できない期間」と捉えプットオプション価値として計算ボラティリティと想定保有期間の設定根拠

オプション価格モデルの代表がChaffeモデルの考え方です。いま売却できない株主は価格下落から自分を守る手段(プットオプション)を持たない状態にあると捉え、アット・ザ・マネーのプット価値を株価で割った比率をDLOMとみなします。

DLOM(%)≒ ATMプットオプション価値 ÷ 流動性を前提とした1株価値 × 100
簡便な近似式:ATMオプション価値 ≒ 0.4 × 株価 × ボラティリティ × √(想定保有期間)

近似式は概算用で、実務ではブラック・ショールズ式等で計算しますが、DLOMがボラティリティと保有期間の平方根で動くという感覚をつかむには有用です。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。上場類似会社の倍率から導いた「市場性があると仮定した場合の1株価値」が10,000円の非上場企業を考えます。出口までの想定期間2年、推定ボラティリティ年率40%とします。

  • 途中式:0.4 × 10,000円 = 4,000/4,000 × 0.40 = 1,600/√2 ≒ 1.4142 なので 1,600 × 1.4142 = 2,263円
  • DLOM = 2,263 ÷ 10,000 = 22.6%/調整後の1株価値 = 10,000 − 2,263 = 7,737円

保有期間4年なら √4 = 2 で 1,600 × 2 = 3,200円、DLOMは32.0%。ボラティリティ25%・2年なら 0.4 × 10,000 × 0.25 × 1.4142 = 1,414円で14.1%です。

前提ボラティリティ保有期間DLOM調整後1株価値
低ボラ・短期25%2年14.1%8,586円
基準ケース40%2年22.6%7,737円
高ボラ・長期40%4年32.0%6,800円

調整後価値は 10,000 − 1,414 = 8,586円と 10,000 − 3,200 = 6,800円です。前提の置き方だけで1株価値が1,786円、率にして20.8%動きます(1,786 ÷ 8,586 = 0.208)。

投資判断への影響

入口でDLOMを大きく取れば取得価格は下がりますが、出口でも同じ非流動性が残るなら売却時にも同程度の減価が生じ、期待リターンは単純には上がりません。DLOMは価格を下げる魔法ではなく、換金までの時間と不確実性の対価です。逆にIPOやM&Aの出口が具体化した株式は非流動の期間が短くなり、DLOMは縮小します。評価レンジはフットボールチャートでDLOM適用前後を並べると議論が整理され、適用の誤りはバリュエーションの落とし穴でも定番の指摘事項です。

財務モデル・Excelでの使い方

DLOMは「結論の1セル」ではなく、根拠を追える計算ブロックとして組みます。

  • 入力セルにボラティリティ・想定保有期間・リスクフリーレートを置き、出所(参照した上場会社群、出口シナリオ)を隣接列にメモとして残す
  • プット価値の行を作り、=プット価値/流動性前提の株価 でDLOM率を出す
  • ボラティリティ×保有期間の二軸データテーブルでレンジを示し、複数手法の結果と採用理由を並べる欄を設ける

算定書では、単一の点推定ではなくレンジで示したうえで採用値の理由を書くのが安全です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

上場類似会社から導いた価値にディスカウントを段階適用し、前提と根拠を追える評価シートを設計できるようになる。

バリュエーション教材でディスカウント設計を学ぶ →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「DLOMは慣行的に20〜30%を使えばよい」→ 正しくは、出口の見通し・株主構成・定款の譲渡制限の内容によって適正水準は変わります。根拠を示さない一律控除は、税務調査や価格決定の場で最も指摘されやすい部分です。

誤解2:「上場類似会社の倍率を使えばDLOMは自動的に反映されている」→ 正しくは、上場会社の株価は市場性のある株式の価格であり、そのまま適用した評価額には非流動性の影響が入っていません。だからこそ別途の調整が必要になります。

誤解3:「支配株主が売る場合もDLOMは同じ」→ 正しくは、100%の支配持分は会社ごとM&Aで売却できる可能性があるため、少数持分よりDLOMは小さくなるのが一般的な考え方です。

実務家はさらに、DLOMと少数株主ディスカウントを重複して控除していないか、評価目的(税務・M&A・価格決定)ごとに求められる説明水準が異なっていないかを確認します。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)日本では、DLOMの水準を一律に定めた法令はありません。相続税・贈与税の場面では財産評価基本通達に基づく画一的な評価体系が用いられ、DLOMという項目が独立して存在するわけではないため、通達評価と経済的評価は枠組みが異なります。一方、M&Aの株価算定書や、会社法上の株式買取請求・価格決定の場面では、算定人が採用したディスカウントの合理性が個別に検討されます。

日本公認会計士協会は企業価値評価に関する実務指針を公表しており、ディスカウントの適用に根拠を明示すべきことが一般的な考え方として示されています。経済産業省の公正なM&Aの在り方に関する指針でも算定プロセスの公正性が重視されており、根拠の記述が薄いディスカウントは争いになったときに維持しにくいと理解しておくのが安全です。海外実務では制限株式スタディの蓄積が豊富ですが、市場構造も規制も異なる日本の非上場株にそのまま当てはめてよいかは慎重な検討が必要です。個別事案の適否は事実関係と専門家の判断によります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:非流動性ディスカウントを30%と置いた根拠を説明してください。
「まず対象持分の性質を確認します。少数持分で譲渡制限があり、IPOやM&Aの出口が具体化していないなら想定保有期間を長めに置きます。類似上場会社から推定したボラティリティと保有期間をプットオプション型のモデルに入れて水準を試算し、実証研究で報告されるレンジと突き合わせて採用値を位置づけます。単一値ではなくレンジで提示します。」

深掘りでは「想定保有期間の見積もり方」「ボラティリティに何を使うか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. DLOMとコントロールプレミアムは同時に使えますか。
A. 別物なので併用自体は誤りではありませんが、どの評価基礎への調整かを明確にしないと二重調整になります。上場類似会社の株価を出発点にする場合、その株価が少数持分かつ市場性のある価格である点を踏まえて調整順序を決めてください。

Q. 上場を控えた会社でもDLOMは必要ですか。
A. 上場が具体化して換金までの期間が短くなるほど、理屈のうえではDLOMは小さくなります。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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