この記事で分かること
- ブロッケージ・ディスカウントの定義と、大口株式売却で減価が生じる理由
- 売却必要日数(Days to Liquidate)による定量化の考え方
- 整数設例による必要売却日数の計算(途中式つき)
- 日本の相続税評価実務での扱いと、非流動性ディスカウントとの違い
30秒で分かる定義
ブロッケージ・ディスカウント(Blockage Discount、読み方:ぶろっけーじでぃすかうんと)とは、市場での出来高に対して過大な株式数を一度に売却しようとすると、需給の悪化により想定より低い価格でしか売却できないため、通常の市場株価に対して適用される減価のことです。大株主が保有する上場株式を一括で処分する場面で問題になる、需給に着目した評価上の論点です。
なぜ実務で重要なのか
税理士は相続税申告における非上場株式・大量保有上場株式の評価で、この論点の主張可否を検討します。IR・財務は政策保有株式(持ち合い株式)を市場で大量売却する際、処分可能性・売却期間の見積りにこの考え方を用います。セールス&トレーディングは機関投資家のブロックトレード実行時に、価格インパクトをどの程度織り込むかという実務的な問題として直面します。
計算式(または仕組み)
定量化の考え方としては、①出来高対比の必要売却日数を算定した上で、実証研究に基づくディスカウント表を参照する方法、②売却期間中の価格下落リスクをヘッジするコストとしてオプション価格モデル(アジアン・プット・オプション法等)で試算する方法、の2系統が知られています。いずれも保有数量が市場の吸収力に対してどれだけ過大かを起点に評価する点は共通しています。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。保有株式数10,000,000株、当該銘柄の平均日次出来高200,000株、市場へのインパクトを抑えるため出来高の20%までを日々の売り圧力として市場に出せると仮定します。
1日あたりの売却可能株数=200,000×20%=40,000株。必要売却日数=10,000,000÷40,000=250日。
約1年(営業日ベースで250日程度)をかけないと市場へのインパクトを抑えつつ売り切れない計算になり、この売却期間の長さが、一括売却時に想定される価格下落リスク、すなわちブロッケージ・ディスカウントの水準感を検討する出発点になります。
投資判断への影響
コントロールプレミアムと流動性ディスカウントの考え方と同様に、相続税評価や大量保有株式の処分検討では、市場価格をそのまま評価額とするか、売却の実現可能性を踏まえた減価を織り込むかで、評価額・実質的な手取り額の見積りが変わります。政策保有株式の解消売却を検討する企業にとっては、Days to Liquidateの試算が、市場外での相対売却(クロス取引等)や複数回に分けた売却スケジュールを検討する材料にもなります。
財務モデル・Excelでの使い方
実務での調べ方・試算手順は次のとおりです。
- 対象銘柄の直近数か月の平均出来高を、取引所公表の売買代金・出来高データから算定するシートを作る
- Days to Liquidateを保有株数・想定利用比率をパラメータとして算定し、複数の利用比率(10%・20%・30%等)でシナリオを比較する
- より精緻に試算する場合は、株価のボラティリティを用いたオプション評価モデル(ブラック-ショールズの応用)でヘッジコスト相当額を試算し、ディスカウント幅の参考値とする
この用語をExcelで「組める」状態にする
大口保有株式の売却制約をDays to Liquidate分析で定量化し、処分スケジュールの検討材料を作れる状態にする。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「上場株式は常に市場価格そのものが評価額になる」→ 正しくは、保有数が出来高に対して極端に大きい場合、実際に想定される売却可能価格は市場の気配値より低くなり得るため、評価実務でこの論点が議論されることがあります。ただし日本の相続税実務では、この考え方を明文で織り込む規定はない点に注意が必要です。
誤解2:「非上場株式の非流動性ディスカウントと同じ」→ 正しくは、非流動性ディスカウント(DLOM)は市場そのものが存在しないことに起因する減価であり、ブロッケージ・ディスカウントは市場は存在するものの、保有数量が規模に対して過大であることに起因する、別の概念です。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)国税庁の相続税財産評価基本通達上、上場株式の評価は原則として課税時期の終値、または前月・前々月・前々々月の各月の終値平均額のうち最も低い額によることとされており、保有株数の多寡によるブロッケージ・ディスカウントを明示的に認める規定はありません。そのため日本の相続税実務では欧米ほど積極的に主張されにくいとされます。一方で、政策保有株式(持ち合い株式)の大量売却を検討する実務では、出来高対比の分析(Days to Liquidate)が処分計画の参考情報として用いられることがあります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ブロッケージ・ディスカウントとは何か、非流動性ディスカウント(DLOM)との違いを含めて説明してください。
「ブロッケージ・ディスカウントは、市場での出来高に対して保有株式数が過大な場合に、一括売却すると需給悪化で市場価格より低い価格でしか売れないことに着目した減価です。DLOMは非上場株式のように市場そのものが存在しないことに起因する減価であり、原因が異なります。前者は流動性のある市場を前提に規模の過大さを問題にし、後者は市場の不在そのものを問題にします。」
よくある質問(FAQ)
Q. 日本でブロッケージ・ディスカウントは税務上認められますか?
A. 相続税財産評価基本通達の枠組み上、明文の規定はなく、実務上主張が認められる余地は限定的とされています(2026年8月時点)。個別事案ごとに専門家への確認が必要です。
Q. どのような場面でこの概念が問題になりますか?
A. 創業者一族が保有する大量の上場株式を相続する場合や、企業が保有する政策保有株式を大量に市場売却する場合など、保有数量が市場の吸収力に対して過大なケースで論点になります。
出典・参考(2026-08確認)
- 国税庁 財産評価基本通達 https://www.nta.go.jp/
- 日本取引所グループ(JPX) 売買代金・出来高統計 https://www.jpx.co.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。