想定読者:製造業の経営企画・FP&A(財務計画・分析)・原価計算の担当者、標準原価計算を学び始めた方、財務デューデリジェンスで原価差異を読む方
前提知識:標準原価(数量標準×価格標準)と価格差異・数量差異の基本。仕訳は使いません。

結論:総差異を「標準の古さ」と「実績のずれ」に分け、前者は標準を直す側、後者は購買・製造が説明する

期首に決めた標準(製品1本当たりの使用量・作業時間と、材料の単価・賃率)を据え置いたまま、主材料の銅線が値上がりし、作業手順も変わったとします。月次の差異は大きな不利差異になり、その多くが、購買や現場の努力では動かせない標準の古さによるものになりえます。「不利差異は現場の責任」と読むと改善の矛先を誤り、標準が実態より緩い費目では有利差異が出て現場の遅れが隠れます。

分け方は単純です。旧標準での総差異(実際原価−旧標準原価)を、陳腐化分(改定後標準原価−旧標準原価)と管理可能分(実際原価−改定後標準原価)に分けます。合計は定義上、総差異に戻ります。陳腐化分は標準を直す側(原価計算・生産技術など)が、管理可能分は購買・製造が、原因を説明します。学習用の架空事例のP社(電線加工品メーカー)の10〜12月では、銅線の旧標準での差異+5,148千円(不利)のうち+3,600千円(不利)が標準の古さで、労務は−1,719千円(有利)に見えても+681千円(不利)が隠れていました。

符号は、差異=実際−標準、プラス=不利、マイナス=有利とし、すべての差異に「不利」「有利」を併記します(基準は標準差異を「標準原価と実際発生額との間に生ずる差額」とするだけで、引き算の向きを指定していません1)。陳腐化分の「不利」は、旧標準で見ると不利側に出る向きです。この分け方は基準が定めるものではない管理会計上の工夫で、「陳腐化分」「管理可能分」も本記事の呼び名です(在庫の陳腐化とは別の意味)。価格差異・数量差異の基本は標準原価差異分析に譲ります。

原価計算基準が書く標準原価の種類と、改訂の条件

企業会計審議会「原価計算基準」(昭和37年11月8日。引用は2026年10月時点の財務会計基準機構の掲載文)は、能率の尺度としての標準を「その標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標」としています2。前提が期間の途中で変われば、目標として働かなくなります。原価計算のうち標準原価計算制度で用いる標準原価は、「現実的標準原価又は正常原価」です。

現実的標準原価は「良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価」で、「比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改訂される標準原価」です。正常原価は「比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した」正常能率・正常操業度・正常価格に基づく原価で、「経済状態の安定している場合に、たな卸資産価額の算定のために最も適する」とされます。基準は、実務上は予定原価(将来の予定消費量と予定価格で計算した原価)が標準原価の意味で使われる場合があることにも触れています。原価管理のために時として用いられる理想標準原価(余裕率を許容しない理想的水準の標準原価)は、「この基準にいう制度としての標準原価ではない」とされています3。

標準を直す条件は第3章42が定めています。「標準原価は、原価管理のためにも、予算編成のためにも、また、たな卸資産価額および売上原価算定のためにも、現状に即した標準でなければならないから、常にその適否を吟味し、機械設備、生産方式等生産の基本条件ならびに材料価格、賃率等に重大な変化が生じた場合には、現状に即するようにこれを改訂する。」4編集部の読みでは、常に適否を吟味することと重大な変化があったときに改訂することが分けて書かれ、頻度や「重大」の水準は数値で定められていません。水準は企業が決めて明示します。

設例:P社の標準を旧標準・改定後標準で並べる

以下は学習用の架空事例です。ワイヤーハーネス(電線加工品)メーカーのP社は、代表製品ハーネスHの標準を20X3年4月に設定しました(旧標準)。その後、銅線の主契約の単価が1,200円/kgから1,350円/kgに上がり、圧着・組立工程では9月に治具を導入して手順を変えました。P社は、10月1日時点で入手できた契約書と時間研究で標準を見直した場合の値(改定後標準)を作ります。20X3年10〜12月の実績は、生産量30,000本、銅線24,600kg(実際単価1,380円/kg)、圧着・組立8,100時間(実際賃率2,010円/時間)です。見直すのは銅線の価格標準と圧着・組立の時間標準だけで、ほかの標準と製造間接費は対象外とします。

製品1本当たりの標準原価は、直接材料費なら標準消費量×標準価格、直接労務費なら標準時間×標準賃率で算定します5。Corporate Finance Institute(CFI)も、数量標準は製品1単位の製造に使うべき時間やkg数を、価格標準は1時間または1単位当たりの費用を示すと一般的に説明しています6。結果は図表1のとおりです。

図表1:ハーネスH 1本当たりの標準(旧標準・改定後標準)
項目(単位は行ごとに表示)旧標準(20X3年4月設定)改定後標準(10月1日付)改定の理由
銅線の数量標準(kg/本)0.800.80変更なし
銅線の価格標準(円/kg)1,2001,350主契約の更新単価
銅線の標準原価(円/本)9601,080数量 × 価格
圧着・組立の時間標準(時間/本)0.300.26治具の導入による手順の変更
圧着・組立の賃率標準(円/時間)2,0002,000変更なし
圧着・組立の標準原価(円/本)600520時間 × 賃率
対象期間:旧標準は20X3年度の期首設定、改定後標準は10月1日付(実績は20X3年10〜12月)。出所:学習用の仮定に基づき大手町プレップ作成。(スマートフォンでは表を横にスクロールできます)

銅線は価格標準が12.5%上がり、1本当たり960円から1,080円へ120円増えます。圧着・組立は時間標準が13.3%短くなり、600円から520円へ80円減ります。0.26時間は、正味の作業0.24時間に、通常生ずる手待ち・疲労などの余裕0.02時間を加えた仮定の値です。改定後標準は改定日に入手できた情報で決め、実績の平均から逆算していません。

差異の分け方:旧標準での総差異=陳腐化分+管理可能分

標準原価は、実際の生産量30,000本に対する額で比べます(実際の活動量に合わせて組み替える変動予算と同じ考え方)。銅線の旧標準原価は0.80kg×30,000本×1,200円=28,800千円、改定後標準原価は24,000kg×1,350円=32,400千円、実際原価は24,600kg×1,380円=33,948千円です。

差異の分け方(プラス=不利、マイナス=有利)
旧標準での総差異 = 実際原価 − 旧標準原価 = 陳腐化分 + 管理可能分
陳腐化分 = 改定後標準原価 − 旧標準原価
管理可能分 = 実際原価 − 改定後標準原価 = 価格(賃率)差異 + 数量(時間)差異

価格差異は(実際価格−改定後標準価格)×実際数量、数量差異は(実際数量−改定後標準数量)×改定後標準価格で、基準第4章46の算式7の標準を、改定後のものに差し替えました。価格と数量が同時にずれた重なりは価格差異に、単価の改定差と超過使用の重なりは数量差異に入れ、陳腐化分を含めてどの部分も一度だけ数えます。

英語圏の管理会計には、この分け方に近い計画差異(planning variance)と業務差異(operational variance)という整理があります。会計専門職団体ACCAの試験委員の解説記事は、業務差異だけを管理者の評価に使うと述べ、改定後の価格の水準も疑う余地があると指摘しています(訳・要約は編集部)8。同記事は改定後の価格を事後に定めた目標価格とし、本記事は改定日の情報で置くため、改定日以降の市況の動きは管理可能分に残ります。

図表2:差異の分解(旧標準 → 改定後標準 → 実際) ① 銅線(直接材料費) 単位:千円 旧標準での総差異 +5,148(不利) 陳腐化分 +3,600(不利) 管理可能分 +1,548(不利) 旧標準 28,800 改定後標準 32,400 実際 33,948 ② 圧着・組立の労務(直接労務費) 単位:千円 旧標準での総差異 −1,719(有利) 陳腐化分 −2,400(有利) 管理可能分 +681(不利) 旧標準 18,000 改定後標準 15,600 実際 16,281 差異=実際−標準。+は不利(実線の矢印)、−は有利(破線の矢印)。右へ行くほど原価が大きい。 長さは金額に比例(1,000千円=同じ幅、上下の図で同縮尺)。○旧標準 ●改定後標準 ■実際
単位:千円。対象期間:20X3年10〜12月(生産量30,000本)。標準原価・実際原価は実際の生産量に対する額。出所:学習用の仮定に基づき大手町プレップ作成。(スマートフォンでは図を横にスクロールできます)

図表2のとおり、銅線は2つの区間が同じ右向きに並んで総差異になり、労務は改定後標準まで左へ下がったあとで実際まで右へ戻るため、総差異は左向き(有利)にとどまります。

改定前後の差異比較と、責任の帰属

銅線は、陳腐化分が(1,350−1,200)円×24,000kg=+3,600千円(不利)、価格差異が(1,380−1,350)円×24,600kg=+738千円(不利)、数量差異が(24,600−24,000)kg×1,350円=+810千円(不利)です。労務は、陳腐化分が(7,800−9,000)時間×2,000円=−2,400千円(有利)、賃率差異が(2,010−2,000)円×8,100時間=+81千円(不利)、作業時間差異が(8,100−7,800)時間×2,000円=+600千円(不利)です。結果を図表3にまとめます。

図表3:改定前後の差異比較と責任の帰属表(単位:千円)
項目銅線圧着・組立責任部署(最初に原因を説明する窓口)
旧標準原価(30,000本分)28,80018,000―
改定後標準原価32,40015,600―
実際原価33,94816,281―
① 旧標準での総差異(実際−旧標準)+5,148(不利)−1,719(有利)―
② 陳腐化分(改定後標準−旧標準)+3,600(不利)−2,400(有利)標準設定側(原価計算・生産技術)
③ 管理可能分(実際−改定後標準)+1,548(不利)+681(不利)―
 うち④ 価格差異(労務は賃率差異)+738(不利)+81(不利)購買(銅線)/製造・人事(賃率)
 うち⑤ 数量差異(労務は作業時間差異)+810(不利)+600(不利)製造
照合:② + ③ − ①00―
対象期間:20X3年10〜12月(生産量30,000本)。標準原価は実際の生産量に対する額。差異=実際−標準(プラス=不利、マイナス=有利)。陳腐化分の符号は、旧標準で見たときに差異が出る向き。窓口は原因調査を最初に求める先で、責任追及ではない。出所:学習用の仮定に基づき大手町プレップ作成。(スマートフォンでは表を横にスクロールできます)

銅線は、旧標準での総差異のうち標準の古さが69.9%、管理可能分が30.1%です。労務は、旧標準のまま基準46の算式で見ると、作業時間差異が(8,100−9,000)時間×2,000円=−1,800千円(有利)で、旧標準の時間より10.0%速く作業したように見えます。改定後標準で測り直すと、作業時間は改定後標準の7,800時間より300時間(約3.8%)多く、+600千円(不利)です。有利に見えた−1,800千円は、陳腐化分−2,400千円(有利)に、管理可能分のうち作業時間差異+600千円(不利)が重なった結果でした。

責任の帰属は、差異の要素ごとに「最初に原因を説明する窓口」として決めます。陳腐化分の窓口は標準を点検して直す側です。標準は「一定の文書に表示されて原価発生について責任をもつ各部署に指示される」ので9、改定後は新しい標準を購買・製造へ指示し直します。管理可能分は、銅線の価格差異が購買、数量差異と作業時間差異が製造、賃率差異が製造(賃金改定によるものは人事)です。これは責任会計(管理できる範囲で業績を評価する考え方)に沿い、基準も原価要素を「管理可能費と管理不能費」に分けて計算するとしています10。ただし管理可能分の中身がすべて管理可能とは限らず、改定日以降の市況の追加上昇や契約外の臨時購入が混ざるため、原因調査で外部要因と社内要因に分けます。分解の詳細は、材料は材料費差異、労務は労務費差異、購買の成果と市況の切り分けは購買コスト削減の実務に委ねます。

改定の頻度・タイミングと、期中改定が在庫評価・予算・前年比較に与える影響

頻度は、基準が数値で定めていないため自社の規則にします。頻繁に改定すると比較の段差が増え、年1回だけでは期中の変化が差異に溜まります。使いやすいのは、年次の定例点検(予算編成と同時)に臨時の改定条件を足す形です(編集部の提案)。条件は、「主材料の契約単価が標準から5%超ずれた」「工程変更を実施した」のように、基準42の「生産の基本条件」「材料価格、賃率等」の重大な変化を測れる言葉にします。5%は例で、基準の数値ではありません。P社の銅線(12.5%)はこの例に当たります。毎年一定率で標準を切り下げる改善原価計算の目標とは別です。

改定を検討し始める合図には、公表統計が使えます。日本銀行の企業物価指数は、企業間で取引される財の価格変動を測る月次の統計で、品質を固定した価格を調べ、2020年を100として指数化しています11。ただし、指数がP社の仕様・数量・契約期間の価格と同じ動きをする保証はありません(編集部の見解)。架空の例では、期首比+10.0%の指数に対し、P社の契約単価は+12.5%でした。指数は合図にとどめ、標準価格は自社の契約単価や見積で決めます。指数の選び方は費目ごとに物価指数を当ててコスト前提を作るで扱います。

期中に改定すると、3つの比較が揺れます。第一に在庫評価です。標準原価は在庫と売上原価を算定する基礎でもあるため(第3章40)、改定の前後で同じ製品の標準原価が変わり、改定時点の在庫は旧標準で評価されたままです。置き換えるかどうかは会計方針の問題なので、経理・監査と事前に決めます。標準を改定しても実際に発生した原価は変わらず、変わるのは、標準原価で評価される額と、原価差異として別に扱う額の境目です。標準が不適当で比較的多額の差異が出た場合の期末の処理は、基準第5章47に定めがあり12、原価差異を期末にどう処理するかで扱います。

第二に予算です。標準原価は予算編成の基礎でもあり(第3章40)、予算は旧標準で組まれています。予算は期中に変えず見込みで対応する整理は年度予算の作り方にもあり、標準でも旧標準を比較の起点に残し、改定は陳腐化分という橋渡しの行で示せば、予算との比較が崩れません。第三に前年比較で、標準原価ベースの原価や売上総利益率は改定の前後で段差が出ます。編集部の見解では、当面は旧標準ベースと改定後標準ベースを並べて報告し、両者の差を陳腐化分として示す運用が望ましいと考えます。

標準の置き方が評価を変える:現実的標準と理想標準

時間標準を、余裕0.02時間を含む現実的標準の0.26時間ではなく、余裕を許さない理想標準の0.24時間(30,000本で7,200時間)に置くと、作業時間差異は(8,100−7,200)時間×2,000円=+1,800千円(不利)で、管理可能分は+681千円(不利)から+1,881千円(不利)に増えます。不利側に増えた1,200千円は、余裕0.02時間×30,000本×2,000円そのものです。理想標準では毎月この不利差異が残り、差異が異常の合図として働きません(編集部の見解)。

正常原価は長期の実績を平準化して決めるため、経済状態が安定していれば改定の手間が少なくて済みますが、銅線が急に値上がりした局面では標準が実態から離れやすくなります。価格が急変する費目は、基準が「しばしば改訂される」とする現実的標準原価で、改定条件を決めて運用するほうが差異を読みやすい、というのが編集部の見解です。

よくある間違いと、この分け方の限界

よくある間違い

1つ目は、陳腐化分を「無駄な費用」と読むことです。銅線の陳腐化分+3,600千円(不利)は値上がりによる実際のコスト増で、陳腐化分が示すのは費用の良し悪しではなく原因の所在です。2つ目は、管理可能分をすべて現場の責任にすることです。3つ目は、改定後標準を実績の平均に合わせることです。銅線の改定後標準価格を実際の平均購入単価1,380円/kgに置けば価格差異は0になり、購買の成績が見えなくなります。

成立条件と限界

この分け方は管理会計上の整理で、基準が定める原価差異の算定(第4章46)や会計処理(第5章47)に代わるものではありません。旧標準のまま基準46の算式を使うと、銅線は価格差異+4,428千円(不利)・数量差異+720千円(不利)となり、図表3とは配分が違います。単価の改定差150円と超過使用600kgの重なり90千円を、旧標準の算式は価格差異に、図表3は超過使用を改定後の単価で測る数量差異に入れるためで、合計+5,148千円(不利)は同じです。設例は、製造間接費(差異の分け方は製造間接費差異で扱います)、材料受入価格差異、配合差異、歩留差異を扱っていません。

実務チェックリスト

  • 標準の設定表(数量標準・価格標準・時間標準・賃率標準)を費目ごとに持ち、設定日・根拠・版を記録している。
  • 改定の条件(例:主材料の契約単価が5%超ずれた、工程変更をした)と年次点検の時期を文書で決め、適用日を月初にそろえている。
  • 改定後標準は、改定日に入手できた自社の契約書・見積・時間研究から作り(外部の物価指数は見直しの合図にとどめ)、実績の平均から逆算していない。
  • 差異表に「陳腐化分+管理可能分−旧標準での総差異=0」の照合行を置き、すべての差異に「不利」「有利」を併記している。
  • 陳腐化分は標準設定側の改定タスク、管理可能分は購買・製造の原因調査として起票し、改定後は新しい標準を責任部署へ指示している。
  • 期中改定では、予算・前年との比較表に旧標準ベースと改定後標準ベースを残し、手持ち在庫の扱いを経理・監査と決めている。

よくある質問(FAQ)

改定が遅れた過去の月の差異も、陳腐化分と管理可能分に分けられますか。

分析としては分けられます。その月の契約単価や公表された市況など、当時の客観的な情報で分析用の改定後標準を作り、帳簿の標準を遡って変える必要はありません(編集部の見解)。実績に合わせて作り直すと管理可能分が消えるため、根拠を文書に残します。

標準原価計算を採っていない会社(見積原価や予算単価で比べる会社)でも使えますか。

使えます。期首の見積原価や予算単価を旧標準に、見直した見積を改定後標準に置き換えれば、同じ式で分けられます(編集部の見解)。

まとめ

標準を据え置いたまま価格や工程が変わると、旧標準での総差異に標準の古さと実績のずれが混ざります。陳腐化分と管理可能分に分ければ合計は必ず一致し、P社の銅線では約7割が標準の古さで、労務は有利に見える差異の陰に不利な管理可能分がありました。改定の条件、改定後標準の根拠、予算・前年との比較の見せ方を決めておくと、差異を評価にも改善にも使えます。

脚注

  1. 企業会計審議会「原価計算基準」第4章44は、標準差異を「標準原価と実際発生額との間に生ずる差額」と定義する。同46(二)も直接材料費差異を「標準原価による直接材料費と直接材料費の実際発生額との差額」とする。いずれも、差額の引き算の向きは書かれていない(参考文献 R1)。↩
  2. 原価計算基準 第1章4(一)2の第1段落。「標準原価とは、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもつて計算した原価をいう。この場合、能率の尺度としての標準とは、その標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標を意味する。」条番号は掲載ページの表記(参考文献 R1)。↩
  3. 原価計算基準 第1章4(一)2の続く各段落。「標準原価計算制度において用いられる標準原価は、現実的標準原価又は正常原価である。」「現実的標準原価とは、良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価をいい、通常生ずると認められる程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、かつ、比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改訂される標準原価である。現実的標準原価は、原価管理に最も適するのみでなく、たな卸資産価額の算定および予算の編成のためにも用いられる。」「正常原価とは、経営における異常な状態を排除し、経営活動に関する比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価をいう。正常原価は、経済状態の安定している場合に、たな卸資産価額の算定のために最も適するのみでなく、原価管理のための標準としても用いられる。」「標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもつて計算した原価をいう。予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理およびたな卸資産価額の算定のためにも用いられる。」「原価管理のために時として理想標準原価が用いられることがあるが、かかる標準原価は、この基準にいう制度としての標準原価ではない。理想標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度のもとにおいて、最高能率を表わす最低の原価をいい、財貨の消費における減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を許容しない理想的水準における標準原価である。」(参考文献 R1)。↩
  4. 原価計算基準 第3章42「標準原価の改訂」の全文。基準は「改訂」と書き、本記事は一般の表記に合わせて地の文では「改定」と書く(引用は原文のまま)。標準原価算定の目的は第3章40が、(一)原価管理のための標準の設定(最も重要な目的)、(二)たな卸資産価額および売上原価の算定の基礎、(三)予算とくに見積財務諸表の作成の基礎、(四)記帳の簡略化・迅速化の4つを挙げる(要約。参考文献 R1)。↩
  5. 原価計算基準 第3章41。製品1本当たりの標準原価は、同(四)で「標準製品原価」と呼ばれる。(一)1「標準直接材料費は、直接材料の種類ごとに、製品単位当たりの標準消費量と標準価格とを定め、両者を乗じて算定する。」(一)3「標準価格は、予定価格又は正常価格とする。」(二)1「標準直接労務費は、直接作業の区分ごとに、製品単位当たりの直接作業の標準時間と標準賃率とを定め、両者を乗じて算定する。」(二)2は標準時間が「通常生ずると認められる程度の疲労、身体的必要、手待等の時間的余裕を含む」とし、(二)3は「標準賃率は、予定賃率又は正常賃率とする。」とする(参考文献 R1)。↩
  6. Corporate Finance Institute「Variance Analysis」の「The Role of Standards in Variance Analysis」。標準を成果を測る基準(benchmark)とし、数量標準は製品1単位の製造に使うべき労働時間や材料のkg数を、価格(cost)標準は労働1時間や材料1単位の費用を示し、標準は会社が負担する価格や数量の見積りだと説明している。一般的な概念の説明で、日本の制度の根拠ではない(訳・要約は編集部。参考文献 R2)。↩
  7. 原価計算基準 第4章46(二)(三)。(二)1は価格差異を標準消費価格と実際消費価格との差異に「実際消費数量を乗じて」、(二)2は数量差異を標準消費数量と実際消費数量との差異に「標準消費価格を乗じて」算定するとする。(三)1は賃率差異を標準賃率と実際賃率との差異に「実際作業時間を乗じて」、(三)2は作業時間差異を標準作業時間と実際作業時間との差異に「標準賃率を乗じて」算定するとする(参考文献 R1)。なお、価格標準と数量標準が同時に改定される費目では、陳腐化分を「価格標準の改定分=(改定後標準価格−旧標準価格)×改定後標準数量」と「数量標準の改定分=(改定後標準数量−旧標準数量)×旧標準価格」に分ける(編集部の整理。ACCA の解説記事〔参考文献 R3〕の計画差異の算式と同じ形)。この形では、2つの標準の改定が重なる部分は価格標準の改定分に入り、二重には数えない。P社は1費目につき改定する標準が1つなので、この分割は設例では使っていない。↩
  8. ACCA(会計専門職団体)の学生向け誌「Student Accountant」2009年4月号 pp.62–63、Geoff Cordwell(Paper F5 試験委員)「Measuring planning variances」。計画差異は当初の数値と改定後の数値の比較(実際の生産量で測る)、業務差異は実際と改定後の数値の比較で測るとする。「業務差異だけが管理者の管理下にある差異で、業績はこの数値だけで評価する」旨と、改定後の価格の妥当性を疑う余地があり、有利な業務差異が出る水準に置いたままにする操作がよく見られるとの指摘がある。同記事の例では、改定後の価格は評価のために定めた目標価格(fair target price)である。試験受験者向けの解説記事で、日本の制度の根拠ではない(訳・要約は編集部。参考文献 R3)。↩
  9. 原価計算基準 第3章43。「標準原価は、一定の文書に表示されて原価発生について責任をもつ各部署に指示されるとともに、この種の文書は、標準原価会計機構における補助記録となる。」と定め、標準製品原価表(製品の一定単位当たりの標準原価を構成する直接材料費の標準、作業種類別の直接労務費の標準、部門別製造間接費配賦額の標準を数量的・金額的に表示指定する文書)などを例に挙げる。図表1は直接材料費と直接労務費だけを抜き出した簡略な設定表で、基準の標準製品原価表そのものではない(参考文献 R1)。↩
  10. 原価計算基準 第1章6(二)5・6。5は「原価計算は、経営における管理の権限と責任の委譲を前提とし、作業区分等に基づく部門を管理責任の区分とし、各部門における作業の原価を計算し、各管理区分における原価発生の責任を明らかにさせる。」とし、6は原価要素を機能別に、また直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費の区分に基づいて分類し、計算するとする。差異を陳腐化分と管理可能分に分ける規定は基準に無い(参考文献 R1)。↩
  11. 日本銀行調査統計局「企業物価指数(2020年基準)の概要」(2022年6月)の冒頭の表(作成周期:月次)、「1.調査対象」「2.統計内容」(1)・(5)。企業間で取引される財を対象に、品質を固定した商品の価格を継続的に調査し、基準時点(2020年)の価格を100として指数化する。企業物価指数は企業間で取引される財の価格変動を測るもので、調査価格は品質(商品内容、取引先、取引条件、取引数量など)を固定した実際の取引価格が原則(参考文献 R4)。同行「企業物価指数の公表データ一覧」は、2026年9月11日掲載(公表対象月は2026年8月)の分までが「2020年基準」の表に載っており、2026年10月時点で公表中の最新が2020年基準であることを示す(参考文献 R5)。↩
  12. 原価計算基準 第5章47。(二)2は、標準原価計算制度の原価差異のうち、異常な状態に基づく数量差異・作業時間差異・能率差異等((二)1。非原価項目として処理)を除き「原価差異はすべて実際原価計算制度における処理の方法に準じて処理する」とする。(一)3は「予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合」の処理として、個別原価計算では当年度の売上原価と期末のたな卸資産へ(指図書別または科目別に)、総合原価計算では科目別に配賦すると定める(参考文献 R1)。↩

参考文献(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。